神無 優夜side
この世界に着てもう八ヶ月、もうだいぶ慣れてきた。
永琳の新薬の実験にも耐性が付いてきたし、依姫との決闘も余裕が出てきて楽しめてきたし、豊姫には率直な料理の感想が聴けるから嬉しいし、輝夜とも偶にだが暇潰しに付き合ってやっている。
そんな日常の中、俺はまた一人で刀の修行をしていた。
依姫の相手をしている所為か、以前よりも腕が上がったような気がする。
おそらくルーミア以外の妖怪なら難なく退けるだろう。でも、まだまだだ。
そんなことを考えていると、珍しく人の気配を感じた。
振り返ってその気配がした方へと視線を向けると、そこから一人の青年が現れた。
後ろで一つ結びにした金髪、動きやすい黒い袴を身に纏っており、紅い瞳にツリ目が特徴だった。
青年は俺を見ると、睨みつけながら口を開いた。
「……誰だ?」
「それはこっちのセリフだ」
「こんな街外れの森の中にいるなんて普通じゃねえよな」
「同じ事を言わせるな。こっちのセリフだ」
「妖怪にも見えねえし………でもこんな奴街にいたか?」
「こっちも同じだよ。てめえなんか見たこともねえよ」
「んだと?」
互いに殺気がぶつかり合い、一触即発の雰囲気になる。
なんだか解らないが、どちらも互いの第一印象が気に入らないらしいな。
「てめえ名前は?」
「そっちが先に名乗れ」
「誇り高き我が名を教える資格なし」
「ふざけたこと言ってんじゃねえぞ。人間」
「そういうアンタは神様か? 笑わせるなよ」
互いに睨み合うと、同時に地面を蹴った。
握りしめた拳が同時に放たれると、見事に互いの頬にクロスカウンターが決まった。
「くっ……」
「くそ……」
互いに一歩下がると、再び拳を放とうと踏み込む。
青年はまっすぐ放つが、俺はそれを避けて懐に潜り込み、青年の顎に向けてましたからアッパーをぶちかました。
「嘗めんなよ」
「この野郎……!!」
「何をやってるのよ。二人とも」
青年が分ちぎれて俺に向かって来ようとしたとき、聞き慣れた声がそれを止めた。
声がした方へと視線を向けると、そこには永琳と見知らぬ女性がその隣に立っていた。
長い黒髪、白衣と緋袴の上に千早を羽織っており、首には太陽の首飾りを付けている。
その女性を見て、青年の表情が見る見るうちに青ざめて言っているのに俺は気付いた。
「あ、姉貴……!?」
「貴方、こんなところで何してるの?」
「い、いや、俺は」
「今日は永琳のところに行く予定でしたよね」
「そうだったような……」
女性は見れば美しい笑みで問いかけているが、その奥には底知れない殺気を感じた。
さすがの俺でもその殺気には足が震えそうになる。そんな俺に、その女性は俺に歩み寄ってきた。
「すみません。不肖な弟がご迷惑をおかけして」
「いえいえ。こっちも熱くなって二発も殴ったんで、むしろ俺の方が謝らないと」
「え? 殴ったの?」
「ああ。見事に俺の拳が決まった」
「意外と痛かった」
青年はさっき殴られた顎を擦りながらそう答えた。
それを観て、永琳は目を見開いて、黒髪の女性は「あらあら……」と少し笑っていた。
「とりあえず、悪かったな」
「……いいよ。俺も大人げなかった」
「今度はちゃんと決着つけてやるよ」
「望むところだ」
俺と青年は互いの手を取って笑い合った。
これで場所が夕暮れの河原ならどこぞの青春漫画のワンシーンみたいだったなと、俺は思った。
「そうだ。なんで永琳たちがここに?」
「約束の時間になっても来ないその人を探しに来たのよ」
「で、ついでに俺も見つけたと」
「丁度良かったわ。貴方とも話をしてみたかったのよ」
「姉貴、こいつのこと知ってるのか?」
「知ってるというより、随分前に一度戦ったわよ」
「戦った?」
俺は彼女の言葉に首を傾げた。
俺が相手をしてる奴といえば依姫しかいないはずだけど、どういうことだ?
「永琳」
「解ってる。とりあえず、街に戻るわよ。話はそれから」
永琳は俺の肩に手を置くと小さな声で「とんでもないわね……」と、呆られながら言われた。
状況を理解できないまま、俺は街に戻ることにした。
少 年 祈 祷 中
部屋に入ると、一人の少女がソファに座って静かにお茶を飲んでいた。
長い銀髪、蒼色の着物の上に白い羽織を羽織っており、首には月の首飾りを付けている。
観たこともないはずなのに、俺はなぜか既視感を抱いていた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
俺は何気なくソファへと腰かけると、その隣に永琳、向かい側に客人たちが並んで座った。
「とりあえず、優夜にはこの三人のことを紹介しておくわ」
「なんとなく予想はつくけど、三貴子の方々だよな?」
「よくわかったわね」
「永琳の態度を見てれば気付くって。それに、さっきの天照の言葉で思い出したし」
前に戦った。その言葉で思い浮かんだのは依姫との闘い。
最後に天照之大神を呼び出した時に見たあの姿と、今俺の目の前にいる彼女が合致した。
「さっき俺が殴ったのが『須佐之男』、そこにいるのは『月夜見尊』、でいいんだよな?」
「……殴られたんだ」
「うるせえ。ちょっと油断してただけだ」
「慢心して負けたら世話ねえぞ?」
「うっ……」
須佐之男はバツが悪そうに目を逸らした。それを観て月夜見が小さく笑う。
なんだかこうして見ていると普通の兄妹にしか見えないんだよな。
「それで、そこの美しい貴女が『天照之大神』というわけか」
「この三人を前にしても物怖じしないのね」
「俺は良くも悪くも平等なんだよ」
「……結構残酷なのね」
「さすが月の女神、そう捉えてくれるか」
「……まあね」
「随分と仲が良いわね」
「もしかして惚れたか?」
「……何言ってるのよ」
月夜見はそう言ってそっぽを向いた。
「そうだわ。貴方のお話、聴かせてくれないかしら?」
「俺の事なんて話すほどないんだけどな」
「あの依姫と互角に渡り合えるんだ。何もないはずないだろ」
「俺ってどういう扱いなんだよ」
「聴きたい?」
「アンタに聴いたらろくでもなさそうだ」
「それはどういう意味かしら?」
「あ、いや、あはは……」
「……賑やかね」
輪から外れた月夜見は、その光景を見て小さく笑った。
まるで何かを懐かしむように。
優夜「どうしてこうなった」
空亡「ははは。二次創作だからね」
優夜「それを言われると言い返せえな」
空亡「いいじゃないですか。かの有名な三貴子と会えるなんて」
優夜「だからって、いきなりこの方々かよ」
空亡「古代スタートだとよくあることですね」
優夜「……なんだかこの先でよくない事でも起きそうな予感が」
空亡「あはは………そんなまさか」
次回予告
これから語るは、とある少女の誰にも語られなかった想い。
東方幻想物語・神代編、『月美の独白』、どうかお楽しみに。