僕と戦極姫と召喚獣   作:京勇樹

68 / 82
怒りの一歩

その後、二年生陣は順調に妨害と番人を突破。

そしてとうとう、Aクラスに到達。

すると雄二は、ある決断を下した。

それは

 

「これより、俺と翔子ペア! そして、明久と上杉ペアが突入する!!」

 

というものだった。

それを聞いて、二年生陣は歓声を上げた。

満を持しての、最強戦力の投入。

二年生陣の気持ちは、ある一つの目的に集約されていた。

常夏を倒すこと

ここまで来たが、常夏は番人として現れていない。

妨害で出てきただけだ。

そしてAクラスに戻るために、あの二人が出てこない訳がなかった。

だから雄二は、ここで出たのだ。

あの二人を倒すために。

 

「行くぞ、明久……戦意は充分か?」

 

「是」

 

雄二からの問い掛けに、明久はたった一言で返した。

たった一言

だが、その一言には計り知れない戦意を雄二は感じた。

なお、教室待機となった信玄が後に

 

『あれは正しく、剣聖の名に相応しい戦いでした』

 

と語る。

二組は中に入ると、別ルートを歩いていた。

 

「謙信、大丈夫?」

 

「ええ、大丈夫です。私は大丈夫です」

 

明久の問い掛けに、謙信はそう答えた。

それを聞いた明久は、内心で

 

(本当に大丈夫かな?)

 

と心配した。

謙信は、お化けが大の苦手である。

それを知っている明久からしたら、今の謙信は強がりで保ってるようにしか見えない。

 

(さて、どうしようかな……こうなった謙信、意地でも退かないだろうし)

 

と明久が考え始めた。

その時

 

「む?」

 

「ひゃっ?」

 

突如、照明が音を立てて消えた。

 

「謙信、下手に動かないで」

 

「分かりました」

 

明久がそう言った直後、明久は周囲に多数の人の気配を感じた。

 

(これは……なにを?)

 

と明久が思っていると、少ししてから照明が点いた。

そして、状況を把握するために周囲を見回そうとした。

その時

 

「あ、明久?」

 

と声が聞こえた。

背後を見ると、そこには雄二の姿があった。

そして謙信が居た左を見たら、そこには、今まで無かった壁があった。

すると雄二が

 

「奴等、頭を使ったな……ペアを分断したのか」

 

と言って、携帯を出した。

そして、少し操作すると

 

「どうやら、上杉は翔子と一緒に居るみたいだな」

 

と言った。

そして、胸ポケットから生徒手帳とボールペンを取り出すと、何かを書いてから天井のカメラに向けた。

その生徒手帳には

 

《ペア変更。上杉・翔子ペアと明久・俺ペア》

 

と書かれていた。

別に、ペアを入れ換えることはルール違反ではない。

なお、もし入れ換えずにどちらか片方の相方が失格になると、もう片方も失格になる。

それを未然に防ぐためだろう。

現場判断だが、ペア変更をしたのだ。

 

「明久、先に進むぞ。翔子と上杉も先に向かった筈だ」

 

「そうだね。行こうか」

 

雄二の提案に従い、明久は歩き出した。

そして、しばらく歩いていると

 

「ん?」

 

と雄二が携帯を取り出した。

すると

 

「どうやら、あっちが先に常夏と相対したようだな」

 

と言った。

それを聞いた明久が

 

「急ごう。近いみたいだよ」

 

と言って、早歩きで進んだ。

そして、ある程度進んだ時だった。

 

「でよ、お前ら。あんなバカで観察処分者と腕っぷしだけの役立たず共から乗り換えねえか?」

 

「そうそう。そうすれば、未来は安泰だぜ? 何せ、成績優秀者だしなぁ?」

 

と常夏の声が聞こえた。

話の内容からして、ナンパしているようだ。

 

「あんな剣を振り回すしか能の無いバカや、喧嘩ばっかりして補導された奴等なんか、どこにも就職出来ない」

 

「そんな役立たず共なんかより、俺たちみたいな成績優秀者の方が引く手あまただろうよ。もしかして、将来に有名な科学者になるかもしれないぜ?」

 

と引き続き、常夏がナンパしていた。

その時

 

「……黙りなさい」

 

と謙信の声が聞こえた。

 

「あ? なんだって?」

 

「聞こえなかったな。なんだって?」

 

と常夏が催促した。

その直後

 

「黙りなさいと言ったんです!」

 

と謙信が怒鳴った。

 

「うお!?」

 

「な、なんだと!?」

 

と常夏が驚いていると、謙信が

 

「あなた方のような、他人を思いやらない人と付き合う? 寝言は寝ていいなさい! 自分勝手に他人の妨害をする人と近づくことなど、こちらから願い下げです! もし、実家からそう言われても、私は死んだ方がマシです! 明久は、誰かのために剣を取れる優しい人です!」

 

と怒鳴った。

すると、それに続くように

 

「……私も、上杉に同意する。それに、雄二は優しい」

 

と言った。

すると

 

「こ、この生意気なガキ共がっ! つかおい、今のでこいつら、失格だろ!?」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

と常夏が言った。

確かに、謙信の声の大きさはアウト判定になるものだった。

だからか、常夏は

 

「とっとと失せろ、この物好きなメスガキ共!」

 

「てめぇらの顔なんざ、二度と見たくねぇ!」

 

と言った。

すると、ザリッという足を動かした音がして

 

「それはこちらの台詞です。行きましょう、霧島さん」

 

「……うん」

 

という二人の会話が聞こえた。

一連の会話を聞いていた二人は

 

「ねえ、雄二。僕が優しいだってさ。僕って結構、屑だと思ってたんだけどね?」

 

「何言ってやがる。明久が屑なら、世の中の半数以上が屑じゃねぇか」

 

と会話を始めた。

 

「それより、俺が優しいか……自分では、割かし悪人と思ってたんだがな」

 

「雄二が悪人なら、僕は大悪人だよ」

 

と会話している二人だが、その言葉には怒気が少しずつ滲み始めていた。

 

「そうか?」

 

「そうさ」

 

と二人はそこで会話を止めると、小さく笑った。

恐らく、声量のルールが無かったら、大声で笑っていただろう。

そして笑い終わると、二人は顔を見合わせて

 

「それじゃあ、行こうか。雄二」

 

「そうだな。明久」

 

と言うと、ルートの先を見据えた。

そして、一歩踏み出して

 

「待ってろよ、先輩方。人の彼女を横取しようとした罪、償わせてやる」

 

と同時に言いながら、進み始めた。

その二人の目には、嘗て無い程に怒りの光が宿っていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。