東方幻想物語   作:空亡之尊

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お気楽なG/奇妙な顔合わせ

神無 優夜side

 

 

永琳の弓を求め、旅をしてきた俺と光姫と妹紅。

最短ルートで月の民の街があった場所へと向かっているが、今は少し寄り道をしている。

歩きっぱなしの旅の疲れを癒すのと、昔の顔馴染みと再会するためだ。

 

 

「というわけで、やってきました諏訪」

「諏訪ですか……前から来てみたかったんですよね」

「光姫が話してた諏訪大戦のこと?」

「ええ。何でも大和の神の軍勢にたった三人で立ち向かったという話がありますからね」

「一人は神様で、一人は妖怪、一人は人間だったっけ」

「ええ。その中でも人間の方は三貴子と戦って引き分けたらしいですね」

「凄い‼‼」

「まあ、最後は一対一の決闘で諏訪側は負けてしまいましたけどね」

「ソウダネ~」

 

 

俺は二人の話から耳を逸らしながら街道を歩いて行く。

ああ、やっぱり伝わってるのか。しかも、天照たちと戦ったことまで伝わってるのかよ!?

諏訪子に会うとき、あの戦いがどんなふうに伝えられてるのか聞いておこう。

光姫と妹紅が楽しげに話していると、目の前に見覚えのある社が見えてきた。

 

 

「着いたか」

「守矢神社、ですか」

「優夜、どうしてここに来たの?」

「ここに知り合いが居るんだよ。少し変わったね」

「もしかして、神様とでも言うんじゃありませんよね?」

「やっぱり、お前の勘は凄いな」

 

 

俺は嬉しそうに笑みを浮かべながら、階段を上がっていく。

二人は互いに顔を見合わせて首を傾げると、俺の後に着いてくる。

階段を登っていくと、境内から女性の鼻歌が聞こえてきた。

階段を登りきると、そこには見覚えのある姿があった。

 

 

「あら、参拝客の方ですか?」

 

 

境内で掃除をしていた少女は、俺たちへと笑顔を向けた。

その面影は、かつてこの守矢神社に仕えていた巫女、東風谷 叶恵によく似ていた。

 

 

「まあ、そんなところだ」

「ん? 貴方、もしや神無 優夜さんですか?」

「そうだけど……どうして名前を?」

「あの、諏訪子様から客人がここに来ると聞いてたので」

「諏訪子が……?」

 

 

何で諏訪子が俺がここに来ることを知ってるんだ?

いくら神様でも、あいつにそんな事は出来ないはず。考えられる可能性としては、

 

 

「誰かが教えたか」

「さて、それは誰でしょうね」

「ん? その声は」

 

 

頭上から聞き覚えのある声が聞こえ、俺は咄嗟に空を見上げた。

すると、一陣の風と共に黒い羽根を羽搏かせながら、その女性は俺の前に降り立った。

 

 

「お久しぶり。優夜」

「凪か。意外な再会だな」

 

 

そこに現れたのは射命丸 凪だった。

意外な人物の登場に少し困惑する俺だったが、すぐ後ろから嫌な予感をがした。

 

 

「ふふふ………面白い」

「え?」

「噂に聞く鴉天狗、よもやここで出会うことになるとは。なんたる僥倖(ぎょうこう)」

「どうなってんの?」

「ああ、光姫って見たこともないものを見るとこうなっちゃうのよ」

「ふふ、自分が乙女座である事をこれほど嬉しいと思ったことはない」

「どこかのブシドーみたいなこと言ってるよこの人」

「こういう人だから」

 

 

妹紅も呆れて溜息を吐いている。

見た目嫌味なクールキャラかと思ったのに、中身は残念なのか。

ああ、光姫に対してギャップ萌を感じてしまう自分が憎い。

しかし、なんで凪が守矢神社にいるんだ?

 

 

「何だか騒がしいと思ったら、もう来たのね」

 

 

呆れたような声、けれど、どこか嬉しそうな感情が含まれていた。

声のした方へと視線を向けると、そこには久しぶりに会う小さい神様が笑っていた。

 

 

「久しぶりだな。諏訪子」

「元気にしてるみたいだね」

「ああ、それなりにな。所で一ついいか?」

「話なら家の中で聞くよ。旅して手疲れてるでしょ?」

「……そうさせてもらうか」

 

 

俺は諏訪子の後に着いて行った。

凪のことも色々聞きたいが、今は再会した喜びでも噛みしめておこう。

 

 

 

             少 年 少 女 祈 祷 中

 

 

 

諏訪子に案内されたのは、かつてみんなと食事を囲んだ居間だった。

ただ、あの時とは違って、なんとも珍しいメンバーが集まっているわけだが。

 

 

「さて、再会の印に気の利いた言葉でも言いたところだが」

「何か言いたいみたいね」

「……なんでアンタがいるんだ?」

 

 

俺は当然のように座っている凪へと視線を向けた。

俺が知ってる限りじゃ、守矢神社との関連性ってないはずなのだが。

 

 

「ああ……実は貴方の事を知っておこうと思って、ここに来たのよね」

「そういえば、随分前に俺の旅の話もしたっけ」

「で、その時偶然出会った諏訪子と仲良くなったのよ。以上」

「解り易い説明ありがとう。ついでに、何で俺がここに来ることを知ってた?」

「それは監視してて、行き先とか考えたらここに来るだろうなって思っただけよ」

 

 

凪はそう言いながら卓袱台の上に置かれたお茶を飲んだ。

今サラッと監視とか言われたんだけど、まさか、コイツ………‼

 

 

「凪、まさか薊に」

「言わないで」

「仮にも大天狗なのに、お前それ」

「ええそうよ‼ 使い走りよ‼ あの人、自分が暇だからって私に押し付けて」

「お、落ち着け」

「あの一件で下の子たちからの信頼も失くしてるっていうのに……もうやだ、あの上司」

 

 

凪は卓袱台に突っ伏したまましくしくとなき始めた。

上からも下からも圧迫されて、まんま中間管理職の悩みだな。

とりあえず、今はそっとしておこう。

 

そして、もう一つ、俺が気になっていることがある。

それは目の前に座っている諏訪子の隣にいる女性だった。

サイドが左右に広がった紫がかった青髪のセミロング、白色のゆったりとした長袖の上に赤い上着と臙脂色のロングスカート、背中の注連縄が無かったら気付くのに遅れたが、間違いなくあの人だ。

 

八坂 神奈子、諏訪子が一対一の決闘をして勝った神だ。

原作じゃ風神録以降の異変で度々関わって、また守矢かという言葉が出るほどだ。

軍神とまで呼ばれたほどだから、偉そうにしてるのかなと思っていたが………………。

 

 

「…………………………」

「…………………………」

 

 

大人しい。大人しすぎる。

さっきから視線を向けるたびに逸らされるし、むしろ怯えられてる!?

いくら原作と違うところがるからって、ここまで来たらダメだろ。

 

 

「……俺って何かしたっけ、諏訪子」

「ああ。神奈子の事? 実は私も違和感があるのよね」

「いつも通りってことじゃないみたいだな」

「原因は優夜というより、昔のあの戦いだね」

「え?」

 

 

昔のあの戦いって、十中八九諏訪大戦の事だよな。

あの時は神奈子に出会ってない………いや、まさか。

 

 

「アンタ、あの三貴子の知り合いな上に戦ったって言われてるらしいじゃない」

「嘘はないな。」

「その所為で神奈子が謙遜してるのよ」

「ああ………」

 

 

俺は改めて神奈子へと目を向ける。

よく考えれば、俺は神奈子の上司と知り合い。その上、あの戦いでは神共相手に無双してたものな。こんな反応されて当然か。

 

 

「そういえばあの三人って結構偉いんだったな。あの調子だから忘れてたわ」

「天照、須佐之男、月夜見のことをそこまで言えるのはアンタだけだよ」

「あはは………あ」

 

 

その時、俺は冒頭の話を思い出してしまった。

思い出してほしい、光姫がここに来た時の会話を、覚えてない人は上スクロールだ。

俺は隣にいる光姫へと視線を向けると、彼女は笑っていた。

 

 

「ふふ、やっぱり貴方について来て正解でした」

「ああ、これはヤバい」

「鴉天狗に諏訪の神、それだけでも十分なのに。やはり君は面白い」

「……怖い」

「光姫、あまりこの人達に迷惑かけない」

「解ってます。解ってますけど、ああ、この感情をどこにぶつければ」

 

 

目を輝かせながら俺の事を見つめている光姫。

世が世ならマッドサイエンティストになってただろうな。

 

 

「なんだか賑やかになったね」

「ルーミアたちの代わりに静かになると思ったけど、こっちの方が面倒だな」

「いいじゃないか。周りがうるさいくらいがちょうどいいもんなんだよ」

「そうか……諏訪子はどうなんだ?」

「見ての通り、と言いたいけど。神奈子がこんな調子じゃ説得力無いね」

 

 

諏訪子は横目で神奈子を見る。

 

 

「う、うるさい。お前と私じゃ事情が違うんだ」

「こっちはそういう事情無しで仲良くしたいんだけどな。ね、神奈子」

「え、いや、その………はい」

「あはは‼‼‼ あの神奈子がここまで縮こまるなんて、笑える」

「……んだと‼‼ 黙って聞いてれば好き放題言いやがって、この両生類」

「はっ、事実を言われて怒るなんて、相変わらず短気だね」

「頭に来た。表に出ろ‼‼」

「いいわよ。日頃の恨み、ここで発散させてもらうわ‼‼」

 

「どうしてこうなった」

「十中八九、優夜の所為ね」

「神同士の戦い、是非とも拝見したいですね」

「危ないよ。光姫」

「こっちはこっちで楽しんでやがる」

「何を言う。たった一度の人生、楽しまなければ大損だぞ」

「そういうものかな」

 

 

目を輝かせながらそう語る彼女が、少し眩しく見えた。

でも、たまにはこうして息抜きをするのも悪くはないな。

 

ちなみに、神奈子と諏訪子の喧嘩は、途中で神社を破壊しそうになったので俺が止めた。

 

 

 

 

 




空亡「再び登場、諏訪子様に凪さん」
優夜「えらく懐かしいのが出てきたな」
空亡「このまま行くと出番なさそうだったので、出してくれと」
優夜「大変だな」
空亡「大変なのは、原作キャラよりオリキャラの方が影が濃いんですよ」
優夜「凪は愚痴るし、光姫はなんだか分からないテンションだしな」
空亡「完璧な人間はいないってことで、ここは一つ」
優夜「うち一人は大天狗だけどな」
空亡「さて、次回はあの人が登場」
優夜「あの人?」
空亡「ヒントは、邪神」
優夜「え?」


次回予告
本当の自分とは何なのか? 夢と現実も狭間で、彼は葛藤する。
東方幻想物語・蓬莱編、『紅い髪のC/胡蝶の夢』どうぞお楽しみに。、


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