僕と戦極姫と召喚獣   作:京勇樹

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次で終わりの予定です


二人の出会い その2

数十分後、雄二は病院で治療を受けていた。

 

なお、雄二に暴行を加えていた男子達は明久が吉井本家に連絡して捕縛された。

 

そして、明久達が居るのは吉井本家の息が掛かった病院だ。

 

「すまねぇな。この礼は必ず」

 

「いいよ。気にしないで……この病院は吉井本家の息が掛かった病院だから」

 

雄二が頭を下げながら言うと、明久はそう言いながら手を振った。

 

その時、翔子がハッとした様子で

 

「……思い出した……蒼の剣聖、吉井明久!」

 

と明久の二つ名を呼んだ。

 

「ん? 僕を知って……待てよ……そういえば、見覚えがあるな……」

 

明久が翔子を見ながら首を傾げていると、雄二が

 

「翔子、知ってるのか?」

 

と翔子に問い掛けた。

 

翔子の名前を聞いて、明久はポンと手を叩いて

 

「思い出した。君、霧島財閥の一人娘の霧島翔子さんか!」

 

と言った。

 

「知ってるのか?」

 

雄二が再び問い掛けると、翔子は頷いてからお嬢様らしくスカートの端を持ち上げながら恭しく頭を下げて

 

「……お久しぶりにございます。私の誕生パーティー以来になりますから、三年振りでしょうか?」

 

と告げた。

 

すると明久も、右手を胸部に持っていき

 

「そうですね。三年振りになりますか……見目麗しくなりましたね」

 

と言った。

 

その光景はまさしく、身分の高い者同士の所作だった。

 

それを見て、雄二は

 

「吉井……頼みがある」

 

と明久に声を掛けた。

 

「なにかな?」

 

明久が首を傾げていると、雄二は姿勢を正して

 

「翔子を……お前の家に娶ってやってくれないか?」

 

と言った。

 

「……雄二!」

 

翔子は声を上げて雄二に詰め寄ろうとしたが、それを明久は制して

 

「どういうことかな?」

 

と問い掛けた。

 

すると雄二は、真剣な表情を浮かべて

 

「お前も見ただろ? さっきみたいな事件が、今後も起こらないとは限らない……だが、翔子は霧島財閥のお嬢様だ……俺に関わったら、こんな事件に巻き込まれるのは必至だ……だったら」

 

雄二はそこまで言うと、明久に視線を向けた。

 

「だったら、俺よりもお前の近くに居たほうが安全だし、俺よりも相応しいと思う……だから……」

 

雄二はそう言いながら、悔しいのか拳を握り締めた。

 

「坂本くん……歯、食いしばって」

 

「あ?」

 

明久の言葉の意図が分からず、雄二は明久に視線を向けた。

 

その直後、雄二の頬に明久の拳が叩き込まれた。

 

「がっ!?」

 

雄二は呻き声と共に倒れて、翔子は突然の事態に固まった。

 

殴られた雄二は文句を言おうと、顔を明久の方へと向けた。

 

その直後、雄二の胸倉を明久が掴んだ。

 

「目の前の現実から逃げるな!」

 

「なっ……」

 

明久が大声を上げると、雄二は瞠目した。

 

「君のそれはただ、安易な楽な方への逃げだよ! どうしてキチンと向き合ってあげないの! どうして、キチンと受け入れてあげないの!」

 

明久がそう言うと、雄二は歯を食いしばってから明久を睨んで

 

「お前に何がわかるんだよ!」

 

と明久を突き飛ばした。

 

「何も知らねぇくせに! 知りもしないくせに! 口を挟むんじゃねえ!」

 

「知らないさ! けど、君の行動は自分だけでなく、霧島さんも傷つけるってなんで気づかないの!?」

 

明久がそう返すと、雄二は一瞬口を噤むが

 

「仕方ないだろ!? こうでもしないと、翔子の将来がダメになるんだよ! 俺が近くに居るだけで、翔子の将来が台無しになるんだ! そんなの……耐えられないんだよ!」

 

雄二がそう叫ぶと、明久が

 

「坂本くんが言ったのは、小学四年生の時に起きた……暴力事件だよね?」

 

と言った。

 

その瞬間、雄二は驚愕で目を見開いた。

 

「実を言うとね……霧島財閥からの縁談が過去に二回あったんだ……まあ、翌日にはキャンセルされたんだけどね」

 

明久はそう言うと、頬を掻きながら

 

「ただ、二回目の縁談が持ち込まれた時に霧島さんが行く予定だった私立の学園が、普通の中学校に変わってたから、母さんが調べちゃったんだ……それは、母さんの代わりに謝ります。ごめんなさい」

 

明久が謝ると、翔子が

 

「……別に、隠してるわけじゃないから大丈夫」

 

と言った。

 

「そう言ってもらえると、助かるかな」

 

と明久は言うと、雄二を見つめて

 

「そして、その暴力事件の原因が悪鬼羅刹……ううん。IQ120の神童の坂本雄二くんだった」

 

明久のその説明を聞いて、雄二と翔子は驚愕で目を見開いた。

 

「母さんが注目してたんだよね。将来吉井家で使いたいわって……ね、近年稀に見る天才児?」

 

「知ってたのか……」

 

明久の言葉に、雄二は自虐的に笑った。

 

彼、坂本雄二は悪鬼羅刹と呼ばれる前は神童と呼ばれる程に天才的な頭脳を有していた。

 

しかし、それが理由で周囲の同年代からは疎ましく思われていて、雄二はそれを気にせずに唯我独尊を貫いていて、そんな雄二に追随出来たのは翔子のみだった。

 

そして、二人が小学四年生の時にその事件は起きた。

 

雄二と翔子の二人は四年生にして、かなり有名な私立の中学校への推薦入学が決定していた。

 

しかしながら、それを良く思わない者達が居た。

 

元々疎ましく思われていたのと推薦を得たのを聞いて、同じ小学校の高学年の数人が雄二に嫌がらせを行った。

 

だが雄二はその嫌がらせを無視し、普段通りに過ごした。

 

そんなある日、翔子が雄二のカバンを壊そうとしていた高学年を目撃

 

口頭で注意した。

 

翔子の注意を受けてその高学年は逆上し、翔子に手を上げたのだ。

 

そして、その場面を雄二は目撃し、激情に任せて高学年に拳を振るった。

 

ここまでだったらその高学年に非があり、罰もその高学年のみだっただろう。

 

だが、雄二は小学生にしては人間の身体の構造を把握していて、的確に人体の急所を殴り、その高学年に大怪我を負わせたのだ。

 

その結果、警察沙汰へと発展

 

学校側は処罰として、雄二と翔子に与えられていた推薦を取り消したのだ。

 

雄二としては、別にその私立の中学校には興味がなかったから構わなかった。

 

だが、翔子の推薦を取り消されたのを雄二は自分の責任と把握して、それを重く受け止めた。

 

そんなこともあり、雄二は翔子が自分から離れると思っていた。

 

翔子自身が拒否しても、家から雄二に対して翔子に会わないでくれ。と言われることも覚悟した。

 

だが、自身の予想に反して翔子は自分の近くに居続けて、霧島家からも何もなかった。

 

それが雄二の罪悪感を助長させて、雄二を喧嘩へと走らせた。

 

これには一部打算もあり、喧嘩に明け暮れて警察に何回も補導されたりしたら、今度こそ翔子は自分から離れるだろうと。

 

だが、何回警察に補導されたり教師に注意されようが、翔子は離れず、霧島家からも何もなかった。

 

それが尚更、雄二の罪悪感とストレスを大きくした。

 

そして、ストレス解消と翔子が離れることを願って喧嘩を繰り返していた。

 

今回の事件はそれを繰り返した結果、恨まれた結果起きたのだ。

 

「俺なんかと一緒に居たら、翔子の将来を台無しにしちまう……だから俺は、翔子が離れると思って喧嘩に明け暮れたんだ……なのに……なのに……」

 

雄二が涙を零しながら両手両膝を突いていると、翔子がそんな雄二の頭を優しく抱き締めた。

 

「翔子……?」

 

「……辛い思いをさせて、ごめん……だけど、私にとっては私立の中学校の推薦なんて、些細なこと……私にとって大事だったのは、雄二と一緒に居ることだったの」

 

「だが、俺と一緒に居たら……」

 

翔子の言葉に雄二がそこまで言うと、明久が片膝を突いて

 

「坂本くん……少し、僕の話を聞いてくれるかな?」

 

と声を掛けた。

 

雄二が顔を向けると、明久は口を開いた。

 

「さっき、霧島家から二回縁談が持ち込まれたって言ったよね?」

 

明久がそう言うと、二人は頷いた。

 

「その二回共に、縁談を持ち込んだのは霧島太一さん……霧島さんのお爺さんなんだ」

 

「……お爺様が?」

 

明久の説明を聞いて、翔子は驚いていた。

 

「そう……だけど、その二回共翌日に拒否の連絡があったんだ……拒否の連絡をしてきたのは……霧島翔太さん……霧島さんのお父さんなんだ」

 

続いての明久の説明を聞いて、二人とも驚いていた。

 

「拒否してきた時、何て言ってたと思う? 『娘の相手は娘に選ばせてあげたいのです……それに、彼ならば、娘を幸せにしてくれるだろう』って……正直言うとね、最初の縁談が持ち込まれた時、僕には既に婚約者が居たんだ……だけど、霧島家の御隠居からの縁談だったから、断りにくかったんだ……そしたら、翔太さんから拒否の連絡が来たんだ……」

 

明久の説明を聞いて、翔子は嬉しそうに両手を組んだ。

 

すると、雄二が不思議そうに

 

「なんで、翔太さんはそんなことを……」

 

と呟いた。

 

「ねえ、坂本くん……霧島さんの記憶力、凄く良いと思わない?」

 

「は? まあ、かなり良いと思うが……それがどうした?」

 

明久の問い掛けを聞いて、雄二は不思議そうに首を傾げた。

 

すると明久は、一回翔子に視線を向けてから

 

「霧島さんはね……一度見聞きしたことは、絶対に忘れないんだ」

 

と言った。

 

「な、なに……?」

 

明久の説明を聞いて、雄二は驚愕した。

 

人の記憶力というのは案外大したことはなく、周囲の景色などは、そのほとんどを流している。

 

だが、人間の脳のキャパシティは約百四十年近く有ると言われているので、死ぬまでは覚えていられる計算である。

 

とはいえ、完全に覚えていられるというのは、普通は不可能である。

 

だが、物事には全てにおいて例外が存在する。

 

「霧島さんは直感像資質……つまりは、完全記憶能力を有してるんだ……そして、それが理由で実の家族からも気味悪がられてたんだ……翔太さん以外にはね……」

 

明久の説明を雄二は、呆然と聞いていた。

 

「母親からも気味悪がられて、霧島さんは実質的に一人ぼっちだったんだ……坂本くん、君に会うまではね」

 

明久がそこまで言うと、雄二は視線を翔子に向けた。

 

「翔子……本当なのか?」

 

雄二が問い掛けると、翔子は頷き

 

「……吉井が言ってるのは本当」

 

と肯定した。

 

「……小さい頃から、私は見聞きしたことは全部覚えてた……そんな私をお母様は気味悪がって、構ってくれなくて……お父様は仕事が忙しくって、中々家に帰ってこれなかった。だから、家のことはハウスキーパーに実質任せきりだった……だけど、ハウスキーパーの人も私を気味悪がって、あまり話し掛けてこなかったの」

 

翔子はまるで、泣きそうな表情を浮かべながら語り出した。

 

「……そんな時、私は雄二に会ったの……雄二は私に何時も話し掛けてくれて、遊んでくれた……そして気づいたら、私は雄二が好きになってたの……」

 

「そう、だったのか……」

 

翔子の説明を聞いて、雄二は驚きながら呟いた。

 

「多分、そのことに翔太さんは気づいたんだろうね……だから、坂本くんなら霧島さんを任せられるって思ったんじゃないかな? 家族の優しさをほとんど知らない霧島さんをさ……」

 

明久がそういうと、雄二は肩を震わせた。

 

すると、明久は雄二の肩に手を置いて

 

「坂本くんもさ、孤独だったんでしょ? 大人からは天才児扱いされても、周囲の同年代にとっては邪魔者以外なんでもないからね……霧島さんと一緒に居れて、遊べて、嬉しかったんでしょ? だったらさ、素直になろうよ……今なら、まだ間に合うからさ……」

 

明久がそこまで言うと、しばらくの間、部屋は静かになった。

 

どれほど経っただろうか。

 

ある時、それまで俯いていた雄二が顔を上げてから翔子を見つめて

 

「翔子……最後に確認するぞ……本当に、俺でいいんだな? 後悔しないな?」

 

と問い掛けた。

 

すると、翔子は雄二に抱きついて

 

「……雄二じゃなきゃ嫌だし、後悔もしない」

 

と言った。

 

翔子の言葉を聞いて、雄二はゆっくりと翔子を抱き締めたのだった。




頑張った
俺は頑張って書きました
これが精一杯でした

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