神無 優夜side
狼の妖怪を退治した後、俺は二人が逃げた方向へと歩いた。
そういえば、この先に少女が住む村があるって言ってたっけ? まずはそこに向かうのが良いだろう。
しばらく歩き続けていると、ようやく森を抜けることができた。
しかし、俺の視線の先では槍を持った衛兵の人達に囲まれたルーミアと少女の姿が見えた。
なんだろう。数十億年前の俺の立場を思い出させるような構図だ。………ワンパターンだと叩かれるな、これ。
「妖怪がこの村に何の用だ‼‼」
「だーかーら、この子を連れて逃げてきただけだってさっきから言ってるでしょ?」
「妖怪の言うことなど信じられるか」
「どうせ俺たちを食うために来たんだろ」
「しかも人質まで用意しやがって」
「………これだから人間は嫌いなのよ」
声や雰囲気から、ルーミアがキレる寸前ということは分かった。
しかも背後に伸びた影は衛兵の死角になるように、徐々に刃の形へと変わっていっている。このままいくとルーミアの人喰いバイキングが始まりそうだ。
俺はルーミアの傍まで行くと、彼女の頭へと垂直に手刀を落とした。
「いたっ」
「何やってんだよ」
「あ、無事だったんですね」
「まあね。それより、どうしてこうなった?」
「村の中に入ろうとしたら気付かれたわ。何でか分からないけど」
「妖気ダダ漏れだ。気付かれて当然」
「今度から気を付けるわ」
「そんなことより、この状況をどうするつもりですか?」
「お前はどうにかできないのか?」
「どうにかできたらこんなことになってませんよ」
少女はやれやれと首を振った。
衛兵としての正義感か、それともただの臆病ゆえの偏見か、何よりもこれでは話にならないな。
俺の説得ロールなんて初期値だしな。これではこのまま詰んでしまう。
確か前回は、一触即発の雰囲気の中、永琳が出てきて仲裁してくれたっけか。ふとそんな事を考えていると、衛兵の一人がルーミアに向かって槍を突きだした。
ルーミアは咄嗟に自分の影でそれを防ごうとするが、それよりも先に俺がその槍を受け止めた。
「なっ‼」
「俺の連れに何してんだ」
「何を言っている‼ そいつは妖怪だぞ!?」
「それがどうした。コイツがお前らを襲ったか? 目の前で人を食ったか?」
「そ、それは」
「俺は偏見とか差別が大嫌いなんだ。もしもそれで人を傷付けてみろ………」
俺は槍を握った手に力を込めると、それが音を立てて折れた。
「ひっ」
「殺さない程度に叩きのめしやる。覚悟しろよ」
殺気の籠った瞳で衛兵を睨みつけると、そいつは腰を抜かした。
最近、自分が人間離れして着ているように感じるが、能力使える時点で人間じゃねえよな。
「まったく、情けないね」
「ん?」
そう言って衛兵たちの背後から出てきたのは、見たことのある女の子だった。
金髪のショートボブ、青と白を基調とした壺装束によく似た服とミニスカート、頭には蛙の目玉のような物が付いた市女笠的な物を被っている。見た目は幼女の筈なのに、何故かそれから漂うのは恐れというより畏れを感じた。
女の子は衛兵が開けた道を堂々と歩くと、俺の目の前へと寄ってきた。
「うちの兵が失礼をしたね。あ、私は洩矢諏訪子、この辺りを治めている神だよ」
そう言って諏訪子はニコニコと微笑んだ。
洩矢諏訪子、今の時代はミシャクジ様という土着神として崇り神を束ねて洩矢の国を築いたという過去を持っている。金髪合法ロリなんて希少種がこの時代に居たことに俺は今、神様に感謝の意を称えたい。
「まったくだ。ルーミアの可愛い顔に傷が付いたらどう責任を取るつもりだ」
「そうだね。妖怪といえど、無抵抗の女に武器を向けるのはいけないね?」
諏訪子が衛兵を睨みつけると、衛兵たちは怯えながらも平謝りをして村の方へと戻って行った。
月の都の警備隊とは違って意志が弱いな。……隊長さん、元気にしてるだろうか?
「本当、旅人には失礼なことばかりだね」
「気にするな。少し間違えれば連れがアイツ等を殺してたかもしれないからな」
「気付いてたのね」
「気付かない方がおかしいだろ」
俺はルーミアの額をデコピンで弾いた。
それを見て、諏訪子はくすくすと楽しそうに笑っている。
「仲が良いみたいだね」
「それなりに長い付き合いだからな」
「人間と妖怪が長い付き合いか。なんだか訳がありそうだね」
「特にないわよ」
「そうかい」
「相変わらずですね。洩矢様」
ケラケラと笑っている諏訪子に、少女が歩み寄る。
「あ、何でアンタがここに?」
「姉さんへの薬の材料を採りに行った帰りですよ」
「そうかい。なら、早く行ってやりな」
「そのつもりですよ。……それでは、私はここで」
少女は俺らに一礼すると、足早に村の方へと向かっていった。
「あの子も相変わらずだね」
「知り合いなのか?」
「うちの巫女だよ。さっき言ってた姉も同じだけどね」
「巫女、ね……」
そういえば、東風谷早苗の家系って先祖代々から諏訪子の巫女だったっけ。
そうなると、さっきの子は早苗の祖先ということになるのか。すげー。
「ま、ここで立ち話も何だし、うちにでも来なよ」
「いいのか?」
「勿論。それに、どうやらここに用事があったみたいだしね」
「用事ってほどもねえよ。ただ一目見たかっただけだよ。諏訪の崇り神様を」
「で、どうだった?」
「可愛い。この一言に限る」
「アンタはいつも通りね」
「はは、その感想は意外だったね」
「子供に欲情する変態なだけよ。神様は気を付けてね」
「その時は返り討ちにするよ」
「頼もしい神様だこと」
「諏訪子でいいよ。その方が親しみやすいし」
「……分かったわ。諏訪子」
「百合もいいかもな」
「「なんなのよ、アンタは」」
そんな会話をしながら、俺たちは諏訪子の家、守矢神社へと向かった。
目的地には無事に着いたが、果たしてこれからどうしようか?
優夜「ケロちゃん登場……って、これもどこかで見た気が」
空亡「テンプレっていいですよね」
優夜「おい」
空亡「まあ、できるならこれっきりにしたいですよ」
優夜「そうしてくれ。でないと読者に飽きられるぞ」
空亡「今更ですね。でも、今回は手抜き感が半端ないと思いますよ?」
優夜「本気出せよ。テニスを語る修造みたいに」
空亡「無理ですよ……」
次回予告
諏訪子に案内された優夜一行、そこで出会ったのは二人の巫女だった。
東方幻想物語・大戦編、『洩矢の巫女』、どうぞお楽しみに。