東方幻想物語   作:空亡之尊

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Mを求めて/意外な同行者たち

神無 優夜side

 

 

かぐや姫から五つの難題を申し渡された貴族たちは動きだした。

大伴御行は『龍の頸の玉』を求め、龍退治へと海へ出た。

石作皇子は『仏の御石の鉢』を求めるが、大和の国の山寺へ偽物を探しに出た。

阿倍御主人は『火鼠の皮衣』を求めるが、唐の商人から買い取った(偽物)。

石上麻呂は『燕の子安貝』を求め、燕の巣を探しに行った。

車持皇子は『蓬莱の玉の枝』を求めるが、都の職人に贋作を作らせる。

 

結末を知っている身としては、なんとも可哀想に見える。

まあ、俺もその一人に数えられるわけなんだよな。

 

俺がかぐや姫から申し渡されたのは『半月の弓』、つまりは永琳の弓だ。

もう本物は当の本人が持っていると思うのだが、実はこれがもう一つあったりする。

数億年前、うっかり壊してしまった物があの場所に埋まっている。

永琳にはバレなかったが、笑い話で輝夜に話した覚えがある。

 

これは俺が『神無 優夜』である事を証明する難題だ。

ちゃんと顔合わせするためにも、この難題、解いてみせる。

 

 

「………と、決意したはずなんだが」

「どうかしましたか?」

 

 

俺は隣を歩く人物を睨む。

そこには愛識 光姫が、何食わぬ顔で、さも当然のように歩いていた。

何故こうなったのか、実は昨晩の話に遡る。

 

 

 

少 年 回 想 中

 

 

 

自分の名前と女であることを明かした光姫は、俺に微笑みを向ける。

今までが今までだったからか、その笑みの奥に何か企みがあるように見える。

 

 

「ところでユウヤさん、一つ頼みを聞いてくれませんか?」

「なんだよ」

「貴方の難題、僕にも手伝わせてくれませんか?」

「は?」

 

 

それは意外な言葉だった。

 

 

「お前、藤原の従者って言ってたよな?」

「確かに藤原不比等、今は車持皇子と名乗ってますけど、その方の従者ではありますね」

「普通なら、そっち側につくはずだろ」

「そうなんですけど、僕は面白いほうについて行く性質なので」

「面白いって」

「あのかぐや姫が貴方を見て動揺した。その真意をこの目で確かめたいのですよ」

「好奇心旺盛だな」

「知りたがりなだけですよ」

 

 

彼女はそう言うと、俺に歩み寄り顔を近付ける。

相手の吐息が掛かるほどの距離に迫られ、心なしか心臓が高ぶっている俺が居る。

 

 

「……それに妖怪と旅する人間がどんな人なのか、それも知りたいですからね」

「お前……!?」

「僕もそれなりに勘が鋭いんですよ」

「驚いたな。ってことは、俺の事もか?」

「ええ。普通の人間は違う、ということだけですけどね」

「そうかよ。ったく、賢しい奴は嫌いだ」

「それほどでも」

 

 

彼女は嬉しそうに笑う。

俺もいろんな人間や妖怪を見てきたが、彼女の言葉一つ一つが信じられない。

普通なら女性に対してここまでの感情を抱くことは無いはずなのに…………。

 

 

「どうしますか?」

「ちなみに断ったら?」

「秘密です」

「おお、怖い怖い」

「……僕は知りたいんですよ。貴方という人物を」

 

 

彼女は今までの張り付けたような笑みではなく、真剣なまなざしで俺を見る。

その目は、俺がいつも見ていた目とよく似ていた。

 

 

「わかった。その代り、今の言葉の意味を教えてもらうぞ」

「……いいでしょう。その約束、守りましょう」

 

 

 

少 年 祈 祷 中

 

 

 

こうして、俺は光姫の旅の同行を認めた。

ルーミアたちとは宿屋で別れたが、こんななら誰か一人でも連れてくればよかった。

ちなみに、今はあの竹林の中を歩いている。

 

 

「まさかもう一度ここに来るとは」

「貴方と出会った思い出の場所ですね」

「何言ってんだよ。それより、迷わないのか?」

「僕はここらの地理には詳しいですからね。半日もあれば抜けられますよ」

「半日……だと……!?」

「こんな所で迷うのは、方向音痴くらいですよ。きっと」

 

 

彼女はあっさりとそう言い放つ。

悪意があれば怒れるのに、無意識で言っているから怒れない。

ここで怒ったら墓穴を掘るだろうし、コイツ、根っこから腹黒いな。

 

 

「ところで、一つお聞きしたいのですけど?」

「なんだよ」

「貴方の連れって三人だけでしたよね?」

「ああ。ルーミアとゆかり、阿礼はたまたま出会っただけだ。それがどうした?」

「……じゃあ、さっきから僕たちの後ろからつけてきているのは誰でしょうね?」

 

 

俺と光姫が同時に足を止めると、後ろの方で一瞬遅れて足音が聞こえた。

俺もさっきから感じてはいたが、妖怪でもないし、とにかく竹林を出てから確かめる気ではいた。

しかし、光姫を見ていると本当に人間なのか疑問に思えてくる。

 

 

「――ちなみに、心当たりは?」

「ありますけど、どこで嗅ぎ付けたんですかね。藤原氏にすら教えてないのに」

 

 

光姫は嬉しそうに笑うと、振り返る。

俺も振り返ると、竹の影に一人の少女が隠れていた。

 

 

「知り合いか?」

「ええ。そうですよね、“妹紅”」

「え?」

「……バレちゃったか」

 

 

竹の影から現れた少女は照れ臭そうに頬を掻いた。

綺麗な短い黒髪、動きやすいミニスカートのような着物を着ている。

少女は俺の事を一瞥すると、光姫の下へと駆け寄った。

 

 

「光姫、どこに行くの?」

「少しこの方と旅に出るだけですよ」

「旅?」

「かぐや姫の難題、その手伝いですね」

 

 

光姫がそう言い聞かせると、少女は俺へと視線を向ける。

 

 

「光姫」

「解ってますよ。この方は『藤原 妹紅』、藤原氏の娘ですよ」

 

 

光姫はそう言って妹紅を紹介した。

原作とは容姿が違う所為で認識するのが遅れたが、よく見ると『小説版:儚月抄』の挿絵で見たことがある。そういえば、妹紅って蓬莱の薬を飲む前は黒髪だったっけ。

そんな風に考えていると、妹紅に不審な目で見られていることに気付いた。

 

 

「どうかした?」

「貴方も、かぐや姫に求婚したの?」

「いや。お姫様の遊びに付き合ってるだけだ」

「そうなの……」

 

 

そう言って妹紅は光姫の影に隠れた。

思いっ切り警戒されているな。まあ、仕方ないか。

 

 

「仲が良いみたいだな」

「教育係みたいなものですからね。父親より顔を合わせてますし」

「どちらかというと、妹紅の従者ってことか」

「そうなりますかね。まあ、あんな人の下で働くよりは幾分マシですけど」

 

 

光姫はそう言って悪態を吐いた。

どうも彼女、藤原不比等の事を良く思ってないみたいだ。

そんな彼女が何故従者なんかをしているのか、旅の途中で聞いてみるとしよう。

 

 

「ねえ、光姫」

「なんですか?」

「私も、付いて行ってもいいかしら?」

「……どうしてですか?」

「貴女といた方が楽しいから………じゃ、だめ?」

「僕は構いませんが、決めるのは彼ですよ」

 

 

光姫は俺へと視線を向ける。それに合わせてもこうも俺を見る。

ああ、なんで俺の元にはこういう面倒が舞い込むのだろうか。ある意味ありがたいとは思っている自分がいて、少しムカつく。

 

 

「わかった。でも、条件がある」

「なに?」

 

 

俺は妹紅の前に膝を下ろすと、一枚のハンカチを取り出した。

頭上に?マークを浮かべる妹紅、俺はそれを尻目にハンカチを手に被せる。

すると、一呼吸の間を置いてハンカチを取ると、俺の手に一輪の花が握られていた。

 

 

「……!?」

「この花を受け取ってくれませんか?」

「あ、ありがとう」

「どういたしまして」

 

 

妹紅は驚きながらも、その花を受け取った。

俺の中では女性にはこれが一番受けがいい。陳腐な手品でも、少しは笑顔になれるから。

 

 

「貴方、名前は?」

「神無 優夜、普通よりも少し長生きな人間だ」

「優夜……よろしくね」

 

 

妹紅は笑顔で俺にそう言った。

 

 

「良かったですね。お友達ができて」

「うん」

「それじゃあ、行くか」

「そういえば、どこに向かう気ですか?」

「どうせだ。今までの道順を逆に辿るさ」

「ふふっ。どうやら、退屈せずに済みそうですね」

「その言葉、二度と忘れるなよ」

 

 

さて、意外な同行者を連れた俺の旅、無事に事なきを終えられるのか?

まずは、久しぶりにあの神様にでも会いに行くか。

 

 

 

 

???side

 

 

「ふ~ん。面白い事になってるわね」

 

 

遠くの山で、鴉がニヤリと笑った。

 

 

 

 





空亡「さて、かぐや姫の難題……と呼べるのでしょうか?」
優夜「ある意味難題だろ。俺以外なら」
空亡「まあ、そうですね。しかし、退屈しないたびになりそうですね」
優夜「光姫のことはある程度予想してたが、まさか妹紅まで」
空亡「藤原氏の従者ですからね、妹紅を出さないわけにもいかないでしょう」
優夜「その割には主に忠実じゃないみたいだが?」
空亡「それに関しては今後の展開をお楽しみください」
優夜「相変わらずネタバレに関しては口が堅いな」
空亡「そのネタバレでしばらく遊べましたけどね」
優夜「頼むから、もうああいう冗談はやめてくれ」
空亡「善処します」


次回予告
旅路の思い出は楽しい事ばかりじゃないが、昔馴染みの顔に会うと嬉しくなる。
東方幻想物語・蓬莱編、『お気楽なG/奇妙な顔合わせ』、どうぞお楽しみに。


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