僕と戦極姫と召喚獣   作:京勇樹

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覚悟して読んでください


Aクラス戦 その4 悲劇

四戦目が終わり、今のところは熱戦が続いている。

 

すると、高橋女史が両クラスを見て

 

「それでは、両クラスは代表者を出してください」

 

と、促した。

 

それを聞いた雄二は、信玄を指名しようとしたが

 

「ウチが行くわ!」

 

島田が勝手に、フィールドに上がった。

 

「待て、島田!」

 

雄二が呼び止めるが、島田は無視して

 

「吉井、出てきなさい!」

 

明久を呼び出した。

 

指名された明久は、閉じていた目を開き

 

「やれやれ……ご指名みたいだね……」

 

と、首を振りながら、フィールドに上がった。

 

そして規定位置に立つと、島田は明久を睨みつけ

 

「吉井! アンタがカンニングしてAクラスに居るのは、わかってるんだからね! ウチがボコボコにしてやるわ!!」

 

と、明久を指差しながら叫ぶように言った。

 

それを聞いた明久は、首を振って

 

「カンニングなんかする筈ないでしょ? それに、試験監督はあの高橋先生だよ? 高橋先生が見逃すわけないじゃないか」

 

明久がそう言うと、高橋女史も頷き

 

「吉井君の言うとおりです。島田さん、言葉を慎んでください」

 

と、高橋女史が島田を注意した。

 

が注意された島田は、顔を真っ赤にして

 

「アンタなんかに、ウチが負ける訳がないんだから!」

 

と、明久を指差した。

 

そのことに明久がやれやれ、と首を振っていると

 

「それでは、教科を選択してください」

 

と、高橋女史が促した。

 

すると、島田が高橋女史の方を見て

 

「数学でお願いします!」

 

と、教科を選択した。

 

教科を聞いた高橋女史は、PCを操作すると

 

「数学に設定しました。召喚してください」

 

と、二人に召喚を促した。

 

促された二人は、同時に頷き

 

試獣召喚(サモン)!」

 

と、キーワードを唱えた。

 

その直後、軽い爆発音と共に、召喚獣が現れた。

 

数学

 

Aクラス 吉井明久 257点

 

VS

 

Fクラス 島田美波 214点

 

驚いたことに、明久と島田の点数は近かった。

 

明久は数学が苦手教科で、二百点前半くらいしか取れない。

 

だが逆に、島田は数学が得意教科で元々Bクラスの上位級だった。

 

しかし、今の点数はAクラス下位に匹敵している。

 

「ずいぶんと、点数を上げたみたいだね」

 

「ウチなりに頑張ってみたのよ!」

 

明久からの問い掛けに、島田が意気込んで返答すると、高橋女史が手を上げて

 

「試合開始!」

 

ゴングを鳴らした。

 

「先手必勝!」

 

試合が始まると同時に、島田が突撃してきた。

 

島田が突撃してくるが、明久は慌てずに眺めている。

 

そして、必中の距離まで近づいた。

 

「もらったぁ!」

 

島田がそう叫ぶと、島田の召喚獣は武器であるサーベルを突き出した。

 

だが、島田のサーベルは掠りもしなかった。

 

明久の召喚獣は立っているだけなのに、当たらなかった。

 

「ま、マグレよ!」

 

島田はそう言うと、サーベルの連撃を繰り出したが、明久の召喚獣には一切当たらなかった。

 

だが、明久の召喚獣は攻撃もしない。

 

傍目から見ると、それは防戦一方に思える。

 

そう見えたのか、Fクラスの一人が明久を指差して

 

「おいおい、防戦一方じゃねーか!」

 

「Aクラスも大したことないな!」

 

「こりゃ、勝ちは貰ったな!」

 

と、声を上げた。

 

「お前らの目は節穴だな」

 

そんなFクラスの連中を見て、雄二が皮肉を言った。

 

「んだと?」

 

「俺達の目が節穴だと!?」

 

「いくら坂本でも、殴るぞ!」

 

そんな雄二の言葉を聞いて、Fクラスの数人が腕まくりしながら雄二を囲んだ。

 

だが、雄二はそんな連中を睨むと

 

「もう一回言ってやる。お前らの目は節穴だな」

 

と、もう一度同じ言葉を言った。

 

「だったら証明してみろや!」

 

「そうだ! あんな防戦一方の試合!」

 

と、男子が指差した先では島田だけが攻撃していた。

 

「いいか、よく見ろ。確かに、島田だけが攻撃してる。だが、島田の攻撃は当たってるか?」

 

雄二の言葉に、男子たちは試合をよく見た。

 

そこでは相変わらず、島田のみが攻撃していた。

 

だが、島田の攻撃はすべて、当たっていない。

 

それを見て初めて、Fクラスの男子達は気付いた。

 

「ま、まさか……」

 

「吉井の奴……島田の攻撃を全部、紙一重で避けてるのか!?」

 

男子達は驚愕した。

 

召喚獣の操作は非常に難しく、同点でも相討ち覚悟で戦うくらいだ。

 

相手からの攻撃は大抵、大きく避けるか武器で防ぐしか出来ない。

 

だが、明久は島田の攻撃を全て、紙一重で避けているのだ。

 

そこから分かるのは、明久の操作技術は学年一……いや、恐らく学園一という事実。

 

その時

 

「吉井流剣術、歩法の極み……柳葉陣(りゅうようじん)

 

信玄の呟きが、雄二の耳に入った。

 

「柳葉陣? なんだそれ?」

 

雄二が問い掛けると、信玄は扇子を明久に向けて

 

「あの動きです。まるでヒラヒラと舞う柳の葉の如く、敵の攻撃の全てを避ける技術です」

 

「なんでも、吉井流剣術の次代頭取しか許されない動きなんだとか」

 

信玄に続き、信繁が雄二に説明した。

 

そこから分かるのは、明久は次代頭取に決まっているという事実。

 

雄二は明久の動きを見て、惹かれた。

 

(まるで、踊ってるみたいだ……)

 

周囲の生徒達も同じ気持ちだったのか、全員、息を呑んで見つめていた。

 

明久の召喚獣は、右に左に

 

時にはしゃがみこんで避けている。

 

それら全ての動きが連動して、まるで舞っているかのようだった。

 

その時、島田は焦っていた。

 

(なんでよ! なんでウチの攻撃が当たらないの!? 吉井はただゆっくり動いてるだけなのに!)

 

島田は心中で焦りながらも、攻撃を続行した。

 

だが、結果は同じで、全て避けられている。

 

(負けられないのよ! 吉井なんかに、負けられないのよ!!)

 

そう島田が意気込み、手を握り締めた瞬間だった。

 

右腕の袖に隠れていた赤い腕輪が

 

不気味に光った。

 

その瞬間、明久は違和感を感じた。

 

(なんだ? 感覚が違う?)

 

明久は感じた違和感に思考を割いた。

 

それが原因なのか、召喚獣の動きが僅かに鈍った。

 

その瞬間

 

「もらったぁ!」

 

島田がサーベルを振った。

 

「っ!」

 

明久は慌てて身体を反らしたが、僅かに掠った。

 

数学

 

Aクラス 吉井明久 245点

 

当たったのが頭部ゆえか、掠っただけにしては点が大きく減った。

 

「ぐっ……」

 

その時、突如明久が額を抑えた。

 

その手の隙間から、血が滴った。

 

それを見て、雄二が立ち上がり

 

「高橋先生! なんで明久のフィードバックが100%になってやがる!!」

 

試合監督を勤めていた高橋女史に向けて、怒鳴った。

 

「わ、私にもわかりません! ですが、急ぎ試合を!」

 

高橋女史はそう言うと、パソコンを操作した。

 

が、驚愕に目を見開き

 

「そんな……フィールドが解除出来ない!?」

 

パソコンを叩いた。

 

その画面には

 

《警告 あなたの権限では、解除出来ません》

 

と表示されている。

 

高橋女史は歯噛みすると、視線を西村に向けて

 

「西村先生! 召喚フィールドを!」

 

と、展開を催促した。

 

高橋女史の狙いはフィールド干渉だろう。

 

Fクラスの監視役として来ていた西村は頷くと

 

「展開!」

 

召喚フィールドを展開した。

 

 

西村の召喚フィールドだけが、割れた。

 

「な!?」

 

「片方だけ割れた!?」

 

高橋女史と西村は有り得ない事態に、目を見開き驚愕した。

 

召喚フィールドが重なると割れるのは、システムの過負荷によるオーバーヒートを防ぐためである。

 

ゆえに普通は、展開された召喚フィールド双方が割れるはずなのだ。

 

だが、割れたのは西村の展開したフィールドだけだった。

 

二人がどう対処しようか悩んでいる間にも、島田の攻撃は続いた。

 

感覚が違うからか、それとも視界が血で見えにくいからか、その両方なのか

 

明久は攻撃を避けきれずに、次々と受けた。

 

その結果、明久の制服は血に染まり、意識も混濁しだした。

 

(あれ……僕はなにしてるんだっけ……)

 

明久は状況もわからず、周囲に耳を向けた。

 

すると、聞こえてきたのは、自分を心配する声だった。

 

(ああ……そっか……僕は、他流試合をしてるんだっけ……)

 

明久が思い出したのは、今から三年前の《あの試合》だった。

 

その試合は、最初は普通の試合のはずだった。

 

だが、相手方の代表を勤めていた男が謙信を見て

 

『俺達が勝ったら、その女は貰う』

 

と言ったのだ。

 

その言葉に二人は怒り、当初の予定だった集団戦を変更

 

明久と謙信対相手六人としたのだ。

 

相手はそれを聞いて、嘲笑った。

 

相手の六人は成人近い大きい体格。

 

それに比べて、明久と謙信の二人は華奢な子供だった。

 

その差から、男達は勝てると思ったのだ。

 

だが、結果は

 

明久と謙信の圧勝だった。

 

男たちは失念していたのだ。

 

明久が剣聖

 

謙信が軍神と呼ばれていることを。

 

剣聖は最強を意味し、軍神は次席を意味しているのだ。

 

しかも、二人の異名には共通して蒼が付く。

 

異名に付けられる色には意味があり、蒼の意味は

 

決して、手の触れること適わない相手という意味である。

 

そして、この二人をして

 

双蒼(そうそう)と呼ばれているのだ。

 

しかも、リーダー格の男を倒したのは、謙信なのだ。

 

まさか、年下の少女に負けるとは思ってなかった男は逆上して、木刀に偽装していた真剣を抜いて、謙信に切りかかったのだ。

 

明久はそれをいち早く察知して、持っていた木刀で反射的に防ごうとした。

 

が、真剣を木刀で防げるわけがなく、木刀を斬られて、左目も一緒に斬られた。

 

明久の意識は、そこまで戻っていた。

 

(そうだ……僕が倒れたら、謙信が殺される……それだけは、ダメだ……)

 

明久は朦朧としながらも、相手の猛攻を避けていく。

 

(どうする……どうすればいい? ああ……そんなのは決めてるじゃないか……守るためなら、刀を抜くと……)

 

明久がそう思っていた。

 

その時

 

「これでぇぇぇ!」

 

島田は興奮した様子で、サーベルを振りかざした。

 

「明久ーー!!」

 

見ていた雄二達は、顔を青くしながら、明久の名前を叫んだ。

 

明久の召喚獣は元々が、観察処分者仕様である。

 

この観察処分者仕様は、召喚獣の疲労や筋的負担

 

更には、痛みを三割ほど召喚者にフィードバックするのだ。

 

しかし、その恩恵と言うべきか

 

召喚獣との一体感が上がり、操縦性が上がるのである。

 

しかし、そのフィードバックは今や100%に引き上げられている。

 

ゆえに、召喚獣が負ったダメージが明久に来ているのである。

 

だから、召喚獣が致命傷を負えば、明久も致命傷を負い、召喚獣が消えれば、下手したら

 

死ぬ。

 

そして、島田の召喚獣のサーベルが明久の召喚獣を斬ろうと振り下ろされた。

 

その時

 

銀閃が走った。

 

全員の目に入っているのは、交差した二人の召喚獣。

 

そして

 

数学

 

Aクラス 吉井明久 156点

 

VS

 

Fクラス 島田美波 167点

 

互いに減っている点数。

 

そして

 

回転して突き立った、腕が付いたままのサーベルだった。

 

「……え?」

 

誰の言葉だったのかはわからない。

 

だが、なぜ、腕が付いたままのサーベルが突き立ったのか。

 

答えは簡単。

 

明久が、その手に持っている刀で斬ったからだ。

 

明久は全身を血に染めながらも、立っていた。

 

だが、顔は俯いている。

 

「あ、明久……?」

 

謙信が呼んだ瞬間、明久は顔を上げて

 

「オオオオォォォォォー!!」

 

空気を震わす程の雄叫びを上げた。

 

雄叫びを上げると同時に、明久から殺気が放出された。

 

その殺気が原因なのか、窓はひび割れ、机は揺れた。

 

そして、明久から放出された殺気で空気が凍りつくほどに寒く感じられた。

 

殺気に慣れていないほとんどの生徒達は力無く座り込み、歯を鳴らして、ガタガタと震えた。

 

そしてそれは、信玄と幸村の殺気と覇気に耐えた雄二も例外ではなかった。

 

雄二も顔を青ざめ片膝を突き、息を荒くしていた。

 

(なんだ、この殺気は!? FFF団(バカ共)の殺気なんか子供だましじゃねーか!)

 

雄二は本能的に逃げたかった。

 

だが、恐怖で足が竦み、言うことを聞かない。

 

その時、三つの影が前に出た。

 

それは

 

「信繁に信玄。それに幸村!」

 

その三人が前に立った瞬間、僅かだが、殺気が薄まった。

 

「俺達の後ろから出るなよ」

 

「私達でも、ある程度弱めるのが限界です」

 

雄二はふと、視線をAクラスに向けた。

 

そこでは、謙信と颯馬が同じように立っていた。

 

その向こうでは、翔子や優子も顔を青ざめて座り込んでいた。

 

謙信と颯馬が、信繁達と同じように殺気を弱めているのだろうことは、想像に難くない。

 

(明久……!)

 

雄二は明久を見守ることしか出来ないことに、歯噛みした。

 

「今更刀を抜いたって、ウチの勝ちは変わらないわよ! 点数ならまだ、ウチが勝ってるんだから!」

 

島田はそう言いながら、刺さっていたサーベルを抜いた。

 

明久は無言で島田を見つめている。

 

「これで、終わらせるんだから!」

 

島田はそう言うと、サーベルを振りかぶって突撃した。

 

明久はそれを見ると、構えた。

 

左手で柄を持ち、右手は柄尻に当てる程度

 

切っ先は下に向けて、左半身で刃を前にして、峰を肩に当てた。

 

その構えは、常識的に考えるならば、防御の型だ。

 

だが、その構えを謙信は知っていた。

 

「ダメ……」

 

謙信はその技を思い出し、呟いた。

 

「吉井流剣術……」

 

明久は島田を睨みながら、呟く

 

「ダメです……明久……」

 

謙信は涙目になりながら、首を振った。

 

なにせ、その技は……

 

「裏奥義……」

 

かつて三年前に

 

「だめーー!!」

 

男の命を奪った技だったからだ……

 

「これでぇぇぇ!」

 

絶牙(ぜつが)!」

 

次の瞬間、二人の召喚獣が交差した。

 

そして消えたのは

 

島田の召喚獣だった。

 


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