不良八幡の学校生活   作:雨雪 東吾

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クッキー作り 3

 ガラリとドアを開ける。職員が一斉にこちらを向き、すぐさま目をそらす。まあ関わりたくないだろうし、仕方ないだろう。俺もその方が助かる。

 

「比企谷か。どうした?」

 

 何かの資料を抱えた平塚先生が目の前に立つ。そういやこの人いつも白衣来てるな。理科系等の教師でもないのに。

 

「少し家庭科室を使わせていただきたく」

 

「依頼か?」

 

「まあ・・・」

 

「わかった。家庭科の先生を呼んで来よう」

 

 白衣を翻し、平塚先生は一人の教師の元へと向かう。数回の押し問答の後、顔を曇らせた平塚先生が戻ってきた。

 

「比企谷・・・悪いが・・・」

 

 まあ予想はできた。家庭科教師が俺をちらちら見てたからな。だがここで引き下がるわけにはいかない。俺の家にあいつらをあげるなんて絶対・・・。

 

~~

 

「では、賭けは私の勝ちということで」

 

 嬉しそうな雪ノ下が勝ち誇った笑みを向けてくる。対して由比ヶ浜は苦笑いである。これじゃあ雪ノ下さんは友達できませんね。俺が言えることじゃねえけど。

 

「お前が行ってりゃ使わせてもらえたかもしんねえのに」

 

「そうね。まああなたに行かせたのは保険みたいなものね」

 

 こいつ、そこまで考えて俺に行かせたのかよ。

 

「それに、材料を買いに外に行けば、日も暮れてどうせ家庭科室なんて使えないわ」

 

「別に今日じゃなきゃいけねえってこともねえだろ。明日がバレンタインってわけでもねえし」

 

「あら、あなたがバレンタインという単語を知っているなんて驚きね。まあ、あなたの妄想の材料くらいにはなりそうね」

 

「ばかやろう。チョコもらって告白されたことぐらいあるわ。それを引き受けたら目の前でその女子が泣き、断ったら他の女子に何を調子に乗ってるのかと言われ、結局周りから非難されるという同じ大団円を迎えるのを毎年繰り返してたわ」

 

 ・・・あれ、二人とも引いてんだけど。

 

「まあ毎年はさすがに嘘だ」

 

 去年は無かったしな、うん。

 

「・・・まあどうでもいいのだけれど。取りあえずあなたの家に向かいましょうか。近くにスーパーかなにかあるかしら?」

 

 くっ、話題をそらせたかと思ったのに!

 

「あー、今日はだめだ。あれがある」

 

「抽象的過ぎるわね。さっさとあなたの家に案内しなさい」

 

 結局俺の家に来ちゃうのかよ。俺の断り文句が意味ねえな、無敗だったのに。・・・まあ誰にも使ったことはなかったがな。

 

「別に今日じゃなくてもいいよ。明日とか」

 

「休みの日がいいんじゃねえか? 放課後じゃあどうやったって帰宅は暗くなってからになるし」

 

「・・・あなたにしてはまともなことを言うのね」

 

 よし、乗ってきたな雪ノ下。このまま土曜日になれば俺はこいつらを案内できない。そしたらこいつらは俺の家にたどり着けない! 以下無限ループ。

 

「じゃあ今からあなたの家の住所を提出しなさい」

 

 ですよね~。雪ノ下はそんな甘くはねえよな。由比ヶ浜だけなら騙せたかもだが。しかし、ループの一回目すら入れなかったか・・・。

 

「あたし住所とか教えられてもいけないよ?」

 

「・・・そうね。私が行き方を調べておくから一緒に行きましょうか」

 

「つうかそもそも俺いらねえだろ。お前の口ぶりからしてクッキー作れるだろうし、由比ヶ浜にはお前がついてりゃいいだろ。そうすりゃお前の家でも・・・」

 

「だめよ。これは奉仕部としての活動なのだからあなたも参加は確定よ。それにこれはあなたの更生もかねているのだから」

 

 ・・・つうかまじでこのままだと俺の家になるな。

 

「ヒッキーはさ、あたしの依頼、受けたくないの?」

 

 由比ヶ浜が寂しそうに頭のお団子を右手で触る。

 

「・・・まあ休日潰してまでやりたいことじゃねえが、一応俺も部員だからな。やるよ」

 

「・・・そっか」

 

 納得したように頷きながら笑みを浮かべると、由比ヶ浜は雪ノ下の方を向いた。

 

「うちでやろうよ。ヒッキー、家だと嫌みたいだし」

 

「・・・由比ヶ浜さんがそういうなら」

 

 助かった。由比ヶ浜に感謝だな。少し言葉を和らげるように努力してみるか。


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