神無 優夜side
夜の暗がりに包まれた戦場、そこに俺と狩人は対峙していた。
忌まわしき狩人は黒い翼をはためかせ、幾つもある鉤爪をギラリと光らせている。
俺は手にした銃の銃口を狩人へと合わせ、ゆっくりと引き金に力を入れていく。
戦場を包み込む静寂、それを先に破ったのは風を切る音と銃声だった。
狩人は翼を大きく広げ、鉤爪を構えながらもうスピードで俺に向かって滑空してきた。
咄嗟に銃弾を放つが、俺の射撃の腕では狙いを捉えることができず、そのまま銃弾は避けられてしまった。
『そんな銃弾が当たるものか』
「どうかな?」
『なに?』
俺がニヤッと笑うと、もう一発銃弾を放った。
狩人にはそれは当たらなかった。だがその上空で何かが弾ける音がした。それは今撃った銃弾が最初の一発に命中し、それが弾けて粉々になった音だった。
『一体何を……』
次の瞬間、弾けた銃弾から無数の光が降り注いだ。
その光景はまるで流星群の様に、夜空から無数の星々が流れ落ちてくるように見えた。
流星群の弾幕は狩人を逃さぬように、避けられないほどの広範囲に降り注ぎ、そして狩人の体力を徐々に削っていった。
一瞬の出来事で思考が混乱する狩人は地面に落下しそうになるが、力を振り絞って再び空に飛び上がって持ち直した。
『今のは……!!』
「『魔理沙』の能力だ。飛びまわるお前には丁度よかっただろ」
『ふざけた真似を』
「言っておくが、まだまだあるぜ」
俺は再び銃口を狩人に向ける。
今ので分かったが、どうやらこの銃の状態だと俺の能力は銃弾に作用されるらしい。
一部のキャラは選択不能になっているが、その分使い勝手が良い物になっている。
狩人はさっきの攻撃で頭に血が上っているのか、俺に向かって弾幕を放ち始めた。
蛇行しながら俺に向かって飛んでくる団子状に並んだ紫色の弾幕、俺は息を落ち着かせて狙いを定める。
『レティ・ホワイトロック:寒気を操る程度の能力』
俺は迫り来る弾幕に向けて銃弾を放った。
雪の結晶のエフェクトをばら撒きながら銃弾は弾幕へと直撃すると、弾幕は空中で凍り付いた。
それからも次々と弾幕を回避しながら銃弾を撃ち込んでいき、やがて周りには団子状に並んだ丸い氷のオブジェが空中で静止していた。
「ざっとこんなものか」
『まさか』
「さてと、こっちもそろそろ反撃させてもらうぜ」
『相変わらず口が減らぬ人間だ。余程死にたいと見える』
「お前がそう思うんならそうなんだろう。お前ん中ではな」
俺は空中に静止した凍った弾幕を足場に、狩人へと向かって走り出した。
狩人は上空で鉤爪が付いた腕を広げて俺を待ち構えると、周囲の弾幕を粉々にしながら俺に向かってきた。
狩人との距離が縮まり、鉤爪が振り下ろされる瞬間、俺はその場から跳び上がって狩人の真上を飛び越えた。
『伊吹 萃香:密と疎を操る程度の能力』
狩人の背後を取った俺は引き金を力一杯引いた。
銃口から一発の銃弾が放たれると、狩人に当たる寸前に幾つもの小さな銃弾となってその身体を捉えた。
幾つも分散した銃弾は正確無比に狩人の腕を根元から吹き飛ばすと、撃ち落された腕は塵となって消えていった。
「これでどうだ?」
『嘗めるな、人間‼』
狩人は長い胴体を翻すと俺の脚へと巻き付き、振り回した後に上空へと放り投げた。
「うおっ‼」
『上空ではお前に逃げ場は無い。諦めるのだな』
狩人は放り投げた俺へと向かって猛スピードで突っ込んでくる。
今度こそ巻き付かれた一巻の終わり、そして俺にはこの空中で逃げる手段などほぼ皆無。
一見すれば絶望的だが、生憎、今の俺には絶望している暇はないんだ!!!
「まだ終わってねえよ」
『馬鹿が。たった一丁の銃で我を倒せると思っているのか』
「だったら増やすまでだ」
『なに?』
「忘れたのか? 俺にはまだ刀が残っているのを」
俺はニヤッと笑うと、スマホを操作した。
すると地面に突き刺さっていた刀が光となって俺の手元に戻ってきた。
『風見 幽香:花を操る程度の能力』
俺の手元に現れたのは白銀のコルトパイソン、銃身には『Flowering of the fantasy(幻想の開花)』と書かれている。
俺はデザートイーグルとコルトパイソンを両手に構え、狩人へと狙うを付ける。
構えは、ウイングゼロカスタムのツインバスターライフルの撃ち方で。
「標的、忌まわしき狩人」
『貴様ああああああああ‼‼‼‼』
「ターゲットロック………………お前を殺す」
俺は静かに呼吸を整えると、一気に引き金を引いた。
その瞬間、二つの銃口から閃光が放たれた。星と花のエフェクトを散らしながら飛んでいく閃光は狩人の身体を一瞬にして包み込み、爆音を上げ、煙を撒き上げた。
煙が晴れると、狩人は地面に落ちていた。そして、俺を見上げていた。
『まさか……この私が』
「人間を甘く見るな」
『何故……負けたのだ』
「たった一つのシンプルな答えだ。――お前は俺を怒らせた」
『そうか……』
「最後の手向けだ。受け取れ」
俺は最後の力を振り絞って引き金を引いた。
放たれる閃光を前に、狩人は眠るように頭を地面に伏せた。
狩人の身体が閃光に包まれて消滅していく中、俺の耳にアイツの声が聞こえてきた。
『さらばだ、神無ノ御子よ。先に辺獄で待っているぞ』
まるで俺を嘲笑うようなその声は、光の中に消えていった。
地面に着地した俺の目の前には、閃光が直撃した痕しか残っていなかった。
「終わったか……」
「そのようですね」
振り返るとそこには奴が居た。
服には所々血が付いているが、それらがすべて返り血だというのは奴の余裕の表情を見てわかる。
いや、俺がそれ以上に狂気に感じているのは、コイツが自分の眷属の最後を見て何も感じていないことだ。
「お前……」
その時、俺の頬を一発の銃弾が掠めた。
俺一瞬思考が混乱したが、それは紛れもなく奴から放たれた物だった。
奴は俺を明らかに睨んでいた。今までヘラヘラと笑っていたアイツが俺に見せた、殺意のある目。
「ユウヤ、一つ勘違いしないでくれますか。
僕は人間なんてただの暇つぶしの相手としか認識していない。言い方を変えれば玩具です。
君らか見れば僕は狂気に満ちた邪神だろうけど、僕たちだって人間と同じなんだよ」
「同じ……」
「同族を殺されれば頭に来る。仲間を殺されれば復讐をする。家族を殺されれば我を失う。
結局のところ、人間も妖怪も化物も神話生物も邪神も、根本的なところは変わらないってこと」
静かに語る奴は銃を下ろすと、俺に背を向けた。
「これで君と僕は御相子、というほどじゃないけど、殺す理由が増えた」
「増えたってことは、もうすでに理由はあったってことか」
「まあね。何せ君たちはこの世界のイレギュラーだからね」
「イレギュラー?」
俺はその言葉に聞き覚えがあった。
そう、数日前にクティーラが俺を見て呼んだ言葉だった。
「イレギュラーって何の事だよ。それに、俺の他にもいるのか!?」
「本来ならこの世界に、並行世界にすら存在しない人物、それを僕はイレギュラーと呼んでいる」
「俺が、そのイレギュラー」
「そう。そして『穢れの巫女』と呼ばれる存在してはいけない人間、それを僕は排除する」
「どうしてそんなことを」
「イレギュラーをすべて排除した時、どんなことが起こるのか。それを見てみたいんだ」
奴は俺を見てニヤッと笑った。
俺と月美、そして星羅は元々この世界に存在してはいけない存在。そんな事を急に言われても、俺の思考は追いつくことができずにいた。
「ところで、そろそろ僕も名前を名乗っておくよ。本名じゃ呼びにくいからね」
「どうでもいいよ」
「そう言わずに、実は結構気に入ってる名前なんだよ」
「まあいいけどさ」
「ふふ」
奴は嬉しそうに微笑む。
「『明星 美命』、そう名乗らせてもらうよ」
「美命……」
「それでは、また会いましょう。神無ノ御子」
美命はそう言い残し、闇に溶けるように消えていった。
その場に一人残された俺は、疲れ果ててその場に倒れ込んでしまいそうになるが、寸前で何とか踏みとどまった。
「まだ……やることはある」
俺はゆっくりと歩みを進めた。
大切な奴等を、助ける為に。
空亡「……信じられるか、これが銃撃戦初めてなんて」
優夜「いや、これでも銃を扱うの最初なんだけど」
空亡「初心者が飛んでいった銃弾を狙い撃つことできませんよ」
優夜「そこはやっぱり、俺の秘めたる才能ということで」
空亡「否定できない自分が歯がゆい」
優夜「でも、武器二つを扱えるのはありがたいね」
空亡「皮肉にもニャル様と同じですけどね」
優夜「狙っただろ」
空亡「さあ?」
次回予告
奇跡とは願っても叶わない、だからこそ残酷なのだ。
東方幻想物語・大戦編、『残酷な奇跡』、どうぞお楽しみに。