東方幻想物語   作:空亡之尊

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故意に鯉は恋に落ちる

神無 優夜side

 

 

とある昼下がり、俺とルーミアはいつもの様に決闘していた。

理由は新しく手に入れた繊刀『光姫』の能力を試すためと、食糧調達係を掛けた戦いだ。

 

 

「ぼーっとしてる暇はないわよ」

 

 

ルーミアは余裕そうな笑みを浮かべながら俺に斬りかかってきた。

俺はそれを横に移動して避けると、斬り下ろした剣の向きを変えて横薙ぎに振るった。

そこまで読んでいた俺は『月美』で受け止めると、片手に持っていた『星羅』を彼女に向ける。

 

銃声と共に銃弾が放たれ、ルーミアの眉間に向かって飛んでいく。

だが、それは彼女が操る影によって受け止められると、剣所は剣に力を込めて俺を弾き飛ばした。

 

ルーミアの後ろに伸びた影の刃は、弾き飛ばされた俺を追うように向かってきた。

地面に手をついて勢いを殺すと、向かってきた影を凌いでいく。

その時、『月美』が俺の手元から弾き落とされた。ルーミアはニヤリと笑ったが、同時に隙ができた。

 

 

「――『長月』」

 

 

俺は『月美』の柄を足で蹴ると、ルーミアへと向けて蹴り飛ばした。

影の合間を潜り抜けながら彼女へと向かっていくが、彼女の剣によって軽く弾き返され、宙へと舞った。

 

 

「それでお終いかしら?」

 

 

勝ちを確信したルーミアは、影の刃を一斉に俺に突き立てた。

迫り来る刃を前に、俺はニヤリと笑った。

 

 

「俺の新武器の実用テストだって言ったよな?」

 

 

俺は手元の糸を指で操ると、宙を舞っていた『月美』が急降下しながら影を斬り裂いた。

それを見て、ルーミアはむっとした表情をした。

 

 

「その『糸』……」

「どうだ? 『光姫』にもこういう使い方があるんだぜ」

「刀を飛ばして隙を誘い、その隙を突く。なんともアンタらしい戦い方ね」

「本当ならルーミアに向けて攻撃したかったんだけど、どうやら調整不足みたいだ」

「それでもまだ不完全なのね」

 

 

俺は地面に突き刺さった『月美』を回収すると、巻き付けていた『光姫』の糸を解いた。

『光姫』の使い方は後の課題にするとして、後はこれに合う能力探しだな。

 

 

「というわけで、今回は俺の負けだな」

「今回も、でしょ」

「そうだな」

「近くに川があったから、そこなら調達できるんじゃないの?」

「わかった。あまり期待するなよ」

 

 

俺はルーミアにそう告げると、食糧調達へと向かった。

以前は川での収穫成功率はゼロだったが、果たして今回リベンジなるか!?

 

 

 

少 年 祈 祷 中

 

 

 

川釣りを始めて早一時間、魚を入れるための壺には一匹も獲物は入っていない。

釣り竿は風に揺られる意外に揺られることは無く、静かな時間だけが流れていた。

魚の気配はなんとなく感じているのだが、掛からないと釣れない。

 

 

「……何かいい方法はないか」

 

 

その時、俺はとある二次小説の話を思い出した。

たしか、俺と同じ転生者で、魚が中々かからないのに痺れを切らして、直接釣り針を肴に引っ掛けて釣るという神業をやった人がいた。

だが、いくらなんでも俺にはそんなのはできない。諦めかけようとしたその時、俺はある事を思い付いた。

俺は釣竿を横に置いて立ち上がると、息を整える。

 

 

「……よし、行くぜ」

 

 

俺は『光姫』から糸を取り出すと、それを川へと向かって放った。

魚の位置は把握している。あとは、魚が逃げる前に糸を巻き付け、そして一気に‼

 

 

 

「釣り上げる‼」

 

 

両手を振り上げると、糸の一本一本に巻き付いた川魚が水飛沫を上げながら宙を舞った。

本来ならこういう使い方をするのは罰当たりだろうが、これだけは言わせてもらう。

光姫、ありがとう。……………俺は糸を操って釣り上げた川魚を壺の中に入れていく。

 

その時、川魚の中に一匹だけ種類の違う魚が混じっていた。

よく見ると、それは赤い色をした立派な鯉だった。

 

 

「鯉って、確か食えたはずだよな………」

 

 

ふと、そんな事を思い浮かんでしまった。

確かアジア圏内でよく食べられているらしいが、味がまあまあらしい。

このまま持ち帰って食べても、上手くないのなら死に損になってしまう。

しかもこの鯉、俺の呟きを聞いてから必死に地面の上を跳びはねている。

 

 

「冗談だよ。誰もお前を食べやしないって」

 

 

俺は鯉を持ち上げると、川へと戻した。

鯉は何か言いたげに俺の方を見上げている。

そういえば、こういう時に譲歩する能力があったはずだ。

 

 

『古明地 さとり:心を読む程度の能力』

 

 

「悪かったな。大丈夫か?」

『何で私を逃したんだ』

「鯉は食べても不味いって評判だからな」

『正直嬉しくはないな。……というより、私の声が聞こえるのか』

「ちょっとした手品だよ」

『おかしな人間だ』

「おかしな鯉に言われてもな」

 

 

俺はその場に腰を下ろすと、鯉は俺に向かって話しかける。

 

 

『なあ、お主のさっきの釣り方は何だ?』

「あれか? 驚いただろ」

『ああ。危うく死ぬところだった』

「大袈裟だな。まあ、ちょっと加減を間違えてたら真っ二つに」

『おい、今何と言った!?』

「いや、気にするな。結果だけを見ていればいいんだ」

『無茶苦茶な奴だ』

 

 

鯉の溜息が聞こえてくる。

 

 

「しかし、お前も相当変わり者だな」

『お主みたいな人間に興味を持つ鯉など、私ぐらいだろう』

「で、何が気になったんだ?」

『お主、見たところ旅人だな。なら、さぞ食い物に困っているはずだろう?』

「まあな。お陰で釣りに一時間も費やしてしまった」

『それなら、私のことも食べるのが普通ではないのか?』

「俺の連れなら迷い無くそうするだろうけど、俺はアイツとは違うからな」

 

 

俺は鯉へと笑みを向ける。

 

 

「お前みたいな立派な鯉、食べるのは勿体ないからな」

『立派、か』

「ああ、少なくとも俺から見たらお前は綺麗だぜ」

『ふふ、お主にそう言われるとなんだか嬉しいな』

 

 

鯉は上機嫌に尾ひれを揺らしている。

 

 

「さて、俺はもうそろそろ帰るか」

『そうだな。私も自分の住処に帰るとしよう』

「今度は悪い人間に捕まらないようにしろよ」

『お主も、罪のない鯉を食べようとするなよ』

 

 

俺がその場から立ち上がると、鯉が最後に呼び止めた。

 

 

『ところで、お主の名は何という?』

「神無 優夜、お前は?」

『生憎と、呼ばれるような名はない』

「だったら付けてやるよ。これも何かの縁だ」

『ますます風変わりな男だ』

「そうだな………龍鯉ってのはどうだ?」

『りゅうり?』

「中国に滝を登った鯉は龍になるって伝承がある。それをもじって龍鯉」

『龍鯉か、気に入った』

「なら、また会おうぜ、龍鯉」

『ああ、またな、優夜』

 

 

俺たちは互いにそう言って別れた。

 

 

 

少 年 祈 祷 中

 

 

 

その夜、ルーミアに龍鯉との話を聞かせると、呆れたような声でこう言われた。

 

 

「ユウヤ、またやったのね」

「何がだ?」

「その鯉、どんな感じだったの」

「妙にじじい口調の似合う奴だったな。似てるとすれば薊だな」

「で、性別は」

「う~ん……話してる感じの声は女性みたいだったな」

「………やっぱりね」

「だから、さっきから何だよ?」

「アンタが気にするようなことでもないわ」

「そうか……」

「ところで、次はどこに向かうの?」

「そうだな………佐渡なんてどうだ?」

「理由は?」

「なんとなく」

「だと思ったわ」

 

 

俺とルーミアは黙々と塩焼きにした川魚を頬張り続けた。

 

 

 

 

 

「――まさか、鯉にまで嫉妬するような日が来るなんて」

 

 

 

 





空亡「今回はちょっとした息抜き回でしたね」
優夜「さとりの能力って便利だな」
空亡「まあ、動物の他にも人間の心も読めますからね」
優夜「だけど、戦いではあんまり使いたくないな。自分の勘で戦いたい」
空亡「その方が性に合ってますからね」
優夜「しかし、鯉にも面白い奴が居るんだな」
空亡「こういうキャラは今後も出てくるかもしれませんよ?」
優夜「どこで出せるんだよ……」


次回予告
旅路の一本道、されど狐と狸のお戯れにはご注意を………?
東方幻想物語・探訪編、『狐と狸のバカ試合』、どうぞお楽しみに。

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