僕と戦極姫と召喚獣   作:京勇樹

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冬なのに、夏の話という……


一日目、前半

「まさか、沖縄に来れるなんてね……」

 

「まったくじゃのう」

 

と話し合っているのは、水着に着替えて砂浜に居る木下姉弟である。

指定された時間に空港に着いたら、あれよあれよと沖縄だった。

確かに、何時かは来たいと思っていた。

それがまさか、今になるとは思っていなかった。

しかも、高い飛行機代は吉井家持ち。

ありがたかった。

学生にとって、飛行機代は大変高い。

それこそ、貯金を切り崩さないといけないだろう。

それを考えると、吉井家が出してくれて大変良かった。

今の木下姉弟は、二人で過ごしている。

両親は仕事で海外を飛び回っており、小遣いはそれぞれの口座に

そして、生活費は主に電気代や水道代、ガス代は両親の口座から引き出されていて、食費は二人で分担している。

そして、緊急用たる貯金口座管理は優子がしていた。

この貯金口座は、両親が月毎に決まった金額を入れてくれており、家電が壊れた時や、友人の誕生日プレゼント用の出費の時とかに使っていた。

しかし、ここ最近はちょっと出費が重なってしまっており、残高が心許なかったのだ。

両親に連絡すれば、入れてくれるかもしれない。

しかし、それは気が引けた。

理由を説明すれば、入れてくれるだろう。

しかし、親に甘え過ぎるのもなと。

沖縄に来てからの出費も、まだ微々たるものだ。

水着代の千円少々。

その水着代とて、吉井家が七割ほど負担しているとのこと。

 

「一体、どれ程の影響力を……」

 

優子は、思わずそう呟いた。

以前まで居た筈の、文月学園教頭

竹原も、いつの間にか居なくなっていた。

しかも、図書室にある教職員名簿からも、竹原の名前が無くなっていた。

まるで、最初から居なかったように。

恐らく、あらゆる所のデータベースから竹原の個人情報も消されているだろう。

 

「吉井家を怒らせた代償……か」

 

優子はそう言いながら、水着姿で寝転がっている明恵を見た。

なお、優子の第一印象は若いだった。

明久の年齢から考えると、最低でも四十代の筈である。

しかし、明恵の見た目はどう見ても、三十代だった。

しかも、明恵から聞いた話では明久には大学を卒業した姉が居るとのこと。

そこから考えると、五十代の筈だ。

アンチエイジも真っ青である。

そしてもう一つの印象は、底が知れないだった。

学園祭にも来ていたが、ニコニコと笑みを浮かべて回っていた。

そこから優子は考えたが、首を振って

 

「今は、関係ないわね……」

 

と呟いた。

すると、準備体操を終えたらしい秀吉が

 

「姉上、どうしたのじゃ?」

 

と優子に問い掛けた。

その問い掛けに対して、優子は笑みを浮かべて

 

「大丈夫よ」

 

と言うと、一歩踏み出した。

そして

 

「さあ、とことん遊ぶわよ!」

 

と駆け出した。

その頃、明久と謙信は

 

「静かだね……」

 

「そうですね……」

 

ヨットに乗っていた。

なお、そのヨットも吉井家所有の物である。

操舵しているのは、中年男性だった。

その男性も、今は釣りをしている。

聞いた話では、夜食の食糧らしい。

なお、明久と謙信も水着姿である。

明久は蒼い水着を履いて、上にパーカーを着ている。

そして謙信は、蒼地に白い線が入ったビキニにパレオを巻いていて、上は明久とお揃いのパーカーを羽織っている。

今の海原は波風もなく、静かだった。

砂浜に視線を向けてみれば、雄二が何やら潜っている。

よく見ると、その手には網と銛がある。

すると

 

「獲ったどーーー!!」

 

と声が聞こえた。

その声を聞いて、明久は苦笑しながら

 

「雄二、君はどこぞの野生児かい?」

 

と言葉を漏らした。

ふと気付けば、横で謙信が笑っている。

どうやら、ツボに入ったらしい。

 

「はいはい。大丈夫?」

 

明久は謙信を心配して、謙信を支えた。

少しすると、笑いが収まった謙信が涙目で

 

「すいません……予想外だったので、つい」

 

と謝ってきた。

謙信のその謝罪に、明久は笑みを浮かべながら

 

「ああ、いや。あれは、僕も完全に予想外だったよ」

 

と返した。

すると、操舵の男性が

 

「若様! 一度、船を移動させますぜ!」

 

と言ってきた。

それを聞いて、明久は

 

「はい。わかりました!」

 

と返した。

そして、謙信に手を差し伸べて

 

「お嬢様。お手をどうぞ」

 

と言った。

すると謙信は、僅かに顔を赤くして

 

「はい、明久」

 

と明久の手を掴んだ。

そして二人は手を繋いだまま、船室に向かった。

ゆっくりと、だが、確実に。

ゆったりとした日常。

それは、儚く、そして、大切な時間。

何時かは、唐突に終わりを告げるかもしれない。

しかし、今は……

明久は、船室の窓から外を見た。

青く輝く、綺麗な海原を。

平和の象徴を、白い波と共に船は進んでいく……

沖縄旅行は、まだ始まったばかりである。


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