東方幻想物語   作:空亡之尊

59 / 106
竹取物語R/小望月の会合

神無 優夜side

 

 

「……ってね、だから私能力を使ってあの帝とか言う奴から逃げたのよ」

「それは大変だったな」

「ホントよ。まったく、これだから男ってのは。あ、ユウヤは違うと思ってるわよ」

「わざわざ言わなくていいから」

「あとね、男で思い出したけど、月で……」

 

 

輝夜はそう言いながら永延と愚痴をこぼしている。

あのシリアスな流れから、どうしてこうなったんだ?

 

しかし、彼女の話を聞いていて大体の事情は察した。

輝夜が月での退屈に嫌気がさして蓬莱の薬を服用した事、それが原因で月から追放され、この地上の地に流れ着いた。

 

月での話といえば、輝夜と同じく蓬莱の薬を服用した月の女神の代わりに玉兎たちが薬を搗いているらしい。これは恐らく『嫦娥』のことだろう。

噂では、月の都には口にするだけで事態を逆転させる神霊がいるらしい。当てはまるものと言えば『稀神 サグメ』だな。

 

月でも色々と動きはあるようだが、当の本人はそれにまるっきり興味はないらしい。

まあ、あまり俺には関係ない事だからいいんだけどな。

 

 

「それで………って、聞いてるの?」

「ごめん。色々と考え事してた」

「考え事ね……何だか月美に似てるわね」

「月美に?」

「ええ。あの子、考え事したら周りが見えてなかったもの」

「そうか」

 

 

月美に似てるか、なんだか複雑な気分だな。

 

 

「でも、驚いたわね。貴方が生きてたなんて」

「まあ、あれから数億年も経っていれば普通死んでるだろ」

「それもあるけど、永琳に貴方たちの事を聞いたから」

「月美を囮にして妖怪を引き寄せたことか?」

「……ええ。知っていれば、私にも何か」

「過去は変えられない。それは俺が一番良く知ってる」

「ユウヤ……」

 

 

俺は腕に巻いた月美のリボンを握り締める。

過去を変えることはできない。だから、俺は前にだけ進み続けることを決めたんだ。

 

 

「暗い話はこのくらいにして、愚痴の続きと行こうか」

「そうね。それじゃあ、月での貴方の話でもしようかしら」

「なに、その無駄に着色されて語り継がされてそうな言い方は」

「あながち間違ってないわね」

 

 

輝夜は楽しそうに笑うと、語り始めた。

 

 

「貴方と月美がいないことを知ったのは、月に着いた時だったわ。

 心配した永琳が探していた時、警備隊長が話し掛けてきたわ」

「そこで、俺が月美の所に行ったのを教えたのか」

「ええ。月美が囮にされていることを知らなかった永琳は驚いてたわ。

 警備隊長はそれでも話を続け、最後に『すまなかった』と言って去っていったわ」

「そうか。隊長さんには悪いことしたな」

「永琳はこんな事をした上の連中を訴え、私同様地上に追放させたわ。

 けど、大切な家族を二人同時に失った彼女は、見ている私も辛かったわ」

 

 

輝夜はそう言って、俺が持ってきた永琳の弓をなぞる。

永琳にとって、俺と月美は家族だったのか。そう思ってくれただけで、俺たちは嬉しかった。

できることなら、この喜びを当の本人に伝えてやりたいと思った。

 

 

「この話が月の民に伝わって、涙する人も多かったそうよ」

「意外とそこんところは普通だな」

「今じゃ、“たった一人の少女の為に妖怪の軍勢に挑んだ男”として語られてるわ」

「何その恥ずかしい語り継がれ方。もうちょっと無かったの?」

「ちなみに、その半生を綴った本が今の月では流行してるわ。出版は永琳本人よ」

「あの人何やってるの!?」

「依姫はその本を買って三日三晩泣いたそうよ」

「もう、月の住人たちが分からなくなってきた」

 

 

俺は項垂れるように部屋の床に寝転がった。

なんだか、月に行っても変わらない連中で一安心したというか、なんというか。

まあ、心配するだけ無駄だったというわけだな。

 

 

「ところでユウヤ」

「なに?」

「私、月から追放されたって言ったわよね」

「ああ。言ったな」

「実はね、今度の十五夜の満月に、月から使者がやってくるわ」

「連れ戻しに来るってわけか?」

「ええ。大方、私の身体が目当てなんでしょうけど」

「誤解を招く言い方はやめろ」

「あら、貴方になら誤解されも構わないわよ」

「寝言は寝てから言え。グータラ姫」

 

 

俺は彼女の額をデコピンで弾く。

輝夜は痛そうに額を抑えるが、少し嬉しそうに頬を緩ませた。

 

 

「やっぱり、貴方と話してると楽しいわ」

「それは光栄だな」

「優夜、私ね」

「帰りたくないんだろ」

「……!?」

 

 

俺は彼女の気持ちを汲み取って、その言葉を投げかけた。

話をしていてよく分かる。輝夜がこの地上に残りたいってことくらい解る。

 

 

「輝夜、俺がここに来た時に言った台詞を覚えてるか?」

「……私の願い、叶えてくれるというの?」

「ああ。ただ、その願いは自分の言葉ではっきりと俺に伝えてくれ」

 

 

答えは分かっている。でも、その言葉は彼女から聞かなくてならない。

そうでないと、彼女がここに残る意味が無くなってしまう。

 

 

「私、この地上に残りたい。だからユウヤ、お願い、力を貸して‼」

 

 

それは、彼女の心からの願いだった。

その言葉を聞きたかった俺は、口元をニヤッとさせた。

 

 

「お安い御用だ。この神無 優夜、全身全霊を持って月の使者からお守りします」

「ふふっ、その言い方、似合わないわよ」

「だろうな。まあ、雰囲気だけでもいいだろ」

「普段の貴方がいいわ」

「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか」

 

 

俺と輝夜は互いに顔を見合わせると、嬉しそうに笑った。

 

 

「さて、それじゃあ、準備するとしますか」

「あ、ユウヤ」

「なに?」

「実は、その、永琳も来るのよ」

「ああ、やっぱり?」

「うん。その時は」

「心配するな。それに、永琳ならどうするか分かってるから」

「え?」

 

 

原作なら、という考えじゃない。

俺が知ってる永琳なら、恐らく輝夜の側につくはずだと確信している。

 

 

「じゃあ、準備が整ったらまた来るぜ」

「待って、ユウヤ」

「今度は何?」

「貴方も、不老不死なのよね」

「ああ。まあ、回数制限ありだけどな」

「もしかして、月美もその中にいるの?」

「……いや、あるのはアイツから貰った命だけだ。意志は――」

「そうなの……ごめんなさい、こんなこと聞いて」

「いや、気にするな。それに、もしかしたら俺が気付いてないだけかもしれない」

 

 

俺はそう言って胸を握り締める。

もし、アイツの意識があるのなら、俺には何ができるだろうか。

……考えるのはよそう。今は、輝夜のことに専念するとしよう。

 

 

「さて、今度の満月の晩、楽しいパーティーにしようか」

 

 

俺はまだ見えぬ月に向かってニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

???side

 

 

「……なるほど。そんな関係だったんですね」

 

 

かぐや姫の屋敷を覗く影、それは光姫だった。

藤原不比等の元から去った彼女は、優夜の行動を追っていた。

それは興味本位なのか、はたまた、彼に特別な想いを抱いての行動なのか。

 

 

「しかし、かぐや姫が月に帰るですか。今の妹紅はどう思うでしょうね」

 

 

妹紅は家族に恥をかかされたと思い込んで、かぐや姫を恨んでいる。

幸いにも光姫の事は知られていないが、復讐の矛先は輝夜へと向いていた。

 

 

「……全部思い通り、ですか」

 

 

光姫はそう言ってその場を立ち去った。

恐らくこの話は都中に伝わり、かぐや姫を好んでいた帝の兵が動くだろう。

その時の騒ぎに乗じて、恐らく“彼等”は動きだすだろう。

 

 

「穢れた夜に囚われし月の姫君よ、貴女はこの地が美しいと思うのか」

 

 

 

 

 





空亡「さて、ようやく竹取物語も終わりですね」
優夜「今度は永琳か……」
空亡「今思うと、第1章ではお世話になってますからね」
優夜「今更会うのが怖いぜ」
空亡「言っておきますけど、このイベントだけは避けられませんからね」
優夜「まあ、とりあえず輝夜からの願いはちゃんと叶えないとな」
空亡「相変わらず、女性には弱いですね」
優夜「今更だ」


次回予告
竹取物語は終盤、月からの使者が輝夜を連れ帰ろうと地上へ降り立つ。
東方幻想物語・蓬莱編、『再会のE/十五夜の刺客』、どうぞお楽しみに。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。