僕と戦極姫と召喚獣   作:京勇樹

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現代の忍者

お化け屋敷に入ってすぐに、明久はお化け屋敷に入ったことに頭を抱えていた。

 

「うん、忘れてた僕も悪かったよ……けどさ、一つ聞いていいかな……なんで、お化け屋敷(ここ)に入ったのさ?」

 

明久がそう問い掛けると、腕に抱き付いていた謙信は涙目で明久を見上げながら

 

「その……遊園地に来たら、一番最初はお化け屋敷でしょうと……明恵さんが……」

 

と言った。

 

何を隠そう、謙信はお化けといった類が苦手なのである。

 

「謙信、母さんの言葉を真に受けちゃいけないよ」

 

明久がそう言うと、謙信は無言でコクコクと頷いた。

 

明久の母、明恵には一つ困った性格があった。

 

それは、大のイタズラ好きである。

 

しかもそのイタズラのレベルははっきり言って、タチが悪いのだ。

 

以前、明久が小さかった頃

 

明恵は明久に誕生日プレゼントと称して、箱を手渡したのだが、その中には大量に虫が詰まっていたのだ。

 

明久はそれに気づかず、箱を開けて、中から大量の虫が溢れ出し、一時期は虫恐怖症にすらなった。

 

なお、その虫は吉井家の警備部門の半数を投じて、駆逐。

 

誕生日プレゼントは別にキチンと用意してあったが、明久はしばらくの間疑って開けなかった記憶がある。

 

そして、今回もその可能性が非常に高い。

 

とりあえず、今は出口に向かうしかない。と明久は判断した。

 

そして二人が歩いていると、行く先々でお化けが出てきて、出てくる度に謙信は短く悲鳴を上げながら明久の腕に強く抱きついた。

 

それを明久は微笑ましく思いながらも、謙信を引きずるようにして出口を目指していた。

 

皆さんはご存知ないかもしれないが、こういったお化け屋敷では、お化けを機械にするか、人が行うかはおおよそ半々なのである。

 

そして如月グランドパークでは、本来は全て機械で行う予定だったのだが、納入が間に合わなかったり、機械の微調整が間に合わなかったり等で半分程は係員が代行していた。

 

なお、明久は人間が混じっているのは気づいていた。

 

だが、そのお化け役がまさか、Fクラスの男子とは思っていなかったのだ。

 

お化けが出てきて、謙信が驚きながらも、明久達はなんとか進んでいた。

 

しかしその中で、出てきたお化け役が待機場所である隠し壁の中に戻らず、衣装の中から棍棒を取り出して、明久達を追い掛けてきた。

 

そのお化け役こそが、Fクラスの男子の一人だった。

 

普段だったら、背後から来ても必ずどちらかが気づいていた。

 

だが、謙信は苦手なお化け屋敷に入っていたので、精神的余裕が無く、明久はそんな謙信のフォローに意識を割いていたので、気付かなかった。

 

そして、お化け役の男子は静かに明久達の背後に近寄り、明久達が上から出てきた機械式のお化けに動きを止めた瞬間、棍棒を振り上げた。

 

次の瞬間、そのお化け役の背後に無音で人影が現れて、お化け役の男子の口の中に、何やらゼリーのような物を突っ込んだ。

 

すると、その男子は一気に顔を青ざめて倒れそうになった。

 

だが、背後の人影。

 

忍者のような服装の康太が、その男子が倒れるのを支えると、近くの係員用のドアに、その男子を放り込んで、すぐさま天井裏に隠れた。

 

その数秒後、明久は振り向くが、不思議そうに首を傾げてから再び歩き出した。

 

そして係員用通路では、康太が懐から無線機を取り出して

 

「……こちらシャドー、お化け屋敷B2通路にてFクラスの男子を捕獲した。移送の手配を頼む」

 

と通信していた。

 

『ありがとうございます、康太さん。助かりました。手配しておきますね』

 

無線の相手、颯馬は感謝の言葉を述べた。

 

なぜ、康太が居るのか。

 

それは、Fクラスの男子達が不審な動きをしているのに気づいて、彼らと同じようにバイトとして秀吉と一緒に潜り込んでいたのである。

 

そして、彼らを監視していた矢先に、颯馬からメールが来たのだ。

 

吉井家からの応援部隊が来るまで、明久達の護衛をしてはくれないかと。

 

颯馬は秀吉と康太がバイトに来ていることを、査察官として見た書類で知ったのだ。

 

康太と秀吉は颯馬の願いを快諾し、明久達の近くに待機していたのだ。

 

本当だったら、颯馬も同じように護衛に入りたかったのだが、査察官としての仕事があるので、康太達を頼ったのだ。

 

「……礼など不要だ。俺達は同志だろう?」

 

『そうじゃ。何時でも頼ってくれて構わないのじゃ』

 

康太の言葉に同意するように、秀吉の言葉が聞こえた。

 

『ありがとうございます。今移送の手配をしたので、引き続き頼みます』

 

「……了解した」

 

『承知したのじゃ』

 

颯馬の言葉を聞いて、康太は返事すると無線機を懐にしまった。

 

そして、廊下に倒れている男子を見ると

 

「……バカな奴らだ」

 

と言うと、一瞬にして消えた。

 

ちなみに、康太が男子の口に押し込んだのは、姫路作のゼリーである。

 

あのオリエンテーリングの日、姫路がゼリーを作って持ってきていたことに、康太は気づいて、市販されている物にすり替えておいたのだ。

 

しかし、簡単に捨てて被害を出す訳にはいかないと思い、隠し持っていたのだ。

 

今回はそれが役立った形である。

 

もはや、暗殺向きな姫路作のケミカルクッキングである。

 

この後も、秀吉と康太のおかげで明久達は無事にお化け屋敷から出ていき、次の場所へと向かっていった。

 

 


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