パッと思い浮かんだのでついつい書いてしまいました。できる限り続けていきたいと思いますので、筆者の別の作品と合わせて、宜しくお願いします。
桜舞う季節。新しい制服に身を包んだ若者たちが足早に通学路を進んでいく。桜の葉という散る中に、若者という新たに芽生えるものが輝きを放つその風景は、なるほど、春の名物詩に相応しい。これから高校生になろうという若者たちは、期待に胸を膨らませて登校するのだろう。 友達出来るかなとか、甲子園や花園目指すぞとか、高校生活に夢を見る。というのも、ゲームやラノベの舞台において高校というのは定番だからだ。ときメモを始めハルヒやら何やら。そこでは男なら彼女を作り部活で成績を残し、あるいは異能で世界を救ったり、ただの人間には興味ない少女に振り回されながらも非日常を楽しんだりと、それはそれは夢のようなサクセスストーリーを描く。そういうものがあるからこそ、高校生活というのは楽しいものだと、自分もそういった生活を送れるのだと思い込む。
だが、残念だったな、そんなものは幻想だ。所詮、あれは作り話で夢物語。実際には甲子園や花園に行けるのなんてごく一部だけで、実力差に挫折するのがほとんど。彼氏彼女なんて作ったところで夢に見てたものとかけ離れてるから長続きしない。自己紹介でただの人間には興味ありませんと爆弾発言するような少女もいない。結局のところ、平々凡々な生活を送るのだ。しかし、それでも自分は楽しい生活を送ったのだと無理やり自分を納得させる。そうでなければ、自分の過ごした日々に意味がなくなってしまうから。
「眠い……」
耐えきれずあくびが出る。何だって学校なんてものがあるんだろうな。歴史を見返してみれば、昔々に空海が
「おはよー!」
と、声をかけてきたのは幼馴染みの
「なぜか急にイラッときたわね」
おまけに勘もいいらしい。ラノベとかで良く見るけど実際やられると怖いよねコレ。読心術かよ。
「うぃーす」
「相変わらず眠そうね。またゲームで夜更かししたの?」
「まぁな…」
「よくそんなに毎日毎日出来るわね」
「ほっとけ」
少しは黙りたまえ。俺には救わねばならん者たちがいる。彼らは俺を待っているんだ。待ってろよみんな、すぐに学校が終わったらすぐに行くからな!!
「とりあえずバカなことを考えていることはわかったわ」
だからなんでわかるんだよ。
「おいすー」
「うぃーす」
もはや帰宅したかったが優がそれを許してくれず、登校することに投降し(笑ってもええんやで)、教室に入ると、クラスメイトが迎えてくれた。晴れて俺たちは高校2年生となり、クラスのメンバーも数人は変わったが、それでも以前の雰囲気は変わらずにある。このゆるい感じ、たまらないね。朝から元気に挨拶されても疲れるだけだしな。
自分の席に着き、授業が始まるまで仮眠しようとしていたところに、話しかけてくる野郎がいた。なんだよ、眠いのに。
「なぁ、お前今年も部活入らねぇの?」
話しかけてきたのはクラスメイトで幼馴染みの
「そのつもり。面倒だし」
「ちぇ、ならしゃあないか」
しゃあない、ということは俺をバスケ部に誘うつもりだったんだろうな。
「俺なんか誘ったって意味ねぇだろ」
「んなこたねえよ。お前さえいれば国体だって夢じゃねえ」
「はいはい、あんがとさん」
軽く受け流して寝る体制に移る。
「言っとくが、嘘じゃねえからな」
錬はそう言って去っていく。やれやれ、やっと行ってくれたか。評価してもらえたのはありがたいが、わざわざ部活に時間を取られたくない。それに、さっさと家に帰ってゲームをしたいのだ。そのためにはここで仮眠を取っておかないと夜はもたない。ほぼ徹夜になるからな。一応少しは寝ている。前に夏休みに徹夜を3日続けたらぶっ倒れてしまったという前科があり、その際に優にこっぴどく叱られたからな。多少とはいえ寝るようにはしているのだ。よゐこの有野はよく三徹も出来たな。俺には真似できんわ(経験者は語る)。
というわけでおやすみだ。願わくば、このまま放課後まで寝させてくれ。
「おい、始業式だ。体育館だぞ」
知るかよ、俺は寝る。
強制的に担任に連れ出され、始業式という校長やら教頭やらの長ったらしい講演会を乗り越え(むしろ寝た)、教室に戻って来た。他の学校がどうなのかは知らないが、俺たちの学校はこの後授業がある。普通はこれで掃除して終わりじゃねぇの?めんどくせぇ。
この学校、「私立
「おい火我、
これだもんなぁ。いや、これは近い遠い関係ないんだが、学校ってこういうのがあるからめんどくさいんだよなぁ。なんでわざわざ当てるんだよ。こちとら寝てるんだよバーカ。人間の三大欲求にも睡眠欲ってあるだろうが。食欲と性欲に並ぶくらい大事なんだぞ。つまりだな、睡眠を阻害することは人類を否定することになるんだ!!
だから俺は寝る。誰にも邪魔はさせん。グッバイ現実。ハロー夢の世界。
「留年させるぞ」
「何ページですか?」
「3ページ目の4行目だ」
ちゃうねん、ほら、流石にね、親に金を払ってもらっといて留年っていうのは子供として親不孝だろ?つまりはそういうことだ。決して留年が怖かった訳ではない。決して。
で、3ページの4行目だったな。今は英語の時間か。教科書教科書っと……、あぁ、なるほどな。
「教科書忘れました」
「お前は何をしに学校に来てるんだ」
卒業のためです。逆に言えば卒業さえできればどうでもいいんです。
「ほら、これ」
「あ、悪い」
隣の席の清水(女子)が教科書を貸してくれる。素直に受け取り言われたところを和訳する。
「なぜ彼女がそんなことを言ったのかはわからないが、あえていうのであれば、退屈な日常に嫌気がさしていたのだろう。だから彼女は、日常ではなく非日常を手繰り寄せるために行動を起こしたのだ」
「完璧だ」
周りから軽く拍手が起こる。はい、どーもですよ。どーもどーも。
「本当にお前は頭は良いのに、もったいないな」
「それほどでもないですよ」
「皮肉だバカもん」
さいですか。まぁ、俺の仕事はこれで終わったんだし、改めて寝る作業に取り掛かるとしますか。あーあ、余計なことに時間を取られちまったな。それじゃあ、改めておやすみ。
「じゃあ、続けて読んでくれ」
「F☆U☆C☆K」
「完璧な発音だ。昼休みに生徒指導室に来るように」
「あー、疲れた」
「こっぴどく絞られたみたいだな」
生徒指導を受け帰ってきた俺に錬が声をかけてきた。
「日常生活をちゃんとしろだとか人に向かってfuckはやめろだとか毎回毎回同じようなことしか言わねぇんだもんよ。そりゃ疲れる」
「むしろ毎回同じことで怒る教師側も疲れてるだろうな」
「なら怒らなきゃいいのに」
「子供かお前は」
だってその方が合理的だろ。お互い疲れるより何もしないでいる方がいい。経済学にも同じことが通じる。需要と供給の関係だ。それで言えば均衡するのはここではない。明らかに超過供給だ。よく学校は社会の縮図だとか言われるが、正にその通りだと思う。ならば、もっと生徒の意見を聞くべきではないだろうか。たぶん俺の言うことは聞いてくれないだろうけど。
「次は体育だぜ。早く着替えろよ」
「俺まだ飯食ってないんだけど」
「自業自得だろ」
ふざけんなよちくしょう。食事がどれだけ大切なのかわかってるのか。徹夜でゲームをやる身において今からのエネルギー補給は非常に大事だってのに。昼飯抜くとか、体が持つ気がしない。以前なら大丈夫だったんだろうけどな。
「俺は飯を食ってから行く」
「はいよ。遅れたらそう伝えとく」
とっとと食っちまおう。体育は好きだしな。
「で、お前は何を口にくわえてるんだ」
「トッポ」
「なんでトッポなんだよ」
「好きだし」
糖分の補給も出来るしな。授業には間に合ったがギリギリだったため、昼休みに取れなかった糖分を、準備体操の間に補給。その点トッポってすげぇよな。最後までチョコたっぷりだもん。
体操も終わり、競技に入る。男子は今日からしばらくはグラウンドでソフトボールをするらしい。女子はプールだ。うちの高校は室内にプールがあるので、時期はあまり関係ない。しかし、外でやる俺たちはまだ少し肌寒い。
チーム分けもキャッチボールも終わり、いよいよ試合開始する。俺は7番ショートだ。ピッチャーの佐々木(あだ名は大魔人)が投げた球は相手チームの一番左バッター鈴木(名前はサブロー)の見事な流し打ちで三遊間を抜けようとする。だが、そうはさせない。俺はスライディングしつつ打球を捕るとスナップスローで一塁へと送球する。足の速い鈴木だが、間一髪アウトだ。
「よし」
なかなかいい動きが出来たのではないだろうか。野球をやっていたわけでないが、自分でもそれっぽく出来たと思う。
「すげぇなオイ」
「何あれプロかよ」
「野球部来てくれねぇかな」
なにやら見つめられている気がする。そんなにすごいプレーだったか? 野球ってこれぐらい普通じゃないのか? まぁいいや、いつものことだし。
その後佐々木が後続を抑えて見事に0点に抑えた。てか佐々木も凄いだろ。ソフトボールでフォークってどうやって投げるんだよ。下手投げでフォークを投げるのがどれだけ難しいのかはドカベンで読んだ。
さて、うちのチームの攻撃だが、うちの攻撃も3人で終わった。相手チームの投手、野茂もえげつない球を投げてくる。よくあれだけ体を捻って下から投げられるよな。みんな俺のプレーに驚いてたみたいだけど、あいつらの方が凄いと思うんだが俺だけか?
そのまま次の回も0点が続き、3回のうちのチームの攻撃。先頭バッターは俺。ゆっくりと左バッターボックスに入る。
「お前左なのか」
相手チームのキャッチャーは錬だ。ほう、試合中に選手に話しかけるとは、これがささやき戦術というやつか。
「どっちでもいいんだが、ドカベンの山田が左だからな」
「なるほどな」
それで会話は終わった。なんだ、ただ疑問に思っただけなのか。それならいい。投手に集中するだけだ。
野茂がゆっくりと、しかしダイナミックに体を捻る。そこから生み出されるエネルギーは正しくボールに伝わり、唸りを上げて迫ってくる。すげぇ球だな。メジャーとか行ったらトルネード旋風とか起こして日本人のパイオニアになりそう。本当にすげぇ球だ。
でもそれだけだ。
俺が放った渾身のスイングは見事にボールを捉え、野球で試合にも使われるグラウンドのフェンスを超えていった。ホームランだ。野茂も呆然としている。俺はゆっくりとベースを回る。初めてのホームランだからな。この感触を味わいたい。ホームに戻ると、チームのみんなが迎えてくれた。嬉しいね。しかし、上手くスイングできたな。しばらくの間はソフトボールは楽しめそうだな。
結局このホームランが決勝点となり、うちのチームが勝った。この後、野球部の松井に勧誘されたが、断ったのは余談である。
「いつからお前はこんなに凄くなっちまったんだ?」
と言ってくるのは錬だ。ちなみに今は帰宅途中である。今日は部活がないらしく、剣道部の優も一緒に帰っている。
「さあな」
「前なんか俺の方が何もかも上だったのにな」
「アタシもそうだったのになー」
「何があったんだよ」
「何もねぇよ」
「あ、でも何かリョウが覚醒し始めたのって高校に入ってからだよね」
「あぁ、それとゲームに妙にハマり始めたのも同時期だな」
「もしかしてゲームに何かあるの?」
「お前ら、俺が実は勉強してるとか思わねぇの?」
「「思わない」」
「おい」
まぁ、俺も思わないけどな。
「なんか急に色んなことが出来るようになったんだよ」
「ふーん」
信じてないなコイツら。
「もしそうなら羨ましいな。楽して強くなれるなんて」
「それが良いことはわからないけどな」
その通りだ。楽して得られることに果たしてどれだけの価値があるのか。いきなり主役の座を与えられたところで、ある程度の喜びは得られるだろうが、苦労して掴んだ主役の座の方が何倍も嬉しいはずだ。決して楽をすることが悪いというわけではない。ずっとエンジンを吹かしていても、すぐに壊れてしまう。だからこそ楽をするということもまた大切なのだ。
「じゃあまたな」
俺の家に着いたので、挨拶をして別れる。
「じゃあな」
「またね」
鍵を開け中に入る。迎えてくれる人はいない。両親は共働きで、いつも帰ってくるのは遅い。しかし、弁当は毎朝作っておいてくれるので、朝早く起きて弁当を作りそれから仕事に行っているのだ。多忙な故に顔を合わせることはあまりないが、それでも両親には本当に感謝している。
カバンを自室に放り投げ、さっさと風呂を沸かし、沸くまでの間に飯を炊く。晩飯と朝飯は自分で作る。こればっかりは俺が引き受けたのだ。流石にそこまでしてもらうと悪い。なんなら弁当も作ると言ったのだが、それは母親が頑として譲らなかった。なんでも、弁当は青春イベントの1つだからだそうだ。俺から見てもおかしな母親だと思う。
と、風呂が沸いたようだ。んじゃ、さっさと入っちまいますかね。
風呂と飯を済ませ、自室に戻る。やることはやった。宿題出された気もするが、別にいい。さてと、今日もやりますかね。
テレビに繋がれた1台のゲーム機。それはプレステでもWiiでもファミコンでもない。おそらく、この世界のどこにも同じものはないであろう唯一のゲーム機。
スイッチを入れると、テレビの画面が激しく光り出す。瞬く間に辺り一面が白に包まれ、そのうち体の感覚も消える。
優は言った。楽して強くなるのは羨ましいと。
あのな、本当に俺がただゲームをしてるだけだと思ってたのかよ。おれだって努力をしてるんだよ。ちゃんと勉強して、体も鍛えてる。ただし、ちょっとチートなやり方でだけどな。
光が収まると、俺は一つの部屋のベッドに横たわっていた。窓から射す光が眩しく心地よい。服はゲームをやり始めた時とは違い、下着のみを身につけた状態だ。時刻を確認するために時計を見る。その時計は壁がけではなく、振り子式の柱時計。寝ているベッドも天蓋つきのもの。まるで貴族のような家具とインテリアが並ぶ部屋に俺はいた。
時間を見るに、そろそろ来るか。コンコンとドアをノックする音が聞こえる。ちょうどだな。
「おはようございます。お食事の用意が出来ました」
「ああ、今行く」
すぐさまベッドから出て、クローゼットの中にある服に着替える。服は赤い服でまるでおもちゃの兵隊が着るような服だ。俺の感性だからなんとも言えないが。
着替え終わり部屋から出ると、先ほど部屋を訪ねた人が待っていた。格好は、そう、メイド。オタク文化でよくあるようなものではなく、本物のメイド。美しい銀のロングヘアーに碧い目を持つ歳はおそらく、俺と同じくらいの女性。背は俺より少し低い程度。当然のごとくスタイルは抜群だ。
「おはよう」
「おはようございます」
彼女を侍らせて廊下を歩く。廊下にはカーペットが敷き詰められており、所々に高級そうな花瓶に花が生けてある。
食事の場所に着いた。それは家の食卓どころではなく、例えるならホグワーツの食堂ほどの広さがある。長い長いテーブルには、既に大勢のメイドや使用人がそれぞれの席の場所で立っている。長いテーブルが立ち並ぶ中、一つだけ、階段の上に全体を見渡せるような場所にテーブルがある。俺はそこに向かって歩く。すると、一斉に座っていた者たちが立ち上がり、姿勢を正した。
朝、俺はこう言った。
俺を待っている者たちがいると。
その場にいる全員が口を揃えて言う。
「おはようございます。リョウ様」
これが、この世界が俺の守るべきものだ。
はい、ここまでです。
プロローグということで長くなってしまいました。もう一話ほどプロローグは続きます。