東方幻想物語   作:空亡之尊

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物語のK/再会、そして復讐

神無 優夜side

 

 

月の使者を退けた俺は、永琳を抱えてみんながいる宿屋へと向かった。

ゆかりには輝夜を宿屋まで送るように言ってあるし、念の為にルーミアにはその護衛を任せてある。隠れるには打ってつけだ。

宿屋が見えてくると、開いてある二階の窓から入った。

そこには輝夜とゆかり、そして厳戒態勢だったルーミアが待ち構えていた。

 

 

「っと、無事帰還」

「早かったですね」

「意外にも話が分かる奴で安心したぜ」

「それは良かったわね」

「こっちは大丈夫だったか?」

「人っ子一人来やしなかったわ。残念」

「残念がるな。むしろ無駄な被害が出なくて安心だ」

「久しぶりに食べれると思ったのに」

 

 

サラッと恐ろしい事を言っているルーミアは一旦無視して、俺は永琳を敷いてあった布団へと寝かせた。

 

 

「これでひと段落付いたな」

「大丈夫なの?」

「気を失ってるだけだ。目立つような傷も負ってない」

「一瞬で意識を刈り取ったようね。相変わらず、見事な手並ね」

「その代り、周りにいた兵共にはきつめに叩いておいた」

「怖いのはどっちかしらね」

「どっちもですよ」

「言うようになったわね。ゆかり」

「何百年も一緒に居れば私も言うようになるわよ」

 

 

ルーミアとゆかりは互いに顔を見合わせて少し微笑むと、その場から立ち去ろうとする。

 

 

「おい、どこに行く気だ?」

「折角の再会、邪魔者は大人しく退散しておくわ」

「積もる話もあるでしょうし、何より、三人でいた方が話も弾むでしょう」

「だから、私たちは外で見張ってるわ」

「……ありがとう」

 

 

二人が部屋を出ていくと、永琳が小さく唸った。

 

 

「う……う~ん」

「永琳‼」

「あ…れ、輝夜……? ここは、どこ?」

「宿屋だよ。月の都には在るかどうかわからないけどな」

「あそこにだって宿屋はあるわよ、ユウヤ。…………え?」

 

 

永琳は急いで起き上ると、隣にいる俺を凝視した。

それはまるで亡霊でも見たかの御ように、信じられないものを見ているような目だった

 

 

「ユウヤ、なの……?」

「ああ。正真正銘、神無 優夜、(数億数千数百)20歳だ」

「生きてるのよね……?」

「俺が幽霊に見えるのか? 何なら足でもm」

 

 

俺が話している途中、いきなり永琳が俺に抱き着いてきた。

輝夜の時はそこまで感じなかったが、永琳に抱きつかれると何だか恥ずかしい。

 

 

「本当に……本当に生きてる……」

「酷いな。こうやって触れられるんだ、生きてるに決まってるだろ」

「でも……あの時、貴方が月美の為に残ったって……」

「残ったさ。結局、助けられずにこうやってのうのうと生きてるけどな」

「そう……なの……でも、良かった。生きていてくれて」

 

 

俺の耳元で、永琳のすすり泣く声が聞こえる。

普段の彼女からは想像できない姿だが、こうも俺の事を思っていてくれて嬉しかった。

傍で見ていた輝夜も、つられて涙を流していた。

 

 

「よかったわね、永琳」

「輝夜、ズルいわよ。黙っていたなんて」

「ふふ、こういう反応を見たかったのよ」

「え? ……あ///」

 

 

自分が今抱き着いていることに気付くと、永琳は急いで俺から距離を取る。

目は涙を流して赤く腫れていたが、それよりも頬の方が赤く染まっていた。

 

 

「……ご、めんなさいね。つい」

「いいよ。俺も永琳に会えて嬉しかったから」

「相変わらずね。でも、安心したわ」

「それはどうも」

「ところで、私と一緒に着ていた他の人達は?」

「それなら隊長さんが連れて帰ったよ。輝夜のことも諦めるってさ」

「そうなの……」

「永琳は、ここに残る気だったんだろ?」

「ええ。輝夜の言葉次第でね」

 

 

永琳はいつもの調子に戻ると、輝夜の方へと向いた。

 

 

「永琳……」

「いくら自由の身でも、世間知らずな姫様の世話は必要でしょ?」

「ありがとう。永琳」

「こっちこそ、お陰でもう一度ユウヤに会えることができたわ」

「いや~そう言ってくれると嬉しいな」

「……喜んでくれているところ悪いけど、少し話を聴かせてくれる?」

「話?」

「貴方、私たちと同じなんでしょう」

 

 

永琳の言葉の意味、それは多分、俺が不老不死になっていることに感付いたのだろう。

まあ、不老不死でもないと数億年も生きてられねえよな

 

 

「いいぜ。どうせだ、俺のこれまでの旅路でも話そうか」

「あら、それは楽しみね」

「ぜひ私たちも」

「聞きたいですね」

 

 

そう言ってルーミアとゆかりと阿礼は、部屋の襖を開けて顔をのぞかせた。

 

 

「お前ら、一度聞いただろ。あとルーミア、お前聞かなくても知ってるだろ」

「おさらいって必要じゃない?」

「納得いくようないかないような………」

 

 

まあ、これ以上言っても退く気はないだろう。

仕方なく、俺はこの場にいるみんなに今までの旅の系譜を話した。

この都に来てからこの話をするのが多くなってしまった。まあ、昔を思い出すことは悪いことじゃない。

 

ただ、その度に思うのは、アイツの顔がいつも思い浮かぶことだ。

復讐から始まった俺の物語は、最後にはどこに辿り着くのか、それをいつも考えた。

 

 

「というわけで、現在こうやってお前らに話してるんだ。わかった?」

「改めて聞くと、結構長い時間旅してるわね」

「ユウヤさん、辛い人生を送ってきたんですね」

「何度聞いても涙が出てきます……」

「あの三貴子と互角に戦うって、ユウヤも人間辞めてるわね」

 

 

話が終わると、各々の反応を見せた。

その中で、永琳は顔を俯かせていた。

 

 

「永琳?」

「ごめんなさい。月美の事を思い出したら」

「仕方ないよ。死んだ奴は戻ってこないんだから」

「そうね。でも、あの子が最後に想いを伝えれただけでも嬉しいわ」

 

 

十分に伝わったさ。今でも、月美の言葉は忘れられない。

いや、月美だけじゃない。これまで出会った人達の事を、一瞬たりとも忘れるものか。

 

 

「ところで、一つ気になったのだけど」

「なんだ、輝夜」

「私たち、どこに住めばいいのかしら?」

「それなら心配するな、すでに宛てはある。だろ、ゆかり」

「ええ。頼まれた通りに声を掛けたわ」

「なら安心だ」

「……見ない間に、随分と人望に恵まれたわね」

「人望というより、妖望だろうな」

 

 

これまであった人間の知り合いなんて、阿礼ぐらいだぞ。

仕方ないといえ、このままだといつか俺も妖怪に認定されそうだ。

 

 

「さて、今日のところはここでお開きにするか」

「そうね。こっちも色々ありすぎて疲れたわ」

「念の為に、輝夜と永琳はルーミアたちと寝てくれ。俺は」

「そう言うと思って、もう一部屋借りておきましたよ」

「悪いな、阿礼」

「いいえ。こんな面白い事に巻き込んでくれただけで、私は満足ですよ」

「アンタも大概だな」

 

 

俺はそう言って部屋を出ていこうとすると、ルーミアは小さな声で囁いた。

 

 

「――アンタも少し休んでおきなさい」

「――まだ安心できねえよ。アイツ等の事だからな」

「――その時は私が相手をするわ」

「――だけど」

「――夜は妖怪の時間、人間は寝る時間よ」

「――そうさせてもらうか」

 

 

ルーミアに説得されて部屋を出ていくと、俺は隣の部屋で片膝を立てて床に座り背中を壁に押し当てながら寝入った。

原作じゃ妹紅がすぐ起きやすい体勢だと言っていたけど、俺…眠りが……深い…………。

 

 

 

 

 

???side

 

 

「かぐや姫は月へと帰り、帝には蓬莱の薬が贈られた。

 しかし、真実は全く違い。かぐや姫は地上に残り、そして、蓬莱の薬は―――」

 

 

深い深い竹林の奥、彼女は夜空の月を見上げた。

 

 

「家族に恥をかかされた妹紅は、かぐや姫に復讐するために蓬莱の薬を奪ってしまう」

 

 

まるでその出来事を実際見てきたかのように、彼女は呟く。

 

 

「かぐや姫も、竹取の翁も、五人の貴族も、月の使者も、そして妹紅も、

 全ては“彼”の描いたこの狂った物語の上で踊る役者に過ぎなかった」

 

 

彼女は瞳に怒りを孕みながら、目の前に居る人物へと向けた。

 

 

「一つお聞きしたい。アナタは、なぜあの人をそこまで追い詰める?」

 

 

彼女の問いかけに、目の前の男は何一つ答えない。

 

 

「聞いても無駄、ですか。なら」

 

 

彼女は小さく笑うと、目の前の男にこう言った。

 

 

「せめて、僕と最期まで踊りませんか? チクタクマン」

 

 

彼女の言葉に、目の前の男から始めて声が漏れた。

 

 

「……イレギュラーは排除する。あの方の為に」

 

 




空亡「さあ、ここから終盤ですよ」
優夜「永琳とは無事再会、だがこのまま終わるはずもないか」
空亡「裏では彼女の復讐が始まろうとしています」
優夜「明日の出来事なのに、何で今なんだよ」
空亡「テンポ良くするためですよ」
優夜「不定期更新が何を言う」
空亡「まあ、そこは気にせず、次回に乞うご期待」
優夜「さて、どうなることやら」


次回予告
復讐に駆られた者の末路は悲惨だ。二人の復讐の果てに、何があるのだろうか?
東方幻想物語・蓬莱編、『Oを乱す人形/復讐、そして別れ』、どうぞお楽しみに。


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