東方幻想物語   作:空亡之尊

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パーフェクト能力解説

神無 優夜side

 

 

諏訪の国を旅立って早数ヶ月、俺とルーミアは日本某所の樹海の中にいた。

理由は主に二つ。ひとつは、今の時点での目的地がはっきりとしていないという事。

竹取物語も始まっていなければ、太子様も生まれていない。実は行く宛てはあるのだが、その前に確認しておきたい事があるので、今はここに居る。

そして二つ目の理由、それは…………………………………………

 

 

「狙い撃つぜ‼」

 

 

俺は片手に構えた銃でルーミアを狙い撃った。

銃弾は狙い正確に彼女の身体を捉えるが、彼女の身を守るように影がそれらを斬り落とした。

俺が小さく舌打ちをすると、影は刃の形となって俺の方へと向かってきた。

俺はその場に立ち止ると、片手に持った刀を影に向かって投げつけた。

 

 

『ルーミア:闇を操る程度の能力』

 

 

引き金を引くと、銃口から黒い光を纏った銃弾が直角に曲がりながらルーミアへと飛んでいく。

投げられた刀が次々と影の刃を斬り落としていくと同時に、銃弾は彼女へと向かっていく。

しかし、それは易々と彼女の持つ剣によって弾き落とされた。

俺はすぐさま次の銃弾を放つが、一気に俺の下へと詰め寄った彼女は俺の首に刃を突き付けた。

 

 

「勝負ありよ」

 

 

そう言って彼女は不敵に笑った。

影の刃が俺の周りを包囲し、逃げ場などどこにも用意していない。

投げた刀も、周りの影たちが巻き付いている。剣を変えようとしても無駄だろう。

大人しく負けを認めた俺は銃を手放して両腕を上げた。

 

 

 

             少 年 少 女 祈 祷 中

 

 

 

ルーミアに敗れた俺は焚き火の前でぶっ倒れていた。

そして、彼女は嬉しそうに俺が狩ってきた獲物を頬張っていた。

誰だよ。今回の勝負で負けた奴が今日の夕食を狩ってくるって決めた奴は!?

 

 

「ああ……クソ」

「ご苦労様」

「今回はいけると思ったのに」

「今日は相性が悪かったわね」

 

 

彼女はそう言いながらも遠慮なく獲物を食い続ける。

そう。今回は相性が悪かった。……だからと言って負けた理由をその所為にしたくはない。

 

 

「アンタの実践、いつまで続ける気?」

「無論。納得がいく組み合わせを見つけるまでだ」

「はあ……」

 

 

彼女は溜息を吐いた。

これが俺らが来の樹海に留まっている二つ目の理由。

ここならルーミアと本気で戦える上に、誰にも邪魔されずに俺の能力を試せるからだ。

 

 

「でも不思議よね。その能力」

「まあ。他人の力を借りているから、素直に喜べないけどね」

「ふ~ん」

「どうせだから、俺の能力についてのおさらいと変化したことについて話しておこうか」

 

 

俺はそう言って高らかに指を鳴らした。

すると周囲が舞台の書き割りの部屋のようにバタンと倒れ、そこはいつの間にか真夜中の教室。

ルーミアは教室の中心にポツンと置かれた机に座り、突然のことに目を点にしている。

そして教室の電気が一斉に点くと、教卓には黒ぶち眼鏡とスーツを着た俺が立っていた。

 

 

「ようこそ。優夜のパーフェクト能力教室へ」

「とりあえず色々と突っ込みたいことがあるのだけど」

「そこ。質問等がある場合は挙手でお願いします」

「……………………はい」

 

 

ルーミアは不満そうに俺を睨みながら手を上げた。

 

 

「ルーミアくん。何ですか」

「この部屋は何?」

「ふふふ。これはありとあらゆる能力を駆使して創り上げた固有結界の一つ」

「固有結界……?」

「その名も『なぜなに東方教室』、と言ってもただ説明するだけの教室だ」

「教室がどういうものか分からないけど、能力の無駄遣いというのはこういう事を言うのね」

 

 

ルーミアは呆れながらも感心しているようだった。

名前を『ドキドキ深夜の個人授業』にするかで悩んだが、この名前で良かっただろう。多分。

 

 

「とりあえず、今日は俺の能力について説明しておく」

「できるだけ手短にお願いね」

「はいはい。では、まず最初に俺の能力の特性についておさらいだ」

 

 

俺はそう言って後ろの黒板に能力名を書いた。

 

 

「俺の能力は『剣を創る程度の能力』、これは知ってるな?」

「ええ。実際に目の前で発現させられたからね」

「これは俺の持つスマホと連動して、選んだキャラの能力が反映される特殊な能力だ」

「私のものを選んだ場合は剣自体が変わった上に、私と同じ能力を使えたのよね」

「そう。これは能力に応じて剣の形が変わる。短剣やら弓やら、その身に纏うものもある」

「名が体を表してないわね」

「それは重々承知してる。でも、俺が話したいのはここからだ」

 

 

俺は能力名の下に矢印を三つ描いた。

 

 

「この能力の使い方は三つある」

「三つ?」

「まず素手の状態、この場合はルーミアが言ったような、様々な形で能力を使うことができる」

「それは今までのと変わらないわね」

「そして銃を持った状態、この場合は能力を封じ込めた銃弾を撃つことができる遠距離型」

「さっきはその所為で私に負けたけどね」

「それについてはおいおい説明するとして、三つ目の使い方だが」

 

 

俺は矢印の先に簡易な人型と銃の絵を描き、残った矢印の先には刀を描いた。

 

 

「三つ目は刀に能力を宿すことができる。これで全部だ」

「素手の状態とどう違うのよ」

「簡単に言えば、素手、夢刀『月美』、綺刀『星羅』の三つに分類される」

「え? でも今まで『月美』の状態でも剣が変わっていたような」

「いや、その時はちゃんと区別してるぞ。気になる人は読み返してみよう」

「誰に向かって言ってるのよ」

 

 

俺は彼女のツッコミを尻目に、黒板を叩いて回転させる。

すると裏返った黒板にはびっしりと『程度の能力』の一覧が書かれていた。

 

 

「え? 何これ」

「現時点で俺が使える能力、その一覧だ」

「……改めて貴方が化物だという事が分かったわ」

「実際、用途に困るものもあるから複雑だ」

「まあ、確かに使い道が無いわね」

 

 

ルーミアは能力一覧を眺めながらそう呟いた。

まあ、能力と言っても戦闘だけに付かわけじゃないからな。その辺りはおいおい考えていこう。

 

 

「さて、ここまで説明したのは俺の能力の新たな可能性を見出したからだ」

「またロクでもない事を考えてそうね」

「十中八九当たってると思う」

「え?」

「実は今の時点で最大三つの能力を発動することができる」

「……それはありえないわよ」

 

 

ルーミアはそう言って俺を睨みつけた。

 

 

「能力って言うのは一人につき一つが限界よ。それが人間であれ、妖怪であれ一緒よ」

「そうだ、それが普通だ。能力は命一つでも大きすぎ、それを複数持つ事はまず不可能だ」

「解っているのなら、今の話は無理だっていうことも」

「でも、俺にはその不可能を可能にする“本来の能力”がある」

「本来の能力?」

 

 

俺は再び黒板を反転させると、そこには俺の能力の名前が記されていた。。

 

 

「『命を受け継ぐ程度の能力』?」

「元々、さっきまで説明していた能力は俺自身ではなく、このスマホのに宿った能力だ。

 実際、道具に能力が宿っていることもあるからな。その線は確実だと思う」

「で、その『命を受け継ぐ程度の能力』っていうのは?」

「簡単に言えば、相手の命を取り込み、その命の強さによって寿命や能力を得ることができる」

「つまり、貴方の中には月美と星羅、その二人の命が宿ってるということね」

「まあ、そう言うことになるな」

 

 

でも、折角受け取った命、そう易々と失うわけにもいかにけどな。

そして、今の話を聴いたルーミアは何かに気付いた。

 

 

「もしかして、能力を同時に使用するって」

「そう。今の俺の命は三つ、それだけあれば同時活用も可能だろ?」

「……無茶苦茶な理屈ね」

「まあ、人生が楽しくなるコツは少しばかりの好奇心が必要なのさ」

「あっそう」

 

 

ルーミアはジト目で俺を見つめる。

ただでさえ強力な能力もあるが、これだけじゃあの邪神たちに太刀打ちできない。

少しでも強くならないと、俺はアイツ等に顔向けできない。

 

 

「ちなみにこれからは組み合わせやら実践やらでしばらくここに暮らす羽目になるから」

「うん。それはなんとなく予想できてたわ」

「そういうわけだから、最後まで付き合ってもらうよ」

「臨むところよ。こっちも色々な能力を見られてうれしいわ」

「退屈にはさせねえよ」

「楽しみね」

 

 

俺とルーミアは二人顔を見合わせながらニヤッと笑った。

傍から見たらこの光景、ホラーゲームの一場面にしか見えないな。

 

 




空亡「今回は少し遊び過ぎましたね」
優夜「久しぶりに俺のキャラが発揮されたような気がする」
空亡「シリアスとギャグの境界線はちゃんとしてますものね」
優夜「今回は俺の能力の再確認と新たな可能性を見つけたってことでいいだろう」
空亡「ようやくこっちも本気が出せる」
優夜「前から考えていたもんね」
空亡「さあ、これから楽しくなりますよ」
優夜「はあ………」


次回予告
自分は何者なのか、それは太陽の神様に聞いても分からない。
東方幻想物語・幕間、『天照之大神の憂鬱』、お楽しみに。


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