不良八幡の学校生活   作:雨雪 東吾

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夏の球技大開 9

 白シャツに手をかけ、片手でちゃっちゃとボタンを外す。ここは家ではないため、帰宅部の俺が着替えるとしたら体操服しかないだろう。汚れ一つない体操着とクォーターパンツに着替え、水筒、タオルなどの準備をする。それらを一纏めに鞄にしまえば、用意は完璧。肩に担いで、廊下を抜け、白く光るグラウンドに踏み入る。涼しい冷房の効いた部屋から一転、照りつける日差しに晒される我が身は厳しい状態にある。帰宅部の性であるが、太陽光に耐性がないのだ。これが女子ならば日傘なり、麦わら帽子なりで対策できるのだろうが、男の俺には無理だ。男女差別だ! こんなことが罷り通る世の中で生きていられるか! 私は帰らせてもらう!

 

「・・・いつもより一層気色の悪い顔ね。その生気のない腐った目をどうにかしてくれないかしら?」

 

 タオルと帽子で日よけ対策万全な雪ノ下が現れた! リア充オーラを放っている。頑丈貫通して絶対零度で仕留めてきそうな特性ですね。こんなイケイケ()なファッションを雪ノ下に教えられるやつは一人しかいない!

 

「ヒッキー本当大丈夫!? 顔色悪いよ!?」

 

「いつもだほっとけ」

 

 しかし、雪ノ下が奉仕部以外で話しかけてくることは殆どない。なんなら俺が話しかけてもスルーまである。つまりは俺の顔は今相当酷いということだ。俺の思考ネガティブ過ぎない?

 

 しかしこう暑いと気が緩んでしまうのも致し方ないか。何せ今日の予想最高気温は37度、俺の平熱余裕で超えてる。かといって隙を見せるのは好きじゃないんですよね・・・なんて。

 

「そうね。あなたに太陽は弱点だものね。由比ヶ浜さん、もうこれ以上は止めておきましょう。彼はもう、その・・・死期が近いわ」

 

「近くねーよ。シキはシキでも開会式だろ、近いのは」

 

「そのしてやったりという顔、相手に異常なまでの不快感を与えるから即座に顔面を破壊することを推奨・・・いえ、命令するわ」

 

「待て、俺に決定権はないのか。日本は人権を大事にする国のはずだぞ」

 

「・・・? 人権は人間にしか適用されないはずなのだけれど」

 

 そっかー、俺人間じゃなかったか-。道理で中学の頃人としてみなされてなかったわけだよ-・・・で納得できるかっての。

 

「ヒ、ヒッキー、本当に具合悪くなったら保健室行くんだよ!」

 

「比企谷君に治療は逆効果じゃないかしら」

 

「・・・もう並びに行こうぜ」

 

 由比ヶ浜の心遣いに泣きそう。雪ノ下の言葉にも泣きそう。

 

「しかしお前らはしゃいでんな」

 

「だって球技大会だよ!? 勉強じゃないんだよ!? テンション上がるよ-!」

 

「ちょっと待って、由比ヶ浜さんと私を同列に語られるのはおかしいんじゃないかしら?」

 

「あれ!? ゆきのん!?」

 

「お前もタオルとか由比ヶ浜に巻いてもらって楽しそうだなって思ったんだが?」

 

「でしょでしょ? かわいくない?」

 

 んっふっふ→。ゆきのんこれは言い返せないっしょ→。悔しそうに歯がみするがいいさ。

 

「・・・じゃあ私はあっちだから」

 

「あ、あたしも! またね~」

 

「おう」

 

 俺氏完全勝利! はっはっはっ、雪ノ下もたいしたことないよのう。あーほんと、こんなアホなこと考えてないとやってらんね。なんでこんな暑い日に球技大会? 熱中症対策しろって、学校側が対処しろよ。もう少し涼しい時期にやるとか。そんなことお構いなしに校長なんかは絶好の運動日和とか言い出すんだろうな・・・。

 

「比企谷君、おはよう!」

 

「戸塚・・・おはよう」

 

 戸塚が動く度にフレッシュな匂いがするんだけど。柑橘系のいい匂いがするんだけどなにこれ? 本当、戸塚は生まれてくる性別間違ってない? 結婚を前提におつきあいを申し込んでもいい? ・・・こんなこと考えるのは夏の暑さの性にしよう。

 

 落ち着け八幡。戸塚なら優しそうだからもしかして付き合ってくれるんじゃないかと考えるのは止めるんだ。中学の頃それでどうだった? ・・・うん、大丈夫だ、俺は正気を保ててる。まず戸塚が男だと突っ込んでない時点で保ててない。

 

「でもこうも暑いと熱中症が怖いね。水分補給はこまめに取らないとだめだよ!」

 

 戸塚がこう言って回ればそれが一番の熱中症対策になる説を提唱したい。一校に一人戸塚的な。

 

「お前も気をつけろよ。もうすぐ大会だろ?」

 

「あー・・・うん」

 

「? どうしたんだ?」

 

「今ちょっと揉めててね」

 

「揉めてる?」

 

「うん。この間比企谷君が神庭君と庭木戸君のペア倒したでしょう? それから二人とも来なくなっちゃって。それで先輩達の顰蹙を買っちゃって・・・」

 

 一月くらい前だったか・・・そんなこともあったな。でもおかしいな。

 

「体育でまだテニスやってるが、日に日にあいつら上手くなってる気がしてたんだがな」

 

 素人目ではあるものの、庭木戸、特に神庭は目に見えて上達していた気がする。練習せずにそうなるとは考えにくいのだけれど。やべえ雪ノ下がうつった。

 

「そうなんだよ!」

 

 興奮した様子で戸塚がキラリと目を輝かせる。お、おう、そこまで上手くなってんのか?

 

「この間二人が来たとき、先輩達と戦ってたんだけど、もう完全勝利でさ! 二人は元から上手かったけど、弱小といえど、2年間のアドがある先輩方にはどうしても勝てなかったんだ! けど、この間の試合はもう完璧でね!」

 

 何この子すっごく嬉しそう。ねたみとかいう概念、こいつにはないのだろうか?

 

「でも、練習出てない上に、久しぶりに来たと思ったら先輩圧倒して、それで団体戦出せって言われたら先輩達も怒っちゃうよね・・・」

 

 うわーお、テンションの急転直下。感情顔に出すぎじゃないですかね? 俺には・・・環境の違いか。

 

「確かにわからんでもないが、普通は実力順じゃねえのか?」

 

「うん。でも練習不真面目だったし、最近は来てすらいなかったから、先輩や先生は絶対出したくないって」

 

 教師まで敵に回してんのかあいつら。庭木戸は世渡り上手そうだけど、神庭は酷いからなあいつ。庭木戸のフォローなかったら周囲敵に回してるまである。

 

「それでは静かにしてください」

 

「もう開会式だね。また後で、比企谷君!」

 

「おう」

 

 いらんことを考えてる暇はないな。依頼を遂行するための大事な大事な一日の始まりだ。

 




テニスの公式戦のは軟式テニスの子に聞いた限りでは、ダブルス出場全員、シングルスは大会側から呼ばれた人間だけ、団体はダブルス二組、シングルス三人だったかな?

よくわかりませんので、経験者の方教えてください。

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