不良八幡の学校生活   作:雨雪 東吾

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夏の球技大会 4

 昨日の一件により佐伯の状況は大体理解できた。バレー強豪校の排律中学出身かつバレー部所属だったことを最初の自己紹介で明かした結果らしい。否定する間もなく彼はレギュラーだかエースだか呼ばれるようになり、続けるつもりであったバレー部に入ることもできず、他にやることも見つからず帰宅部になっているらしい。

 

 しかし彼とて下手どころか上手い方だろう。排律中学は部員数は1年から3年まで合わせると毎年60名を超すという。彼はそこのベンチメンバーであり、交代出場も時たまあったらしいことから比較的優秀なのだろう。それでも劣等感というものは簡単に拭い去れるものではない。更には中学最後の大会、決勝戦のエースが総武高校に入り、既にレギュラーとして活躍しているらしい。入れば最後、強豪中学出身同士、比較されるのは目に見えている。

 

 誤解を解くこと事態は難しいことではない。彼のことを顧みないという条件さえ整えば。ま、それじゃあ依頼した意味がなくなる。

 

 ここからは俺が単独で動くか。雪ノ下に言うのは何となく地雷な気がするし、由比ヶ浜の場合はうっかり口を滑らせかねない。それに、人に頼るのは好きじゃない。

 

 情報を整理しよう。彼の依頼は当たり障りなく球技大会を終えたいというものだ。しかし、球技大会には出場したい。言葉の裏を読めば、彼はバレーに未練があるのだろう。バレー部に入りたかったと佐伯も言っていたし、しばらくしていない試合に出たいというものが根底にあるはずだ。

 

 奉仕部の基本理念は餓えているものには食べ物を与えるのではなく、食べ物の入手方法を教えること、つまり今回のケースで言えば理想は佐伯をバレー部にいれること。それにはどうすればいいのだろうか。

 

 まずは失った自信の回復。総武高校のバレー部はそこそこ強い。更には超高校級の選手が同年代にいる。比較される度に差は感じるだろうし、周りからの誤解のせいで非常に肝要。これをクリアしないことにはどうしようもない。

 

 二つ目に周りとの軋轢をどう生まないようにするか。彼には彼のコミュニティーがあり、そこから切り離すのは酷なものだ。騙されたと思わせてしまえば、否が応にも悪い印象を与えかねない。・・・ただ、本当に彼らが仲良く、真の友達であるならば、そんなことを考えなくてもいいのだろうけど。

 

 ただ、そんな関係など殆どの人間が築くことすらできず、常に当たり障りのない、自分の意見を押し込めた日常を送っていることだろう。俺は否定はしない。だから彼がそんな生活を望むのであれば、部外者である俺が壊していいはずがない。


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