東方幻想物語   作:空亡之尊

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狐と狸のバカ試合

神無 優夜side

 

 

佐渡へと向かう俺とルーミアは、とある山の裏にある道を歩いていた。

周りには聞きが生い茂るだけの一本道だが、何だかあの世へと行く道にも思えた。

 

 

「薄気味悪い道ね」

「そうだな。出店の一つでもあれば楽しいのに」

「それはそれでどうなのよ。もしもここがあの世への道だとして」

「わからねえぞ。出店で生きる楽しさを思い出して生き返るかもしれない」

「偶にアンタは面白い事を思い付くわね」

「そうでもしないと、旅が面白くないだろ?」

「そうね」

 

 

そんな話をしながら道を歩いている途中、道端に倒れている地蔵を見つけた。

よく見ると、誰かに意図的に倒され様だ。

俺は近くに歩み寄ると、地蔵を元の場所へと戻して手を合わせた。

 

 

「まったく、罰当たりなことしやがる」

「悪戯好きな妖怪の仕業ね。やることが小さいわね」

「折角だからお供え物をしておくか。旅の無事を祈って」

「私たちなら、ある程度の災難でも乗り越えられると思うのだけど」

「そこに突っ込むなよ」

 

 

俺は近くの茶屋で買った団子を地蔵さんにお供えした。

 

 

「さて、行くか」

「勿体ないわね」

「そういうこと言うと、罰が当たるぜ」

「地蔵の罰なんてたかが知れてるわ」

 

 

ルーミアはそう言いながら先へと行ってしまう。

俺は最後に地蔵に手を合わせると、すぐに彼女の後を追った。

しばらく歩いていくうち、ルーミアが口を開いた。

 

 

「ところで、気になったんだけど」

「なんだ?」

「さっきから妙に霧が深いような気がするのよね」

「霧?」

 

 

ルーミアにそう言われて周りを見てみると、周りには霧が掛かっていた。

雨が降っていたわけでも、標高が高いわけでもない。確かに妙だ。

 

 

「さっき言ってた妖怪の仕業かもな」

「なら、面倒なのに見つかる前に早くここを抜けましょうか」

「………ああ」

 

 

そう言って俺たちは先が見えぬ一本道をひたすら走った。

しかし、どこまで走ってもきりか消えず、道も終わらない。

まるで何処かのゲームでよく在るような無限ループに嵌っているような感覚だ。

 

俺たちは立ち止ると、もう一度周りを見渡した。

霧の掛かった白い景色の中に、あの時俺が起こした地蔵があった。

その前には俺がお供えした団子もちゃんとあった。

 

 

「やっぱり、ループか」

「化かされるのは嫌いね。バカにされるみたいで」

「とりあえず、戻ってみるか」

「そうしましょうか」

 

 

来た道を戻ろうと振り返ったその時、進んでいた方向に二つの道が現れた。

どっちの道の先に深い霧が掛かっていて、何があるのかもわからない。

 

 

「これはこれは、随分と親切だな」

「どういうことよ」

「正解の道を選べば脱出成功ってことだろ」

「くだらないわね」

『そんなこと言わないでおくれよ。常闇の妖怪さん』

『そうそう。そこの永生きな人間みたいに遊びに付き合っておくれよ』

 

 

そんな声が聞こえた先に目をやると、それぞれの道から二つの影が現れた。

右の道からは白い毛並みの狐、左の道からは茶色の毛並みの狸が歩いてきた。

二匹はそれぞれの道の前に座ると、俺たちをじっと見つめる。

 

 

『お初にお目にかかります。神無 優夜様』

「どうして俺の名を?」

『お主の話は妖怪の間で名高いからな。よく耳にするよ』

「ロクな噂じゃなさそうね」

『諏訪大戦の英雄、鬼姫を素手で倒した強者、かぐや姫を攫った男、などなどですね』

「最後、色々と間違ってるぞ」

『まあ、そんな話は今は関係ない。そうだろう?』

 

 

じじい口調の狸は笑う。

 

 

「そうね。とりあえず………」

 

 

ルーミアは眉を顰めると、彼女の足元の影が狐を斬り裂いた。

 

 

「アンタらを殺して術を解こうかしら」

『それはそれは、随分と横暴な答えですね』

「……なんですって?」

 

 

斬り裂かれた狐の身体が煙のように消えると、いつの間にか元の場所に座っていた。

本物じゃないのは考えなくても分かっていたが、ルーミアは思った以上にご立腹のようだ。

 

 

「アンタたちを倒して進むのは無理なのはよく分かった。用件は何だ?」

『簡単な事、私たちと一勝負してくれませんか?』

「勝負?」

『そう身構えなくても、勝負といっても単純ななぞかけじゃ』

「なぞかけね………」

「そんなことのために私たちをここに………」

『まあまあ、最近退屈続きだったから、たまには遊びたいと思っていいじゃろ?』

「迷惑極まりないわね」

『で、どうです? 受けてみますか?』

「ああ、こっちも何も無い旅は面白くないからな。どうせだから付き合ってやるぜ」

『流石、話の分かるお人ですね』

 

 

尻尾を振って喜ぶ二匹、隣にいるルーミアは不機嫌そうだ。

 

 

「まあ、息抜きだと思って付き合おうぜ」

「面倒なのによく絡まれるわね」

「ふふ、これも旅の醍醐味だ」

 

 

ルーミアの頭を撫でながら言い聞かせると、観念するように溜息を吐いた。

 

 

『さて、それでは始めましょうか』

「ああ、どんとこい」

『では……………』

 

 

『ここに二つの道があります』

『一つは正しい道、もう一つは永遠に迷い続ける道じゃ』

『正直者は正しい答えを、嘘つきはその名の通り嘘をつきます』

『質問は一度まで。答えが決まればその道に進むこと』

『さあ、このなぞかけが解けますか?』

 

 

二匹は小さく笑う。

さて、俺はこの問題の答えはすでに分かっているが、ルーミアはどうだろうか?

 

 

「………やっぱり、本体を見つけて倒した方が手っ取り早いわね」

 

 

うん。ルーミアは頭を使う問題は苦手らしい。

りあえず、無駄な被害が出る前にカタを付けるとしよう。

 

 

「それじゃあ、俺から………狐に質問だ」

『何でしょう?』

 

 

俺は左の道を指差すと、狐に問いかける。

 

 

「この道が正しかった場合、お前は『はい』と答えるか」

『それは………』

「付け加えるなら、『はい』か『いいえ』で答えよ」

 

 

俺からの質問に、狐は悔しそうな表情を浮かべている。

 

 

「どういう意味よ、今の質問」

「簡単だ。今の審問では嘘つきも正直者も同じ答えになる。

 俺が質問してるのは正解の真意ではなく、狐の答えについての問いかけだからだ」

 

 

昔趣味で買った小説の引用だが、理屈は十分に理解できる。

嘘つきの矛盾、自分の答えを聞かれると、結局は真実を語らざるを得なくなる。

 

 

「さて、答えを聴かせてもらおうか」

『まかさ、そんな質問を思い付くとはな』

「どうせなら二人いっぺんに答えて良いぜ。まあ、同じだろうけどな」

『狐と狸をコケにするとは………』

「言っておくが、遊びには本気で付き合うのが俺の流儀だ。悪く思うなよ」

『『………負けました』』

 

 

二匹が観念したように項垂れると、周りの霧が徐々に晴れていった。

目の前には一本道と、見知らぬ女性2人が地面に膝を着いて座っていた。

二人は顔を上げると、俺を見て溜息を吐いた。

 

 

「これほどまで一方的にやられたのは初めてだな」

「仕方ないわ。どっちも同じ答えになる質問なんて、誰が考えるのよ」

「まあ、難しいほうで質問させてもらったが、意外とあのなぞかけ穴があるんだぜ」

「らしいぞ。『ソウカ』」

「そうみたいね。『コノハ』」

 

 

二人は互いに肩を置いて慰め合っている。

狐と狸って仲が悪いイメージがあったんだけど、何だか仲が良さそうだな。

 

 

「だいたい、あの神無を相手にするのがそもそもの間違いだったのよ」

「だから儂はやめておこうと言ったのに、まったく聞き分けのない狐だな」

「あら、結構乗り気で考えてましたよね」

「最初に言いだしたのはお主の方であろう?」

「こんな欠点だらけのなぞかけを考えたのはぬしでしょう?」

「「…………………………」」

 

 

一触即発の雰囲気が漂い始めた。

ああ、この二人の関係性が一瞬で分かったような気がする。

でも、それ以上に危険視しなければいけないことが一つだけあった………………。

 

 

「ねえ、アンタたち」

「なんじゃ、今忙s――」

「悪いけど邪魔h――」

 

 

二人が振り返ると、そこには怒りが有頂天に達したルーミアが仁王立ちで立っていた。

みるみるうちに二人の表情が青ざめていき、冷や汗も流れている。

 

 

「無駄に歩かされた挙句に遊びに付き合わされて、こっちの都合とか考えなさいよね」

「い、いや、それは、その………」

「わ、悪かったわ。だ、だからここは穏便に」

「とりあえず……………」

 

 

ルーミアは眩しいほどの笑顔を二人に浮かべると、とても明るい声でこう言った。

 

 

「いっぺん、死んでみる?」

 

 

その後、二人がどんな目に遭ったのかはご想像にお任せしよう。

ちなみに、この話は次回に続く。

 

 

 





空亡「なんというか、この回に一番頭使いました」
優夜「なんでよりにもよってあの謎解き出したんだよ」
空亡「この幕間って一応息抜き回ですから、そういうのとは無縁にしたかった」
優夜「だからって、他の小説の引用はまずいだろ」
空亡「これでも結構省いてるんですよ。本編だと二ページ使ってますし」
優夜「てめえの小説のジャンル、偏りすぎなんだよ」
空亡「でも、幸福って義務ですよね?」
優夜「その台詞だけで小説特定できる奴はまず居ねえよ」
空亡「……僕たち、あとがきで何してるんでしょうね」
優夜「茶番だろ」


次回予告
狐と狸に出会ったユウヤ達、二人は佐渡へ向かうために歩みを進める。
東方幻想物語・探訪編、『渡舟は六文銭で』、どうぞお楽しみに。

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