不良八幡の学校生活   作:雨雪 東吾

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買い物 1

「うーっす」

 

「こんにちわ」

 

 部室のドアを開けると、雪ノ下一人。由比ヶ浜の姿は見当たらない。ついでにバカっぽい挨拶も返ってこない。

 

「由比ヶ浜は?」

 

「お友達と遊びに行くそうよ」

 

 若干不機嫌な様子なのは自分よりも他人を優先されたからですか? 少し独占欲強すぎませんかね。

 

 まあ俺としては二人と一人より一人と一人のがいいからな。どうぶつの森全否定かよ。

 

 今日も読書に勤しもうとページを開いたところで雪ノ下に声をかけられる。珍しいこともあるもんだ。

 

「何だ」

 

 少しためらいながらも、意を決したように息をすいこむと雪ノ下は一口に

 

「もうすぐ由比ヶ浜さんの誕生日だから買い物に行きたいのだけれど」

 

 ・・・うん? 行けばいいんじゃないのか?

 

「何で俺に言うんだよ・・・あ、俺にも買えってことか?」

 

 雪ノ下も回りくどいことすんだな。こいつなら買ってきなさい、部長命令よくらい言いそうだけど。

 

「違うわ。その・・・私の感性は一般の人と違うから、由比ヶ浜さんが喜びそうなものが分からないから、その」

 

「・・・俺に着いて来いと?」

 

「そう!」

 

「・・・俺の感性が一般の人と同じだと?」

 

「・・・そうとは全く思わないのだけれど」

 

 まあ仕方ないか。雪ノ下も今は由比ヶ浜という友達がいるかもしれんが、元はぼっちだし、そもそも人付き合いが下手過ぎる。拒絶している俺が言うのもおかしな話だが。

 

「・・・いつだ」

 

「え、あ、恐らく六月十八日だと思うわ」

 

 となると今週末に行かないと間に合わないな。

 

「土曜日でいいか? 場所はららぽでいいだろ」

 

 俺も由比ヶ浜のことが嫌いではないし、この話を聞いて買わなかったらただの嫌な奴だろう。

 

「いいの?」

 

「ああ。別に予定もないしな」

 

「それはわかっているのだけれど」

 

「・・・とにかく! 土曜な。それに、一般的かは知らんが、由比ヶ浜に合いそうな感性の奴なら当てがある」

 

「・・・脅迫は犯罪よ?」

 

「しねえよ」

 

「そうね。あなたにそんな度胸ないものね」

 

「うるせえ」

 

 紳士と呼べ紳士と。

 

~~

 

 時間きっちりに行くと、既に雪ノ下はベンチに腰かけ、本に目を落としていた。春の風に黒髪がたなびくさまが美しい。海藻みたいって言ったら怒られるかな?

 

「あら、来たのね。・・・そちらの方は?」

 

 俺の隣に視線を向け、雪ノ下は俺への警戒を強める。だから俺は清廉潔白だっての。

 

 隣で何故か固まってる妹をどつく。我に返った小町は、持ち前のコミュ力で一気に雪ノ下の傍まで這い寄り、目をキラキラさせながら自己紹介を始めた。

 

「初めまして! 比企谷八幡の妹、比企谷小町と申します! 以後お見知りおきを!」

 

 比企谷小町の先制攻撃。雪ノ下雪乃は気圧されている! 雪ノ下が目線で助けを求めてきたので、小町を引っ張って距離を取らせる。ぼっちはプライベートゾーンが広く、そこに入られると身動きが取れなくなってしまうから難儀だ。

 

「落ち着け」

 

「お兄ちゃんこんな美人さんどうしたの!?」

 

 おい大きい声出すな。周りの視線集めちゃうだろ。ただでさえ雪ノ下は人目を惹くんだし、お前だってかわいい。最早雪ノ下よりかわいいまである。

 

 雪ノ下は落ち着きを取り戻したのか、居住まいを正し、自己紹介を始める。

 

「初めまして。雪ノ下雪乃と言います。そこの・・・お兄さん? とは同じ部活に所属しております」

 

 何で今疑問符入った。確かに似てないけど。性格から容姿まで何一つ似てないけど。

 

 小町の質問攻めに、再び雪ノ下がSOSを出したため、小町を引きはがし、本題に入ることにする。

 

「一先ず行く場所決めるぞ。地図があるからそこで・・・」

 

「ぶっぶー! お兄ちゃん零点! こういうのは順々に見てくのがいいんじゃん!」

 

 お、おう。そうなのか。俺はいつも効率重視だからな。買うものと場所決めて、そこで買ったら即帰宅だからな。でも今回は何買えばいいのかもわからんし、見ながらってのはありだな。

 

「そうね。それでは私はこっちの方向から行くから、あなた方はそれぞれあっちとあっちからまわって、もう一度ここに戻ってきたときに情報を共有しましょう」

 

「それもだめですよ雪乃さん! 何のために一緒に来たんですか!?」

 

「そ、それもそうね」

 

 そうだよね。いきなり名前呼びされると面食らうよね。それと今のは俺も考えてしまっていた。これもだめなのか。確かに俺や雪ノ下の目に留まるものが由比ヶ浜に合う、つまり小町レーダーにかかるかどうかは怪しいのだ。

 

「一階から一緒に見て回っていきましょう!」

 

 鶴の一声の前に俺たちは成す術なく従う他なかった。




鶴の一声・・・大勢で議論しているときに、否応なしに従わせるような有力者・権威者の一言。

故事ことわざ辞典より引用。

http://kotowaza-allguide.com/tu/tsurunohitokoe.html

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