次話から本編になります
なんとか結成することのできたギルドエタニティ。ホーム画面の右上にアイコンが追加されておりなんとなく達基の気分は高揚していた。
しかし、どんな機能があるのか確認するため並んだ項目を一つ一つ見ていくのだがいまいち達基の興味をひくものがなかった。というか現在できる主なことが寄付くらいなのである。寄付金を貯めたらギルドボーナスといったエンチャントをつけることができる。そんな程度だ。特に達基が一番気になっていたギルドクエストに関しては項目があるもののいまだ解放されていないらしく灰色の文字になって上から黄色の文字でcoming soon…なんて書いてある。
なんだ中途半端だな。と心の中で呟きながら同時にある疑問が湧き二人に声をかけてみることにした。
たっきー:なぁ、ギルドクエストまだ解放されてないみたいなんだけどおかしくないか?
ヒーロ:なんで?
たっきー:だってさ、このゲーム今までシステム導入するならするで内容しっかりしてたんだぞ? ユーザー第一で飽きさせないようにかなり工夫されてた。
リョー:って言われても俺ら最近始めたからなあ。今までがどうだったかなんて知らないし
ヒーロ:うん…。まぁそんなこともあるさ程度に留めておけばいいんじゃない?
確かに二人は最近始めたユーザーだし何より達基が色々と聞いてもいないのに教えてくれるからシステムに関して困ったことはない。ユーザーが爆発的に増えてしまったから処理に追われシステム導入も簡易なものになってしまったのかもしれない
リョー:そんなことよりギルドがだめならパーティでクエスト行こうぜ! 達基がいるんだから上級の簡単なやつやりたいんだよ!
達基はつぶやきサイトで同じようなことを呟いている人が多数いるのを確認していたのだが良平がそんな提案をするので英雄の意見で無理やり納得してパーティクエストに参加することにした。
達基のスカルグレイモンは現段階で進化させられる最高ランクの完全体。良平のライアモンと英雄のグルルモンは共に成熟期で完全体の一つ前の形態だ。
だから二人は手の出し辛い上級、敵デジモンが完全体ばかりのクエストをするのは決まって達基がいるときだけだった。といっても二人とも達基の熱心な指導のおかげもあり成熟期といえども十分完全体に匹敵する力を持っているのは知っている。
これはこのゲームの魅力の一つでもある。鍛えぬけば幼年期だろうと完全体に勝つことも不可能ではないらしい。コアなゲーマーにはそこに尽力する人もいる。
今回受けたのは討伐クエスト。ストーリー的には森で暴れているブロッサモンやジュレイモンといったムシクサ系のデジモンを退治してほしいというものだ。
クリア条件はブロッサモン三体、ジュレイモン二体。スカルグレイモンが炎を扱う技が多いため一匹でもクリアは簡単だが今回は二人を優先させるべきと判断し達基はサポートに徹することにした。
少々時間はかかったものの三人で手こずるような内容ではない。それでも完全体五体というのはかなり経験値が稼げたので二人は大満足だったらしくそのまま解散してもよかったのだがいつものようにチャットへと縺れ込む。
リョー:やっぱりあんな強いデジモンと戦えると楽しいな!
ヒーロ:うんうん! 早く僕もグルルモン進化させたいなぁ
たっきー:もうかなり強くなったんだしそろそろ進化してもいい頃なんだろうけどな
ヒーロ:ま、僕らはなんだかんだ言ってもまだ初心者ユーザー扱いで、むしろ成熟期であることのほうがすごいんだろうけどね
三人でクエストを終えた後はたいていデジモンのことや全く関係のないことを話して気付けば雑談だけで一時間は過ごしてしまう。今日もそうなるかと思ったがさすがにゲームのしすぎだと良平が母親に怒られたらしく今日のところはお開きとなった。
ホームで一人になった達基はもう一つくらいクエストをしていた。最近進めていなかったストーリークエストで結構達基はこのシナリオが好きだった。メインストーリーは世界の救世主となるべく悪いデジモンたちを倒していくもの。ありきたりだが返ってそれが好感を持てた。
それにカードバトルだとか同じことの繰り返しが多い最近のゲームと違ってストーリーはアニメを見ているかのような充実感がある。
二つほどクリアしたところでさすがにやりすぎかと思いログアウトしようとする。そこで、良平がログアウト寸前にギルドの入団申請が来てないか確認しとけと言っていたのを思い出して確認する。
「えーっと、入団申請・・・お、二件もきてる! 承諾しちゃっていいよな。なになにソラさんとReaperさ・・・Reaper!!?」
はじめは何かの見間違いかと目をこすってもう一度見るが間違いなくあの忌まわしい優勝者の名前がそこにはあった。もしかしたら名前が偶然同じになっただけなのかとユーザーページを覗くと業績の欄に第一回デジモンチャンピオンと書かれていたので信じるほかない。
一応せっかく申請してくれたのだからと承諾はしておく。ちなみにもう一人のソラという人物は始めたばかりのようで幼年期のピョコモンがパートナーらしい。
翌日、学校で良平と英雄にそのことを報告すると二人は当然驚いた後達基にどんな奴なのかを聞いてくる。達基だってトーナメントで一回戦っただけで詳しく知っているわけがないのだが、その戦いの様子を伝えるだけでも十分強さは伝わっただろう。
「しっかしまさかそんな有名人が俺らのギルドに入ってくれるとはなぁ」
帰り道、思い出したかのように良平が口を開く。本当はそれに関して話したくてうずうずしていたことだろう。それは英雄も達基も思っていたことだ。
「達基のこと覚えてたんじゃないの? Reaper相手には一番善戦したんじゃないかって言われてるくらいだし」
「そんなことないだろ。俺が戦ったのなんて一回戦だし、所詮その善戦っていうのはあくまで一番粘ったってことだからな」
達基は、自分が負けた後のReaperの戦いには一通り目を通していた。確かにあの強さにかなうものは誰一人としていなかった。皆達基と同じようにスピードで翻弄され倒されていく。デジモンのPvPには観戦機能がついており某動画サイト風にコメントをリアルタイムで流すことも可能だ。そこでもある程度一回戦について触れているコメントがあり達基の精神は相変わらず削られていくのだが、全部終わってみればReaperの強さが段違いだと認識されたためにブーイングは同情に変わっていた。
とにかく、どれだけ推測しても他人の心の内を正確にわかるわけない。せっかくギルドという繋がりができたのだから本人に直接聞いてみることにした。
ゲームにログインすればお馴染みの画面にギルドのアイコンが自己主張するように大小を繰り返している。新しい申請があったらしい。承諾するためにギルドを開くと昨日は灰色だったギルドクエストのアイコンが鮮やかになっている。
これはギルドメンバーに話しかけるいい機会かもしれないと新しい申請、あくあ♪という明らかに女の子だろうと思えるユーザーに入団許可をだしギルドチャットで呼びかける。
たっきー:はじめまして! リーダーのたっきーです。せっかくですのでギルドクエストをやりたいと思うのですが皆さん何時ごろなら都合がつきますか?
さすがにいきなりタメ口というのはネット社会としてよくない風潮だと認識している達基はできるだけ慣れないながらも敬語で参加を促す。
偶然にも、ギルドメンバー全員が現在ログインしているらしく次々と返事が返ってくる。
あくあ♪:初めまして! 私は少し用事があるのであと一時間くらいなら大丈夫です(#^^#)
ヒーロ:どうもはじめまして。僕はいつでも構いませんよ
ソラ:はじめまして、よろしくお願いします。僕もいつでも構わないのですが初心者なので皆さんの足を引っ張ってしまうかもしれません・・・
リョー:どーも。それよりメンバーがどんな奴か把握したいから自己紹介しないか?
みんな、きっちりした人達らしく返事が丁寧なところを見ると仲良くやっていけそうだと安心する。しかしまあ良平は知り合いが二人いるという余裕から発言したのだろうが他の人たちに少々不躾だと受け取られないか心配ではある。
そしてとうとう奴が現れた。そして奴は、良平以上に酷かった。
Reaper:自分もいつでもいい。ただ馴れ合うつもりはない。
予想通りというか、なんというかまぁ強い人ってそういうの多いよな。なんてアニメキャラにいそうな発言をするReaperに苦笑してしまう。
あくあ♪:Reaperさんって、確かこの前のイベントの優勝者ですよね! 同じギルドに入れてうれしいです!
正直、怖い人かもしれないという恐れのあるReaperに対してあくあさんはぐいぐい話しかける。それを皮切りにそんな感じでいいのかと皆がどんどん会話を進めていく。和気藹々としていてクエストのことをすっかり忘れチャットに専念してしまう。
Reaper:馴れ合いはしないと言った。さっさとクエストするのかしないのか決めろ。
なかなか良い空気だったのをぶち壊したのはやはり奴だった。さすがに皆ビビってしまったのか絶え間なく動いていたチャットは少し硬直する。
たっきー:す、すみません。では皆さんいけるみたいなので始めましょうか
やはりReaperの発言があったからか、控えめにわかりました。や了解です。と送られてくる。これきりの関係ではないから自己紹介等は追々でいいだろう。
達基はギルドクエストにどんなものがあるのか確認する。昨日の今日だがすでに10個程度のクエストが入っていて中でも一番下の、目を引く異質さがある『件名:タスケテ』というクエストに決めた。
難易度や詳細は書かれていないが面白そうだからと皆に報告し確定。受諾して次に表示されたメンバー募集の画面に全員の名前が入ったことを確認しスタートを押す。いったいどんな敵がいるのだろうか。それ以上に知らない人と繋がりを作って共闘というところにこれまで感じたことのないほどの興奮を感じる。
「うわっ!!」
刹那、スマートフォンから強い光が放たれる。
眩しくて目を瞑るとそのまま達基の意識はそこで途切れてしまった。
「達基ー? 母さんちょっと出かけてくるわねー。って、あら外に遊びに行ったのかしら」
――母親が覗いた部屋には達基とスマートフォンの姿はなくなっていた。
感想、批評、誤字脱字等待ってます