桔梗の娘   作:猪飼部

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 漸く、ここまで来れました。


第十二回 立于人寰

「ここの郷もか……」

 

 幾分の虚しさを、それ以上にやり切れぬ義憤を含んだ呟きは、びゅうびゅうと半壊した家屋や防柵を叩く虎落笛(もがりぶえ)に掻き消された。明らかな襲撃の爪痕に、仲冬(十一月)の寒風が容赦なく吹き荒んでいた。

 ここは豫州(よしゅう)潁川郡(えいせんぐん)潁陽県(えいようけん)。秋が終わる前には京師を旅立ったにも拘わらず、蕣華の道程は遅々として進まずにいた。

 

 豫州汝南郡(じょなんぐん)鮦陽(ちょうよう)侯国(こうこく)葛陂(かっぴ)という郷がある。この郷にて何儀(かぎ)という男が徒党を率いて旗揚げした。世に言う葛陂賊(かっぴぞく)の出現である。

 この葛陂賊、蜂起以来暴れに暴れ、瞬く間に根拠地の汝南郡のみならず、潁川郡もその支配下に収めてしまった。豫州兵はお世辞にも強兵とは言えず、有能な指揮官にも恵まれず、一万を超える軍勢にまで膨れ上がった葛陂賊を討伐どころか、抑える事すらも出来ずにいた。先進文化と名士の地であるが、このような情勢下では無力に近かった。

 

 豫州入りして以来、往く先々で目にする光景を前に、蕣華とトラにできる事は少なかった。それでも、荒れ果てた聚や郷をただ素通りする事など出来ずに、家屋の修繕、廃材の処理、死者の弔い、そして時には未だ周辺をうろつく葛陂賊の小部隊(どうやら本隊は既に潁川にも汝南にも居ないらしい)を征伐などした。微力でも自己満足でも、何かせずにおれなかった。

 年を越すまでに豫州を越える事は出来ないかもしれないな。そんな事を考えながら、蕣華は暗い影を落とす郷に足を踏み入れた。

 

 

 ――――

 

 

 

 第十二回 立于(りつう)人寰(じんかん)

 

 

 

 潁陽城門亭。打ち破られた門扉が修繕もされずに無残を晒すこの場所に、一人の女が陣取っていた。このところ、毎朝こうして暫しの間、ここで立ち尽くしている。

 緩やかに波打つ明るい空色の髪を肩口で切り揃え、淡い桃色の牡丹を象った髪飾りが左右の側頭部で微風にふわふわと揺れている。緩く垂れた梅紫色の瞳は緊張感もなく、城門の外を見詰めている。肩を露出し、胸元の開いた赤を基調をした衣装は、この寒空の下では如何にも頼りないが、それを身に纏う女は平然としたものである。

 目元より尚緩い口から、荒廃した県城に似つかわしくない気軽い呟きが漏れた。

 

「さってさて、そろそろ到着してもいいんじゃないですかねー?」

 

 全体的に緩く、周囲の空気を気にも留めぬ立ち姿。人によっては鼻につくであろう雰囲気を纏わせた女は、その実、内心少々焦りを募らせていた。先の独り言も、その内心が漏れた形である。

 待ち人(と言っても一方的に待ち構えているだけだが)未だ来たらず。ここ数日、女は故郷より呼び寄せた手勢をこの潁陽城に集結させ、ある人物がこの県治に立ち寄るのを待っていた。状況は逼迫している。しかし同時に、これを天の機と見た女は、この地を自分の出発点と決め込んだ。その為には、目的の人物――厳慶祝――がどうしても必要だった。

 彼女が洛陽を発ち、豫州に向かうと見定めるや、下邳国(かひこく)の一族郎党を豫州に集め、情報の収集を命じた。そして、潁川郡の凡その現状を知ると、集める情報を絞り精査した。結果、葛陂賊はどうやら北へ向かった事が判った。黄布を標とした賊に合流する積りらしい。なんでもその黄巾を巻いた連中は天下を平らげる気でいるのだとか。

 嗚呼、遂にこの時が来たか。

 その情報を得たその時、知らず漏れた呟きは、諦めと期待が入り混じっていた。

 幼少の頃よりこの国はもう駄目だと思っていた。だから軍略を学んだ。身体を鍛えた。武術や馬術に手を出した。長じても家業に身を入れず、名士と通じ、救民に精を出した。そんな自分に対して郷里の人達は口々に「魯家の娘は気違いではないか」と噂した。確かに時勢は悪いが、国の滅亡を確信しての行動は行き過ぎにしか見えなかったろう。だが見るがいい! 遂にこの時が来たのだ! 滅びの時が芽吹いたのだ。腐った土壌でしか咲かぬ呪わしい花が、遂に芽を出したのだ。

 自分が先走っているだけならばそれで良かった。人々の言うように自分が狂っているだけならば、それでも良かった。だが狂っていたのは時代の方だった。いや、時代の方も、だ。

 そこまで見越しているのならば、師の後に続いて褐色の英雄の旗の元に集えばいい。そこで存分に力を発揮し、新たな天下泰平の為に死力を尽くせばいい。元々、師の詰まらない言い付けに過ぎないのだ。適当に自分なりの人物評を付けて報告すればいい。

 なのに、今、自分は彼女を待っている。

 将器はある。きっと一角の将になるだろう。だが、果たして王器はあるだろうかと問えば、そんなものはないだろう。

 

(パオ)よ。厳寿なる者の事を探って来い。……大殿が言うには、『面白そうなやつ』であるらしい。大殿がそう言うからには、近い将来、我等の前に立ちはだかるやも知れぬ。まぁ、大殿にとって障害になるかは疑問じゃがな」

 

 不意に師の声が脳髄の奥の方で甦った。確かに面白そうな子ですよ。包は記憶の奥に向けて心中で答えた。

 彼女よりも強い者はそれなりに居るだろう。儒に沿う為ではない孝行者だって他にも居る。異民族と友誼を結んだのは彼女が最初ではない。だが、それでも厳寿という少女には他の傑物にはない何かがある。

 包は、一度だけ一人で洛陽の街を歩き回る慶祝を見掛けたことがある。あの時、彼女は何かを探していた。それも多分、無意識の内に。何気なく散策しているだけに見えて、時折、不意に視線を周囲に彷徨わす事があった。しかも本人はその仕草に気付いていないようだった。

 此方の視線に気付いて僅かに警戒しているのが見て取れた。にも拘らず、そのような不用意な事する人物ではないだろう。だが彼女は明らかに何かを、或いは誰かを探し求めていた。少なくとも包の目にはそう映った。

 面白そうな人物であるという評には異論はない。だがきっと彼女はそれだけに止まらない。あの少女の中にはまだ何か眠っている。そんな気がする。……矢張り、自分は狂っているのかも知れない。

 偉大な師を得て、大陸の未来を託すに足る英雄を知ることができた。幼き頃から予見していた滅びの上に敷く道が整備されたのを感じた。その時、詰まらなさを感じたのを今は認めるしかないだろう。だからと言って、そこから逸れるなど愚かにも程がある。きっと自分は、あの少女に在りもしない夢想を抱いているだけなのだ。そうやって理性で蓋をしようとしても、もはやこの衝動を抑え込める気は微塵もしなかった。

 その衝動に任せて、本来辿るべき道を自らの意志で放棄した女は、包という真名を持つその女は、姓を魯、諱を粛、字を子敬(*155)といった。

 

 

 ――――

 

 

 蕣華が潁陽城に着いた時、まず困惑し、次に疑念が湧き、そして呆気にとられた。溜め息を一つ吐いて、覚悟を固めた。魯子敬と呂子明と共に、葛陂賊三千を討つ覚悟を。

 

「お待ちしておりました。厳慶祝様で御座いますね」

 

 開口一番、県城門亭で待ち構えていた門亭長と思しき男にそう声を掛けられ、蕣華は一瞬、馬上で固まった。

 

「確かに私は厳寿ですが……」

「困惑されるのも無理からぬ事。ただ、この県城は貴女様をお待ちしており申した事、どうかご理解頂きたい」

「潁陽城、の人達が……ですか?」

「はい。つきましては、県堂へ御出で下さい。詳しくは其処でお待ちになって居られる魯子敬様がお話になられるでしょう」

 

 県城を上げて自分を待っていたなどと言われ、きょとんとした顔で此方を振り向いたトラと顔を見合わせ困惑していると、警戒を煽る名を出された。河南尹の宴にて自分を観察していた女。後日、陳公台が調べて、洛陽を発つ前になんとかその名が判明した。

 しかし、目的が判らない。どうやらこの街の人々に何か吹き込んだようだが、一体何を考えているのか……。頭の中でぐるぐると思考を巡らせながらも亭長に受け答えし、二人の亭卒に先導され、潁陽城へと足を運んだ。そして、更に困惑する羽目になった。

 

「にゃー。皆、姉ーを歓迎してるにゃ」

 

 トラの言葉の通り、目抜き通りを行く蕣華に気付いた人々が、期待に満ちた目で歓声を上げていた。だがその期待は、心中の不安を塗りつぶす為のものだ。どこか必死な、縋りつくような粘っこい期待。ただでさえ身に覚えがないというのに、なんとも居心地悪かった。

 だが、段々と解かりかけてきた。武力しか持たぬ身だ。何を期待されるかと言えば、それだけだろう。そして、県城門からここまで、戦の跡が其処彼処に伺える。修復はあまり進んでいないが、それなりに時間が経っているように見えるが、賊が再び現れたのだろう。詳細は判らないが、一度強かに打ち据えた街をまたも狙うとは……。

 そうこうしている内に県府の堂に着いた。後はもう魯粛に直接問い質せばいい。そう強く心に決めて、蕣華はトラと共に県堂に足を踏み入れた。

 

 

 ――――

 

 

「お待ちしてましたよ」

 

 堂内の議場に案内されると、透き通った朝の空のような髪色の女が長揖して此方を出迎えた。この場には、今入室した蕣華とトラ、挨拶して来た魯粛と、その背後に一人。他には誰も居ない。県令とその副官、故吏達は先の襲撃時に我先と逃げ出してしまったらしい。全く以って嘆かわしい事だが、賊は中央からの勅任官は必ず殺して回っていたらしく、汝南での暴れっぷりを聞き及んでいた県令には遁走以外の選択肢など存在しなかったのだろう。

 だが、今はその事はどうでもいい。まずは目の前の女の事だ。

 

「説明、してくれるんでしょうね」

「まぁ、そうつんけんしないで下さい。まずは御挨拶を。既にお見知りおきかも知れませんが、私は魯粛といいます。字は子敬。そして、この美少女が呂蒙(*156)。字は子明ちゃんです」

「……確かに可愛いけど」

「御二人とも何を言ってるんですかっ?!」

 

 此方の棘も意に介さず自己紹介してくる魯粛にやや苛立ちが募る。が、魯粛の斜め後ろに隠れるように控えていた少女を紹介され、つい頷いてしまった。そして呂子明の反応に、思わず和んでしまった。長過ぎる袖で、鬼灯の様に真っ赤になった顔を覆い隠す仕草などは反則であろう。トラなどはその反応が余程気に入ったのか、楽しそうに子明の顔を覗き込もうとしていた。

 いかん、こんなところで和んでいる場合ではないと、咳払いを一つ、気を取り直して本題に入った。

 

「それで、賊がこの街に迫っている、って事でいいのかな?」 

「話が早くて助かりますー。なので、私達を率いて黄邵(こうしょう)(*157)率いる葛陂賊の一派三千を討って下さい」

 

 話が早いのは魯粛の方だ。早過ぎて付いて行けず、一瞬、呆気に取られてしまった。

 

「……意図が解らないな」

「解かりませんか? 今の漢土に貴女程の人を遊ばせておく余裕なんてないんですよ」

 

 若干、目の輝きを強くして告げてきた。やや非難するような、しかしその顔には強気な笑顔を張り付けて。

 

「洛陽からここまで、ずいぶん時間が掛かりましたね? まぁ、お蔭で追跡は楽でしたし、こうして先回りも容易に出来ましたが……。素通りできなかったんでしょう? 貴女はきっとそういう人だろうとは思っていました。でもですね、()()()()()()()()()してる場合ですか? 違うでしょう。そんな事は力のない庶人が必死になってやるような事ですよ。おっと、力ない人達を馬鹿にしてるわけじゃあありませんよ? ただ、貴女は力ある側の人間なんですよ……」

「……何が言いたいのさ」

「世に立て厳寿!! 力の使いどころを間違えるな! 民草の悲鳴を止めたいのならば、同じところに立つな! 貴女は上に立たなければならない人間だ!! 私達の上に立って獣に堕した賊を討て!!!」

 

 魯子敬の怒号のような激が議場に響いた。その場にいた者達の心魂にも。頓に、蕣華の心魂に。

 真正面から激を受け瞠目した。息を呑み、数瞬呼吸を忘れた。思い出したように大きく息を吐いた。息と共に、胸に溜まっていた何かを吐き出した。

 

「好き勝手言ってくれるよね」

「気に入りませんか?」

「ああ、気に入らないね」

「そうですか」

「でも、有り難う。やるよ」

「ひゃわっ!? …… ……ふっ、ふっくく、くふふふふふ」

 

 二人の遣り取りに、おろおろとしていた呂子明は、肩を振るわせ笑い出した魯子敬に、もはやどうしていいか判らず困惑し切りであった。トラは不思議なものを見るように子敬を眺めていた。

 

「面白い人ですねぇ」

「益州を発って以来、ちょくちょく言われるようになったけど、そんなに変かな?」

「気にしなくていいですよー。さ、あまり時間もない事ですし、本題に入りますか」

 

 

 ――――

 

 

「それにしても、子敬は結構無茶苦茶するよね?」

「ひゃわわっ!? なんですかそれ、そんな事言われる筋合いないんですけど?」

「いや、この街の人達に無断で、葛陂賊にこの県城で討伐隊が結成されたなんて情報流して誘き寄せるとか、なにしてくれてんの。しかも担ぎ出そうとしてた私がこの街に立ち寄る前にって」

「私の思った以上に慶祝さんがもたもたしてたのが悪いんですよ。機を逃して葛陂賊本隊、更には黄巾賊と合流されるわけにはいかないじゃないですか」

「そう言われてもなぁ。人を遣って呼びに来れば良かったのに」

「驚かせたかったんです」

「なにしてくれてんの」

 

 城門の上に据えられた門楼で、葛陂賊がやって来るのを待ち構えながら言葉を交わす慶祝と子敬には、戦前の緊張が感じられなかった。緊張に身を包まれながら傍に立つ呂子明――真名を亞莎(アーシェ)――は、そんな二人の話を聞くとはなしに聞いていた。

 呂蒙。長い胡桃色の髪を大きな二つのお団子にして項で留め、視力の悪さからややきつくなった枯茶色(からちゃいろ)の瞳には愛らしさと凛々しさが同居している。小豆色の朝帽と、袖長だが裳を履き忘れたかの様な裾短の衣装が特徴の、蕣華と同年代の少女。

 亞莎は、故郷である汝南郡富波(ふうは)侯国が葛陂賊に荒らされ父を失った。腕っぷしには自信がある為、賊を蹴散らし父の仇を討とうと考えたが、母を残して行けぬと一時はこれを諦めた。しかし、運命は彼女に待ったをかけた。汝南を調査していた魯子敬の部曲と遭遇し、その力を見た部曲の者達によって、魯子敬と引き合わされた。こうして、母と共に江南へと落ち延びる筈だった少女は潁川へと導かれた。そして、孫仲謀に見い出されるのではなく、厳慶祝に出会ったのだった。

 意識せぬうちに、その慶祝を見詰めていた事に気付いたのは、慶祝と目が合ってからだった。

 

「どうしたの?」

「い、いえ、なんでもありません。」

 

 慌てて目を逸らすも、失礼な態度を取ってしまったと、俄かに落ち込んだ。反面、大して齢も変わらないだろう少女に何を気後れしているのだろうかとも思った。いや、答えは解っている。魯子敬が城内に喧伝した彼女の評判を知っているからだ。幾度も実戦を経験している遠く益州出身の荒武者。対して自分は所詮小さな郷の中で一番の腕っぷしと言うだけの詰まらない女だ。少ない稼ぎを何とかやり繰りして得た丈の合わない古着を、何とか自分で仕立て直して、不格好ながらも遊侠を気取っているだけの小さな女。そんな自分が不躾な視線を向け、あまつさえあんな態度を取ってしまうなんて。劣等感がじくじくと亞莎の小さな胸の内に沸き上がって来た。

 しかし、慶祝はそんな亞莎の内心など知らず、先の挙動も気にせず声を掛けてきた。

 

「緊張してる? そう言えば、初陣だったね」

「う…ぇ、はい。少し、緊張してるかも知れません」

「大丈夫だよ。相手は所詮数と勢いを頼みにするだけの賊徒共。子明が遅れを取るような相手ではないよ」

「わ、私の実力なんて分かるんですか?」

「最近、見れば大体判るようになってきてね」

「それに、相手の数こそが問題だと思うんですけど……」

「だそうだけど? 子敬」

「相手は三千。此方は私の郎党五百に、県兵と義勇兵混成の五百、合わせて千。急拵えですが城門、城壁の修復も出来ましたし、特に問題ありませんねー」

「そうなんですか?」

「城ぜめには三倍のへーりょくが必要なんにゃー」

「そ、そうなんだ」

「おー、トラちゃん、よく知ってますね」

「えっへんにゃ」

 

 小さな異民族の少女にまで教授されてしまい、流石に落ち込む。自分の名前を書く事も覚束ないようでは当然か。と自虐的に沈思した。今迄はそれでも特に不自由はなかった。しかし、きっとこれからはそうはいかないだろう。まず文字を憶えよう。小さく密かに決意する亞莎であった。そして、そこでふと気付いた。

 

「あの、三倍の兵力という事は、丁度その条件を相手は満たしているのでは?」

「ふっふっふ、数の上だけでしたらね。しかし、連中と我が方ではもっと決定的な差がありますよ」

「決定的な?」

「一騎当千の慶祝さんと、兵法に通じたこの魯子敬ですよ! それに賊共に勢いがあろうと、此方だって士気の高さは負けてません。そして……」

「……そして?」

「子明ちゃんも居ますからねー! 期待してますよ」

「私……ですか?」

「勿論ですよ!」

 

 にこにこと笑顔で告げる子敬。半ば呆然とその子敬を見詰め、視線を感じそちらに目を向ければ、矢張り笑顔で頷き掛ける慶祝の姿があった。いつもはぼんやりとしている視界の中、その笑顔は、やけにくっきりと見えた。

 

「が、頑張ります」

 

 だから、月並みだが精一杯の意気を込めて宣言した。

 

 

 ――――

 

 

 陽が中天に差し掛かる半時ほど前、遂に葛陂賊が潁陽城に攻め寄せてきた。いや、あれを葛陂賊と呼んでいいのだろうか? 蕣華の視線の先には、蠢く人の群れの其処彼処から生える粗末な旗が寒風に棚引いていた。

 

「黄布の旗印……」

「おやおや、もう黄巾賊気取りのようですね」

「どういう事だ? 本隊は今頃黄巾賊と合流してるのかも知れないけど、あいつ等にそんな密に連絡が取れているとは思えないんだけど」

「そりゃあ、勝手に掲げてるんでしょう」

 

 蕣華の疑問に、脇に控える子敬が事も無げに答えた。それに対し、トラが更に疑問を投げかけるが、子敬の返答は気楽なものだ。内容は馬鹿々々しいが。いや、だからこそ気楽に応えたのだろうか。

 

「そんなことして大丈夫にゃ?」

「そんな事でもしないと、あれだけの数にはなりませんからねー」

「ああ、なんで三千も未だにこの辺りを彷徨(うろつ)いてるのかと思ってたけど、要するに募兵でここまで膨れ上がったのか」

「そういう事です。ただの賊には靡かずとも、腐った漢王朝を打倒し自分達が天下を差配しようとなれば、転ぶ連中も出てくるって訳です」

「馬鹿げてるな……」

「同感です。でもね、この豫州ではその馬鹿な迷妄にこそ、縋りつく価値を見出す弱者がそれなりに居るんですよ」

 

 子敬の言葉に、子明の眉音が寄った。豫州の現状は酷いものだ。連中がどんな勧誘の仕方をしたかは分からないが、あの中には糾合された匪賊の他にも、王朝と現状に絶望した庶人も混じっているのだろう。

 子明のその反応を横目に、蕣華は子敬に更に疑問を重ねた。

 

「黄巾賊にはそれほどの求心力があると?」

「のようですね。私も直接は知らないんですけど、どうも頭目の張角(ちょうかく)(*158)なる者が大陸を手に入れると宣言して、信徒は大盛り上がりらしいですよ」

「信徒、ね」

 

 子敬のその言には溜め息で応え、背後を振り返った。城壁には子敬の郎党の一部と義勇兵の中で兵役経験者が、手に弩を携えて揃っていた。城門内側には郎党の残りと県兵が槍を担いで控えている。残りの義勇兵は物見や、矢や石の補充等に就いている。

 

「確かにこの国の現状は酷いものだ」

 

 大きな、よく通る声で蕣華は告げた。門楼下の槍部隊にまで聞こえるような声で。

 

「官吏の腐敗、天候不順による凶作、賊の横行、数え上げれば切りがない。多くの者が、この国はもう駄目だと、限界だと感じている」

 

 賊軍が徐々に近づき、その行軍の騒めきが大きくなる中、直に戦端が開かれると誰もが緊張するその中で、蕣華の言葉は続く。

 

「皆の中にもそう思っている者は居るんじゃないか? 県令がいの一番に逃亡するなど、目の前で失望を味わわされた事だろうし。正直に言おう。私も今のままではこの国に先はないと思っている」

 

 確かに多くの者が常々思っていた事だ。だが、それを高らかに明言して見せた蕣華に、どよめきが起こる。誰も思ってはいても口をするに憚れる。下手な事を言えば、我が身がどうなるか……。しかし、目の前の少女は事も無げに告げた。一縷の希望を託して指揮官として迎えた、まだ年若い少女。自分達は誰を将に迎えたのか、それが解かっていなかったと、今この時気が付いた。皆が蕣華に注目した。声を荒らげ県城に攻め寄せてくる黄巾賊も、昼へと昇り続ける太陽を以ってしても上がらぬ冷めた気温も、戦へのそれぞれの意気込みも、今この一時は忘れてただ蕣華だけを意識した。

 

「そんな中で、群雄として次の天下を窺う地方領主の噂なんかも広まってきている。後漢王朝を再生させるか、新たな天を戴くか、何が最良の道なのかは卑小な私には判らない。だが、奴等にだけは次の天下を任せてはならない。それだけは確かだ」

 

 魯子敬は腕を組みながら悠々とした笑顔で、見守るように聞いていた。呂子明は直立不動のまま聞き入っていた。

 トラは、眩しそうに見詰めていた。ああ、ここから始まるんだ。と思いながら。何が、かは分からない。ただ、蕣華との楽しい旅はここで終わり、別の何かがここから始まるんだと、それだけは判った。

 

「卑劣な賊のままで天道を往けるなどと、厚顔な思い違いでこの地を蹂躙した奴等を許しておけるか? 奴らの妄想する天下に生きたいか?」

 

 嫌だ。と誰かが呟いた。当然だ、そんな事が許せるか。別の誰かが声を上げた。騒めきは次第に広がり、やがて大きなうねりになった。

 

「ならば思い知らせてやろう。奴等に自分が何者なのかを思い出させてやろう。何者にもなれずにここで只無造作に滅ぶのが相応なのだと、理解させてやろう」

 

 うねりは一つの意志となり、鬨の声を上げさせた。

 蕣華は再度振り返り、黄旗に導かれ迫る賊軍を見据えた。此方の鬨の声に、負けじと怒号を上げる賊の群れを。

 

「誅滅の時は今! 弩弓隊構え!!」

 

 蕣華の檄に導かれるように壁上の弩兵が一斉に構える。練度も経験もばらばらな混成軍だが、不思議ともたつく者はなく、足並み揃えてその時を待った。

 

「放てぇっ!!」

 

 その一言で、蕣華の乱世が始まった。

 

 

 ――――

 

 

 開戦と同時に亞莎は門楼から降り、槍兵隊の指揮に就いた。粗末ながらも、荷車に丸太を括った簡易な撞車(どうしゃ)が用意されているのを見た子敬の指示だ。合図を待って簡易修復された城門を崩し、敵に逆撃を加えるのだ。

 三千の兵では城を取り囲めない。一方向から攻めてくるだろう。となれば、以前の夜襲で打ち壊した城門側から攻めようとするだろう。だから子敬は修復の際、門扉に仕掛けを施しておいたのだ。打ち込まれた楔に繋がった縄を引っ張れば門は崩れ落ち、侵入者を押し潰す兵器にも、進撃を阻む障害物にもなる。

 大切なのは適切な機を逃さない事。それは門楼上の子敬が請け負った。

 どれだけ待ったのか。ほんの少しのような気もするし、随分と待たされた気もする。どちらにせよ、遂にその時は来た。子敬からの合図。寸分の遅れもなく縄を引く。各所に打ち付けられた楔に繋がる十を越える縄を、亞莎はひとまとめに苦も無く引き抜いてみせた。

 崩れ落ちる寸前に大きな音を立てて撞車が城門に突進して来た。ただ一度の突撃で門を崩壊せしめたと、戦果ににやつく間もなく賊兵共は門扉に押し潰された。ただ、撞車だけが突進の勢いのまま、門の内側に到達した。

 黄巾賊は思いもよらぬ事態に一瞬固まったが、門楼の上からの矢や投石が雨霰と降り注ぎ、慌てて城門へと殺到した。門扉の残骸と、そこに埋もれた仲間を乗り越えて、押し合い圧し合い県城内に侵攻しようとする。しかし、待ち受けるのは一人の少女と、無数の槍衾であった。

 

 

 ――――

 

 

 城門の攻防は凄惨を極めた。門扉の残骸と撞車、更には時と共に増える賊の死体が障害となり、黄巾賊は侵入を果たせずにいた。しかし、後から後から味方が押し寄せてくるため満足に退く事も出来ない。外から見れば、侵攻速度は遅いが、それでも続々と城内へと進入しているのだ。開いた城門へ殺到するのは当然であった。城壁への攻勢が不利な現状、如何に速く城内へ兵を送り込めるかが勝負だ。碌な攻城兵器を持たぬ軍ではこの一点突破のみが勝機だった。用意できたのは撞車を別にすれば精々が弓と梯子で、城壁に取り付くところまでは出来たが、壁上へ到達するまでには至りそうもなかった。

 だが、城内へ到達した僚兵はもれなく死体となっている。それが賊将の黄邵まで伝わらない。何故なら、城門の攻防から背を向けて後方へ下がろうとする者の後頭部には、例外なく矢が額まで貫通していたからだ。

 今もまた、伝令に走ろうとした賊兵を射抜いたのは誰あろう蕣華である。

 

「いやぁ、一息に三人射抜きますか」

「流石にそろそろ限界かな」

「それにしても、積極的に旗持ち狙ったり、伝令を潰したり、慶祝さんって割と性格悪いですよね」 

「子敬、後でちょっと正座ね」

「ひゃわわっ?! なんでですか! 折角褒めたのに!」

「今の褒めてるつもりだったの?!」

 

 細かな指示の合間に子敬が感嘆の声を上げる。それに対し、蕣華はそろそろ次の段階に移行する気が近づいてきた事を知らせる。すると子敬が軽口を叩いてきたので、同様に応えると、予想外の言葉が返って来たので純粋に驚いた。そんな戦場とは思えぬやり取りを交わす二人だが、その間にも淀みなく己の為すべき事を熟している。 

 

「姉ー、また二人逃げてるにゃ」

「ん」

 

 そんな二人に動じず敵兵の動きに集中していたトラが報告すると、次の瞬間には二人の敵兵を射抜いていた。それを横目で確認すると、子敬は戦場を次の段階に進めるべく動き出した。

 

「では、子明ちゃんに伝令を」

「じゃあ、私も一足先に行ってるから」

「へ?」

 

 言いながらトラに弓を預け、傍らに立て掛けてあった秋草を手に取りながら子敬に告げる。

 

「後の指揮は任せるね」

「ちょ、ちょっと、慶祝さん!?」

 

 さっと左右を見回し、一番手近な梯子まで進む。胸壁に飛び乗り、そこに掛けられた梯子に片足を乗せ、そして後ろ足に胸壁を蹴りだして梯子を倒した。片足で自身を乗せたまま。

 

「結構無茶苦茶するのは絶対に慶祝さんの方ですよね?」

 

 倒れ込む梯子が地面に激突する寸前に敵中に飛び降り、そのまま賊兵を薙ぎ倒し始めた蕣華を、ぽかんと見送って暫し、魯子敬は誰にともなく呟いた。その呟きに、トラが律儀に「にゃ!」と返事を返した。

 

 

 ――――

 

 

 子敬からの伝令を受け取ると、亞莎は槍兵隊を後ろへと下げた。そして、障害物として放置されていた撞車を睨むと、ばさりと長すぎる袖を翻した。すると、ジャラリと幾本もの分銅鎖が袖口から垂れた。暗器手甲“人解(れんげ)”の一機能である。亞莎は両腕を激しく振り分銅鎖を操ると、撞車の荷車を破壊した。一つ一つの分銅は親指よりも少し大きい程度だが、破壊力は十分だ。そして、残った丸太を分銅鎖で絡め取ると頭上でぶん回し始めた。

 槍兵が下がった事で好機とみて城内へ殺到しようとした黄巾兵は、目の前で木っ端に破壊された撞車を見て足を止めた。次いで、丸太が凶暴な風切り音を立てて振り回されるのを見て後退ろうとした。しかし、後から詰めてくる味方に邪魔されて無様な押し合いとなるだけだった。

 亞莎はそんな賊兵に向けて無情に丸太を放った。撞車を超える勢いで射出された丸太は、賊兵と障害物を蹴散らしながら、轟音を立てて城外まで素っ飛んでいった。一瞬の沈黙が下りる。その中を鋭い足取りで進む亞莎。城外へ歩みながら両袖を振るい分銅鎖を仕舞う。

 突然の事態に付いて行けず、戦場で致命的な隙を晒す敵兵をぐるりと見まわし、背後の味方に向けて震えそうになる声音を無理やり抑えて大声で命じた。

 

「槍兵隊前へ! 敵を蹴散らしてください!」

 

 その声に、敵も味方も一斉に動き始めた。逃げようとする敵は放っておき、まだ向かってくる意気地のある敵を殴り倒しながら、人に命じると言う慣れない緊張から解放されて、密かにほっと息を吐いた。その立場に立った以上、命じた後も、無論その前からもその責務は続いているのだが、亞莎にはまだその意識は育っていなかった。なんと言っても彼女はここへ至る前はただの村娘であり、これが初陣であったのだから。だが、その働きは上々であった。

 

 

 ――――

 

 

 後方で喊声が上がった。子明が城門から打って出たのだろう。

 

「おお、早いな」

 

 賊徒を薙ぎ倒しながら感嘆の声を上げた。子敬の策を聞いた時、攻勢に出る為には侵攻を防いでいた障害物を取り除かねばならない問題をどうするのかと疑問を投げかけた時、子敬が何か言う前に「任せて下さい」と意気込んできただけはある。

 これなら最早この戦は決したも同然だ。敵共の動揺が周囲の全てから伝わってくる。蕣華は軍気を読むにそれ程長けてはいないが、軍の振りをした賊の群れは読み易かった。全体の動揺が向く先、賊徒共が頼りとする者がどの方向に居るか、容易く読み取れた。

 蕣華は即座にその方向へ向けて一人進軍を開始した。あとは敵頭目の頚を落とすだけだ。

 

 

 ――――

 

 

 戦後の処理が一段落着く頃には日が暮れようとしていた。

 蕣華は再び県堂の議場に居た。今、この場には蕣華を合わせて四人。最初にこの場で出会った四人だけであった。つい先頃までは地縁の県吏や祭氏などの豪族もいて先々の事を協議していたが、四人の、特に魯子敬と呂子明の空気を察して、必要な事項だけ手早く纏めて退室していた。

 その二人は、四人だけになってから一言も発さず蕣華を見詰めていた。蕣華はその二人の視線を泰然と受け止めていた。何となくそうなる気もしてたし、この議場で他ならぬ子敬に発破をかけられてから、とっくに腹をくくっていた。トラは場の空気に呑まれたのか、一人訳もなく緊張していた。

 そのトラの緊張を和らげるためでもなかろうが、ふっ、と子敬が静かに笑んだ。そして、綺麗な所作で跪いて拱手した。子明もそれに倣い、静かに続いた。

 

「我が名は魯粛、字は子敬。真名を、包と申します。どうかこの真名、貴女に受け取って頂きたい」

「私は呂蒙、字を子明。真名は、亞莎です。私の真名もどうか受け取って下さい」

 

 蕣華は不思議な感慨に包まれながら二人の真名を預かった。遂に自分にもこのような時が来たかと、それも無官のままでとは予想だにしていなかった。母の幕僚となるか、或いは他の誰かの旗の元に参集するかして軍功を積んだのち、その時、自らの配下を得る事もあろうと考えていた。寧ろ、故郷に帰らなかった場合、自分こそがまず誰かにこうして跪いていただろう。

 

「確かに二人の真名預かった。これからは私の事は蕣華と呼んでくれ」

 

 現実は時として突拍子もない事態を目の前に運んでくるものだ。この時の蕣華は頭の何処かでそんな風に感じていた。しかし、現実というやつが本当に突拍子もない事態をこの少女に届けにやってくるのはまだ先の事だった。

 

 

 

 第十二回――了――

 

 

 ――――

 

 

 ある時、ある場所にて――

 

 それは肌寒い夜の事だった。県城から阡陌(農道)を外れ、農地の向こう側に広がる枯草の草原を二人の女性が歩いていた。

 明かりもなく、道もない。目を凝らせば夜闇よりも黒々とした県城の影姿が、草原の向こうに辛うじて見える程度の頼りない深々とした空気の中、二人の態度は悠然としたものだ。

 その余りに静かな空気の中、二人の会話は驚くほど遠くまで届いていたが、それを聞くものは他に誰も居なかった。話題は近頃俄かに流行り出した管輅(かんろ)(*159)の占いである。

 二人の内、年若い方はその胡散臭さに眉を顰めたが、年配の方はそれでも信じる者の多い現状を憂いていた。しかし、怪しげな占いではあるが、年配の女には何か思うところがあるのか思案深げに言葉を続けようとした。

 

 その時、周囲に不可思議な音が響いた。短く、透き通った、何かが破裂したかのような、そんな音。

 

 すぐさま警戒態勢に入る二人。荒事に慣れた、慣れ過ぎた者の反応。油断なく周囲を見据える。すると、今度は音が連続して響き、突如として視界が白に染まった。

 それは強烈な光だった。まるで夜が破け、裂け目から朝が顔を覗かせたような明るさだった。そしてそれは発生した時と同じ様に、突然に止んだ。

 

 元の頼りない夜に戻ると、二人は周辺にまだ何か異変はないかと目を凝らし、気配を探った。すると、年配の女性が何かを見付けた。

 それは人だった。先程まで、確かに二人以外には誰も居なかったのに、忽然とすぐ目と鼻の先に現れたのだ。ただ、その人影は倒れ伏していた。一見して危険はなさそうだが、それでも油断なく近づいてみれば、それはまだ少年といってもいい年頃の男だった。

 実に奇妙であった。光と共に現れた少年。不思議な白い衣装を纏った少年。二人の脳裏には、直前に話していた占いの内容が浮かんでいた。

 

 即ち、――天の御遣い。

 

 

 こうして、北郷(ほんごう)一刀(かずと)はこの外史に光臨した。

 だが、今は未だその天命は定かならず、大陸の行く末も見えぬままである。

 

 

 

 




 嗚呼、長かった。
 予定よりも随分と長くなった蕣華の旅も終わり、次回より遂に原作開始時に突入します。お楽しみに。
 ただ、恐らく三月中の投稿は難しいと思われます。四月中には必ず第十三回 黄天當立(仮題)をお届けしたいと思いますので、ごゆるりとお待ち頂ければ幸いです。


*155魯粛:徐州下邳国東成県(とうせいけん)出身の政治家。始め袁術に仕えたが、すぐに見切りをつけ、その元を去った。若い頃から気違い扱いされる程に剛毅であったが、孫権に仕えた時も、皇帝になるよう進言するなど剛胆に過ぎる発言で周囲を驚かせた。劉備陣営との同盟の立役者であり、周瑜の後継者として活躍したが、自身も四十代の若さで病没した。
恋姫では恋姫英雄譚でデザインされ、天然毒舌娘として描かれるようだ。通称ひゃわわ軍師。革命にてデザイン・設定をブラッシュアップされて登場するようだ。

*156呂蒙:豫州汝南郡富波侯国出身の武将。成人前から姉の夫鄧当(とうとう)の軍に密かに従軍するなど血気盛んな人物であった。鄧当は孫策の配下であり、その縁で孫策に仕えた。孫策没後は後を接いだ孫権にそのまま仕えた。多くの戦場で大功を挙げた猛将であったが、若い頃から学がなく、その点について孫権に諭されて勉学に励み、多くの学識を身に付けたという。魯粛死後、その後任となった。荊州を巡って関羽と対立し、その征伐において大役を果たし荊州奪還を成した。その後、病床に着き矢張り四十代の若さで世を去った。
恋姫ではかなり奥手で恥ずかしがりやな若手仕官として登場する。史実とは逆転して、陸遜である穏の後輩として軍師教育を受ける。

*157黄邵:出身地不明の賊徒。黄巾賊の渠帥の一人。何儀らと共に汝南・潁川を根拠地として暴れ回った黄巾の一派。数万の軍勢を率いたという。後に袁術に服属したが、討伐に出向いて来た曹操軍との戦闘で于禁に討ち取られた。

*158張角:冀州鉅鹿郡出身の教祖。太平道という道教系宗派の創始者で、黄巾賊の首領。八州に亘り数十万の信徒を得て、後漢王朝を転覆せしめんと武装蜂起した。しかし、この黄巾の乱自体は比較的短期で鎮圧された。張角自身も乱の最中病死した。だが、この乱を契機として後漢王朝の混乱は長く尾を引き、三国時代へと流れつく事となる。
恋姫では底抜けに明るい歌姫として登場する。妖術書の力を得た状態で迂闊な発言をしてしまった為、黄巾の乱が引き起こされてしまう。

*159管輅:冀州平原郡出身の占師。人の誕生日や命日を当てるのを得意とし、自身の寿命も予言した。また、夢占いも得意としたようだ。

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