とある少年の記憶回想・願い星
神無 優夜side
夕暮れに染まる街に、パンダマストと放課後のチャイムの音色が鳴り響く。
二つの音色が合わさった不協和音が俺の耳を劈くように鳴り響く。
不本意ながら俺はその騒音に目を覚ました。そこは俺がよく知る教室だった。
もう放課後ということで誰も教室には居なかった。残っていたのは俺だけだった。
「……帰るか」
俺はそう言って席を立ちあがると、欠伸を掻きながら教室を出た。
その時、俺の目の前を本の山が通り過ぎた。
「ん?」
まだ夢を見ているのかと、自分の頬を抓った。……痛い。
どうやら夢ではないようだが、その所為で余計さっきの光景の不可思議さが増した。
俺は廊下に出て本が通り過ぎた方へと視線を向けた。
そこには一人の少女が本の山を抱えながら歩いていた。
小柄な少女は自分の背を軽く超す本の山を抱えながらもその歩みはきちんとした。
どこぞのドジっ子のようにフラフラとしているわけでもなく、姿勢を伸ばしてちゃんと歩いている。
それを見て放っておけないと思った俺は彼女を追いかけた。
しかし、大量の本の山を抱えてるにも拘らず、彼女の歩みは速かった。
というか、明らかに俺の存在に気付いているよね。さっきから早歩きだし。
「待ってよ。委員長」
俺はそう言って彼女を呼び止めた。
彼女はピタッとその場に立ち止ると、不機嫌な顔を俺に向けた。
「何か用ですか。神無くん」
委員長は「またか」とでも言いたそうな顔でそう言った。
彼女は『天宮――』、うちのクラスの委員長ということでみんなからは『委員長』と呼ばれている。
傍から見ても堅物そうだが、金髪のロングに小柄な体型ということでみんなからはマスコットみたいに可愛がられている。
「いや~。委員長が大変に見えたから手伝おうかと」
「結構です。このくらいのことくらい慣れていますから」
「そう言わずに。同じクラスの仲間だろ?」
「見返りは何ですか?」
「当然。ToLoveるのヤミちゃんコスをお願い」
「だったらいいです」
委員長は呆れながら溜息を吐いた。
まあ、こう言った具合に彼女からは少し距離を置かれている。
「まあ、それは冗談として」
「冗談には聞こえませんでしたよ」
「それより手伝うよ。困った女の子を放っておくわけにもいかないからな」
俺は委員長にそう言うが、彼女は俺の事をじっと睨んでいる。
やっぱり怒らせたのは間違いだったかな?
「……いいですよ。少し走った所為で私も疲れましたから」
「あはは。ごめん」
「まったく。普段からそういう行動を取ればモテると思うんですけどね」
「お? それってもかして俺の事を」
「それは無いです。はい、これが貴方の分です」
そう言って委員長は本の山を手渡した。
……ん? これってもしかして。
「委員長。もしかしてこれ全部?」
「そうですよ。生憎と、私は遠慮というものを知らないので」
「意外と面白いね。委員長」
「無駄口叩いてないで行きますよ」
「は~い」
「ちなみに、場所は図書館ですからね」
「……え? 図書館って別の棟だよな?」
「さて、そこまで頑張ってくださいね」
「……oh」
俺は委員長に言われる通りに隣の棟まで二十冊もの本を持って歩いた。
思った以上に重かったけど、委員長はこれ持って走ってたのかと思うとゾッとする。
しばらくして図書館に辿り着くと、俺は近くの机に本を下ろした。
「お……重かった」
「情けないですね」
「意外と委員長が力持ちだということがよくわかった」
「少しは力をつけておかないと、嘗められますから」
「何に、とは聞かないよ」
「それでは、本の整理にも付き合ってもらいますよ」
「ここまで来たら最後まで付き合うさ」
「……ありがとうございます」
「いいってことよ」
俺は委員長の指示に従って持ってきた本を本棚に納めていく。
ほとんどが歴史に関わるものだったが、その中に諏訪に歴史に関するものがあった。
気になって読む耽っていると、すぐ横から視線を感じた。
そこには委員長が笑っていない笑みを浮かべながら俺の事を見ていた。
「……ごめん」
「いいですよ。それで終わりみたいですから」
「だったら睨ま意ないでくれよ」
「睨んでませんよ。ただ、貴方も歴史に興味があったんですね」
「興味というより、ゲームの元ネタみたいのを見て興味を持っただけだ」
「それで歴史を調べるというのは、ある意味感心しますよ」
「今度そのゲーム教えようか?」
「………考えておきます」
委員長はそう言って笑うと、近くにあった恋愛小説を手に取った。
「今はこんな本まで図書館にあるんですね」
「ラノベも借りられるようになって、俺は嬉しいよ」
「ところで、貴方はこういったゲームもするそうですね」
「恋愛ゲームのこと?」
「そうです」
委員長は小説を流し読みしながら話を続ける。
「複数の女性から好かれるというのは、男としてどう思っていますか?」
「まあ、プレイヤーとしては嬉しいけど、悩みどころでもあるな」
「どうしてですか?」
「だってさ、全員の好感度をまんべんなくしてからハーレムエンドに行かなくちゃいけないしさ」
「その中から一人を選ぶっていう選択肢はないんですか?」
「生憎と、俺は根っからのハーレムエンド主義者だ」
「変わってますね」
委員長は小説を読み終わると、本棚に戻した。
「では、現実なら貴方はどういう選択をしますか?」
「………そうだな。誰か一人を選ぶなんて俺にはできないな」
「なぜですか?」
「それぞれの人とは思い出がある。その思い出を壊しそうで、俺は怖いんだと思うな」
「臆病ですね」
「他人が傷付くよりも、自分が傷付くのが怖いんだよ。最低な奴さ」
「そうですね。でも、私は貴方のそういうところは好きですよ」
「ありがと、委員長」
夕暮れの図書館に、二人の楽しげな声が響いた。
???side
「嫌な夢を………」
誰もいない暗がりで、彼は小さく呟いた。
彼が見ていたのは、遠い昔に忘れたはずの記憶だった。
「もう、アイツ等の名前すら思い出せない………」
彼は頭を抑えると、乾いた笑みを浮かべた。
永い永い時間の中で、彼の記憶は徐々に風化していっていた。
「全てが終わる時、残っているのは俺は、それともアイツか」
彼はそう言って窓の外に映る月を眺めた。
月はいつもの様に、淡い光で夜を照らしている。
???side
………神無優夜………記憶修復率………17%完了………
『天宮――』に関するすべての記憶………Code:【願い星】
………記憶の回収………最優先………邪神の排除………最優先
夕暮れ…………見覚えのある顔………人を愛すること…………仲間
………すべてを傷付けても、すべてを愛せるのか
空亡「少し修正しました」
優夜「こっちの方が雰囲気でてるな。内容は変わってねえけど」
空亡「複数の女性を愛するのは、ハーレムルートの醍醐味ですけどね」
優夜「お前、ギャルゲー一度もしたことないだろ」
空亡「そうですけど………某生徒会のギャルゲー好きの副会長を見てたら、ね?」
優夜「俺って、アイツの人の性格が素に近いんだよな」
空亡「頑張ってハーレムエンド目指してくださいね」
優夜「それが言いたかっただけか」
次回予告
おさらい、というより能力に関するちょっとしたまとめ回。
東方幻想物語・幕間、『パーフェクト能力解説』、どうぞお楽しみに。