僕と戦極姫と召喚獣   作:京勇樹

4 / 82
自己紹介 Fクラス編

(さてと、現状の戦力だと厳しいな………)

 

坂本雄二は教卓の位置から教室を見回してから、そう思った。

 

(秀吉に、島田。それにムッツリーニが居るのは思ったとおりだ………)

 

雄二が居るのは、最低成績の生徒達が集められるクラスのFクラスだ。

 

(俺は本気を出せばAクラス並だが、最低でも後一人は欲しいところだな……)

 

そう考えていると、ドアが開いた。

 

「坂本くん。机に座ってください。自己紹介を始めたいので」

 

「了解」

 

雄二は入ってきた先生の指示に従い、机に座った。

 

(席順は決まってねーがな)

 

「皆さん、おはようございます。私の名前は…………福原慎(ふくはらしん)と言います」

 

先生は少し黒板のほうに向いたが、名前を書かないで名乗った。

 

(チョークすらねーのかよ……)

 

あまりにも酷すぎる設備に、雄二は頭を抱えた。

 

(なんだろうか………頭が痛くなってきたぜ………)

 

勉強させる気があるのかよ。と、雄二が俯いていると

 

「それでは、設備の説明をします。ちゃぶ台と座布団です。これらの設備に不備はありませんか?」

 

(ありまくりだろ!!)

 

雄二のちゃぶ台は穴が空いていた。

 

「先生! 俺の座布団、綿がほとんど入ってません!」

 

「我慢してください」

 

「せんせー! 窓が割れてて、風が入ってくるんですけど!」

 

「後でセロハンテープとビニールを支給するので、自分で補強してください」

 

「先生、俺のちゃぶ台。脚が折れてるんですけど?」

 

「我慢してください」

 

「出来るか!!」

 

「冗談です。これで直してください」

 

と、先生は木工ボンドを置いた。

 

予想外すぎるこの酷さに雄二は

 

(こんなんでいいのかよ!!)

 

と、思っていた。

 

「他にはありませんね? それでは、自己紹介を始めます。廊下側の人からお願いします」

 

そう言われて、女に見える男が立ち上がった。

 

「ワシの名前は木下秀吉じゃ、演劇部に所属しておる。よろしく頼むぞい」

 

(秀吉、お前の演劇能力はあてにさせてもらうぜ?)

 

「……土屋康太……」

 

(相変わらず無口だな、ムッツリーニ。保健体育の帝王)

 

「島田美波です。日本語は読み書きが出来ません。趣味は……」

 

(島田か、こいつは数学だけならBクラス並だから使え……)

 

「吉井明久を殴ることです☆」

 

(テメェは戦力外だ、バカヤロウ)

 

その後も自己紹介が続けられたのだが

 

(正直使い物にならねぇ……どうすっかな。これだと、下克上ができねぇんだが)

 

と雄二が考えてると、ドアが開いて女子が入ってきた。

 

「はぁ、はぁ……お、遅れてすいません………」

 

(おいおい……とんでもない切り札だぞ)

 

雄二は、入ってきた女子の名前を知っていた。

 

「ああ、ちょうどよかった。今、自己紹介をしているところなので、あなたもお願いします」

 

「は、はい! ひ、姫路瑞希と言います! 皆さん、よろしくお願いします!!」

 

(しっかし、なんでこいつが?)

 

雄二は彼女、姫路瑞希が居ることに首を傾げた。

 

(こいつは確か、成績は次席クラスのはずだぞ?)

 

「はい! 質問です!」

 

「は、はい! なんですか?」

 

「どうして、ここに居るんですか?」

 

(おい、その質問の仕方は失礼だろ)

 

しかし、その理由を雄二も聞きたかった。

 

「え、えっと……試験中に熱で倒れてしまいまして……」

 

(なるほど、途中退席か……)

 

ここの試験は、途中退席は無得点扱いなのである。

 

「ああ、なるほど。俺も熱(の問題)が出たから、Fクラスに……」

 

「ああ、化学の問題だろ? あれは難しかった」

 

「俺は、弟が前日に事故にあったって、聞いて………」

 

「黙れ、一人っ子!!」

 

「俺は、前日の晩に彼女が寝かせてくれなくってさ~」

 

「今年一番の大嘘をありがとう!」

 

(こいつら……なんだろうか、目標が遠のいた気がする)

 

クラスメイト達のあまりのバカさ加減に、雄二は眩暈を覚えた。

 

「坂本君、君で最後です。お願いします」

 

「ういっす」

 

雄二は先生に促されたので、立ち上がると、教卓の位置に立った。

 

「俺の名前は坂本雄二だ。代表とでも坂本とでも、自由に呼んでくれ」

 

そして雄二は、教室を見回すと

 

「Aクラスはリクライニングシートに冷暖房完備らしいが………不満はないか?」

 

「大ありジャアアアアアァァァァァァァァ!!!」

 

雄二の問いかけに、クラスほぼ全員の心の叫びが返ってきた。

 

(うぉ! 窓が揺れたぞ!! こいつは予想以上だ!!)

 

だが、今は使える!

 

と、雄二は思った。

 

「Aクラスだって、同じ学費だろ!!」

 

「改善を要求する!!」

 

(まぁ、気持ちはわからんでもないがな)

 

「そうだろうそうだろう! だから俺達はAクラスに試験召喚戦争を仕掛ける!!」

 

と雄二が言った。その瞬間

 

全員一気に、静かになった。

 

(って、おい……)

 

その落差に、雄二は内心突っ込みを入れた。

 

「勝てるわけないだろ」

 

「無理に決まってる」

 

「これ以上、設備を落とされてたまるか」

 

「姫路さんが居れば、他になにも要らない!!」

 

(最後の奴、表に出ろ)

 

「無理じゃない! その証拠を今から教えてやる! おい、土屋。姫路のスカートを覗いてる場合か」

 

雄二は冷や汗を流しながら、ある一人の男子に向けた。

 

「………っ!」

 

(首を振って否定してるがな、頬に畳の跡がくっきりと残ってるからな?)

 

「は、はわ!?」

 

(気付けよ、姫路)

 

「さて、こいつの名前は土屋康太。もう一つの名は、かの有名な寡黙なる性職者(ムッツリーニ)だ!」

 

雄二が土屋のもう一つの名前を言うと、ざわめきが起きた。

 

「……事実無根!!」

 

と、土屋は首を振って否定するが

 

「バカな! 奴がそうだと言うのか!?」

 

「見ろ! 覗きの証拠をまだ隠そうとしてるぞ!」

 

「ああ、ムッツリーニの名に恥じない行為だ!」

 

クラスの男子達は興奮気味に喋った。

 

(本来は、恥ずべき名だがな)

 

土屋康太

 

またの名を、寡黙なる性職者(ムッツリーニ)

 

本名はあんまり知られてないが、この名前は全学年の全生徒が知ってるだろう。

 

男子からは畏敬と畏怖の感情を込めて、女子からは侮蔑の念を込めて呼ばれている。

 

(名前の由来は、ムッツリスケベなんだがな)

 

「姫路のことは皆も知っての通りだ」

 

と雄二が言うと、男子全員の視線が姫路に集中した。

 

「おお! そうだった、彼女が居るんだった!」

 

「え? わ、私ですか!?」

 

「ああ、うちの主戦力だ。頼りにしてるぞ?」

 

「彼女ならば、Aクラスに引けをとらない!!」

 

「姫路さんさえ居れば、なにも要らない!!」

 

(おし、お前。こっちに来いや)

 

そして、一旦視線を島田に向けるが、雄二はスルーした。

 

「ちょっと! ウチは!?」

 

そのことに島田が抗議するが

 

(知るか)

 

雄二は無視した。

 

「それに、木下秀吉も居る!」

 

「む? ワシかのう?」

 

(おう、お前だ。演劇のスペシャリスト)

 

「おお! 演劇部のホープ!」

 

「確か、双子のお姉さんがAクラスの………」

 

「木下優子……だったか?」

 

(その通りだ)

 

「ねぇ、ウチは!?」

 

「黙ってろ」

 

雄二は島田にきつく言い放った。

 

「な!?」

 

「島田……お前は確か、数学だけならBクラス並だったな?」

 

「そうよ! ウチは数学だけなら、Bクラスの上位並みよ!」

 

「そうかそうか………話になるか」

 

「なんでよ!?」

 

「俺の言葉を聞いたか? 俺達はAクラスに戦いを挑むんだぞ?」

 

「聞いたわよ! だから、ウチも十分に戦力になるわよ!」

 

「たかが、Bクラス程度の数学でか? 相手はAクラスだぞ? どんだけの点数さがあると思ってるんだ?」

 

「だ、だったら! 木下はどうなのよ!」

 

「秀吉には、天才的な演劇能力がある。だから戦争以外でも、十分に役立つ。だけど、お前はどうだ? 頼みの綱はBクラス並の数学だけ。しかも、他の科目はFクラスでも最低ランクだ。そんなお前が、役に立つか?」

 

「グゥ…………」

 

雄二の正論に、島田は唸ってから俯いた。

 

(ふん……それに、お前のことは個人的に嫌いだ)

 

雄二は島田に敵意を向けていた。

 

(俺達の恩人の明久を殴るだと? そんなこと、許すか)

 

雄二は視線を前に戻して

 

「少しわき道にそれたが、俺も本気を出そう!」

 

「そういえば、坂本は昔、神童って呼ばれてなかったか?」

 

「凄い! それだったら、Aクラス並が複数居るのか!」

 

「勝てる! この戦争、勝てるぞ!!」

 

(まぁ、お前達は捨て駒にしかならんがな)

 

雄二はもはや、クラスの男子達(一部を除き)を見限っていた。

 

「そうだ! 俺達は勝てるんだ! 手始めに、Dクラスに宣戦布告する! その大役は………島田、行ってこい」

 

「なんでよ! それに、下位クラスからの使者は大抵、酷い目にあうんでしょ!?」

 

雄二からの指名に、島田は非難めいた視線を雄二に向けた。

 

「大丈夫だろ。流石に、女には手出ししねぇだろ」

 

「本当でしょうね?」

 

「大丈夫だから、行ってこい」

 

と、雄二がなんの根拠もなく言うと

 

「わかったわよ………」

 

と、島田は渋々と行った。

 

(さて、島田は行ったな。まぁ、安全性は皆無だが)

 

と、雄二は黒い笑顔を浮かべると

 

(さて、作戦はシンプルに行くか)

 

と、作戦立案を始めた。

 

数分後、島田はかなり疲れた様子で帰ってきて、Dクラス戦には参加したくないとダダを捏ねたが、雄二が黙らせて、参加が決まった。

 

Dクラス戦は、午後からの開戦になった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。