東方幻想物語   作:空亡之尊

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死にたがりの鬼姫

神無 優夜side

 

 

「うーん……咲夜と輝夜で、時間操作系が被るな」

 

 

俺は机の上に置いたメモ用紙に線を引いた。

机に散らばったメモの山、それら全てには俺が考えてきた能力の組み合わせが記されていた。

中には実用を考慮して採用したのもあれば、組み合わせが不完全で却下したものもある。

ちなみにほとんどの組み合わせがカップリングやグループなどを参考にしている。これでも東方関連の同人誌は網羅しているからな。

 

 

「ただいま~」

「おかえり……って、これはまた」

 

 

疲れ果てて帰ってきたルーミアを見ると、ボロボロになっていた。

前まではここらの妖怪相手に喧嘩を売られて返り討ちしてきたが、ここ最近になってその頻度が増したような気がする。

それに、彼女がここまでボロボロになっているのも珍しい。ここ最近はずっとこの調子だ。

 

 

「あーもう‼ あの鴉、いつか焼き鳥にして喰ってやる‼‼」

「荒れてるね」

「当たり前よ。いつもいつも私が獲物を取ろうとするときに邪魔するんだから」

「まあ、丁度ここが縄張りなんだから仕方ないでしょ」

「ムカつくわ……」

 

 

ルーミアはフラフラとした足取りでベットに向かうと、そのまま倒れるように身を委ねた。

最近はこの辺りにある山に天狗が住み付くようになり、ルーミアはそこの天狗と喧嘩をしている。

彼女と互角に渡り合うあたり、実力は相当なものだろう。

 

 

「次会ったら絶対潰す」

「まあ落ち着いてよ。そうカリカリしてるとこっちの身が保たないよ」

「なら何か食べさせて」

「ストレスによる過食か…………太らないようにね」

「うるさい」

 

 

ルーミアに追い出されるように小屋から出ると、俺は樹海の奥へと向かった。

 

 

 

少 年 祈 祷 中          

 

 

 

出掛けて数分後、俺の目の前に少女が居た。

黒く長い髪、縁起が悪そうな白装束、幼くも可愛らしい顔立ちをしている。

こんな樹海の中に子供が居るのは不可思議なことだが、今の状態を見れば妙に納得がいった。

彼女の首に縄が巻かれており、近くの木の枝から吊るされている。簡単に言えば、首吊りだ。

 

 

「こんな子供が自殺か……この頃から世も末だったんだな」

 

 

まさか自分の目で首吊りの現場を見ることになるなんて、思っても見なかった。

このまま知らぬ振りをしていくのもいいが、“人間”として見過ごすことも出来ない俺は、足元に落ちていた小石を拾い上げると、それを縄が巻かれている木の枝へと投げた。

枯れかけていたのか、木の枝はあっさりと折れると、少女の身体は地面へと落下した。

 

 

「痛っ!?」

「え?」

 

 

重力の法則で背中から思いきり地面に激突した少女から声が聞こえた。

おかしい。彼女からは生きている気配を感じなかった。だから死んでいるモノと思ったのに、何で今の彼女からはその気配があるんだ?

俺の行こうとは裏腹に、少女は背中をさすりながら立ち上った。

 

 

「あ~あ、また死ねなかった。首吊りもダメだったか」

「あ、あの~」

「ん? なんじゃ、お主は?」

「俺は神無 優夜、通りすがりの人間だよ。君は?」

「我か? 我は薊(あざみ)、ここらに棲む妖怪だ」

 

 

そう言って少女、薊は自己紹介した。

この辺りに棲む妖怪となると、近くの山を縄張りにしている鬼や天狗の仲間か。

見る限り白狼天狗でも鴉天狗でもないし、よく見たら頭に小さな角が見えるから鬼か。

 

 

「それにしても、鬼が自殺だなんて、妙な事をするね」

「我の暇潰しみたいなものだ。人間が気にするな」

「暇つぶしって、いくら妖怪でも命ぐらいは大切にしろよ」

「悪いな。我の命なんて、そこらの畜生より軽いのだ」

「どういう意味だよ」

「お主に話す道理などない。それが解れば我には関わるな」

 

 

そう言ってその場を立ち去ろうとする彼女の目には、深い闇が見えた。

 

 

「待てよ」

 

 

俺は急いで彼女の手を掴むが、その時手に違和感を感じた。

思考がそちらに傾くと、薊の殺気を込めた鋭い視線が俺に突き刺さった。

 

 

「――触るな。人間風情が」

 

 

瞬間、いとも簡単に俺の手は払い除けられてしまった。

 

 

「――嘗めるなよ。餓鬼が」

 

 

互いにキレやすい性格の所為か、俺と薊に敵意が芽生えた。

俺は払いのけられた身体を立て直すと、彼女に向かって蹴りを放った。

彼女は片腕で防ぐと、それを弾いて俺との距離を一気に詰める。

今から防御しても間に合わないと察した俺は拳を握り締めて彼女へと放つ。

 

その瞬間、彼女が不気味に微笑んだ。

 

 

「――解り易い奴だ」

 

 

彼女は“右手”を前に突き出し、俺の拳を受け止めた。

その瞬間、俺の全身の力が弾けるように消えた。

 

 

「――ッ!?」

「歯を食いしばれよ最弱(にんげん)。我の最強(こぶし)は少し響くぞ」

 

 

彼女は俺の拳を握り締め、引き寄せるように自分へと腕を引くと、俺の顔面を殴った。

衝撃で俺は後ろに仰け反り、何とかその場に留まるが、口からは血が流れている。

 

 

「お主、人間じゃないな」

「生憎と、こっちも半分不老不死なんだよ」

「人間の身でありながら永遠の命を得たか。さぞ嬉しいだろうな」

「嬉しくもねえよ。他人の命を糧にしてるんだからな」

「人間みたいな事を言うのだな」

「これでも心は人間だ。それだけは何も変わらねえ」

 

 

俺は口元をニヤッとさせた。

 

 

「面白い奴だ。人間にしておくのが勿体ない」

「それはどうも」

「気に入った。お主となら楽しく戦えそうだ」

 

 

薊は新しい玩具を見つけた子供のように純粋に目を輝かせた。

だが、その奥には底なしの殺意と闘志が秘められている。

 

 

「悪いな。命を粗末にするのは嫌なんだよ」

「ふん。不死の癖に命を大事にするか」

「俺は一生懸命に生きる奴が好きなんだ。だから神様も不死も嫌いだ」

「信仰する神も居ないか、まさに“神無”だな」

「くだらない洒落だな」

「案外、間違いでもないだろうけどな」

 

 

薊は意味深に微笑む。

 

 

「それでは、我はここで失礼する。命が惜しかったらもう関わるな」

「生憎と、負けたままは格好悪いからな、明日にでも仕返しに行ってやる」

「いいだろう。その代り、私の縄張りに入るからには“歓迎”するぞ」

「こっちはアンタが何で死にたがりたいのか知りたいだけなんだけどね」

「私の下まで辿り着いたら、話してやってもいいぞ」

「いいぜ。また明日、ゆっくり話でもしようぜ」

「そうだな。その時はゆっくりと話しをしよう」

 

 

立ち去る際、彼女は楽しそうに笑っていた。

 

会って間もない少女の為に面倒事に舞い込むか、俺も相当お人好しだな。

でも、何で鬼である彼女が自殺紛いな事をしていたのか、それが気になる。

 

 

「またルーミアに怒られるな、こりゃ」

「当然でしょ」

「居たのかよ……」

 

 

俺の背後の暗がりに、ルーミアは居た。

 

 

「心配になって来たのよ。どうせアンタの事だから、面倒事に巻き込まれるだろうと思って」

「はいはい。すみませんね、毎度面倒事を持ち込んで」

「別にいいわよ。私も最近退屈していたところだから」

「でも、不死の鬼なんて俺の記憶にはないんだよな」

「知らないのに喧嘩を売ったのね。よりにもよってアイツに」

「え?」

「今さっきアンタが喧嘩を売ったのは」

 

 

その時、俺は気付いた。

この世界は俺が知っている東方の世界に似て非なる歴史があるのだと。

 

 

「“最強”と謳われている鬼の姫君、『悪鬼羅刹』の薊よ」

 

 

 

 

 




空亡「さて、次回から妖怪の山に突撃ですね」
優夜「ここに来てオリキャラか」
空亡「この時代だとほとんどの原作キャラは居ないですからね」
優夜「二次創作で難しいところだな。原作キャラの登場する時代は」
空亡「まあ、これを超えれば何とか軌道には乗れますから」
優夜「とにかく、フラグの一つでも回収してくれ」


次回予告
過ぎたお人好し、けれど、命知らずの少年は前へと進む。
東方幻想物語・邂逅編、『命知らずの攻防戦』、どうぞお楽しみに。


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