僕と戦極姫と召喚獣   作:京勇樹

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うん、題名でわかるかww


シスタークライシス

明久が退院してから、数日後

 

それは、突然の電話から始まった。

 

「ん? 誰だろ……」

 

退院したとはいえ、未だに無理出来ない明久は自宅で読書していた。

 

ちなみに、家事などは謙信が行っている。

 

明久は携帯を取ると、画面を見た。

 

「母さん? はい、どうし」

 

『明久! 今すぐにそこから逃げなさい!』

 

明久が要件を聞こうとしたら、母がそれを遮るように叫んだ。

 

「な、なに? どうしたの?」

 

『いい、明久。落ち着いて聞きなさい』

 

明久が再び要件を聞くと、母は念押ししてきた。

 

「うん、まずは、母さんが落ち着いて」

 

明久はそう言うと、お茶を一口含んだ。

 

その直後

 

『玲がそっちに行った!』

 

母が言ったその言葉を聞いて、明久は口からお茶を吹き出した。

 

「ゲホゴホ……え、マジで?」

 

なんとか立て直した明久が聞くと、電話の向こうで母は盛大に舌打ちして

 

『マジもマジの大マジよ! ったく、あの子はいつの間に縄抜けや空蝉なんて使えたのかしら……しかも、セキュリティーまで無効化して……』

 

実の娘に対してやることではないが、明久としてはスルーした。

 

『とりあえず、あんたは今すぐ、謙信ちゃんと一緒に逃げなさい。私達も向かってるけど、それまでは絶対に捕まらないで!』

 

「わかった!」

 

明久は通話を切ると、部屋から出た。

 

「謙信!」

 

「明久? どうしました?」

 

居間で掃除していた謙信は、駆け込んできた明久を見て、怪訝そうにした。

 

「姉さんが、こっちに来る!」

 

「っ!」

 

明久の言葉を聞いて、謙信は目を見開いて固まった。

 

「本当……なんですか?」

 

「本当みたい。さっき、母さんから連絡があったからね」

 

「そうですか……」

 

謙信が明久の言葉を聞いて唸っていると、明久が肩に手を置いて

 

「とりあえず、最低限の荷物と貴重品を持って! 姉さんが来る前に脱出するよ!」

 

「はい!」

 

謙信は明久の話を聞いて、エプロンを外して居間から出ていった。

 

明久も部屋に戻ると、学校の鞄と財布と携帯を持って廊下に出た。

 

すると、既に謙信が明久を待っていた。

 

そんな謙信の手には、大きめのリュックが一つだけあった。

 

それを明久が確認した瞬間、ピンポーンとチャイムが鳴り

 

『アキくーん……開けてくださーい』

 

という、二人にとっては聞き慣れた声が聞こえた。

 

そしてその声を聞いた時、二人は身構えた。

 

「まさか、もう来たなんて……」

 

「早かったですね……」

 

二人が話している間にも、ドアの向こうから開けてくださいと催促が来ている。

 

「どうしますか、明久?」

 

唯一の出入り口を封じられて、謙信は明久に問い掛けた。

 

すると、明久は謙信の手を取って

 

「靴を持ってきて……こっち」

 

と、居間に戻った。

 

「明久、なにを?」

 

謙信は明久が居間に戻ったために、籠城でもする気なのか? と疑った。

 

が、明久は机の端を持つと

 

「謙信、手伝って」

 

と言ってきた。

 

謙信は首を傾げながらも、明久を手伝って机を移動させた。

 

机の下にはマットが敷かれてあり、明久はそれを捲った。

 

「あっ!」

 

謙信はマットの下から現れた新たなドアを見て、驚きの声を上げた。

 

「この物件ってね、母さんからの紹介なんだよね……で、もしもの場合はここを見なさいって言われてたんだ……」

 

明久はそう言うと、ドアの横の数字のボタンを押そうとした。

 

が、押す直前で固まった。

 

「明久? どうしました?」

 

突然固まった明久を見て、謙信が問いかけるが明久は黙ったままだった。

 

(待てよ……姉さんなら、あのドアの鍵くらいは簡単に開けてくる筈……それなのに、なんで催促だけなんだ?)

 

明久はそこまで考えると、目の前のドアの向こうに意識を集中させた。

 

そして、気づいた

 

「明久? いったい、なにが……」

 

謙信が問い掛けようとしたが、それを明久は唇に指を当てて止めると、無言でドアを差し示した。

 

謙信は首を傾げながらも、ドアの向こうに意識を向けた。

 

そして、謙信は目を見開いて

 

(居る! この向こうに玲さんが!)

 

床下に玲が居ることに、気づいた。

 

謙信が視線を明久に向けると、明久は無言で頷いて

 

(こっちが本命で、あっちが囮だね。気づいて良かったよ)

 

明久は小声でそう言いながら、立ち上がった。

 

もし、居るのに気づかないで開けていたら、すぐに捕まっていただろう。

 

(謙信、静かに玄関に行くよ)

 

(はい!)

 

二人は静かにしかし、早く、玄関に向かって靴を履くと、互いの顔を見て頷き

 

「脱出!」

 

ドアを一気に開け放って、駆け出した。

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「で、俺の所に来たわけか」

 

そう言ったのは、明久と謙信を出迎えた雄二である。

 

明久と謙信の二人は家を出ると、近くに住んでいる雄二の所に向かった。

 

雄二は最初、明久と謙信が来たことに驚いていたが、事情を話したら受け入れてくれた。

 

「んで、話に聞いた限りでも相当だが、お前の姉さんはそんなにヤバいのか?」

 

雄二が問いかけると、明久は頷いて

 

「うん……一言で済ますなら、非常識の塊だね」

 

と断言した。

 

「お前が言うなら、相当なんだな」

 

雄二がそう言うと、謙信が遠い目をしながら

 

「ええ……明久を女装させようとしたり、明久を家族としてではなく、異性として愛してると公言したりしてます」

 

と言った。

 

謙信の話を聞いて、雄二は頬をヒクヒクさせて

 

「そりゃあ……相当だな……」

 

と呟いた。

 

その時、チャイムが鳴った。

 

「今日は千客万来だな……誰だ?」

 

雄二はそう言うと、玄関に向かい、ドアを開けようとした。

 

が、それを明久が制した。

 

雄二が視線を向けると、明久が真剣な様子で

 

「ちょっと待ってね……嫌な予感がするんだ」

 

明久はそう言って、ドアの覗き穴からドアの向こうを見た。

 

そして、そこにはまさしく、姉の玲の姿が有った。

 

明久はその瞬間、背中をドアに付けて驚愕の表情を浮かべた。

 

「どうした? 凄い顔になってんぞ?」

 

雄二が問いかけると、明久はまるで錆びたブリキ人形のようにギシギシと顔を向けて

 

「居る……姉さんが居る……っ!」

 

と言うと、雄二は目を見開いて

 

「マジか……お前らが来てから、まだ五分も経ってないぞ?」

 

雄二がそう言うと、明久は首を振って

 

「姉さんは僕関係だと、不可能を可能にするんだ……」

 

と呟いた。

 

それを聞いた雄二はしばらく黙考すると、明久の耳元で

 

「俺が時間を稼ぐから、お前らは台所横の勝手口から逃げろ」

 

と囁くように言った。

 

それを聞いた明久は数秒間悩んでから、頭を下げて

 

「ごめん、雄二。お願い」

 

と言って、謙信の居る雄二の部屋に戻り、謙信を呼ぶと台所に向かった。

 

そして、台所の入り口から玄関を見ると雄二が頷いた。

 

それを見た明久も頷いて返した。

 

「はーい……今開けますよ!」

 

雄二のその声を聞いた二人は、勝手口を開いて駆け出した。

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「で、俺達の所に来たのか」

 

そう言ったのは、カウンターに肘を突いている信繁である。

 

今、明久と謙信が居るのは、喫茶躑躅ヶ崎《きっさつつじがさき》である。

 

この喫茶店は、武田家が営んでおり、文月市にあるのは支店である。

 

開店して1ヶ月も経ってないというのに、既に近所では有名店である。

 

その理由は、信玄と幸村が大正風メイド服を着てるのと、信繁が作るデザートが美味しいからだ。

 

信繁は意外と料理が得意で、特にデザート関係はかなりの物である。

 

「しっかし、あの人も困ったもんだな」

 

「言い訳のしようがありません」

 

信繁の言葉に、明久は土下座した。

 

「そんじゃあ、とりあえず……」

 

信繁はそう言うと、信玄に視線を向けて頷いた。

 

すると、信玄はドアの外に出て看板を裏返して、中に戻るとカーテンを閉じた。

 

「え? いいの?」

 

明久が聞くと、信繁は頷いて

 

「玲さん絡みだと、まともに営業出来ないだろうからな」

 

「本当にごめんなさい……」

 

信繁の言葉を聞いて、明久は再び土下座した。

 

その後、明久達を伴って自宅の方に移動して、信玄と幸村は着替えた。

 

そして、対玲用の準備をしていると

 

ピンポーン

 

という、チャイムが聞こえた。

 

その瞬間、信繁達は身構えた。

 

「信玄、幸村……」

 

「ええ、来ていますね」

 

「間違いありません。玲さんです……」

 

『アキくーん……ここに居るんでしょ……』

 

ドアの向こうから、玲の声が聞こえてきた。

 

「明久、謙信、お前らは奥に居ろ……」

 

「ここは私達が請け負います……」

 

「吉井本家が来るまで、もう間もなくでしょう……そのくらいならば、私達でも稼げます」

 

三人はそう言いながら、各々武器を構えた。

 

それを聞いた明久は数秒間悩むと、謙信の手を握って

 

「ごめん……三人共お願い……!」

 

頭を下げてから、奥の部屋に入った。

 

その後、ドアの向こうから

 

『行くぞ、お前ら……準備はいいか?』

 

『大丈夫です』

 

『問題ありません』

 

『OK……そんじゃあ……突撃!』

 

三人のそういう会話が聞こえ、その後しばらくドタバタと派手な音が聞こえた。

 

そして、数分後……

 

「静かになりましたね……」

 

ドアの向こうが、一気に静かになった。

 

『明久、終わったぞ』

 

「良かった……では」

 

信繁の声が聞こえたからか、謙信は安心してドアを開けようとした。

 

が、それを明久が制した。

 

「明久?」

 

謙信が疑問の目を向けると、明久は真剣な表情でドアの向こうを見ていた。

 

そして明久は、周囲を見回すと、近くにあった棒を掴んでから、ドアを開けた。

 

次の瞬間、ドアの向こうから影が飛び込んできて、明久は棒を横にして掲げた。

 

その直後、金属音が響き明久の掲げた棒にクナイがめり込んだ。

 

「やっぱり、姉さんだったか……っ!」

 

「よくわかりましたね。アキくん」

 

明久の目の前には、玲が居て、クナイを振り下ろしていた。

 

「……信繁達は?」

 

「眠ってもらいました……」

 

玲の話を聞いて、明久は視線だけで確認した。

 

三人は先ほどの部屋で、うつ伏せに倒れていた。

 

「明久!」

 

「謙信は来ないで!」

 

背後から謙信の心配そうな声が聞こえて、明久がそう返すと、玲が謙信を見て

 

「アキくん、退いてください……そうしないと、その牝狐を倒せません……」

 

「行かせるわけには、いかない……っ!」

 

二人がそう言いながら鍔迫り合いをしていたら、ドアが開く音がして

 

「うっ……」

 

玲が呻いて、力が抜けるように倒れた。

 

明久が視線をドアの方に向けると、そこには颯馬が右手を突き出した状態で居た。

 

「颯馬!」

 

「明久様、謙信様! ご無事ですか!?」

 

「うん、大丈夫……ねえ、この注射って……」

 

明久は謙信の無事を確認してから返答すると、颯馬に玲の首輪に刺さってる注射のことを問い掛けた。

 

「はい、馬用です」

 

颯馬はなんでもないとでも言うように、返答した。

 

「玲さんには、人間用は効かないからと、明恵様から渡されました」

 

「姉さん……どんだけ食らってるのさ」

 

颯馬の話を聞いて、明久は溜め息を吐いた。

 

「アハハハ……そして、馬用を平然と出す明恵様も凄いですよね……」

 

明久の愚痴を聞いて、颯馬は苦笑いしていた。

 

明久と謙信は颯馬の言葉を聞いて、二人して頷いた。

 

その数分後、明恵を筆頭に吉井本家の人間が入ってきて、玲を捕獲、縄で縛ってから車に放り込んだ。

 

「いやぁ、まさかあのセキュリティーと縄と鎖を抜けるとは思わなかったわー」

 

「信繁達と雄二は?」

 

「坂本君なら、先に保護したわ。信繁君達は、今ウチの医療班が対処してるわ」

 

明恵がそう言ったタイミングで、明恵の近くに一人の男が近寄り、何かを耳打ちしていった。

 

それを聞いた明恵は、男に二言三言話すと、顔を明久に向けて

 

「あんた達の部屋は無事だそうよ。私達はこれから、玲を連れて戻るから、あんた達も戻りなさい」

 

と言うと、外に出ていった。

 

その後に吉井本家の人間達と颯馬も付いていって居なくなる、明久と謙信は互いの顔を見てから武田家から明久の部屋に帰った。

 

その後、明久と謙信は食べ損ねていた昼食を食べ終わると居間で少しのんびりしていた。

 

「明久、傷は大丈夫ですか?」

 

謙信が問いかけると、明久は一回全身を軽く動かしてから

 

「一応、包帯を替えようか……謙信、手伝って」

 

「はい」

 

謙信は頷くと、新しい包帯を持ってきた。

 

そして、明久が上着を脱ぐと謙信は一部を見て

 

「少し、血が滲んでますね……ガーゼも交換しましょう」

 

謙信はそう言うと、取り付けられていたガーゼを外して、箱から新しいガーゼを取り出して付けてから、包帯を巻き始めた。

 

そしてしばらくの間、無言が続き

 

「そういえば、棒とは言え持ってましたね」

 

と、謙信が明久に問い掛けた。

 

「ああ、うん。最近になって、ようやくね。あれくらいなら、なんとか持てるようになったよ」

 

明久がそう言うと、謙信は包帯を巻きながら

 

「次は木刀ですね」

 

「うん、謙信。付き合ってくれる?」

 

「当たり前です。つまらないことを、聞かないでください」

 

明久が問いかけると、謙信は包帯を巻く手を緩めずに言いながら微笑んだ。

 

「ありがとう……」

 

そんな謙信に明久は感謝を述べて、静かに時間は過ぎていった。

 

こうして、姉による騒がしい一日は終わったのだった。




なんでだろう、玲を使ったらこんなに書けた

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