東方幻想物語   作:空亡之尊

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境界線上の二人

神無 優夜side

 

 

月の景色というのはいつの時代も変わらない。

数億年前の街で見た時も、前世の街中で見た時も、数百年前に神社から見た時も、同じだった。

俺はそんな事を思いながら月を眺めていた。

 

諏訪大戦が終わって早数百年、俺は己の修行の為にとある山の麓にある樹海に移住していた。

ルーミアに四六時中と修行に付き合ってもらい、一緒に狩猟したりなどして暮らしていた。

何事も無く数百年も過ごしたが、俺の中では何一つ進展しなかった。

あれから邪神たちの動向も分からず、ただ修行するだけの日々が通り過ぎただけだった。

 

 

「あ~あ、何しているんだろ、俺」

 

 

俺は溜息を吐きながらそう呟いた。

最初は東方の世界に着たことではしゃいでいたはずなのに、いつの間にか愛した人の仇を討つために邪神を相手にしているんだよね。

本当に、どこから俺の目的がずれてしまったのだろうか。それすら分からなくなってしまった。

 

そんな思考に思い耽っていると、俺の耳に不自然な音が聞こえてきた。

落ち葉を踏む複数の足音、少女の荒い息遣い、獣のような喉を鳴らす音、普段の子の樹海では聞くことの無い音が俺の耳に入ってきた。

 

 

「方向からして、こっちに向かってくるか」

 

 

俺は『月美』を取り出して向かってくる“何者”かを待ち続ける。

 

 

 

 

 

???side

 

 

運が悪い。

その言葉しか私の頭には浮かばなかった。

 

私の後ろには大きな角を持った牛の様な妖怪が私を追ってきている。

本当なら“私の能力”ですぐにでも退治したいところだけど、まだ使い方がよく分からない。

ああ、ここに妙な人間が住んでいるって噂を聞いて着てみたのに、まさか他の妖怪の領域に入ってしまうなんて、運が悪いという他ないわ。

 

そんな事を考えていると、私は足元の木の根に引っかかってしまい、前のめりに転んでしまった。ここまで来ると自分でも情けなく感じてしまう。

打ってしまった鼻を押さえながら起き上ると、後ろから荒々しい息遣いが聞こえた。

振り返るとさっきまで追いかけてきていた妖怪が私の目と鼻の先にいる。

 

ここで死ぬのかな?

ただの興味本位で来たという理由だけで、勝手に領域に入ったというだけで、私は殺される。

逃げたいのに、身体が動かない。足枷でもはめられたように身体がいう事を聞かない。

 

牛の妖怪は徐々に私との距離を詰めると、私に向かって飛びかかった。

私は現実から背を向けるように目を瞑る。

 

しかし、妖怪の攻撃はいつまで経っても私に届かなかった。

私は恐る恐る目を開けると、そこには不思議な光景が広がっていた。

 

人間が、たった一人の人間が、牛の妖怪の攻撃を片手で止めていた。

妖怪は鼻息を荒くしながら足を踏ん張っているが、人間は涼しげな顔でそれを受け止めている。

 

 

「女の子に手を出す奴には、容赦なしだ」

 

 

人間はそう言って片手を離すと、もう片手に持っていた“刀”を抜いた。

軽くあしらわれた妖怪は激昂して再び襲い掛かるが、私や人間からしたら大きな隙だった。

 

 

「――『弥生』」

 

 

人間は刀を下に垂らすように構えると、刃を上にして斬り上げた。

鋭い一閃が妖怪の身体の中心を走ると、血飛沫を上げながら真っ二つに分かれて倒れた。

 

黒い服装に身を包んだ不思議な人間は刀を鞘に納めると、私の方へと振り返った。

月明かりに照らされる純粋な黒髪、穢れの無い紅い瞳、私はその姿に見惚れてしまった。

 

 

 

 

 

神無 優夜side

 

 

「妖怪同士とはいえ、幼女を襲うのは如何なものかね」

 

 

俺は目の前に横たわる妖怪の亡骸を見てそう呟いた。

幼女は襲うものではなく愛でる者、YESロリータ、NOタッチだ。

しかし、事情も聴かずに一方的に殺したのはまずかったかな。話せば意外といい奴だったかもしれないし。

仕方ない、ここは素直に手を合わせて祈っておこう。

 

 

「……すまないな。安らかに眠っててくれ」

 

 

俺は名も知らぬ妖怪へと謝罪の言葉を呟き、静かに背中を向けた。

さて、目の前には涙目の金髪の幼女、そして刀を携えた見知らぬ男(俺)、うん、傍から見たら俺が不審者だよな。

この現場をルーミアに見られたら問答無用で殺されそうだ。

 

そういえば、俺はこの子にどういう風に見えているんだろうか?

危機から助けてくれたヒーローか、それとも妖怪よりも怖い化け物か。

どちらにせよ、このまま黙っておくのも悪いしな、何か話した方が…………。

 

 

「あの……」

「なに?」

「た、助けれてありがとう」

「ああ、どういたしまして。どこか怪我してないかい?」

「大丈夫。それより、聞きたいことがあるのだけど」

「ん?」

「ここに人間が住んでるって話を聴いたのだけど」

 

 

少女は俺にそう尋ねる。

ここに住んでる人間って、明らかに俺しかいないよな。

ここ数百年間で人間を見たこともないし、何より妖怪すら見るのも久しぶりな気がする。

 

 

「え~と、ちなみにどういう奴なのか聞いてたりする?」

「妖怪と一緒に暮らしている変わった人間、かしら」

「変わった人間ね…………確かにその通りだね」

 

 

人間は何年経っても変わらない。

数億年前から、数百年前から、何一つ変わらない。

妖怪を恐れるのが人間の性だとすれば、それを悲しむ俺はどっちなんだろうな。

俺は目の前の少女に問いたいが、この答えは自分で探すとしよう。

しかし、この少女はどうして俺の事を……?

 

 

「ねえ、君は何でその人を?」

「……会ってみたいと思ったの。妖怪と仲良くしている人間なんて珍しいから」

「もしかして、君も人間が好きだったりするの?」

「……うん」

 

 

少女はコクリと頷いた。

この子、どこかで見たことがあるような気がすると思うけど、誰だろうか?

頭の中で検索するが、金髪の少女なんてもう既に出会ったから正直分からない。

まあ、そう簡単に原作キャラに出会うはずもないし、気のせいだろう。

 

 

「できれば、話してくれるか。何でその人に会いに来たのか」

 

 

俺は少女の目線に合わせるように腰を屈めた。

少女は目を見開いて俺の事を見つめていると、小さな声で話し始めた。

 

 

 

 

 

少女side

 

 

私は他の妖怪とは違う理由だけでよく除け者にされたり、苛められることがあった。

仲間意識の高い妖怪にとって、どの種族にも属さない妖怪の私は異端だった。

そして中途半端な能力を持っている所為で、ますます周りの妖怪たちからの風当たりも強かった。

 

それが悲しくて泣いていた時、私は人間の子供たちに声を掛けられた。

「一緒に遊ばないか」、その一言は妖怪である私にとって予想外の言葉だった。

あの時の私は流されるがままだったけど、今思えば生まれ始めて楽しかった時間だった。

 

でも、楽しい時間というのは長くは続かない。

大人たちは私を見つけると、子供たちから私を引き離した。

そして私に言った。「人間と妖怪が仲良くしているなんてあり合えない」と。

私はその言葉に傷付き、その場から逃げるようにして去った。

 

人間からも妖怪からも除け者にされた私は行く宛てもなく放浪した。

その時、私の耳に入ったのが“妖怪と一緒に暮らしている人間”の情報だった。

最初は耳を疑ったが、もしもそんな人間がいるのなら会ってみたい。

 

会って確かめたかった。

人間と妖怪が共存できるのか、互いに受け入れることができるのかを。

 

 

 

 

 

神無 優夜side

 

 

ここまで話を聞いた俺は、ある事に気付いた。

誰にも受け入れられず、独りでいることを恐れた。まるで昔の俺のようだった。

もしかしたら、俺になら受け入れてもらえると思ってここに来たのかもしれない。

妖怪にも人間にも受け入れてもらえない、その孤独を埋めるために。

 

 

「そうか、君も独りなんだね」

「……うん」

「なら、独りぼっち同士、仲良くしようか」

「え?」

「と言っても、うちには口うるさい人喰い妖怪が居るんだけどね」

「誰が口うるさいって?」

 

 

その時、俺は背後から頭に拳骨を落とされた。

頭を押さえながら後ろに振り返ると、そこにはルーミアが立っていた。

 

 

「いつまで経っても戻ってこないから心配して来たら…………ついにやったわね」

「ついにって、どういう意味だよ」

「数億年前、私が幼くなった姿を見て興奮していたのは誰かしら?」

 

 

ルーミアは決して笑っていない笑顔を俺に向ける。

確かにそんな記憶があるが、無防備な少女に襲い掛かるほど俺は人間捨ててない。

それに、ルーミアは一つ大きな勘違いをしている。それは‼‼

 

 

「俺はロリが好きなんじゃない、可愛い女の子が好きなんだ‼‼」

「あっそう。そんなことより、その子どうするの?」

「俺の言葉は完全に無視ですか。まあ、いいけどね」

 

 

ルーミアは俺の隣を通り過ぎると、少女の下へと歩み寄った。

 

 

「はじめまして。私はルーミア、人喰い妖怪よ」

「妖怪……」

 

 

少女はルーミアの事をまじまじと見つめている。

ルーミアも少女の事を品定めするように見つめている。

なんとも言えない沈黙がその場を支配するが、ルーミアは俺の方へと振り返った。

 

 

「この子、どうするの?」

「いつものふざけた答えと珍しく真面目な答え、どっちがいい?」

「後者で頼むわ」

「それなら、俺はできれば一緒に旅をしたいかな。人生経験ということで」

「本当に真面目な答えね。でも、いいの?」

「独りぼっちは寂しいんだよ。どこかの魔法少女が言ってた」

「そう……。私は別に構わないわ」

 

 

ルーミアは少女の事を一瞥すると、その場を立ち去る。

この子に対して特に興味もなさそうだったが、大丈夫だろうか。

 

 

「あ、あの」

「なに?」

「えっと…………」

 

 

少女はおどおどとした様子で俺に何か言おうとしている。

そう言えば、一緒に暮らす以前に、この子の意見を聞くのを忘れていた。

もしかしたら、さっきの俺の行動を見て怖がらせてしまっているかもしれない。

 

 

「ああ、ごめんね。勝手に話を進めて」

「いえ、私も元からそのつもりでここに来たから」

「それって、つまり」

「ご迷惑でなければ、貴方の傍に置いてもらえませんか?」

 

 

少女はそう言って頭を下げた。

この行為はただの偽善かもしれないが、それで一人の少女を救えるのなら偽善でも構わない。

それに、同居人が増えた方が賑やかで楽しそうだ。

俺は少女の頭を撫でると、少女は嬉しそうに笑った。

 

 

「こっちこそよろしくね」

「ありがとう。あっと……」

「そういえば名前を言ってなかったね。俺は神無優夜、気軽に呼んでよ」

「ユウヤ……」

「君の名前は?」

 

 

「……です」

「え?」

「……“ゆかり”です」

 

 

少女は、顔を赤らめながらそう答えた。

ははは、どうやら俺はとんでもない妖怪を仲間に加えてしまったようだ。

 

これだから、人生は面白い!!!

 

 

 

 





空亡「さて、どうやらとんでもないことになりました」
優夜「タイトルで出てくることは察してたけど、まさかロリ紫とは」
空亡「時期的にはまだ誕生して日が浅いですからね。胡散臭さはゼロです」
優夜「もはやゆかりんのアイデンティティが無くなっているような」
空亡「純粋な紫さんでもいいと思いますけどね」
優夜「俺としては後々の展開が気になるんだけど」
空亡「ふふ、一味違うのもまた面白みがあっていいでしょう」


次回予告
樹海で出会った少女に誘われるユウヤ、それはとある妖怪の罠だった。
東方幻想物語・邂逅編、『芽吹いた太陽の花』、どうぞお楽しみ。

現在投稿中
再び振出しに戻った物語、果たして今度こそ完結できるのか!?
東方絆紡録~異変~、こちらもお楽しみに。


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