種目が変わって体育一時間目の今日、外は快晴、風も殆どなく絶好のテニス日和と言えよう。まあ俺の心中にテニス日和なんて存在しないが。
テニスは中学でやって以来だった。割と制球も緩急もつくし、スピードもまずまず出せていた・・・はず。どうせ今日は初めてだし大したことはやらないだろう。そう思って先生の話を聞いていたところに爆弾が落とされる。
「じゃあ二人組を作れ。そいつとこれからラリーをしてもらう」
な、何い!? ふ、二人組だとーっ!? と、戸塚がいれば・・・いや、いてもどうせ他の奴と組んでいただろう。淡い期待、ましてや本人がいないのに考えても意味はない。取りあえず待っとけば俺以外の奴が決まって余りの奴、もしくは先生とやれるだろう。いつものことだ。
と、余ったやつが先生に連れられてくるが・・・あ、こいつこの間の。
「お前も余りだろ。こいつと組んでやってくれ」
余りとか言うなよ。割と惨めになっちゃうだろ。己の立ち位置再確認しちゃうだろ!
まあそれはともかくとして・・・こいつだったか・・・。指ぬきグローブしている時点で変な奴だとは確信していたが・・・。前と変わらず汗まみれだし。暑いならとれっての。
「それじゃあペアができたみたいだし、各自コートに移ってラリーをしろ」
先生の解散を合図に生徒が一目散にラケットやボールの周りに集まり、そしてコートへと移っていく。俺は面倒なので人の波が引くまで静観している。まあ俺が行くと引いていくだろうけど。やべえ、俺海割って海底進んでいけるんじゃね? 神の一柱になれるんじゃね?
ペアになった隣の奴を見ると、挙動不審に辺りをキョロキョロと見回し、不自然なまでの汗をかいている。もうこれ暑さだけの話じゃなさそうだな。
群がる生徒がいなくなったのを見て、ボールとラケットを取りに行く。やっておかないと先生に注意されるからな。
「おい」
「ひっ!」
お、おう。ここまで怯えられたのは久々な気がする。最近来るやつ来るやつみんな俺見ても平然としてたからな。
「取り敢えず適当に打つぞ」
「ぶ、ぶたないでください」
誰もそんなこと言ってないだろうが・・・。
「先生こっち見てるから。はやく」
「は、はい」
やりにくいことこの上ないな・・・。
「お前テニスはできる方か?」
「わ、我、僕は、やったこと、な、ないでしゅ」
「ん。わかった。じゃあゆっくりやるな」
そういってコートの端と端に別れる。サーブは下から打ってやろう。せーの。
ポーンと相手コート前方に落ち、丁度奴の前にいく。しかし、空ぶる。もう一度。空振り。もう一度。空振り・・・もうボールないんだが。
「おい、もうボールないから今のやつとってきてくれ」
「は、ひゃい!」
もうこれ壁打ちの方が楽しいんじゃねえの? 全く返ってくる気配が無いんだが。向こうは下からのサーブすらうまくできないようだし。
「おい」
「ひいっ! ごめんなしゃい!」
「謝らなくていいから・・・。取りあえずさっき先生が言ってた持ち方に直せ。それからしっかりボール見ろ。ラケットも地面と水平になってちゃ当たる訳ないだろ」
こいつをまともに打たせるようにしないと俺がさぼりに見えてしまう。それは困るので当面の目的はこいつのレベルアップだな。
「そうそう。その持ち方でいい。んで、下からサーブを返す時は下から上に撫でるようにボールをうて。そうするとスピンがかかって相手のコート内に入りやすくなるから。わかったか?」
「は、はい」
幾分か緊張はほぐれてきたようだな。それじゃあ取りあえず名前でも聞いとくか。いつまでもおいとか呼んでたら怖がられそうだし。
「そういやお前の名前は何だ?」
「・・・人に名を尋ねるときは自分から言うものだぞ」
「は?」
「ごめんなさい、材木座義輝です。許してください」
こいつ・・・グローブしてるから薄々感じていたが、やはり中二病だったか。決め顔で言うもんだからついイラッときてすごんじまっちゃったじゃないか。反省反省。
「わかった。俺は比企谷、比企谷八幡だ。材木座、これからよろしく」
他人と一緒にいて挙動不審になるさまが。他人に話しかけられて怯える姿が。誰かに似ていたから。
恐らくこいつは体育中俺と組むことになるだろう。だから、こんなことを言うのは至極当然だ。
俺はお前のこと好きにはなれないだろうけど、嫌いにもなれないだろう。例え嘘を吐かれようとも、裏切られようとも。その心境を俺は理解してしまうだろうから。
「ひ、比企谷・・・さん」
「比企谷でいいぞ」
「!」
何か思案顔になり、材木座は俯きがちになり、顎に手を当てる。やるよな、わざわざ大袈裟に考える格好するやつ。俺じゃん。
そして、材木座は顔を振り上げ、
「この剣豪将軍材木座義輝様と同盟を組みたいと言うのだな! よかろう! この我のものとなれ、八幡よ!」
「は?」
「ごめんなさい、これからよろしくお願いします」
何だこいつは・・・。
「まあ遠慮はしなくていいから。俺もぼっちだしな。だが」
それでも、こいつは間違っている。
「ぼっちであることに誇りを持て。他人にどう思われようと、自分は正しいと思え。少なくとも俺はそう思ってる」
俺は自分が間違っているとは全く思わない。俺は一人でいることが好きだし、だから学校でも一人でいる。他人に笑われようとも、親に間違っていると言われようとも、俺は正しいことをしていると胸を張って答えられる。
他人の評価をもろともしないぼっちは最強。これは世界の心理であり、絶対だ。異論は認めない。
「・・・」
俺が材木座に背を向け、自分のコートに戻ろうとすると、ガシッと腕を掴まれる。何だと振り返るとそこには・・・
「し、師匠と呼ばせてください!」
・・・何、こいつばかなの?
「嫌だ。そして離せ」
「師匠、いいではありませんか!?」
あーもううっとおしい!
「わかった。わかったから離せ」
「あ、ありがとうございます師匠。これでようやく我もぼっちから・・・うう」
やはり現実の青春ラブコメなんて存在しない。あったとしても俺ではなく、葉山みたいなやつに降りかかるのだろう。ラノベを読んでいても魅力のある主人公しかハーレムは築けていない。由比ヶ浜? 雪ノ下? 俺の現状を顧みてみろよ。戸塚といい材木座といい、俺の周りの女どもよりよっぽどヒロインしてるよ? 戸塚に至っては見た目すら上回ってるよ? ・・・うん、やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
~完~
とかしてもいいんですけどね。原作のタイトル回収したし。でもまあ書きたいことの十分の一も描けていないのでまだまだ続きます。テニス編もまだまだ続きます。