僕と戦極姫と召喚獣   作:京勇樹

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病院 決意を固める者たち

この事件の数分後、異変を察知した現吉井流剣術頭目にして明久の父親。貴久《たかひさ》が来て、警察と救急車が呼ばれた。

 

その救急車で明久は運ばれ、病院にて治療を受けた。

 

が、左目は切り傷が原因で失明し、更にはPTSD

 

トラウマを負ってしまった。

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

「これでも、最初の頃より大分治ったんですよ……最初の頃は刀だけでなく、刃物全般がダメでしたから……」

 

謙信はそう言いながら、明久の手を握っている。

 

そして気づけば、室内の誰もが黙っていた。

 

「なお、その事件の責任を取って、中尾さんは師範の座を引退。もう一人の師範代だった息子さんに師範を譲ったそうです。更には、明久の治療費を全額負担するという確約をしてくれました」

 

そう言うと謙信は、天井を見上げた。

 

「その後、無事退院した明久は、学校で孤立し始めました……」

 

謙信のその言葉を聞いて、全員の驚愕の視線が謙信に向けられた。

 

「理由は、左目の眼帯と……どこから漏れたのか、明久が人を斬ったという話でした……学校に居辛くなった明久は、長月中学に転校し、今に至ります」

 

「それでだったのか……明久が転校したのは……」

 

「気付いてあげられませんでした……」

 

謙信の話を聞いて、信繁達は納得した様子で頷くと悔しそうにした。

 

「これで、三年前に関する話は終わりです」

 

謙信はそう言うと、視線をドアに向けて

 

「どうでしたか……土屋さん?」

 

と、この場に居ないはずの人間の名前を告げた。

 

謙信が言った名前を聞いて、全員の視線がドアに集中した。

 

数秒後ドアが開き、康太が入ってきた。

 

「……いつ、気づいた?」

 

康太が問い掛けると、謙信は微笑んで

 

「大体、この話をし始めた頃ですね」

 

謙信がそう言うと、康太はため息を吐いた。

 

「……ほとんど最初からか」

 

康太が落胆した様子で首を振っていると、雄二が近寄って

 

「ムッツリーニ……もし、今の話を録音していたなら、それを出せ……」

 

と、睨みながら言った。

 

すると、康太は両手を上げながら首を振って

 

「……さすがに、今みたいな話を録音する趣味はないし……なにより、恩を仇で返したくない」

 

と、真剣な様子で断言した。

 

その康太の言葉に、雄二は片眉を上げて

 

「どういうこった?」

 

と、康太に問い掛けた。

 

すると康太は、寝ている明久を見て

 

「……明久は、文月学園での俺の初めての友人で、あのあだ名のせいでイジメられていた俺を助けてくれた……」

 

そこまで言うと、康太は視線を謙信達に向けて

 

「……だから、俺にとっても明久は大事な恩人だ」

 

と、いつになく真剣な表情で断言した。

 

その康太の表情から、雄二は康太の真剣さを感じとったのか手を差し出して

 

「だったらよ……俺達と一緒に、明久を守らないか?」

 

と、康太に問い掛けた。

 

問い掛けられた康太は一瞬驚くが、すぐに何時もの表情に戻り

 

「……理由を聞こうか?」

 

と、雄二に問い掛けた。

 

すると雄二は、寝ている明久を見ながら

 

「こいつは、誰かのために全力で頑張れる奴だ。だけど、相手の中には逆恨みしてくる奴だって居る……だから、そんなクソみたいな奴らから、俺達が守ってやろうぜ? 俺達には、その義務がある。だろ?」

 

という雄二の言葉を聞いて、康太は数秒間黙ると

 

「……その話、乗った」

 

と、雄二の手を握った。

 

その直後、雄二と康太の手の上に次々と手が置かれた。

 

雄二と康太が振り向くと、信繁達や木下姉弟も置いていた。

 

「俺達にも協力させろや」

 

「私達とて、明久の友人です」

 

「我々も明久を守りたいんです」

 

「明久様は兄みたいな人なんです!」

 

「……私は言うまでもない」

 

と信繁達や翔子が言うと、木下姉弟も

 

「明久は、ワシをこの学園で初めて男として見てくれて、助けてくれたのじゃ! ワシとて、明久を守りたいんじゃ!」

 

「さっきの話を聞いてほっとける程、あたしは薄情じゃないわ!」

 

と、決意を込めて宣言した。

 

そして全員の視線が、謙信に集中した。

 

その視線を受けて、謙信は座っていたイスから立ち上がり

 

「私は言うまでもなく、明久を守りたいです」

 

と、一番上に手を置いた。

 

雄二はそれを確認すると、全員に目配せして

 

「それじゃあ、俺達で明久を守るぞ!」

 

「おう!」

 

「うむ!」

 

「はい!」

 

「ええ!」

 

雄二の宣言を聞いて、全員は頷いた。

 

場所は変わって、病室前の廊下

 

そこに居たのは、明久の母親

 

吉井明恵だった。

 

明恵は中から聞こえた雄二達の声を聞いて、嬉しそうに微笑んで

 

「気づきなさい、明久。あなたは、こんなにも慕われているのよ……」

 

と言うと、その場から離れた。

 


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