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遥か昔、木花咲耶姫と岩長姫という神様の姉妹がいました。
咲耶姫は自分たちが住む富士山こそが日本で一番高い山だと自負していましたが、岩長姫は八ヶ岳という山の方が高いと妹に言いました。
それを聞いた木花咲夜姫は本当に高いのはどちらなのか、山頂から水を流して高さを測りました。
結果、八ヶ岳の方が高いということが証明されました。
最も美しい自分より高い山など許せない、激昂した咲耶姫は八ヶ岳を八つの峰に割りました。
岩長姫は妹の行動に嫌気がさし、醜くなった八ヶ岳へと移り住みました。
今でもこの伝承は現代に残っているが、この話には続きがあった。
岩長姫は不変と永遠を司る神、その力のお陰で、醜くなる前の八ヶ岳、その姿を残した。
誰からも忘れ去られたその山は、いつしか忘れ去られた者達が流れ着く理想郷へと組み込まれた。
やがて八ヶ岳という名前され忘れられ、いつしかその地に住む人達からこう呼ばれるようになった。
『妖怪の山』、と。
神無 優夜side
翌日、俺とルーミアは『妖怪の山』の山道を歩いていた。
樹海の中では気にもしなかったが、季節はいつの間にか秋になっていたようで、山道の腋には彩りよく染まった楓や紅葉の葉が舞っていた。
「いや~いい景色だね」
「ホントね。たまには紅葉を肴にしてお酒でも飲みたいわね」
「なら今度一緒にする?」
「考えておくわ。まあ、少なくとも今は散歩を楽しみましょう」
「は~い」
俺は紅葉の景色を眺めながら山道を歩いて行く。
ここが相手の領地だというのに呑気なものだと自分でも思うが、これぐらい余裕を持っていかないとバカにされる。ルーミアなんて、鼻歌唄いながら軽い足取りで進んでる。
まあ、こんな見え見えの行動をしてるとすぐに見つかるわけで。
俺とルーミアは足を止めると、周囲を確認するように目配せをした。
「狗が50、鴉が20、随分と大所帯だな」
「ああ。随分と早かったな」
「薊に『侵入者が居れば全力で排除しろ』とでも言われたんでしょうね」
「忠実な狗に賢い鴉が相手か。骨が折れるぜ」
俺らの周りには武装して敵意をむき出しにした白狼天狗と鴉天狗の集団。
ここは相手の領地なだけあって、あちら側に分がある。このまま戦えば苦戦を強いられるのは間違いない。なら、どうするか。
「ルーミア」
「なに?」
「一気に走るぞ」
「滝ね」
「そこなら視界も良い」
「それに頂上に行くには最短ね」
「そういうこと」
「なら、行くわよ‼」
互いに単調な会話を済ませると、俺は『星羅』を取り出し天狗たちの足元へと発砲して落ち葉を宙に舞わせた。
視界を奪われた天狗たちに一瞬の好きが生まれ、俺とルーミアはその瞬間に包囲網を突破した。
後ろから鴉天狗の一人が俺を追うように指示を出すと、すぐに体勢を整えて俺らを追ってくる。
「「さあ、鬼ごっこの始まりだ」」
一目散に滝へと向かう俺たちへと、天狗たちは後ろから弾幕を放って妨害してくる。
弾幕を避けて走り続けると、いつの間にか俺たちの両脇に白狼天狗が並走していた。
白狼天狗たちは刀を抜くと、俺たちに向かって一切の躊躇なく斬りかかってきた。
俺は白狼天狗を踏台にして上に飛び、空中で反転して刀に向かって発砲し、刀を破壊した。
しかし、俺に上には鴉天狗が葉扇を構えて待ち構えていた。
回避できない空中、鴉天狗は勝ち誇ったかのような憎たらしい笑みを浮かべていた。
その時、俺を踏台にしてルーミアが飛び上がると、鴉天狗の上を勝ち取った。
目を見開いた鴉天狗を、邪悪な笑みを浮かべたルーミアは剣を叩き付けて地面に叩き落とした。
「やっぱり、ここで一気に叩く」
「その方がいいわ。それに、まだ“アイツ”が来ていない」
「なら、大人しく眠ってもらおうか」
『狂気に至る毒:鈴仙・優曇華院・イナバ、八意永琳、メディスン・メランコリー』
俺の手元に目が赤いドクロマークの付いた弾倉が現れると、それを『星羅』に装填する。
鈴仙の波長を操って相手を眠らせる効果、それに加えて永琳とメディスンの神経毒、これらを混ぜた特殊弾頭、これで天狗共も一発だ。
「狂い眠れ。『永久睡眠‐ドリームポイズン‐』」
銃弾を天狗たちの中心に打ち込むと、そこから毒々しい霧が散布された。
霧を吸い込んだ天狗たちは咳き込み、やがて次々と地面に倒れ、その場に立つ者は一人もいなくなった。
「流石ね」
「まあね」
「アンタの事だから即死性の毒でも良かったような気が」
「これからは殺さずでもでも始めようかなと思ってね」
「この前、妖怪退治してたわよね?」
「人に害する奴は別、悪い奴には地獄で償ってもらう」
「怖い人、でも嫌いじゃないわ」
「ありがと」
そんな話をしながら歩みを進めていくと、いつの間にか滝壷の辺りへと辿り着いた。
見上げると、滝口から勢い良く河川が流れ落ちているのが良く見える。
「それとお願いなんだけど」
「なに?」
「できれば滝の上まで運んでくれない?」
「能力の一つに飛べるのが有ったでしょ?」
「無駄な力を使いたくないんだよね。だ・か・ら、お願い」
「今回だけよ」
ルーミアに手を掴まれると、そのまま滝の上へと飛んでいった。
首だけ動かして下の景色を見ると、日本で一番高い山だということがよく分かる。
滝の上に辿り着くと、そこには二人の女性が待ち構えていた。
左目を隠すように伸びた長い黒髪、東方香霖堂でみた天狗装束を身に纏い、背中からは大きな黒い翼が生え、手には葉団扇を持っている。髪の隙間から見える笑顔から底知れない恐怖を感じる。
もう一人は白い髪の長いポニーテール、片方の彼女と同じ装束に身を包み、白い犬耳と薄汚れた尻尾が生え、腰には日本刀が帯びている。傍らの彼女と違って無言の圧力を感じる。
只ならぬ雰囲気を香持ち出している二人の女性に、俺は久しぶりに冷や汗をかいた。
目の前の二人に俺が警戒していると、鴉天狗の女性が口を開いた。
「ここに待機していて正解だったみたいね」
「まるでここに来ることが分かっていたみたいな口振りだな」
「薊から聞いた限りじゃ、先行した奴らがやられるのは想定内だったからね」
「仲間を信用していなかったのか?」
「違うわ。貴方の事を少し信じてみたのよ」
「俺を?」
「薊が興味を惹いた人間、その人ならここまで来るだろうとね」
鴉天狗の女性は俺を見てそう答えた。
天狗という妖怪は他者を見下す傾向があるが、彼女は俺の事を過小評価することなく見ていた。
薊の事を信頼しているからこそなのか、元からそういう性格なのか、俺には計りきれない。
それよりも、さっきからルーミアが彼女の事を睨んでいる。
「ルーミア?」
「あら、貴女もいたのね。人喰い」
「またアンタに会うとは思わなかったわよ。鴉天狗」
「悲しいわね。私とよく遊んでくれる数少ない友達なのに」
「誰が友達よ。ちょっかいばっかりかけてくるだけの傍迷惑な邪魔鴉が」
「酷いわ。折角暇な時間を使って遊んでやっているというのに」
「アンタね……」
ルーミアが額に青筋を浮かべると同時に、妖気が膨れ上がる。
そういえば、ここ最近喧嘩をしている鴉天狗が居ると言っていたが、恐らく彼女の事だろう。
ルーミアから見れば傍迷惑な邪魔者、彼女から見れば遊び甲斐のある玩具、因縁の仲だと言われても納得だ。
「ところで、侵入者さん。貴方の名前を聴かせてもらえるかしら?」
「神無 優夜だ。薊から聞いてるだろ」
「ええ。そして、その彼が着たら全力で相手をしてやってと頼まれてるわ」
「やれやれ、話をするだけで随分と面倒なことだな」
「悪いわね。こっちも仕事なのよ。ね?」
「……(こくり)」
鴉天狗の彼女の言葉に、白狼天狗の女性は静かに頷いた。
先ほどの会話から存在感が薄いが、初めの時から俺の事をじっと睨んでいる。
敵意を向けられているのは分かっているが、何か別のモノを視ているような、そんな感じがした。
「あ、そう言えばこちらも自己紹介しないと失礼よね?」
「いちいちこっちを見ないでくれるかしら。鬱陶しい」
「怖いわね。まあ気を取り直して、私は『射命丸 凪(なぎ)』、位は大天狗よ」
「………『犬走 楓(かえで)』、警備隊隊長です」
「………マジかよ」
二人の苗字には聞き覚えがある。
原作キャラと同じ苗字、その時点で只者とは思えないが、二人から感じる妖気は俺が出遭ってきた妖怪の中でも断トツに強いものだ。
この二人を相手にするのは少し骨が折れそうだ。
「ユウヤ、頼みがあるわ」
「なに?」
「凪は私に任せて。ここで鬱憤を晴らしたいわ」
「感情に呑み込まれないようにね」
「解ってるわ」
「相談は終わりかしら?」
俺とルーミアの会話を聞き終えた凪が声を上げた。
「ああ」
「それでは、ここからは仕事に取り掛からせてもらおうかしら」
「………侵入者は排除するのみ。それが薊様の客人なら尚更の事」
「私には何も関係ないんだけど、個人的な恨みを晴らさせてもらうわ」
「悪いが、こっちもただで帰る気はない。無理にでも通らせてもらうぜ」
俺は『月美』を構え、
ルーミアは黒い剣を構え、
凪は翼を広げ、
楓は刀を抜く。
秋風が吹く妖怪の山で、奇妙な共闘が始まろうとしていた。
空亡「さて、次回に備えないと」
優夜「おい。何打ぁ聞き覚えのあるような苗字なんだけど?」
空亡「本当なら本人でもよかったのですけど、紫さんが幼いのでそれに合わせようと」
優夜「にしても、絶対に強いだろ。あのルーミアを弄ぶほどだし」
空亡「ここでイベントでもないとつまらないですからね」
優夜「中ボス戦ってわけかよ。ラスボスまで体力もつかな?」
次回予告
心を折られる優夜、心を弄ばれるルーミア、二人は敗北を知ることになる。
東方幻想物語・邂逅編、『千手の白狼、神速の鴉』、どうぞお楽しみに。