「・・・またその話? もう終わったことだと思っていたのだけれど」
放課後、奉仕部部室にて由比ヶ浜は雪ノ下の説得を試みる。昼休みにバレーをどうしてもやりたいらしい。彼女の今いるグループではそういうのをあまり真剣にやらないからだ。
「折角高校入って球技大会があるんだからさ! 楽しまないと損だよ!」
楽しむねえ。それは勝者だけなんじゃ? もしくは一部のリア充どもだろう。彼らのいう楽しむって言うのは、一体感(笑)を感じるだの、団結だの、お前らだけが盛り上がっていて、俺みたいなやつは全く楽しめないのに、それに混じらないとノリが悪い、空気読めとやっかいなことこの上ない。仲いい奴らだけでやれよ。それで十分だろ?
「楽しめるかどうかはその人の主観ではないかしら? でもまあ、由比ヶ浜さんの頼みなら・・・」
そうだな、こいつら仲いいもんな。仲が良すぎて、俺のことが見えてないんじゃないかと思うときもあるぐらいだしな!
「え? なんか言った?」
恥ずかしいのか、後半小さくなっていった声は由比ヶ浜に届かなかったようだ。こいつ、ハーレムラノベの主人公の特技難聴をやるとは・・・恐ろしい子!
「んん! 佐伯君の依頼もバレーをすることで何か見えてくるかもしれないし、私はやってもかまわないわ」
わざとらしく咳払いをすると、雪ノ下はもっともらしいことを言って、一度は断った由比ヶ浜の頼みを聞き入れた。雪ノ下の言葉の裏を知る由もなく由比ヶ浜は脳天気に喜び、雪ノ下に抱きつく。ほうら俺のことなんざお構いなしにいちゃつきだす。そして暫くすると思い出したかのように・・・
「比企谷君、私たちをいやらしい目で見るのは止めなさい。あなたが女の子同士がその・・・仲いい様を見て良からぬ妄想をして楽しむといった気色の悪い性的嗜好を抱いているのは知っているのだけれど」
「ヒッキーきもい!」
これである。空気扱いからの罵倒。今日は厄日だわ!
「おい雪ノ下。人にあらぬ特性をつけるな」
いや、別にゆりは嫌いじゃないけど。す、好きじゃないし!
「あら? 違ったのかしら? でもその伸びきった鼻の下を見れば誰もがそう思うのではないかしら」
「うわあ・・・ヒッキーきもい」
嘘つけ伸びてねえだろ絶対! てか由比ヶ浜はさっきと同じこと繰り返すとか何なの? 深刻的な語彙不足なの? こわれたラジオなの? でも今回のマジトーンは普段以上に心にくるのでできればお止めいただきたい。即刻ゥ! そして永遠にな!
「でもヒッキー酷いよね。あたしが言ってもやってくれなかったのに、さいちゃんが言えばやるんだもん」
「お前それはだな・・・」
っと、依頼の件はこいつらに言わないようにするんだった。
「何でもない。それより今日何でこっち来たんだ?」
「あ、それはヒッキーにバレーやろうってもう一回言おうと思って」
「由比ヶ浜さん、もしかしてお昼休みのバレーの特訓にはそこの男もいるのかしら?」
「俺がいちゃ悪いかよ」
「ヒッキーと、あとさいちゃんもいるよ!」
一瞬ピクリと雪ノ下が顔を引きつらせる。彼女のようにコミュニケーション能力に乏しい人間からすれば、自分の見知らぬ人間がいるというだけで恐ろしいものなのだろう。よくわかるよ。理由は言わないけど。とても陽乃さんの妹とは思えない。俺も小町の兄とは思えない。
「今日も依頼なさそうだし、そろそろ終わりにしね?」
「そうね。ご苦労だったわ比企谷君。帰ってちょうだい」
うーん、この言葉からにじみ出る俺への敵意。何がそこまで彼女を駆り立てるのかわからないが、何度も通った道だし、また素通りする以外に選択肢はあるまい。俺は雪ノ下に対して不快に思わせるようなことはした覚えないんだが・・・あ、見るだけでだめだったか。
追記
変なところできれていたうえに、所々おかしなところがあったので修正しました。