不良八幡の学校生活   作:雨雪 東吾

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夏の球技大会
※夏の球技大会 1


 人気のない廊下を一人歩く。いつもの光景、いつもの時間。放課後に目指す場所は半強制的に入部させられた奉仕部部室である。初夏はとうに過ぎ、ジワジワとした暑さとセミの騒音が本格的な夏の到来を告げている。窓から外を見ると、木々は青々と茂り、風に煽られその枝葉を揺らす。その根元では男女が入り乱れて楽しそうに会話をし、部活とは名ばかりのお話しサークルが存在する。爆発しろ。

 

 その話題のタネというのはもっぱら球技大会なのだろう。俺の通う総武高校における球技大会というのは、男子はバレーかソフトを、女子はバレーかバスケを選択し、クラス対抗で頂点を決めるものだ。大体の高校では似たようなものだろうがな。

 

 戸塚もバレーであり、一緒に頑張ろうなどと言っていたが、どこまで本気なのだろうか? 特に気になるのは一緒にという点だ。一緒に頑張るというのは意味が分からない。

 

 努力は全て自分を高めるためのものだ。一緒にとリア充はのたまうが、結局差異はうまれ、才能の、意識の違いが如実に表れる。そこでやる気を失くす人間もいるわけで、一緒に努力するよりかは各々で努力した方がいい。別に俺にそんなやつがいないというわけではない。決して、マジで。本気と書いてマジで。

 

 いつもと変わらない思考力、我ながらほれぼれするぜ。

 

「うっす」

 

 いつもと同じようにガラリとドアを引くと、違和感。雪ノ下と・・・誰?

 

「んん!?」

 

「こんにちは比企谷君。この人は依頼者の佐伯忠利君。1-Dに在籍しているわ」

 

 依頼者・・・ですか。また面倒なことが起きなきゃいいが。大抵ラノベや漫画だと前の由比ヶ浜みたく奉仕部に入ったりするんだろうが・・・こいつはアクが強いようには思えんな。恐らく大丈夫だろう。ただのリア充っぽい。どんな判断基準だよ。

 

「・・・どうも」

 

 相手が俺を見たまま硬直しているので、取りあえず軽い会釈をし、定位置に座る。さてと今日ははたまの続きを・・・。

 

「比企谷君。あなたも部員なのだから」

 

「由比ヶ浜が来てからの方が効率いいだろ?」

 

「・・・そうね。佐伯君も好きにしてていいわ」

 

「あ、はい」

 

 辛いよな、こういうの。自分の知らない世界で好きにしろってどうしようもないよな。リア充特有のおしゃべりも俺にはできないだろうし、雪ノ下には効かないしな。ざまあみろ。

 

 対人は俺と雪ノ下の唯一と言っていい弱点だ・・・陽乃さんは別として。効率云々を抜きにしても由比ヶ浜を待った方が賢い。彼も話しやすくなるだろうし。

 

「やっはろー!」

 

 そんなこんなで能天気な声に間抜けな挨拶が加わり、頭が最弱に見える。だが今回はその残念な頭に頼らざるを得ない。非常に悲しいが、俺に対人スキルを求めるのは間違っているので仕方ない。

 

「こんにちは由比ヶ浜さん」

「うっす」

 

「あれ、佐伯君じゃん。どうしたの?」

 

 由比ヶ浜知り合いかよ。クラス違うくない? どんだけ顔広いんだよ。由比ヶ浜に顔広いって言ったら顔がでかいと勘違いされて俺が怒られそう。さすがにバカにしすぎか。

 

「この人は依頼者よ」

 

 読んでいた本を閉じ、雪ノ下は説明を始める。

 

「何でも球技大会で目立たずに終わりたいそうよ」

 

「・・・?」

 

 俺も「?」だよ。こいつに全くシンパシー感じないもの。もろリア充ですよこいつ。目立ちたいの間違いじゃなく?

 

「目立ちたくないの?」

 

「ああ。俺は中学じゃバレーやってたけど、高校じゃやる気ないんだよ。だから勧誘がうっとおしくてな。未だに誘われるんだよ」

 

 なるほど。つまりは・・・

 

「今回目立たなければ大したことない選手だって思われて、勧誘は途切れると考えた訳だな?」

 

「そ、そうだ」

 

「そっか、佐伯君の中学ってバレー強かったもんね」

 

「ミスしまくればいいんじゃねえの?」

 

「ヒッキーバカ? それじゃあクラスに迷惑かかっちゃうじゃん」

 

 こいつにバカにされると無性に腹が立つが正論だから何も言えない。俺は他人の評価なんぞ顧みないからそんなこと考えられなかったぜ。

 

「それとできるだけ下手にも見られたくないんだ」

 

「それは何でかしら?」

 

「っと、は、恥ずかしいから、です」

 

 雪ノ下さんの威圧のせいで若干どもってるじゃん。俺も慣れた今ですら、どもる自信あるぞ。あいつやっぱ怖い。

 

「そう。だったら休めばいいんじゃないかしら」

 

「それはちょっと・・・」

 

「折角の球技大会だもんね。やっぱやりたいよね!」

 

「そうだよな!」

 

 水を得た魚かよ。由比ヶ浜相手には強いな、彼。んなことより結構難しくないかこれ。

 

 佐伯忠利。1-Dで身長180前後。リア充っぽく、由比ヶ浜とは割と仲がよさそう。現在は帰宅部。球技選択はクラスの期待の眼差しによりバレーで、当日休むことと、ミスを連発することは拒否。部活終わりまでに聞くことのできた情報はこんなもんだった。あとは殆ど由比ヶ浜と会話してた。

 

 さてと・・・目立たないっても周りはボールを回すだろうし、当然周りも活躍することを期待している。否が応にも目立つだろうな。

 

 これは球技大会どうのより、勧誘を断る方向にシフトしていった方がいいか。明日本人に聞いてみよう。


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