東方幻想物語   作:空亡之尊

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洩矢の巫女

神無 優夜side

 

 

諏訪子に案内され、村の中を歩いて行く俺とルーミア一行。

月の民の街に比べれば見劣りするが、これはこれで雰囲気が俺好みだから丁度いいと思った。

しかし、村のに棲む住人は遠巻きながら俺らを、特にルーミアを見て少し怯えている様子だ。

 

 

「ごめんね。何だか嫌な思いをさせて」

「そんなことないわ。当然の反応よ」

「ルーミア……」

「いちいち気にしてたら人喰いなんてやっていけないわよ」

 

 

気丈に振舞っている彼女だが、それが無理をして騙っているということはすぐに分かった。

いくら人喰いと言っても、心のどこかでは仲良くしたいという想いもあるのだろうか。

そんな中、通りすがった村人や子供たちは諏訪子に挨拶をして通り過ぎていく。

 

 

「それより、諏訪子は人気者なのね」

「うぐ……ルーミアに言われるとなんか申し訳ないような」

「そんなんじゃないわよ。ただ、崇り神なのに慕われるのねと思ってね」

「まあ、これでも伊達に神様はやっていないってことよ」

「小さいのによく頑張るな」

「うるさい‼ これから信仰を集めれば大きくなるわよ」

「信仰ってそういうものじゃないだろ!?」

 

 

そんな会話をしていると、大きな神社の前へと辿り着いた。

諏訪神社、今目の前にいる諏訪子が祀られている神社、ちなみに前世では本家本元の神社に行きました。東方ファンなら一度は拝みに行きたいものだからな。

しばらく眺めると、諏訪子が神社の母家へと案内してくれた。

 

 

「さあ、上がって上がって」

「お邪魔します」

「思ったよりも普通で安心した」

「どんなのを想像してたのよ?」

「聞きたい?」

「いや、そこまで」

「残念」

「さて、それじゃあお茶でも用意してくるよ」

 

 

そう言って諏訪子は部屋を出て行った。

部屋に取り残された俺たちはぼーっと天井を眺めていた。

 

 

「奇遇ですね」

 

 

しばらくしていると、部屋にあの少女が入ってきた。

手にはお盆の上に三杯のお茶と茶菓子が乗っていた。

 

 

「貴女は……」

「洩矢様からいきなり用意してくれって頼まれたから何かと思えば」

「何か悪いな」

「いいですよ。私はここの巫女、貴方たちはお客様ですから」

 

 

少女は少し笑みを浮かべながらお茶と茶菓子をテーブルに並べた。

その時、ほんの少し薬の匂いがした。

 

 

「ん?」

「どうかしましたか?」

「いや。それより、まだ名前を聞いていなかったなと思ってな」

「そう言えばそうでしたね。状況が状況でしたし」

「名前は、言わなくても知ってるわよね」

「ユウヤさんにルーミアさんですよね。聴いてました」

「なら……」

「諏訪子様ー? どこですかー?」

 

 

俺が少女の名前を聞こうとしたその時、能天気な声と共に襖が開いた。

そこに居たのは、少し風邪気味に顔を赤くした少女の姿だった。

髪の左側を一房髪留めでまとめて垂らしている緑髪のロングヘア、白と青を基調した巫女装束(何故か腋の部部はない)、頭には蛙の髪飾りを付けている。なんとも常識をかなぐり捨ててそうだと思ってしまった。

少女は寝惚け眼で部屋を見渡すが、そこには当然諏訪子の姿は無い。

 

 

「あれ~? いないですね」

「諏訪子ならここにはいないよ」

「あ、そうなんですか~。ありがとうございます」

「いえいえ」

 

 

緑髪の少女は手稲に頭を下げる。

すると、何かをふと思ったのか顔を上げた。

 

 

「ところで、どちら様ですか~?」

「まあ、そうなるよな」

「能天気な頭をしてるわね」

「そう言うな。俺は神無 優夜、こっちはルーミアだ」

「どうも。私は東風谷 叶恵(こちや かなえ)と申します」

「ただの旅人だけど、諏訪子にここへと招待されたわ」

「そうなんですか~。それは大変ですね」

「旅と言っても、始めたのは最近だけどな」

「でもいいですね。私もいつか旅に」

 

 

叶恵が言葉を紡ごうとしたその時、俺たちの背後から異様な殺気が放たれていることに気付いた。

目の前の叶恵の表情は凍り付き、あのルーミアさえも額に冷や汗をかいている。

恐る恐る後ろを振り返ると、そこには金髪の少女が無表情でこちらを見つめていた。

 

 

「……姉さん、何でここに居るんですか?」

「え? いや、体調も良くなったからそれを報告しようかと」

「私の目から見ても、体調が優れているようには見えませんが?」

「そうだけど、巫女としての仕事が」

「今日ぐらいは仕事を休んでください」

「で、でも……」

「休んでください」

 

 

少女から放たれる異様な威圧感に、俺も叶恵も逆らえる気が起きなかった。

無表情な女の子が怒るとその迫力は普通の何倍にも増して恐ろしいとはよく言ったものだ。

すると、何かを感じたのか諏訪子が急いで部屋へと戻ってきた。

 

 

「何事!?」

「「あ、洩矢様/あ、諏訪子様」」

「って、また叶恵が怒られてるだけか。心配して損したよ」

「どういう意味ですか!?」

「前にも同じことがあったからね。あの時は敵が攻めてきたかと思ったよ」

「それほどですか?」

「殺気だけなら私よりも上だよ。アンタは」

 

 

諏訪子はそう言って少女と叶恵の頭を叩いた。

見ているだけならのどかな光景だが、先ほどの殺気が凄すぎて俺の思考が若干停止していた。

 

 

「ユウヤさん、大丈夫ですか?」

「ああ。大丈夫だ」

「ごめんね。この子、怒ると手が付けられなくなるんだよね」

「人の事を子供みたいに言わないで下さい」

「子供みたいなものでしょ。アンタも叶恵も」

「確かに子供ね。それも仲の良い姉妹」

「ルーミアさんも何言うんですか‼」

 

 

目の前で繰り広げられているなんとも面白い光景、それを見ていると自然と笑みが零れる。

あの時は、俺と永琳と月美しかいなかったけど、やっぱり人が多いと賑やかでいいな。

 

 

「まったく、これだから姉さんや洩矢様は」

「良い家族だな」

「……家族、ですか」

「ああ」

「そうですか」

 

 

少女は顔を逸らすが、口元が嬉しさで緩んでいるのがよく分かった。

 

 

「ところで、名前聞かせてくれるか?」

「そうでしたね。何だかここしばらく一緒に暮らすらしいですし」

「それ初耳なんだけど」

「洩矢様の独断だそうです」

「自由だな、ここの神様って」

 

 

少女は俺へと向き直ると、ニッコリと微笑んだ。

 

 

「とりあえず…………天宮 星羅です。しばらくよろしくお願いします」

 

 

 

 




空亡「まあ、よく在る展開ですね」
優夜「いやいや、俺もよく分からないんだけど」
空亡「知っている名前が出ましたけど、それは後ほど」
優夜「それより、早苗ちゃんの祖先って言うからには性格似てるね」
空亡「のほほんとしているけどねは真面目な子です」
優夜「うちにもいたよね?」
空亡「あの子は別格です」
優夜「おい」
空亡「さて、これから優夜はどのルートを進むのか?」
優夜「まるでギャルゲーのルート選択みたいな字面だな」
空亡「初見におすすめなのは星羅さんですよ」
優夜「おい」


次回予告
人間をやめた優夜は、人の中で何を思い、何を見出だすのか?
東方幻想物語・大戦編、『化物の想い』、どうぞお楽しみに。

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