神無 優夜side
黒扇との決戦が終わり、数日が過ぎた。
あの後、俺は神降ろしの反動で気を失い、次に目を覚ましたのは幽々子の屋敷だった。
俺が起き上がると、傍にいたルーミアに抱き着かれた。どうやら一日中俺を介抱してくれてたらしい。
俺は彼女の頭を撫でていると、騒々しい足音と共に部屋の襖が開かれた。そこに現れたのは薊だった。彼女は俺に抱き着いているルーミアを見ると、有無を言わさず飛びかかった。
しかし、それはルーミアの影によって軽く弾かれ、拘束されて地面に縫い付けられた。
俺は再会の喜びよりも、ルーミアがまた強くなっていることに驚いた。
しっばらくして、紫から各個での出来事を聴いた。
幽々子の死、西行妖の異常な活発化、その助けに琥珀や華扇、ぬえたちが来てくれたこと。
幽々子の遺体は西行妖の封印の媒体として、今はその下で今も眠っている。
願うことなら、それが二度と目覚めぬようにと、紫は言った。
都の方は琥珀が張ってくれた防御結界によって守られ、被害はなかったらしい。
都の人々は黒扇の術に掛かっていたようで、誰一人としてあの夜のことを憶えていないという。
助けに来てくれた諏訪子や永琳、妹紅は俺によろしくと言伝を頼んで帰っていったらしい。
ちなみに薊は帰る場所なんてないといっていたが、いきなり現れた楓に捕まって妖怪の山へと帰っていった。
そうそう。それから、都から妖怪たちは姿を消した。
華扇は自分を見つめ直すといって、どこかへと旅立っていった。
ぬえは面倒事はもうごめんだと、友人がいるという佐渡島へと向かった。
琥珀はもう少し静かに暮らせるような場所を探しに、藍と一緒に旅に出ていった。
ここしばらくの間、いろいろな出会いと別れを経験し、俺はあの墓場へとやってきた。
もう一つの西行妖があった場所、そこには桜良と菖蒲の刀が交差するように突き刺さっていた。
「なあ、風歌」
『――なんですか?』
「桜良と菖蒲は、元々は一人の人間だったんだよな」
『――ええ。菖蒲という人格は、邪神から身を護るために生まれたただの変わり身だった。
ですが、何の影響なのか、この世界で双子として転生した。前世の記憶をすべて持ってね』
風歌は憐れむような声でそう言った。
『――ただでさえこの世界の住人ではない桜良の、その中にいた二重人格。
それが死ねば、元の人間と戻り、その存在はなかったものとして世界に除外される。
それが功を奏したのか、桜良が犯した人斬りの罪まで、綺麗に消えてしまいました』
「そして桜良は、全部知ったうえで菖蒲を演じてきた。少しでも彼女が存在を残すために」
『――まあ、料理の腕は破滅的でしたけどね』
風歌は笑いながらそう言った。
『――桜良が殺人剣に執心だったのは、心に邪神への恐怖があったからかもしれませんね』
「無意識に身を護ろうとして、その対象がいつの間にか人間に向けられたのか」
『――最も怖がりな正直者、まさしくその名に相応しい狂気ですよ』
「ふざけるなよ。狂気に相応しいも何もあるか」
俺は拳を握り締め、静かに怒った。
『――これで、残る邪神は赤の女王と這い寄る混沌のみ』
「なあ、お前はアイツの正体を知っているのか?」
『――知っています。ですが、応えられません』
「俺が知るにはまだ早いってことか?」
『――そうですね。こればかりは、貴方の足で辿り着てほしいです』
「解ったよ。まあ、それでも俺は気ままに旅を続けるさ」
『――目先のことですか。相変わらず貴方は僕たちの予想を裏切ってくれる』
風歌は嬉しそうに呟くと、そのまま俺の中から消えていった。
俺は墓標に手を合わせると、その場を去っていく。
少 年 祈 祷 中
俺は枯れ木となり果てた西行妖へと足を運んだ。
そこには、旅の支度を終えた妖忌が立っていた。
「よう。もういいのか?」
「ああ。拙者はこの剣があれば十分だからな」
「まあ、荷物が多くちゃ苦労するからな」
「そういうことだ」
「で、なんでここに?」
「お主を探しに、それと最後にこの桜を見てから旅立とうと思ってな」
妖忌はそう言って西行妖を見上げる。
「なあ、優夜」
「なんだ?」
「拙者はしばらく腕を磨く。また大切なものを失わないように」
「気をつけろよ。俺みたいになったら、お先真っ暗だぜ」
「善処する」
「ああそれと、お前も所帯持ったりとかしろよ? 堅物以外ならいい男なんだから」
「余計なことを………言われなくてもそのつもりだ」
妖忌は照れ臭そうに笑うと、俺に背を向ける。
「優夜よ。拙者はまたここに戻ってくる。今度は、主を最後まで護る盾としてな」
「楽しみにしてるよ。その時は孫の顔でも見せてくれよ」
「気が早い奴だ。こんな堅物を好きになる物好きはそう居ないだろ」
「解らねえぜ? 人生は何が起きる解らない。それが面白いんだから」
「心に留めておくよ」
「そうしとけ」
「……また会うその時は、互いに全力で試合をしたいな」
「……先にくたばるなよ」
「……お主こそな」
妖忌は俺の横を通り過ぎる。
「「また会おう、親友(とも)よ」」
妖忌はそう言い残し、その場を去っていった。
「さて、俺もそろそろかな」
「優夜ー‼」
遠くで俺を呼ぶ声が聞こえる。
また俺の旅が始まる。今度は、復讐とか使命とかに囚われず、気ままに楽しもう。
俺は腕に巻いた月美のリボンを握りしめる。
「月美、また一人増えるけど、仲良くしてくれよ」
かつて死に誘う姫君が住んでいた屋敷は、もう誰もいない。
堅物な剣士も、罪と罰を背負った庭師も、記憶を失くしていた通りすがりも、皆旅立っていった。
残るのは、枯れた桜の樹と陽気に飛び回る胡蝶だけだった。
???side
誰もいない森の奥深く、そこに赤の女王こと暁月はいた。
その手には、黒扇から受け取った黒いカードが握られていた。
「結局、このカードが貴女の遺品になっちゃったわね」
彼女は悲しげにそう呟くと、カードが光りだした。
それは形を変えていくと、カードはやがて一冊の小さな本へと変わった。
歌のがその本を開いて読んでみると、そこにはこれまでの彼の物語が小説風に描かれていた。
優夜視点のものもあれば、ルーミアや紫の視点からも書かれている。
「遊びが過ぎるわよ」
記憶を抜き取ったのは真っ赤なウソ、本当は記憶を封じ、彼の心の変化によって解除されるものだった。この本は、彼の記憶と連動させることにより、リアルタイムで彼の物語を描いていくもの。
今まさに、彼は西行妖の前から旅立ったところを文面に表していた。
最期の最後まで、彼女はただ気ままに遊んでいただけだったのだ。
「まったく、世話が焼けるわね」
彼女はため息を吐き、暗闇中へと消えていく。
彼女が持つその本のタイトルは………………………『東方幻想物語』。
優夜「あとがきよ、俺は帰ってきた!」
空亡「おかえなさい。これで真面目なあとがきを考えないで済みます」
優夜「ふふ。ここからは俺もようやく本気でふざけられるというわけだ」
空亡「しかし、これからどうします?」
優夜「え?」
空亡「次の章まで、少なくとも五百年は必要ですよ」
優夜「あ~次はあのお嬢様か」
空亡「それに設定が色々生えてしまったせいで、過去の話との繋がりは不安定です」
優夜「まさか……」
空亡「もちろん、物語の再構築、始めます」
優夜「本編の二の舞だけは勘弁してくれよ」
空亡「大丈夫ですよ。ちょっと話を盛り込んだり、文章を変えたりするだけですから」
優夜「心配だ」