神無 優夜side
こまっちゃんの能力で瞬間移動した俺は大和の国へと辿り着いた。
そこは諏訪の国よりも栄えていて、街も賑わって平和そのものという印象を受けた。
こんな国を納めているのが戦争を仕掛けてきた馬鹿だというのはにわかに信じがたい話だ。
まあ、俺はここに“対話”しにやってきたんだ。戦闘をするつもりなど毛頭ない。
俺は気持ちを落ち着かせると、街の通りを堂々と歩いて行った。
街の人々は俺を一目見ると道端へと退き、遠巻きに俺を見つめている。珍しい服の所為でもあるだろうが、抑えられない殺気が一般人でも解るぐらい漏れているようだ。
通りを歩いて行くと、そこには大きな神社があった。
守矢神社よりも大きく、見ただけでも参拝客が溢れかえっている。
その中に、複数の気配がした。それは間違いなく神の気配だった。
俺は参拝客をかき分けて本殿へと向かい、賽銭箱の前へと辿り着いた。
「諏訪の国からの使者だ。是非とも手紙の返事を聴かせたい。通してもらえるか」
俺の言葉に境内にいた参拝客がざわざわと騒ぎ始めるが、それを鎮めるように本殿の扉が開いた。
そこには下っ端と思われる神が俺を出迎えてくれた。
「諏訪の国からの使者というのはお前か?」
「ああ。そちらのお偉いさん方に凶報をお届けに来た」
「こっちだ」
下っ端神様はそう言って本殿の奥へと消えていく。
俺は大人しくその後について行った。意外と物分かりが良さそうな下っ端でよかった。
「ところで、お前は何者だ?」
「ただの人間だよ。あんたら神様に比べたらね」
「その割には堂々としているな。これからその神様に会うのに」
「物怖じしてたら話にならないからね」
「随分と肝の据わった人間だ」
下っ端神様はクスリと笑うと、とある部屋の前に立ち止った。
「ここだ」
「ありがと」
「一つ警告しておく。長生きしたいのならあまり怒らせない方がいいぞ」
「ならこっちも言っておくぜ。俺を怒らせたら存在もろとも消し去るぞ」
俺は殺気全開でそう答えると、襖を勢いよく開けた。
そこには複数人の神様が円卓を囲んでいたが、内数名はその瞳に恐怖を抱いていた。
「だ、誰だ貴様は!?」
「諏訪の国からの使者だ。何度も言わせるな」
「貴様、我らに向かってなんて口に利いている!?」
「黙れよ。自意識過剰な駄神が俺の目の前で煩く騒ぐな。ぶち殺すぞ」
俺の言葉に周りの神たちは押し黙る。
俺は他人を見下す奴は嫌いだ。その上、自意識過剰な奴はもっと嫌いだ。
そんな中、俺の殺気にも言葉にも動じていない人物が三人いた。
長い黒髪に紫色の瞳、白衣と緋袴の上に千早を羽織っている。太陽の首飾りを付けた女性。
長い銀髪に青色の瞳、蒼色の着物の上に白い羽織を羽織っている。月の首飾りを付けた少女。
後ろで一つ結びにした金髪と紅い瞳、動きやすい黒い袴を身に纏っている。ツリ目が特徴の少年。
黒髪の女性は立ち上がると、俺の方へと歩み寄ってきた。
「お久しぶりですね。ユウヤさん」
「久しぶりだな。天照、それに月夜見と須佐之男も」
「……久しぶりです」
「久しぶり。元気にしてたか?」
「まあな」
三人は人懐っこい笑顔を浮かべながらそう言った。
日本の神の代表格である三貴子、天照、月夜見、須佐之男。
実際にあったのはこれが初めてだが、依姫との決闘で何度か手合わせしたことがある。
ちなみに天照は面倒見がいいお姉さん、月夜見は物静かな妹、須佐之男は手を焼く弟って感じだ。
「今も依姫に手を貸しているのか?」
「今はそんなに使われないかな。そんな機会なんてないだろうし」
「そうか。少し安心した」
「……優夜、それよりも話すことがあったんじゃないの」
「だな。そのためにここに来たんだし」
「話は分かっているわ。今回の件でしょう」
天照はすべてを察したように優しく語り掛けた。
「ちなみに、やめる気はないのか?」
「残念だけど、無いわ」
「それまでしてこの国を統一したいか」
「当然よ。でも、できれば無駄な争いはしたくないわ」
「俺はしたいけどな」
「……須佐之男は黙ってて。今はお姉ちゃんがはしてるから」
「はいはい。でも、優夜はやる気だろ?」
須佐之男は俺に向いてニヤリと笑った。
伝承通りの戦闘狂だな。さっきから戦いたいって云う感情がひしひしと伝わってくる。
だが、俺はここに戦闘をしに来たんじゃない。
「天照、諏訪子からの返事は予想できるだろ」
「要求は呑まない。そのようですね」
「ああ。ちなみに、戦うのは俺と諏訪子と連れを合わせて三人だ」
「おいおい。本気か? こっちは少なくとも十万はいるぜ」
「そこに居る雑魚連中ばっかりなら俺一人で余裕だ」
俺は視線を巡らせながら黙って俺を睨んでいる神どもを一瞥する。
須佐之男はそれを見て溜息を吐くが、月夜見はそっと肩を置いて宥めた。
「……話は分かったけど、それだけじゃないよね?」
「ああ。最後に一つ提案がある」
「なんでしょう」
「諏訪子とそちらの神の一人との一対一の決闘、その勝敗で戦争を終わらせたい」
「なんだって?」
「勿論無条件じゃない。残りの雑魚共は俺が一手に引き受ける。それでいいだろ?」
「なんて無茶苦茶な……」
「これが被害を出さないための最善策だ。飲まないのなら、ここで終わらせる」
俺は手元に刀を召喚して天照の喉元に刃を突き立てる。
月夜見はムスッとした表情で俺を睨み、須佐之男は腰に掛けた剣へと手を伸ばした。
天照はそんな状況でも顔色一つ変えずに俺の瞳をじっと見つめている。
「相変わらず、優しいですね」
「お前に刃を突き立てている張本人に言う台詞かよ」
「本気なら、今頃私の頭と胴体はおさらばしてます」
「それもそうだな」
俺は笑って刀を納める。
「で、どうなんだ?」
「わかりました。それで手をうちましょう」
「姉貴!?」
「……それでいいの?」
「どっちにしても、彼とは戦う運命よ。なら、被害が出ない方法を選ぶわ」
「甘いな。それでいいのかよ」
「……そう言いながら、須佐之男は優夜と戦えるのがうれしいクセに」
「うるさい」
小さく笑う月夜見に、須佐之男はそっぽを向いた。
「どうやら話はまとまったようだな」
「ええ。では後日、約束は守るつもりですよ」
「大人しく聞けばいいけどな」
「安心しろ。そこら辺は俺が何とかするから」
「……いつもよりやる気、今の須佐之男なら言うこと聞くと思うよ」
「なるほど。なら、頼むぜ須佐之男」
「お前とは決着を付けたいからな」
須佐之男はそう言って部屋から出て行った。それを追って天照も出て行く。
それに伴って次々と神共が部屋から出て行く。残ったのは俺と月夜見だけとなった。
「月夜見、聞きたいことがある」
「……永琳たちなら心配ない。月の方で元気にやってる」
「そうか……」
「……ねえ、みんなのところには戻らないの?」
「悪いな。今更、俺はあの場所に戻れない。アイツの仇を討つまでは」
「……月美の事ね」
「ああ。それに、永琳とはまたすぐに会えそうな気がするから」
「……?」
俺はニヤッと笑うと月夜見の頭を撫でた。
彼女は恥ずかしそうに顔を背けると、部屋を出て行った。
部屋に残ったのは俺一人、……どうせだから“あの台詞”を言ってみるか。
「よろしい、ならば戦争だ」
優夜「終わった……」
空亡「珍しく沈んでますね」
優夜「マジかよ。俺の相手って三貴子かよ。勝てるかよ」
空亡「どこかの野菜王子みたいになってますよ」
優夜「お前、俺をどこまで追い込む気だよ?」
空亡「絶望の淵まで」
優夜「鬼だな」
空亡「……あ、次章のボス決定したかも」
優夜「墓穴掘った……!?」
次回予告
戦争の濁流の堰は切って落とされ、史実を歪める虐殺は始まる。
東方幻想物語・大戦編、『戦火の乱舞』、どうぞお楽しみに。