不良八幡の学校生活   作:雨雪 東吾

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ハーメルンの使い方がよくわからん


登校

 二週間ぶりに総武高専用の制服に身を包む。入学式当日の事故により、入院していたためだ。

 制服を正し、鏡の前で髪をセットする。染められた金の髪は、ワックスによって形状を変えられていく。初めは面倒だと思っていたこの作業も、慣れればお手のもんだ。

 

「お兄ちゃん、おはよう」

 

「ああ、おはよう」

 

 眠そうな妹が目をこすりながら洗面所に現れる。欠伸をしたときにちらりと見える八重歯が可愛い。いや、ぶっちゃけすべてが可愛い。

 

「ご飯用意してあるから食べといてね」

 

「おう」

 

 手に残るワックスを水で洗い流し、小町に場所を譲り、ダイニングへと向かう。そこには小町が用意したトーストと目玉焼きがある。

 

「いただきます」

 

 バターやジャムを塗りたくり、頬張る。甘くていい感じだと、一人でうんうん頷いていると

 

「お兄ちゃん、塗り過ぎだっていつも言ってるでしょ。体壊すよ?」

 

「ばっか、五枚切りだぞ? こんだけ塗らなきゃ味しないだろ」

 

「はあ」

 

 溜息を吐かれる。なにこれ傷つく。

 

「・・・もう無茶しないでよね」

 

「・・・ああ」

 

 最後の一口を頬張ると牛乳でのみ下し、カバンを持つ。

 

「いってくる」

 

「早くない?」

 

「俺今日初登校だからな。クラスとかわかんねえし、色々説明とかあるだろうし早く行くだけだ」

 

「は~ん、いってらっしゃい」

 

「おう」

 

 持ち物の最終確認をし、自転車に跨る。総武高をめざし、ペダルを強く踏み込み、外行きのモードへと移行した。

 

~~

 

 職員室に行くと、女教師に進路指導室に通された。

 

「私は比企谷君のクラス、1-Cの担任の平塚だ。以後よろしく」

 

「はあ」

 

 白衣に身を包んだ美人の先生は俺に対し物怖じもせず自己紹介をした。

 

「授業は既に進んでいるが、頑張ればまだ間に合う。まあ、主席合格の君には言わずともわかっているかもしれんがな」

 

 自己採点満点だったので、主席合格は間違いないとは思ってたが、自分に代表の挨拶は回ってこなかった。つまり、最低あと一人満点のやつがいるということだ。

 

 ま、見た目不良な自分にやらせるくらいなら点数で劣っても他の奴にさせる可能性はあるが。

 

「そろそろホームルームの時間だ。ついてきなさい」

 

 平塚先生は立ちあがると背筋をピンと伸ばし、ツカツカと歩き出した。

 

 教室にむかって後をついていくとこの人が慕われていることがわかる。すれ違ったり、追い抜いていく生徒の大半が挨拶をしていくのだ。自分の中学では挨拶なんてごくわずかな生徒が行うのみで、そもそも先生のほとんどは嫌われていた。

 

 そして先生へのあいさつの後は後ろにいる俺へと目線を向けてくるが、たいていはおびえた表情を見せ、中には悲鳴を上げる者もいる。職員室でもこんな反応の先生はいたのだが、平塚先生には全く効かなかったな。

 

「君は目つきが悪いな」

 

「・・・仕方ないですよ」

 

 そう、仕方ない。仕方ないのだ。

 

「そうか。教室に着いたぞ」

 

 平塚先生が教室内に入るのに続き、俺も入る。するとクラス内の空気が凍る。

 

「さて、ホームルームを始めるぞ。今日は入学式から休んでいたクラスメイトを紹介する。比企谷、自己紹介しろ」

 

 自己紹介なんていらないのに。

 

「・・・比企谷八幡です」

 

 クラスのやつらは何の反応も示さない。恐らく示せないのだろう。金髪で目つきの悪いやつがいきなり来たのだから。

 

「・・・終わりかね。まあいい。君の席は窓側から2列目の一番後ろだ」

 

「うっす」

 

 自分の机につくとすぐさまつっぷす。何人かの視線がこちらを向くが、この分だと誰も話しかけてこないだろう。これでいい。俺は一人で誰とも話さず生きていくのだ。

 


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