神無 優夜side
この世界に着てもう六ヶ月、もうすでに死にそうだ。
永琳から薬の実験台にされるのを避けるために逃亡し、依姫からは問答無用で決闘を申し込まれてそれから逃亡し、豊姫はどこで嗅ぎ付けたのか俺の手料理を食べようと迫ってきた。
厄介事が一つから三つに増えた所為で、俺の苦労はアニキもビックリの天元突破寸前だった。
「……ということだから、月美~、癒してくれ~」
「きゃっ!? いきなり抱きつかないでください」
俺は近くで資料の整理をしていた月美に後ろから抱き着いた。
彼女の顔が若干赤くなっているが、可愛いので離す気が全く起きない。
「これくらいは許してよ~。月美だけが俺の癒しなんだから」
「これは喜んでいいんですか?」
「いいと思うよ~」
「何バカなことしてるのよ」
二人でそんなやり取りをしていると、ドアの前に呆れ顔の永琳が居た。
「おかえーりん」
「何よそのふざけた挨拶は」
「今考えた。いいと思わない?」
「思わないわ」
「おかえりなさい。先生」
「ただいま。……それより、いつまで抱きついているのよ」
「ふぇ!? あ、ユウヤさん離れてください!」
月美は咄嗟に俺の襟元を掴むと、計り知れない力で俺を投げた。
漫画みたいに資料が宙へと舞い、俺は壁に打ち付けられて資料の山の中で伸びた。
「強い(確信)……」
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ。問題ない」
「そう。頼みたいことがあるのだけど」
「アンタの所為でこうなったんだろ!? 少しは心配しろ」
「丈夫なのは良く知ってるわ」
「悪魔! サイコパス! BB「スッ……」おk、悪かったから弓を無言で構えないでくれ」
「解ればよろしい」
永琳は弓を仕舞った。
女性に対して年齢関連の悪口は死亡フラグ、どこに行っても同じだな。
「月美、“姫様”が貴女を呼んでるわ」
「私、ですか?」
「それと、優夜もよ」
「俺も? というか“姫様”って?」
「行けばわかるわ。月美、案内してあげなさい」
「はい。それでは、行きますよ」
「待って、実は身体中が痛………ちょ、引っ張らないで………折れる!?」
俺は月美に引っ張られて部屋を後にした。
この街で“姫様”と呼ばれる人物、もしかして………!?
少 年 祈 祷 中
月美に連れてこられた先は、綿月家とは違う屋敷だった。
永琳の話によれば、ここの地区には街の権力者やそれに関係する家柄が住んでいると聞いている。綿月の屋敷もそうだが、なんでこうも和風なのが多いのだろうか?
「とりあえず、入りましょうか」
「“姫様”に呼ばれるなんて、月美も意外とすごいのか?」
「そんな事ありませんよ。ただ“姫様”の遊び相手として勤めているだけですよ」
「その割には優遇されているみたいだけど?」
「……わかりません」
そんな話をしながら屋敷を歩いていると、ある事に気付いた。
たまに通りかかる使用人が月美を見ながらヒソヒソと話している。そいて、その目は蔑んでいた。
月美もそれには気付いているようだが、いつもと変わらない笑顔で俺に話している。
「着きましたよ」
「ああ……」
「どうかしましたか?」
「いや、月美に見惚れてただけだよ」
「はいはい。いつも冗談はいいですけど、“姫様”には失礼の無いようにお願いしますね」
「俺を誰だと思ってるんだよ」
「ユウヤさんですよ。良くも悪くもね」
「え、それってどういう意味m「姫様、入りますよ」おい!」
月美が襖を開けると、そこには一人の少女が座っていた。
腰よりも長いストレートの黒髪、上には手を隠すほど袖の長いピンク色の服、下には日本情緒を連想させる模様が金色で描かれている赤いスカートと白いスカート、見るからに和風という言葉が似合いそうな格好だ。
俺はその姿を見て言葉を呑み込むと、彼女に向かってお辞儀をした。
「はじめまして、姫様」
「はじめまして、優夜」
「どうして俺の名前を?」
「噂で聞いたわ。永琳と住んでいる異邦人、依姫と引き分けた化物ってね」
「嬉しいやら悲しいやら。でも、姫様に覚えてもらえるのは嬉しい限りですね」
俺は彼女に向かって微笑むが、なぜかその表情は不機嫌だった。
「話に聞いてたのと違うわね」
「なにがですか?」
「身分に構わず気さくに接してくれる。そう永琳に聞いてたわ」
「こういうのはお嫌いで?」
「ええ。なんだか壁があるみたいでいやなのよ」
「そうか。なら………」
俺は彼女の目の前まで歩み寄って腰を下ろすと、一枚のハンカチを取り出した。
頭上に?マークを浮かべる姫様と月美、俺はそれを尻目にハンカチを手に被せる。すると、一呼吸の間を置いてハンカチを取ると、俺の手に一輪の花が握られていた。
「わっ!」
「ふふっ、どうだ。お姫様」
「今のは?」
「ちょっとした手品だよ。折角であった記念に、どうぞ」
俺は花を彼女に渡した。
「そうだ。できれば名前を教えてくれないか?」
「蓬莱山 輝夜よ」
「輝夜か。これからよろしく」
「よろしく」
俺が輝夜の手を握ると、彼女は微笑んでくれた。
蓬莱山輝夜、原作ではかぐや姫と同一人物とされており、天真爛漫な性格をしているお姫様だ。自分から蓬莱の薬を飲んで後々追放されるが、本人の性格上、むしろ楽しんでいる。
そんな彼女も、周りにいる奴等の自分への態度に不満はあるのだろう。だから俺の平伏した態度がお気に召さなかった。
「まったく、俺としたことが女性を悲しませるなんて、一生の恥だな」
「ユウヤさんはいつも恥の上乗りをしているような気がするんですが?」
「月美、最近俺に対して口悪くなったよね?」
「気のせいですよ」
「それはツンデレと捉えて構わないかな」
「何ですかそれは」
「ツンデレ、それは萌えの頂点にして男共の苦くも甘い属性の一つ」
「言ってることが理解できません」
「なら教えてあげよう。まずはツンデレによる需要と供給から」
「知りたくないですよ」
「ふふっ」
俺と月美が漫才を繰り広げていると、それを見て輝夜が楽しそうに笑っていた、
「そういえば、輝夜と月美って仲良いのか?」
「私がに行っているのよ。月美は数少ない私の友達だから」
「へえ~やっぱり凄いじゃん」
「私なんかが友達なんて、姫様に迷惑が………」
「何度も言ってるでしょ。私が決めたことなんだから、貴女は気にしなくていいわ」
「ですが」
「それに、私がその程度で人の縁を切るほど弱くはないわ」
「か、輝夜ちゃ~~~~~~~ん(涙)」
月美は泣きながら輝夜に抱きついた。
月美には何か事情がありそうだが、輝夜はそんな事を気にせずに接してくれている。恐らく、事情を知っているからこそ輝夜は月美と友達になっているんだろうな。
そんな二人を見ていると、俺はどうやら邪魔のようだ。
俺は二人の邪魔にならないように部屋を出ようとすると、輝夜に呼び止められた。
「どこに行くの?」
「こんな空気に男一人は耐えきれないからな。外で待ってるよ」
「そんなこと言わずに。一緒に遊びましょう」
「遊ぶって、何を?」
「花札ですよ」
「和風通り越して古風だなおい」
「やらないの?」
「やるに決まってるだろ。これでも俺は花札なら負けたことないぜ」
「相手が居なかったというオチはいいですよ」
「なぜバレた!?」
「そんなことはいいから、早く始めるわよ」
その後、俺の圧勝で二人から何度も挑まれる結果となった。
輝夜に会えたのはいいが、月美の事情について疑問が残ってしまった。
空亡「タイトルで分かっていたと思いますが、察しの通り輝夜さんです」
優夜「ちなみにここの輝夜ってどんなキャラで行く気だ?」
空亡「まあ、この作品は原作リスペクト主義ですから」
優夜「その言葉、最後まで覚えてろよ」
空亡「すでにいろいろとキャラ崩壊はしてますけど、とりあえずNEATではないですね」
優夜「あ、そうなんだ」
空亡「しかし、この時点で優夜の顔馴染みも凄い事になってきましたね」
優夜「なぜだが、これ以上凄い事になりそうな、そんな予感がする」
空亡「でしょうね」
次回予告
お姫様は籠の中、彼女は外の景色を見つめ、自由な外へと憧れを抱く。
東方幻想物語・神代編、『退屈な鳥籠』、どうぞお楽しみに。