東方幻想物語   作:空亡之尊

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明日へのL/不死鳥の涙

神無 優夜side

 

 

アヴァンを倒した俺は、傷付いた身体で富士山へと向かっていた。

ルーミアたちのところに戻ろうとしたが、何故か、俺の足は富士山へと向かった。

 

 

『――本心じゃ、気付いてるんだろ?』

 

 

未だに俺の身体の中にいる深紅は、呆れながらそう言った。

どうして俺が妹紅の下に急いでいるのか、そんな事解ってる。

今この時に、アイツの傍に居てやりたい。そう思ったからだ。

 

 

『――人を殺し、不死に成り、それでも不死鳥は生きようとするのか』

「生きなくちゃいけないんだよ。それが、殺した者への最大の償いだ」

『――あんな餓鬼に、その罰は重すぎるけどな』

「だから、少しでもその重荷を背負ってやれるように努力はするさ」

『――お人好しめ。いつか後悔するぞ』

「後悔なんざ、いちいち気にしてたら後が絶たねえんだよ」

 

 

俺は深紅の言葉を拭い去るように走りだした。

後悔なんかしてる暇なんてない。後悔するのは全てが終わったその時にしてやるさ‼‼

 

それからしばらく走っていると、富士山の麓へと辿り着いた。

そこで、俺は木に寄り掛かって座っている少女を見つけた。

俺は立ち止り、その少女に向けて声を掛けた。

 

 

「……妹紅」

「ゆう…やぁ……」

 

 

妹紅は、涙を流しながら俺に顔を向けると、俺の胸に飛び込んできた。

着物はボロ布のように擦り切れ、目は涙で腫れていた。

だが、それ以上に目を奪ったのは、真っ白に染まった彼女の髪だった。

 

 

『――蓬莱の薬による副作用だな』

「副作用、ね……」

『――普通の人間なら当然の結果だ。輝夜や永琳は例外だけどな』

「……そうか」

『――まあ、老いることないが、ある程度までは成長するだろう』

 

 

深紅は他人事のようにそう語る。

帝が処分しようとしていた蓬莱の薬、それを妹紅は飲んでしまった。

輝夜へのちょっとした復讐心が、彼女を永遠に生き続けさせる罰を背負わせてしまった。

 

 

「私…かぐや姫に……仕返しで……不老不死の……でも人を……私………‼‼」

 

 

妹紅は途切れ途切れに言葉を紡ぐが、どれもまともに話せていなかった。

輝夜に恥をかかされた藤原不比等。妹紅はその仕返しと、輝夜が残した蓬莱の薬を奪おうとした。その道中で岩笠に助けてもらうが、咲耶姫によってお付きの兵士は殺される。

その帰り、妹紅は自分の本来の目的を思い出し、岩笠を蹴飛ばして蓬莱の薬を奪った。

これが、俺の知る限りの妹紅の経緯だ。

 

歴史に残らない事件、それを妹紅は犯してしまった。

不老不死、人を殺し、様々なことが立て続けに起きて、彼女の心は混乱していた。

俺は妹紅を抱きしめると、頭を優しく撫でた。

 

 

「大丈夫、大丈夫だから。落ち着いてくれ」

「私……人を殺して、不老不死に……」

「ああ、わかってる」

「私……どうなっちゃったの? 化け物になっちゃったの?」

「化け物、か。確かに、人から見れば不老不死は化け物同然だ」

「じゃあ……私、もうみんなのところには帰れないね」

 

 

落ち着きを取り戻した妹紅だが、その代わりに背けられぬ現実が突き付けられた。

戻れぬ日常、それを理解してしまった。いや、遅かれ早かれそれはいずれ知ることになる現実だ。ここで受け止めれられるか、それで彼女の運命が変わる。

 

 

「優夜は……私の事、どう見える……?」

「妹紅は妹紅だ。化け物でも人間でもない、藤原妹紅だ」

「髪、お婆ちゃんみたいに白くなっちゃった……」

「似合ってると思うぜ。俺、白髪も好きだから」

「人に嫌われて、みんなにも迷惑が掛けて、退屈で死にそうになるかも……」

「そればっかりは、耐えろとしか言い様がねえな」

「なによ、結局何一つ励ましになってないじゃない…………」

 

 

妹紅は小さく笑うと、俺から離れた。

その表情は、もう悲しみや後悔などの感情はなくなっていた。

 

 

「優夜と話していたら、何だか自分がバカらしく思えてきたよ」

「そうだろうな。不老不死なんて、バカなことしか言い様がないからな」

「でも、優夜はそれでもこうやって笑顔で生きてる。それが一番羨ましいよ」

「俺はただ、無理にでも明るく振舞ってないと、何だか押し潰されそうだからな」

 

 

俺の笑顔なんて、ただの仮面だ。

その奥では、独りになることに怯えている、ただの臆病者だ。

だからだろうか、明るいと指摘されると素直に喜べない。

 

 

「優夜は凄いよ。だから、私も覚悟を決めるわ」

「覚悟?」

「ええ。生きれるまで生き続けて、この目で歴史を見続けていきたい」

「それは、なんとも途方のない覚悟だな」

「そのついでに、優夜が一人になったら、私がいつまでも付いていてあげるわ」

「……嬉しいこと言ってくれるな」

「だって、優夜くらいしか、その時生きてる知り合いはいないでしょうし」

「言ってくれるな。まあ、それだけ余裕があれば心配することもないか」

 

 

俺は妹紅にそういうと、彼女は夜空の月へと目を向ける。

 

 

「それに、いつまでも情けない姿を光姫に見せられないわ」

「お前、どうしてそれを」

「光姫が言ったのよ。今日、自分は死ぬかもしれないって」

「アイツ、そんな事を言ってたのかよ」

「うん。だからね、解るの。もう、あの人はこの世にいないって」

 

 

妹紅は月を眺めているが、一筋の涙が彼女の頬を伝った。

 

 

「光姫には色々とお世話になったけど、そのお礼も言えなかった」

「本当に、仲が良かったんだな」

「ずっと一人だった私の、初めての友達(かぞく)だから」

「なら、せめてその言葉、アイツに向けて言ってやったらどうだ?」

「聞こえるかな……」

「聞こえるさ。案外、草葉の影から見てるかもしれないぞ」

「そうだね」

 

 

妹紅は深呼吸をして生きを整えると、精一杯の声で叫んだ。

 

 

「光姫‼‼ こんな私に今までよくしてくれてありがとう‼‼‼

 私、もう死ねなくなっちゃったけど、光姫の分まで必死に生きるから‼‼

 だから、私のことは心配しないで、安心してね‼‼

 ……っ、さようなら………………私が信じた、たった一人の、家族…………っ」

 

「……だとよ、光姫」

 

 

俺は胸を握り締めると、そう呟いた。

光姫の命は俺の中にいるが、その命が涙を流しているようだった。

光姫、お前にも聞こえたんだな。友達(かぞく)がお前に送った言葉が。

 

 

「スッキリしたわ。ありがとう、優夜」

「いいよ。それより、俺からもお前に言っておきたいことがある」

「なに?」

「お前の罪を忘れるな、それがお前にできる岩笠への償いだ」

「わかった。そうだ、アイツの墓作ってやった方がいいかな」

「そうだな。ついでに連れの兵士共の墓も作ってやるか」

「私、そこまで話した憶えないわよ?」

「勘だよ」

「光姫みたいな事を言うのね」

 

 

妹紅はそう言って笑った。

彼女の笑顔を見ていると、これ以上俺が干渉する必要もないと思った。

 

 

「ところで、これからどうするつもりだ?」

「……この身体じゃ都に戻れないし、旅にでも出るわ」

「大丈夫なのか?」

「これでも、光姫には色々と習っているのよ」

「アイツ、貴族の娘に何教えてたんだ」

「健康に気を付けて長生きすることって言ってたわ」

「……まあ、健康は大事だよな」

「大事ね」

 

 

そんな他愛な会話をしながら、俺たちは富士山へと向かう。

 

その後、富士山の麓に名前も書かれていない墓が建てられたという。

 

 

 

 

 

???side

 

 

「どうでした? 彼らは」

「とりあえず一件落着だな。これで記憶も三つ目だ」

「残り四つ、それまで今は様子見ね」

「だが、それをあのニセモノに奪われたら」

「大丈夫よ。きっと」

「どこまでお前はそう楽観的なんだよ」

「貴方の無駄に熱い性格よりはマシだと思います」

「なんだと!?」

「それより、僕らはただ見守りましょう」

「ったく……」

「最後に残るのは絆紡か、それとも渾沌か…………」

 

 

 

 

 





空亡「さて、これでこの蓬莱編も終わりですね」
優夜「妹紅が元気になってよかったぜ」
空亡「さあ、次回はみんなとの別れを二話に分けてお送りします」
優夜「そうだよな……もう、そんな時間か」
空亡「輝夜さんと永琳さん、阿礼さん、妹紅さん、そして……」
優夜「他にいたか?」
空亡「いえ、これは次々回のお楽しみにしておきましょう」
優夜「なんだよ。相変わらずもったいぶるな」
空亡「別れの言葉は、彼女自身が伝えないといけないですからね」


次回予告
出会いがあれば別れもある。その別れが辛いのは、その人との絆が深い証拠だ。
そして、少女の旅立ちに、彼は何と言って送りだすのだろうか?

東方幻想物語・蓬莱編、『竹取物語のE/また出会うその日まで』
           『Fにさよなら/旅立ちに涙はいらない』


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