不良八幡の学校生活   作:雨雪 東吾

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夏の球技大会 15※

  第一セットの終焉は球技大会とは思えないほどの困惑と静寂に満ちていた。その大半は俺のせいだろうが、乗ってきた先方も少しは非はあるだろう。

 

 ビリビリと腕が痛むが、それ以上にのどが潤いを欲している。この炎天下の中スポーツをしていたのだから当たり前なのかもしれない。しかし考えてみても欲しい。俺は可能な限り日陰を歩く男だ。外にも極力出ない。つまり日光に対する免疫も人一倍少ないということだ。加えてこのセット、殆ど俺が拾い、スパイクを打ったために体力の消耗も著しい。頭がクラクラする。

 

「比企谷君、大丈夫?」

 

「おう。ただ次は出られないから戸塚に任せるわ」

 

「うん、任せて!」

 

 あいつにも結構無理をさせたと思うが、まだまだ元気そうだ。流石運動部所属といったところだろうか。

 

「本当に大丈夫? 何かフラフラしてるけど」

 

「ああ。今しんどいから一人にしてくれ。木陰で休んでくる」

 

「わ、わかった」

 

 由比ヶ浜には悪いが今は余裕がない。少々突っぱねる言い方だったが由比ヶ浜ならまあいいか・・・何がいいのだろうか。

 

 太陽の熱にやられて思考回路もショート寸前、水筒の中身は空になってしまったし、余裕が出来たらウォータークーラーにでも。ショウタイムはその後かな・・・。

 

「比企谷」

 

「あ?」

 

 ・・・佐伯か。律儀に見てくれたってことでいいか? まあ見ようが見まいがあまり関係なかったが、試合終了後に居てくれないとどうしようもないから助かった。

 

「俺、やっぱ球技大会出るわ」

 

「・・・は?」

 

「いや、お前らが真剣にやってんの見てたら俺もやりたくなってきちゃってさ」

 

「・・・」

 

「だから他の人たちにも伝えといてくれないか? 特に雪ノ下さんに・・・」

 

 おおう、今日の出来事が既に彼のトラウマに・・・じゃなくて!

 

「お前、周りはどうすんだよ。そら素人目にはわからんかもしれんが、上手いやつにはばれるぞ」

 

「・・・それで離れられちゃったら、また作ればいいかって。もう最近やることなくて暇で暇で。好きだったゲームやっててもどっか乗れなくて。やっぱ俺はバレーやりたいんだ。部にも入る。だからこの試合見ろって言ったんだろ?」

 

「・・・ああ」

 

 俺の目論見とは全く違うが、解決できたならいいか。なんかすげえ拍子抜けしたが。というかそんなこと予見できるわけないだろ・・・。

 

「だから比企谷、その・・・ありがと。見ず知らずの俺なんかに真剣になってくれて」

 

「別に。・・・誰かと打って来たらどうだ? 大分ブランクあるだろうし」

 

「そうだな。じゃあ」

 

「ん」

 

 ・・・よくあんな恥ずかしいセリフを言えるな、臆面もなくとはいかなかったが。聞かされるこっちが恥ずかしいっての。これが青春か? リア充と非リア充との違いなのか?

 

「あっつ・・・」

 

 この熱さは太陽のせいだ、絶対に・・・というか男の恥じらいとか誰得!? 腐女子かホモにしか需要ねえっつうの!

 

「大丈夫か比企谷」

 

「平塚先生・・・ええ、大分」

 

「その割には顔が赤いな」

 

「・・・太陽に焼けたんですよ」

 

 もういいから、止めてくれ。俺は褒められ慣れてないだけだから。そのせいで顔が赤いだけだから。

 

「それならいいが・・・そういえば依頼、解決できたみたいだな。佐伯の顔、憑きものが落ちたみたいだったぞ」

 

「そりゃようござんした。これからはそういった面倒事を持ち込まないでいただければよいのですが」

 

「私だって自分で解決したいが、如何せん教師としての仕事が大変でなあ」

 

 放置しておけという隠された意味を知ってか知らずか・・・まあ気づいた上でこういった返答を返しているんだろうが。そもそもこの人に生徒の悩みを見逃せと言っても聞かなさそう。それほどまでに自分の信念を貫いているようにみえる。というか強そう(小並感)。

 

「何だ比企谷」

 

「いえ、何も」

 

 相も変わらず恐ろしい。気を抜くと食われそうだ。しかし、この先生に人気が出るというのも頷ける。端正な顔立ち、自信に満ちた言動、背筋もピンと伸びており、白衣がよく似合っている。しかし国語教師だ。

 

「私はそちらの方が好きだな」

 

「はい?」

 

「目の話だ。鋭く睨みを効かせる目つきも嫌いではなかったが、今の君は他人を受け入れようという風に見える」

 

 ・・・どこかでも似たようなことを聞いたな、今日。

 

「そうですか。そらどうも」

 

「まあ、そう易々と他人を許容できんか。無理もない、君の目を見ればわかる」

 

「何ですかそれ」

 

「一度言ってみたかったんだ、この台詞」

 

この人はぶれねえな・・・。

 

「・・・比企谷」

 

「はい」

 

「痛みに慣れすぎるなよ」

 

「・・・運動には慣れませんね」

 

「中々に出来ていたとは思うが、あまり無理をして倒れられてはこちらが困る。今日のところはこれだけ話せれば大丈夫そうだがな。試合が終わる頃には戻ってこい。いいな」

 

「了解しました」

 

 彼女が釘をさしたのは中学のことだろうか。いや、あの程度のことが高校にまで広まっているとは考えにくい。耳にするならもっと・・・しかし、ドキリとさせられたのは事実だ。俺という共通の敵を作ることで佐伯と周りとの結束を強めようとしていたのだから。

 

 確かにこの方法は俺に精神的苦痛を与える。しかしこれはどうということはない、普段通りと言うことだ。腫れ物扱いされ、嫌悪され、何ら中学時代とは変わらない。痛みを感じるということも既になくなった、以前の俺ならまだしも今の俺には。

 

今回は幸か不幸かそうせず済んだが、いずれ使うときが来るのだろうか。まやかしの結束しか作れないが、高校三年くらいは持つだろう。事の後まで面倒みる気はないしな。

 

 超絶ネガティブな成長を感じたところで笛が鳴った。試合終了の合図だろう。水は・・・後でいいか。

 




これにて球技大会編終わりです。

前回更新から一月かあ・・・。

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