東方幻想物語   作:空亡之尊

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星屑の想い

神無 優夜side

 

 

諏訪の国で暮らし始めて三か月が過ぎた。

以前の街での暮らしに比べると質素になった上に静かになったが、実験台や決闘相手にされることもなく平和に過ごすことができている。

諏訪子は俺が作る料理が気に入ったようでよくつまみ食いに来る。叶恵は俺たちの事情も聞かずに優しく接してくれている。

 

俺は現状で満足しているが、ルーミアは違った。いつも何処かへふらっと出て行っては気紛れに帰ってくる。まるで猫だ。るーみにゃだ。

 

 

「まあ、原因は見当ついているんだよな」

 

 

俺は村の街道を歩きながら溜息を吐いた。

神社への帰り道、村の人達からの視線がどうも気になる。

ここに来た時から感じていたことだが、どうやらルーミアと仲良くしていることが原因のようだ。

本来合見えない人と妖、それが一緒に旅をしているというのが他の人から見れば奇妙らしい。

実は俺は妖怪の大将だとか、この諏訪の国を滅ぼしに来たとか、ありもしない噂話まで出回る始末だ。

諏訪子もどうにかしようとしてくれているが、人の口には戸が立てられない上、人が抱いた疑念というのはそう簡単に拭いきれない。

 

 

「……俺も人間から見れば化け物か」

 

 

俺は腕に巻いたリボンを握り締める。

俺はあの日、月美の命をこの身体に取り込んだ。そのお蔭で俺の身体は老いることが無くなり、寿命も人間の比ではなくなった。

だが、それと同時に俺は色々なモノを引き換えにした。愛する人と、人間としての生を…………。

 

 

「俺は……人間なのか、それとも」

「何をぶつぶつと呟いているんですか?」

 

 

道のど真ん中で突っ立っていると、聞き慣れた声に呼びかけられた。

視線を向けると、そこには白いナデシコの花を持った星羅が立っていた。

心配そうに見つめる彼女に、俺は思考を切り替えて笑顔を浮かべる。

 

 

「な~んにも。今日の夕飯は何にしようか考えてたんだよ」

「その割には深刻そうな顔をしていましたけど?」

「実はケロちゃんの食事に唐辛子を仕掛けようかと思ったんだけど」

「そんな事をしたら怒られますよ」

「好奇心と恐怖、その感情が俺の中で戦っているんだ」

「心配して損しました」

 

 

星羅は溜息を吐いた。

咄嗟に誤魔化したとはいえ、彼女に心配を掛けるのは俺の信条に反する。

俺がどう思われようといいが、彼女たちに迷惑が掛からないか、それだけが心配だ。

 

 

「それはそうと、その花はどうしたの?」

「これからちょっとした用事なんです。ユウヤも付いてきますか?」

「いいの?」

「構いませんよ。ただ、うるさかったら置いていきます」

「……ああ」

 

 

俺は星羅の後をついて行く。

いつもは俺から話し掛けても素っ気ない態度で軽くあしらわれるが、今日はなんだか機嫌がいいように見える。

時折見える嬉しそうな表情、それほど楽しみな用事がこの先にあるのだろうか。

彼女は神社へと進むが、その歩みは神社の裏手へと回り、やがて広い空間へと出た。

 

そこには小さな石碑があった。

名も彫られてなければ、ちゃんとした職人が造ったわけでもない不恰好な石碑。

しかし、それは石碑というよりはむしろ、誰かの墓のように思えた。

星羅は石碑に歩み寄ると手に持っていた白いナデシコの花を供えた。

 

 

「ここは私の両親のお墓みたいです」

「みたい?」

「洩矢様はそう言ってました。真意のほどはどうでもいいですけど」

「いや、それより星羅の両親って」

「いないです。私が生まれて間もない頃に病で死んだそうです」

「そうか」

「父は洩矢様と親交が深かったようで、死ぬ間際に私をあの方のところに預けたそうです」

 

 

星羅は手を合わせながら俺にそう語った。

そういえば、星羅が度々どこかへ出かけることがあったが、ここに来ていたという事か。

 

 

「私は、この生活で寂しいと感じたことはありません」

「え?」

「両親の顔も知らない私にとって、洩矢様は私の母親みたいなものですから」

「……母親、ね」

「まあ、昔はそんな風に思っていたんですけど、今は手の掛かる妹みたいですよ」

「人の事は言えないだろ」

「どういう意味ですか?」

「気にしないで」

 

 

俺は笑って誤魔化すが、横からジト目で睨みつける星羅を見て少し恐怖した。

しかし、会って間もない俺をこの場所に連れてくるなんて、一体どうしたのだろう。

俺が頭を捻らせて考えていると、星羅の小さく囁く声が聞こえた。

 

 

「嫌われ者なのは私も同じですよ」

「え?」

「何にもない私が洩矢様の巫女なのが気に入らなかったり、巫女として優秀な姉さんと比べられたりと、私も色々と村の人達には嫌われているんですよね」

「………どの時代も人は同じってわけか」

「そうかもしれません。でも、だからこそ同じ立場のユウヤの事が分かるんですよ」

「俺と星羅じゃ事情が違うだろ」

「そうかも。それでも、似た者同士というのは心強いものですよ?」

 

 

星羅は口元をニヤッとさせながら笑いかけた。

普段からは想像もつかないが、なんとなく心の中の邪魔な物が外れたような気がした。

 

 

「そうだな。ありがとう、星羅」

「どういたしまして。悩みがあるなら相談してください。力にはなりますよ」

「そうするよ」

「それじゃあ、帰りましょうか。洩矢様も心配してますから」

「ああ」

「……じゃあね。お父さん」

 

 

星羅は小さく呟くとその場から去っていった。

俺は少し嬉しそうに頬を緩ませながらその後を追っていった。

 

 

 

少 年 祈 祷 中

 

 

 

星が輝く晩、俺は静かになった村の中を歩いていた。

別に夢遊病だとかの類ではないが、俺は昼間の出来事で気掛かりなことがあった。

それは村の人達の視線の中に一つだけ、まったく違うものが混じっていた。

 

 

「そこにいるんだろ。邪神様」

 

 

道の真ん中で立ち止まり、俺は殺気を込めた声で呟いた。

すると夜の暗闇の中から一人の少女が現れた。

 

煌くような水色の髪のショートヘア、海のように青い瞳、白いサマードレスに麦わら帽子を被っている。この時代では見かけることの無い姿だが、俺にはその少女がただの人間とすら思えなかった。

少女は俺を見上げるように麦わら帽子のつばを上げると、海色の瞳を俺に向けた。

 

 

「初めまして。イレギュラーさん」

「イレギュラーとは失礼だな。邪神様」

「それも失礼よ。私にだってこれでも名前はあるのよ」

「姿を見て想像できるよ」

「あら、やっぱり人間って色々知っているのね」

「当然だろ………クトゥルフの娘、『クティーラ』」

 

 

俺がその名を呟くと、彼女は楽しそうに笑った。

『クティーラ』、旧支配者であるクトゥルフの娘であり、旧支配者復活の鍵でもある邪神の一柱。

クトゥルフ神話ではそこまで登場していないが、結構重要な立ち位置。

 

そんなことより、『這い寄る渾沌』に続いて『秘密の姫』か。この分だと『生ける炎』や『名状しがたきもの』まで出てきそうだ。

 

 

「娘さんが俺に何の用だ」

「“アイツら”が言っていた人間がどんな物か気になっただけ」

「随分と暇な奴が多いんだな。邪神ってのは」

「そんなものよ。だから、人間が構ってくれるように“アイツ”は動く」

「傍迷惑な話だ。お遊びならお前らだけでやってろ」

「そういうわけにはいかないのよ」

 

 

彼女は俺に背を向けると暗闇の中へと歩いて行く。

 

 

「おい!!」

「“アイツ”は今回も動くわ。その時、貴方は今の大事なものを守れるかしら」

「なに………」

「楽しみにしてるわ。“神無ノ御子”」

 

 

彼女はそう言い残して暗闇の中へと消えていった。

もはやここが東方の世界なのかどうかも忘れる程だが、もう俺には後戻りも出来ない。

もしも今回、這い寄る渾沌が動くのなら、今度こそ止めてみせる。

 

 

 

 




二人「「これって東方だったよね?」」
空亡「書いてる途中で気付きました。原作キャラが一人もいない」
優夜「名前だけだからね。しかも何故か邪神の一人追加だし」
空亡「まだまだ増えますよ~」
優夜「そのうち俺のSAN値が直葬しそうだ」
空亡「大丈夫ですよ。神話技能のお陰で邪神を見ても無事ですから」
優夜「そういえば、無駄に探索者シートまで作ってるんだったな」
空亡「今度番外編に載せましょうか?」
優夜「そんな事より本編進めろ」


次回予告
人は闇を恐れ、やがてその闇は妖へと変わり、人を喰らう。
東方幻想物語・大戦編、『闇に怯える』、どうぞお楽しみに。


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