東方幻想物語   作:空亡之尊

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旅するS/記憶を刻む者

神無 優夜side

 

 

因幡てゐと出会った俺は、彼女の案内で竹林を歩いていた。

後から合流したルーミアとゆかりは、その後ろをついてきている。

 

 

「悪いな。道案内してもらって」

「いいよ。優夜には借りがあるし」

「今度は何をしたのよ?」

「怖い人間に退治されそうなところを助けてあげた。ただそれだけだ」

「お人好しですね。まあ、そこがユウヤの良いところね」

「ゆかりは一言多い」

 

 

俺は振り返ってゆかりを睨みつけるが、本人はそっぽを向いて俺から目を逸らす。

そのやり取りを見て、てゐは面白そうに笑う。

 

 

「ふふ、本当に妖怪と仲が良いんだね」

「まあな」

「だとすると、やっぱりあの噂もまんざら嘘ではなさそうだ」

「噂?」

「“妖怪と共に暮らす人間、あの最強の鬼姫を倒す”。私達妖怪の間では有名だよ」

「いつの間にそんな噂が流れたのよ」

「大元は凪だろうな。アイツ噂好きだし」

「薊も苦労してるわね」

 

 

ここには居ない二人の事を思いながら、俺たちは歩みを進める。

しかし、どこに行っても“妖怪と共に暮らす人間”という肩書は外れないな。

 

 

「いっそのこと、妖怪と人間が共に暮らせるような理想郷があればいいんだけどな」

「え?」

「無理だよ。人は妖怪を恐れ、退治する。妖は人間を襲い、喰らう。それが世の摂理よ」

「まあ、そうなんだけどさ。…………ん? ゆかり、どうかしたか?」

「い、いえ。なんでもないわ」

「そうか」

 

 

ゆかりは何やら考え事をするように俯いていたが、気のせいだったのだろうか?

そんな事を考えながら歩いていると、竹林の奥から光が差し込んだ。

 

 

「もう出口だね。ようやく道案内はお終いか」

「ありがとな。助かった」

「どうってことないよ。私も、噂の人間に会えてよかったし」

「また会うときがあれば、その時はゆっくり話でもしようぜ」

「そうだね。楽しみにしておくよ」

 

 

てゐはそういって別れを告げると、その場を立ち去った。

よく見ると、彼女の周りの影から妖怪兎たちが顔を出し、小さく手を振っている。

遭難したり罠仕掛けたりとひどい目にあったが、中々いい出会いがあった。

 

都に辿り着いた俺たちは門を潜り抜けると、そこには久しぶりに見る人ごみがあった。

百数年も樹海に引き籠っていた所為か、少し人酔いしそうになったが、何とか立て直す。

 

 

「さて、ここからはやっと都か」

「とりあえず、何か食べたいわ」

「この先に甘味処があるわ。間違いない」

「空腹で嗅覚が鋭くなってやがる」

「最古参の妖怪の威厳なんてないわね」

「威厳でご飯は喰えないわ」

「いい台詞だ。感動的だな。だが無意味だ」

 

 

俺はルーミアにそう告げた。

もう夕暮れなのか、遠くでは鴉のなく声が聞こえてくる。

 

 

「なんでよ?」

「よく考えてみろ。俺たちは今まで樹海の中で過ごしてきた」

「そうね」

「旅に出た時に持っていた金はその時点で雀の涙程度だ」

「……あ」

「そして三日前にそれが尽きた。これがどういう事か分かるか?」

「………一文無し、ということね」

 

 

ゆかりは溜息を吐き、頭を抱えた。

このままでは飯にあり着くどころか、宿に泊まることも出来ない。

 

 

「……………さい」

 

「やばいな」

「こうなったら、何か売ってお金を工面するしか」

 

「…………ください」

 

「売るものって何かあったっけ?」

「この際、ユウヤの服でも売ったら?」

「嫌だよ。この服結構気に入ってるんだから」

 

「………えてください」

 

「それよりも、さ」

「それよりもじゃないわ。重大な問題よ」

「いや、さっきから何か聞こえない?」

「そういえば、さっきから女性の叫ぶような声が」

「捕まえてください‼‼‼」

 

 

俺たちは声のした方へと視線を向けた。

その時、俺のすぐ横を不審な男が走り抜けた。視線の先には追いかける女性の姿があった。

ああ、これはよくあるひったくりイベントか。とりあえず、イベントは回収しないと。

俺は咄嗟に男の襟首を掴むと、その場に留まらせた。

 

 

「何しやがる‼‼」

「悪いけど、お前の持ってるその手荷物、置いていってもらおうか?」

「うるせえ‼‼」

 

 

男は俺を振り解くと、そのまま殴りかかってきた。

しかし、薊と何度か組み手をしていた俺から見れば、眠っちまいそうな動きだった。

俺はそれをひらりと躱すと、足払いをして男を浮かせて、無防備な顔面を殴って地面に叩き付ける。男はその一撃で完全に意識を刈り取られた。

 

 

「女性から奪っていいのは心だけだ。憶えておけ」

「くさい台詞ね。でも、嫌いじゃないわ」

「手加減していたとしても、結構ヒドイですね」

「悪い奴には鉄拳制裁、もちろん二人にもね」

「この人だけは怒らせてはいけないということは分かるわ」

「アレは痛いわよ。一日中痛みが残ったわ」

 

 

ルーミアが昔を思い出して頭を摩っていると、追いかけていた女性が走り寄ってきた。

後ろで一つ結びした紫色の髪、若草色の長着の上に袖の部分に花が描かれた黄色の着物、頭には山茶花の髪飾りをつけている。幼さの残るその女性は息を切らせていた。

女性は顔を上げると、俺の手を取った。

 

 

「そこの男を捕まえてくれて、ありがとうございます」

「いえいえ。困っている女性を放っておくことも出来ませんから」

「なんてお優しい方。何かお礼は………」

「結構ですよ。貴女からはその感謝の心だけで十分です」

 

 

俺は女性にそう言って微笑みかける。

 

 

「カッコ付けて……」

「こういう人だったのね……」

「お前ら、少し黙ってろ」

 

 

後ろでは連れの二人が不満そうに陰口をたたいている。

たまにはいいだろうが。女性に対しての第一印象は何よりも大事なんだよ……‼‼

それを見て、女性は袖で口を隠しながら笑う。

 

 

「ふふっ。面白い方々ですね」

「ったく、せっかく紳士的に対応してたのに、どうしてくれる」

「アンタには似合わないわよ」

「うるさい。……すまないな、こんな礼儀知らずな連れで」

「酷いわね。真実を言っただけでこの言い様」

「女性に対しての態度がなってませんね」

「お前らな……」

 

 

俺は二人に向かって睨むが、二人は左右を向いて俺から目を背ける。

 

 

「まあまあ。良ければお礼がしたいので、近くの宿で一度お話しませんか?」

「いいのか?」

「はい。私の大事なものを取り返してくれたお礼ですし、なにより」

「なにより?」

「貴方たちの事が気に入りました」

 

 

女性は笑顔でそう言った。

どうやら、面白い人と出会ったのかもしれない。

 

 

「わかった。お前らもいいよな?」

「とりあえず、私はご飯を奢ってくれるのならいいわ」

「まあ、都に関して知らないことも多いですし、今はそうしましょう」

「というわけだ。それじゃあ、お言葉に甘えるぜ」

「ありがとうございます。では、行きましょうか」

 

 

女性はそう言って歩きだすが、少し進んだところで立ち止まって振り返った。

 

 

「そう言えば、まだ名前を伺っていませんでしたね」

「そうだな。俺は神無 優夜、旅をしているただの人間だ」

「ルーミアよ。この人の相棒みたいなものよ」

「ゆかりです。二人の弟子みたいなものよ」

「なんだか賑やかですね」

「さて、こっちも名乗ったんだ。次はそっちからだぜ」

「そうでしたね……」

 

 

女性は振り返ると、俺たちに頭を下げて名乗った。

 

 

「ちょっとした興味で旅をしております、稗田 阿礼と申します。以後お見知おきを」

 

 

これが阿礼との出会いだった。

 

 

 

 

 




空亡「やってきました、都」
優夜「ひったくりイベントからの出会いって、ベタすぎるだろ」
空亡「王道も邪道も、僕は等しく愛してますから」
優夜「答えになってない」
空亡「まあ、それより、阿礼さん登場ですよ。初代稗田ですよ」
優夜「チッ……ロリコンめ」
空亡「ちなみにタイトルはSavant(サヴァン) 、あっきゅんの二つ名からですね」
優夜「記憶力が優れた記憶障害の名前か……」
空亡「この家系の人は障害ではないんですけどね」
優夜「人物的には癖があって面白いんだけどな」


次回予告
稗田阿礼と出会い、共にかぐや姫の屋敷と向かうが、そこにはあの青年が!?
東方幻想物語・蓬莱編、『巷で噂のP/在り来たりな物語』、どうぞお楽しみに。


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