土曜日になり、俺は雪ノ下との待ち合わせ場所に向かった。集合時間20分前に着いたにも関わらず、既に雪ノ下は駅前で人目を引いていた。
「はええな」
「あら、気づかなかったわ。どうやったらそんなに気配を消せるのかしら?」
いきなり辛辣だな、こいつ。まあいい。
「いいからさっさと行くぞ。迷うかもしんねえし」
「そうね」
行き方を調べてきた雪ノ下に連れられ、最寄り駅まで着いたまではよかった。
「・・・おい、ここさっきも通ったぞ」
「うるさいわね。わかってるわよ」
絶対わかってねえだろ。そもそも四回右に曲がってる時点でおかしいのはわかれよ。フラグ回収してんじゃねえよ。
「あーもう、地図貸せ」
グーグル先生の教えの乗った紙を雪ノ下からひったくる。大体の方向は合ってるな。若干右に逸れてるが。
「・・・あなたに教えられるなんて屈辱だわ」
「だったら地図ぐらい読めるようになっとけ。こっちだ」
出発時間は早かったにもかかわらず、予定時間より20分ほど遅れて目的地に着いた。
「やっと着いたか」
あとはインターホンを鳴らして、由比ヶ浜を待てばいいだけだ。表札も正しい。
雪ノ下が押すと、ピンポンと音がして、ドアがガチャリと開く。
「ヒッキー、ゆきのん! 来てくれたんだ!」
満面の笑みを浮かべ、普段着の由比ヶ浜が姿を現す。しかし今こいつ何か変なこと言わなかったか?
「ええ、当たり前でしょう。それで・・・ゆきのんというのは?」
「雪ノ下雪乃だからゆきのん! ・・・だめかな?」
申し訳なさそうに顔を俯けつつも、上目づかいで雪ノ下を見る。何このビッチじみた仕草。こんなん大抵のやつ落ちるだろ。ただし美少女に限る!
確かに由比ヶ浜は客観的に見ればかわいい。いや、主観的に見てもかわいいな。だが雪ノ下が早々籠絡されるなんて・・・
「べ、別にだめとは言ってないのだけれど」
「ホント!? やった!」
籠絡されてたー! ゆきのんマジチョロイン!
「・・・何かしら比企谷君。不快な目でこちらを見ないでくれるかしら」
ふぇぇ、ゆきのんこわいよぉ・・・、とか言ったらマジで殺されそうなので胸の内に留めつつ、俺は由比ヶ浜に目を向けた。
「はやくやろうぜ」
「あ、ゴメン。ささ、中に入って!」
てってっとこちらに来ると、雪ノ下の腕を取り、家の中に引っ張っていく。雪ノ下も口ではぶつくさ言いながら顔は満更でもないですよ?
「今日夜まであたし一人だから、のびのびクッキー作れるよ!」
それは助かる。俺みたいな人相のやつと鉢合わせすれば冗談じゃなく通報されかねん。
「それじゃあ早速作業に取り掛かるとしましょうか」
並の家庭の台所など、三人もいれば身動きが取れなくなってしまう。なので由比ヶ浜と雪ノ下が台所に立ち、俺は隣接するダイニングで二人の様子を見ていた。いや、雪ノ下曰く見られていたと表現する方が正しいであろう。他人の家を荒らす可能性があるからだそうだ。
取りあえず個々でクッキーを作っているのだが、雪ノ下はテキパキと完璧にこなしているのだが、由比ヶ浜は一つ一つの所作が雑だったり、不慣れだったりで、ついつい口を出してしまう。
「おま、卵もろくに割れないのかよ・・・」
「何で量らずに投入!? 何のための計量カップだよ。何のためのレシピだよ!」
「どうしてそこでコーヒーの粉!? レシピ通りなのか!?」
「もうヒッキーうるさい! あっち行ってて!」
ええー・・・これ俺が悪いんすかね? これでも抑えた方だぞ。つうかやっぱしレシピどおりやってねえじゃねえか。
「おい雪ノ下。こいつに何とか言ってくれ。・・・雪ノ下?」
「比企谷君。今、集中しているから後にしてもらえるかしら」
・・・だめだこいつら早く何とかしないと。お前は教えに来たんじゃねえのかよ!
「ふう、できたわね。あとは焼くだけ・・・何があったのかしら」
雪ノ下が由比ヶ浜の惨状をとうとう目にする。つうか隣でやってて気づかないってすげえ集中力だな。
雪ノ下の見た光景を端的に表すなら・・・まあ悲惨だな。正直渡されるやつが可哀想になるレベル。飛び散った卵の殻に、コーヒーの粉一袋がぶちまけられたボウル、俺。・・・俺も悲惨な光景の一部なのかよ。
訳が分からないという風にこめかみを押さえる雪ノ下。
「取りあえず私の指示監督の元作り直しましょうか。これは捨ててもらって・・・」
「ええ!? もったいないじゃん! 焼こうよ!」
誰が食べるんだよ! 誰が目に見えてる地雷踏むんだよ!
俺の心の叫び虚しく、雪ノ下の整った生地と由比ヶ浜の・・・な生地がオーブンに入れられる。・・・既に何か変なにおいがするのだが。やっぱ俺も食べなきゃダメかな? ・・・だめだな、はあ。小町、先立つ不孝をお許しください・・・小町親じゃねえけど。
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クッキー作ったことないのでおかしなところがあったらすいません
追記
返信は気づいたら返すことにしました。