「うーっす」
「あら、生きてたのね。いつもより遅かったからどこかでのたれ死んでいたと思っていたわ」
ドアを開けるなりいきなり全開ですね、雪ノ下さん。
「親に養って貰ってる間は死なねーよ」
「なぜそんなことを胸をはって言えるのかしら・・・」
雪ノ下のやる気を削いだぜ! これは俺の勝ちということでいいんじゃないかな?
いつもの席に陣取り、カバンから文庫本を取り出す。げっ、栞とれてんじゃねえか。確か半分は読んでたはずだから・・・。
「やっはろー! 友達と喋ってたら遅れちゃって!」
突如ガラリとドアが開き、バカっぽい挨拶と共に由比ヶ浜が姿を現す。何でコイツ今回はノックしてないの? ばかだばかだとは思ってたけど、日に日に頭悪くなってるの? まあなんか雪ノ下と約束でもしてたんだろう。
「由比ヶ浜さんこんにちは。でもノックしてから入ってもらえるかしら」
「え、あ、ごめんね? 部員はノックしなくていいかと思って」
・・・? いつから部員になったんですかねえ、雪ノ下さん?
目だけで問うてみるも、雪ノ下も首を傾げている。
「・・・由比ヶ浜さんは部員ではないのだけれど」
「え!?」
逆にどうして部員になったと思ったんだよ。つうかこんな部活に入りたいなんていう酔狂なやつがいるとは思ってなかったな。
「入部届も貰ってないし、平塚先生からも何も言われてないもの」
「書くよ! 入部届くらいいくらでも書くよ!」
由比ヶ浜は自分のカバンからプリントを取り出し、その裏に”にゅうぶとどけ”と丸っこい文字で書き始めた。つうか入部届くらい漢字で書けよ。
「これでいい?」
「ええ。一応平塚先生の許可は必要だけど、たぶん大丈夫だと思うわ」
「ありがと、ゆきのん!」
「え、あ、あの、由比ヶ浜さん?」
ガバッと由比ヶ浜が抱き付く。あーあ、ぼっちの雪ノ下は慣れてねえからすげえテンパってるぞ。
「話は聞かせてもらった!」
ガラリと再びドアが開く。白衣をはためかせ、決めポーズで現れた平塚先生はドヤ顔を向けてくる。
「平塚先生、ドアを開けるときはノックを。それと、仮にも教師、いえ、大人の女性なんですからもう少し節度を持った行動をお願いします」
言い換えられちゃう辺り、平塚先生の残念さが窺えちゃう。つうか俺から見ても相当痛々しかったからな。由比ヶ浜でも引いてるし、雪ノ下なんて見てみろよ。すげえ冷たい眼差し向けてるぞ。教師に向ける目じゃねえよ。完全に汚物を見る目だよ。・・・俺も向けられたことあるけど。
俺らの反応に我に返ったのか、平塚先生は咳払いをし、佇まいを正す。普通にしてりゃあ美人なだけに、普段の言動の残念さが目立つ。
「さすがの雪ノ下と言えど、比企谷の更生には手間取っているように思えてな」
「あの、俺更生する気ないんですけど」
「・・・そうですね。彼の腐り具合が想像を遙かに超えるものしたので」
「ヒッキーそんな依頼されてたんだ・・・」
本人の意思は無視ですか? つうか更生する部分が無いまである。というかガハマさん引いてる? 俺何も悪くなくね?
「そこでだ。部員も三人に増えたことだし、バトルをしよう!」
勢いよく拳を天に突き上げ、平塚先生は雄々しく叫んだ。何? 目と目が合ったらバトルしちゃう的な? そいで勝ったらカツアゲですね、わかります。いや、わかりたくない。
「何のバトルでしょうか?」
「ここは奉仕部、人の手助けをする部活だ。だから、どれだけ人を助けられるか、を競うのが筋じゃないのか?」
「そうですね。一理ありますね。ただ、バトルする理由が見当たりませんが?」
確かにな。漫画やゲームの世界であれば、デュエルしかり、ポケモンバトルしかり、その結果が全てであるというのもありえるが、ここは違う。というかそんな世界になっても、あんまり関係ないな。だって俺、人と目合わせないし、合わされないし。でもあの世界の主人公普通に暴走族とかとバトルするんだよな・・・。
~~
気が付けば、雪ノ下は平塚先生の安い挑発に当てられ、勝負を承諾していた。何でも勝者は敗者に一つ言うことを聞いてもらえるらしい。それに伴い、由比ヶ浜も勿論参戦。たのしそうだね!、と目を輝かせている。唯一俺が反論するも、当然のごとく棄却。まじで人権が無いんだが・・・。
遠足、突然のバトルロワイヤル、そして雪ノ下の力をもってしても微量の改善しか見られない由比ヶ浜のクッキー。悩みの種が尽きない俺の高校人生を憂い、俺は大きくため息を吐き出すのであった。
前に頂いた感想で、八幡はスペックが高いだけで、特殊能力はつけないと返信しましたが、この場を借りて、訂正します。
特殊能力をつけるので、ご了承ください。登場はまだ先だと思いますが。
スペックも勿論高いです。