僕と戦極姫と召喚獣   作:京勇樹

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沖縄旅行 二日目2

ひめゆりの塔から出ると、明久達一行は次の目的地に向かった。

次の目的地は、戦没者慰霊碑である。

 

「こんなに、亡くなったのか……」

 

「彼等のおかげで今の日本があるのを、忘れちゃいけないね……」

 

明久達はそう言いながら、手を合わせた。

そして、歩いていた時

 

「あ、この名前……」

 

と明久が、ある名前を見つけた。

その名前は《吉井颯剱(よしいそうけん)

それは、第二次世界大戦末に日本が世界に誇った世界最強の戦艦

戦艦大和に参謀役の一人として乗船し、帰らぬ人となった。

先代当主の弟だった。

 

「見つけたわね、明久」

 

「この名前……先代当主弟の名前……」

 

明久がそう言うと、明恵は頷いてから明久の横に座った。

 

「そう……当時陸軍所属が多かった吉井家の中で、珍しく海軍所属だった人よ……」

 

明恵はそう言うと、手を合わせた。

そして、少しすると

 

「颯剱様はね、自ら立候補して大和に乗艦したそうよ……死ぬと分かっていながらね」

 

と語りだした。

 

「そして何よりも、天皇陛下に講和するように何度も上訴したそうよ……この戦争、もはや勝利は不可能って言ってね……それを、陸軍の突撃バカの上層部が断固拒否してね……結局、アレが日本に投下されてしまった……吉井家は以前からその情報を掴んで、警告してたのにね……」

 

「原子爆弾……!」

 

世界で唯一、日本だけが被爆した兵器

現代呼称、核爆弾

当時呼称、原子爆弾

日本に二発投下され、その二発で直接被害では約二十万人が犠牲になり、二次被害や放射能汚染を含めると倍近くの人達が亡くなった禁断の兵器

日本はその教訓から、核兵器の非保持を掲げ、戦後約八十年近く経った今も守っている。

そして、世界に対して核兵器の廃棄を呼び掛けている。

核兵器は、あってはならない兵器だと。

なお余談だが、その団体のスポンサーの一つに吉井家もある。

あのような戦争を、繰り返させないために

 

「原子爆弾が投下された後、陛下は酷く後悔されていたそうよ……早くに、吉井家の忠告を聞いて、講和すべきだったって……」

 

「そうなんだ……」

 

その話を、明久だけでなく全員が聞いていた。

当時の話は、歴史でしか知らない。

だから、当時のことを知る人から話を聞くというのは貴重な体験だった。

その時だった。

 

「吉井家の方ですか?」

 

と声が掛けられた。

声のした方に向くと、そこに居たのは軍服を着た男性だった。

 

「貴官は?」

 

「自分は、海上自衛隊、沖縄基地所属の国木田一等海尉です」

 

明恵が訪ねると、男性はそう答えた。

一等海尉

つまりは、大尉相当である。

 

「その一等海尉さんが、なんの用かしら?」

 

明恵がそう問い掛けると、彼は

 

「基地司令が大事なお話があると、お呼びです」

 

と伝えながら、ある方向を指差した。

その先には、一台の高機動車が停まっていた。

それを見て、明恵は

 

「……わかりました。私が行きましょう」

 

と言って、立ち上がった。

すると、明久が

 

「待って、母さんが行ったら、誰が車を運転するのさ」

 

と言った。

すると明久は

 

「それなら、適役が居るじゃない」

 

と春日を指差した。

全員の視線が集中すると、春日は恥ずかしそうに

 

「えっと……私、免許持ってます」

 

と告げた。

 

「持ってたの!?」

 

「は、はい……」

 

明久達が驚くと、春日はオドオドしながらそう答えた。

そして、財布の中から免許証を取り出した。

ゴールド免許だった。

 

「一応、事故は無いです」

 

確かに、見せられたから分かる。

 

「じゃあ、道案内するから、お願いしても?」

 

明久がそう言うと、春日はコクリと頷いた。

そして、明久達は明恵と別れると車に乗った。

勿論だが、明久は助手席である。

そして、春日の運転だが、かなり丁寧だった。

やはり、本人の性格が大きいのだろう。

そうして、安全運転で港に到着

明久達は、西表島に向かう船に乗った。

そして、数十分後

 

「ほい、到着……っと」

 

明久達は、バスから降りた。

なお春日の荷物だが、意外にボストンバック一つだけだった。

それに関して

 

「私、最低限しか持ってきてないから」

 

と春日は、明久達に教えた。

これに関して、信玄が

 

「彼女は昔から、最低限しか荷物は持たないですから」

 

と言った。

どうやら、性格的に必要最低限しか持たないらしい。

そして、ペンションに到着した。

すると、明日菜が

 

「お待ちしてました。そちらの方が、件の方ですね? お部屋の用意は出来てます。こちらです」

 

「すいません。お世話になります」

 

春日はそう言うと、頭を深々と下げた。

そして、先導する明日菜の後に続いた。

明恵が帰ってきたのは、夕食が始まる直前だった。

帰りは海上自衛隊が、ヘリコプターで送ってくれたのだ。

そして、夕食が終わり明久は明恵の部屋に向かった。

 

「それで、海上自衛隊の基地司令が呼んだ理由はなんだったの?」

 

と明久が問い掛けると、明恵は傍らの台の上に置いてあった箱を取った。

かなり古い箱だった。

 

「この箱は?」

 

「問題は、中身よ」

 

明恵はそう言うと箱の蓋を開けて、中身を取り出した。

それは、一冊の本だった。

その表紙には、《吉井颯剱》と書かれていた。

 

「それって!?」

 

「ええ……漁師の方が、小島の木の根っこに引っ掛かってたのを見つけたみたいなの……それで、警察から海上自衛隊に渡されたみたいね」

 

明恵はそう言うと、その日記を箱に仕舞った。

どうやら、中を読むつもりは無いらしい。

 

「彼の遺物、少なかったから……貴重な物ね」

 

明恵はそう言うと、箱を大事そうにキャリーケースの底に仕舞った。

こうして、二日目も終わったのだった。


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