東方幻想物語   作:空亡之尊

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蛙な祟り神

神無 優夜side

 

 

とある昼下がり、俺はいつものよ間に神社の上で寝転がっていた。

前回、クティーラに遭遇してから、俺は色々な事を考えていた。

邪神や神話生物、この世界は思っていた以上に狂気に溢れているみたいだ。………胃が痛い。

しかもこの後諏訪大戦もあるからな………問題が山積みだ。

 

 

「ああ………ダメだ。追いつかねえ」

 

 

色々と考えるが、打算的な解決法が見つからない。

東方の原作知識、クトゥルフ神話の知識、どれも備わっているが、知識だけでどうにかなるほど現実は甘くない。それはとっくの昔に経験済みだ。

頭で理解しても、それにまだ追いつけていない。まったく情けないぜ。

 

 

「これでアイツの仇なんか討てるか………」

「なーに思い悩んでるのよ」

 

 

そう言って俺を見下ろしたのは、諏訪子の顔と帽子の目玉だった。

 

 

「ケロちゃんか」

「その呼び方やめてくれないかな」

「可愛いと思うんだけどな」

「神様をあだ名で呼ぶその度胸は凄いと思うけどね」

「俺にとって神様なんてふざけた存在だからね」

「う~ん。強く否定できないね」

 

 

諏訪子は苦笑いしながら俺の隣に座った。

 

 

「ところで、何を悩んでるの?」

「神様をぶち殺す最善策はないかと」

「私何かしたっけ!?」

「ケロちゃんじゃないよ。何かしたとしても可愛いから許すし」

「それはよかった」

 

 

諏訪子は安堵の溜息を吐いた。

 

 

「でも、神様を殺すのは容易じゃないよ」

「それが解ってるから悩んでいるんだよ」

「でも意外だね。君でもそういう事を考えるなんて」

「みんなのいないところじゃないと、こんな事考えられないから」

「たしかに、今の君はちょっと怖いかも」

 

 

そう言いながら、諏訪子は立ち上がって俺の前に歩み寄った。

 

 

「気晴らしにちょっと付き合ってよ」

「唐突だな」

「色々と考えがまとまらない時には身体を動かすのがいいんだよ」

「まあ、いいけどさ。で、何する気?」

「ちょっと試合をね」

「あはは、ご冗談を」

 

 

いや、実は俺も気付いてしまっていた。

彼女が気晴らしに付き合っていった時点でこうなる展開になる事ぐらい。そして、割と本気で戦う気満々だというのがその雰囲気からうかがえる。

でも諏訪子ってEXボスだし、しかもこの頃って全盛期だし、俺の力もまだ不完全。

あれ? 今の俺って負け要素しか持ってなくね!?

 

 

「ケロちゃん、折角だけどこの話」

「ああ…それと、私が大事にとっていた甘味を食べたのって君だよね?」

「え?」

「いや……叶恵から聞いたら一緒に食べたって白状してね」

「あ、もしかして気晴らしというのは俺じゃなくてケロちゃんって事!?」

「そういうことだね♪」

 

 

諏訪子からドス黒いオーラを纏った白い蛇が目に見える。

これだとまるで蛇に睨まれた蛙だ。甘味ひとつでここまで怒れる神様はこの人ぐらいだ。

これでは戦闘を避けられない。もう腹を括るしかないだろう。

 

 

「いいぜ。こうなったら自棄だ」

「それはこっちの台詞だよ!!」

 

 

諏訪子は手元に鉄輪を出現させると、俺に向かって振り下ろした。

俺はそれを白刃取りで受け止めると、それを押し退けて空中へと放り投げた。

 

 

「やる気になったね。そうじゃないと本気でやれない」

「負けるつもりはないけどね」

 

 

俺は押し退けた諏訪子を追って屋根から飛び降りた。

しかし、彼女は地面に降りながら幾つもの鉄輪を俺に向かって投げつけた。

回転しながら迫ってくる鉄輪、俺はそれらを見切ると『月美』を召喚してすべて叩き落とした。

 

 

「危ないな」

「その刀、不思議な感じがするね」

「ただの刀ってわけじゃないからな」

「その刀はまるで……いや、そんな事はどうでもいいね」

「ん?」

「それより、私の鬱憤を晴らさせてもらうわよ」

 

 

意味深な発言をにおわせるが、それを有耶無耶にするように手のひらを合わせた。

境内に拍手の音が響き渡ると、諏訪子の周りの地面から白い靄で出来た蛇が数匹顔を出した。

祟り神『赤口(ミシャグジ)さま』、東方非想天則の中でも超火力を誇るスペルカードだ。

 

 

「いくよ」

 

 

諏訪子はニヤッと笑うと、周囲にいたミシャグジさまが俺に向かって襲い掛かってきた。

全席の力だけあって逃げ道なんてない。ここは一か八かの一点突破、それが最善策だろうな。

 

 

「そうか……そういうことか」

「ん?」

「色々考えるより、俺はこういうバカな思考の方があってるってことか」

「なにを」

 

 

警戒して眉をひそめる諏訪子、俺はそれに対してニヤッと笑った。

だらりと『月美』を下げ、迫りくるミシャグジさまを待ち受ける。失敗したら痛いだろうな。

徐々に距離が縮まっていき、あの赤い口が俺を呑み込もうと大きく開かれる。

 

 

「―――『裂月』」

 

 

ミシャグジさまの口が俺を覆い尽くす瞬間、その身体を真っ二つに斬り裂くように剣閃が走り、そこから幾つもの剣閃が広がりミシャグジさまの身体をバラバラにした。

白い塵となって消えるミシャグジさまを見て、諏訪子は驚愕の表情を浮かべている。

 

 

「うそ……」

「まだやる?」

「……そうこなくちゃ!!」

「ふふ、それじゃあ」

「何やってるんですか、二人共」

「「あ、え?」」

 

 

本格的に戦おうとしたその時、割り込むような声が聞こえた。

それと同時に、俺と諏訪子は名状し難い恐怖を感じてしまった。

恐る恐る振り返ると、そこには村での買い物を終えて帰ってきた星羅の姿があった。

 

 

「ただいまです。お二人共」

「お、おかえり星羅」

「さて、いくつか聞きたいことはありますが……無駄に神力を使わないで下さい」

「待って、一応言い訳はさせて」

「どうせ、甘味を横取りされてそれに怒って喧嘩を吹っ掛けた。そういうところでしょ」

「うぐ……」

 

 

的確に図星を突かれた諏訪子は口端を引き攣らせた。

一応間柄は義母と義娘ということだが、こうしてみると立場が逆に思える。

 

 

「ところ変わってユウヤ」

「はい?」

「その喧嘩を買ったアナタも同罪ですよね」

「いやいや、何で俺まで」

「ユウヤが甘味を食べなければこういうことにならなかったはずですから」

「……言い訳が思い付きません」

「無駄な抵抗はやめておくことですね」

「「(今の貴女に口で勝てる気がしません!?)」」

「それじゃあ、お二人共ここしばらく甘味抜きです」

「「ええ!?」」

 

 

こうして俺と諏訪子の対決は、星羅の乱入により引き分けとなった。

そして、ここしばらく俺らの地獄の様な日々を過ごすことになった。

 

 

 

 

 




空亡「全盛期の諏訪子様と互角って……」
優夜「俺の方が驚きだよ」
空亡「まあ、そのお蔭で優夜が吹っ切れたようで安心しました」
優夜「いい話にしようとしているけど、八つ当たりされただけだよな」
空亡「勝手に甘味を食べる方が悪いでしょ」
優夜「叶恵め……俺を売りやがって」
空亡「好感度が低かったみたいですね」
優夜「やっぱり叶恵ルートに入ればよかった」


次回予告
動き出し歴史の歯車、先に待つのは史実通りの敗北か?
東方幻想物語・大戦編、『祟り神の覚悟』、どうぞお楽しみに。


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