僕と戦極姫と召喚獣   作:京勇樹

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軍師同士の戦いです


Aクラス対Fクラス その2 軍師

「ひ、引き分け!」

 

まさかFクラスに引き分けにされるとは思ってなかったのか、高橋女史は狼狽え気味に試合結果を宣告した。

 

「ひ……引き分け?」

 

秀吉も信じられないのか、呆然としていると

 

「なに呆けてるのよ」

 

気づけば、姉の優子が隣まで来ていた。

 

「あ、姉上……」

 

「なによ、あんたもやれば出来るんじゃない」

 

優子はそう言うと、微笑んで

 

「この調子で、頑張りなさいよ?」

 

優しく諭した。

 

すると、秀吉は目尻に涙を浮かべながら

 

「うむ! 頑張るのじゃ!」

 

と、意気込んでからFクラスの下へと戻った。

 

そして、秀吉が戻ると、Fクラスの全員は拍手喝采で秀吉を迎えた。

 

「秀吉、よくやった! 幸先良いスタートだ!」

 

雄二がそう誉めると、秀吉は頷いて

 

「直接勝てなかったが、クラスの勝利に貢献できて良かったのじゃ」

 

と、嬉しそうに語った。

 

すると、冷静さを取り戻したのか、高橋女史が

 

「それでは、第二戦を始めます。両クラスは選手を出してください」

 

と、二人目を催促した。

 

すると、Aクラスからは眼鏡を掛けた女子、佐藤美穂(さとうみほ)が立ち上がり

 

「私が行きます。科目は物理でお願いします」

 

と、科目を選択した。

 

それを聞いた雄二は、数瞬考えると

 

「よし、須川。いってこい」

 

須川を指名した。

 

すると須川は、キザったらしく髪をかきあげて

 

「ふっ……坂本よ…それは俺に、本気を出せってことか?」

 

と、雄二に問いかけた。

 

すると、雄二は親指を立てて

 

「ああ、逝ってこい!!」

 

と、死刑宣告をした。

 

それを聞いた須川は、右手を突き上げて

 

「勝ってくるぜ!」

 

意気揚々と、試合会場に向かった。

 

雄二は見送ると、顔を信玄達に向けて

 

「さて、生け贄(バカ)はこれでいいとして……」

 

どうやら、須川は捨て駒だったらしい。

 

「Fクラスは三人目を出してください」

 

「は?」

 

高橋女史の言葉に雄二が振り向くと、そこには

 

物理

 

Aクラス 佐藤美穂 398点 WIN

 

VS

 

Fクラス 須川亮 0点 DEAD

 

という、表示が見えた。

 

どうやら、須川は瞬殺されたらしい。

 

そして既に、Aクラスからは天城颯馬が出ていた。

 

颯馬と信繁の視線が重なると、二人は同時に笑みを浮かべた。

 

そのタイミングで信繁は立ち上がり

 

「そんじゃあ、俺が行こう」

 

と、試合会場に出た。

 

そして、白線まで出ると

 

「どうも信さん」

 

「数ヶ月ぶりの勝負だな。颯馬」

 

二人は軽く挨拶した。

 

「ええ…そろそろ、決着を着けたい所ですね」

 

「だな。丁度半々だしな」

 

信繁が確認すると、颯馬は頷いて

 

「ええ。百戦五十勝五十敗です」

 

と、競い合った数を告げた。

 

この二人は互いに競い合って、戦略や戦術を高みにまで昇華させてきた。

 

その勝負をそろそろ着けたいらしい。

 

「んじゃま、丁度よく百一戦目だし。これで仕舞いにしようか」

 

「ええ」

 

二人がそう言ったタイミングで、高橋女史が

 

「それでは、科目を選択してください!」

 

と、宣言した。

 

それを聞いた二人は、目を合わせて

 

「では、僕が選びます」

 

「おう、どうぞ」

 

颯馬が選択権を得た。

 

「世界史でお願いします!」

 

颯馬が言うと、高橋女史はパソコンを操作して

 

「承認します。召喚してください」

 

と、召喚を促した。

 

それを聞いた二人は頷き

 

試獣召喚(サモン)!」

 

同時にキーワードを唱えた。

 

その直後、二人の足下に幾何学的な模様の魔法陣が浮かび、軽い爆発音が聞こえた。

 

そして、二人の召喚獣が現れた。

 

二人の召喚獣はおそろいの服装だが、武器が違った。

 

信繁は右手に槍、背中に火縄銃に対して

 

颯馬は両手に小太刀を持っていた。

 

そして、二人の点数がモニターに表示された。

 

世界史

 

Aクラス 天城颯馬 498点

 

VS

 

Fクラス 武田信繁 497点

 

驚いたことに、二人の点数はほぼ同点だった。

 

互いの点数を見た二人は、笑みを浮かべて

 

「ん~…五百行かなかったか」

 

「ですね。お互いに、一問ずつ間違えたみたいですね」

 

信繁の言葉に颯馬は同意すると、深呼吸をして

 

「吉井、上杉両家側仕え軍師。第二十代目天城颯馬!」

 

凛とした声で、名乗った。

 

それを聞いた信繁は目を見開き

 

「本気みたいだな……いいだろう」

 

颯馬と同じように、深呼吸して

 

「武田家長男、武田家次期頭首側仕え軍師。武田信繁!」

 

颯馬と同じように、名乗った。

 

それを見ていた周囲の生徒達は首を傾げていた。

 

なぜ、この段階になって名を名乗る必要があるのだろうか? と。

 

すると、雄二が近くに座っていた幸村に

 

「なぁ、あいつらの名乗りはどういう意味なんだ?」

 

と、たずねた。

 

すると、幸村は視線を信繁達に向けたまま

 

「あれは、我々のような古い武家に伝わる儀式です」

 

と、説明しだした。

 

「儀式?」

 

「ええ。意味は……」

 

幸村はそこで一旦区切ると、視線を雄二に向けて

 

「本気の勝負を希望する。不退転の覚悟で挑むです」

 

それを聞いた雄二は、真剣な表情で試合会場に視線を向けた。

 

そして、試合会場では二人の召喚獣が既に臨戦態勢で武器を構えていた。

 

それを見た高橋女史は右手を上げて

 

「試合、開始!」

 

右手を振り下ろしながら、ゴングを鳴らした。

 

「はぁ!!」

 

「ぜぁ!!」

 

二人は試合開始と同時に、召喚獣を突撃させた。

 

信繁の槍と颯馬の小太刀がぶつかって、火花が散った。

 

二人は衝撃で一瞬姿勢を崩すが、すぐに立て直し

 

「疾!」

 

颯馬は矢継ぎ早に連撃を繰り出した。

 

「なんの!」

 

信繁はそれを槍の柄で受け止めると

 

「ちぇい!!」

 

石突で叩こうと槍を回した。

 

「くっ!」

 

颯馬はそれを小太刀を交差させて防いだ。

 

だが、衝撃を殺しきれなかったのか後ろに押された。

 

そして、その間合いは中距離。

 

すなわち…………

 

「俺の距離だ!!」

 

信繁の槍の連撃が、颯馬を襲った。

 

「くぁ!!」

 

颯馬は小太刀で防いだり受け流したりしたが、一撃貰い

 

天城颯馬 457点

 

一気に40点近く削られた。

 

だが、点数が減っていたのは颯馬だけではなかった。

 

武田信繁 456点

 

気づけば、信繁の召喚獣の体に短刀が三本刺さっていた。

 

「暗器か…っ!」

 

短刀の正体に気付いた信繁が歯噛みしていると

 

「誰が、僕の武器が小太刀だけだと言いました!?」

 

その隙を突いて、颯馬が怒涛の連撃を始めた。

 

「くぉ!?」

 

信繁は、その連撃を槍で弾いたり、防いだり、体を傾けて避けていった。

 

だが、避けきれずに数発当たり

 

武田信繁 295点

 

大幅に点数差が開いた。

 

「なるほど、お前らしい装備みたいだな。暗器使いか」

 

「信さん。僕達は軍師なんです。軍師はあらゆる状況を想定し、それをもとに戦術を組み立て、それを実行する」

 

颯馬の言葉に、信繁は頭を掻くと

 

「そうだったな……しかもお前は、時には自分すら駒にする」

 

颯馬の理念を思い出した。

 

「ええ<守るためならば、毒すらも利用して、自分の命も天秤に掛ける>。それが、僕の理念です」

 

颯馬はそう言うと、武器を構えた。

 

それと同時に、信繁も槍を構えた。

 

そこから数秒間、お互いに動かなかった。

 

そして、周囲の緊張感が高まった途端だった。

 

「はっ!」

 

「ぜぁっ!」

 

二人は同時に突撃、お互いの武器が激突した。

 

金属音と共に火花が散り、二人の距離が離れた。

 

余波で体勢が崩れたが、二人は同時に体勢を取り直し

 

「ふっ!」

 

颯馬は右手を振って、短刀を三本投げた。

 

「なんの!!」

 

信繁はそれをステップすることで躱すと、槍を振るった。

 

颯馬は避けようと体を後ろに逸らしたが、避けきれずに当たり

 

天城颯馬  398点

 

四百点を切った。

 

だが、点数差で押し切れると思ったのか、颯馬は一気に接近すると

 

「はぁっ!」

 

小太刀で切りかかった。

 

「まだまだ!」

 

信繁は小太刀を槍の柄で受け止めた。

 

その瞬間

 

颯馬がわずかに、笑みを浮かべた。

 

その直後、颯馬の召喚獣が信繁の槍を蹴り飛ばした。

 

「しまっ!」

 

信繁は槍を取ろうとしたが、それを颯馬が許すはずもなく

 

「はっ!!」

 

信繁の召喚獣を蹴り飛ばした。

 

信繁の召喚獣は大きく飛ばされ、仰向けに倒れた。

 

倒れた信繁はすぐさま立ち上がろうとしたが、また倒れ込んだ。

 

「なにが!?」

 

なぜ、立ち上がれないのか慌てた信繁は、足に絡まっていたソレに気付いた。

 

「なっ……縄標(じょうひょう)だと!?」

 

縄標というのは、いわゆる投げ縄である。

 

ただし、縄の両端に重りが付いているために相手に投げつければ、反動で相手を簡易的に縛ることが出来るのだ。

 

「くそっ!」

 

信繁は縄標を外そうと手を伸ばすが、それを颯馬が許すはずがなかった。

 

「させません!」

 

颯馬は矢継ぎ早に暗器を投げると、小太刀を構えて突進した。

 

信繁は暗器を避けるために、地面を転がった。

 

だが避けきれず、数発が掠り点数が減り、そこに颯馬が小太刀の一閃を繰り出した。

 

武田信繁 133点

 

小太刀が直撃したことにより、点数は百点台になった。

 

「次で終わりにします」

 

颯馬はそう宣言すると、暗器を構えた。

 

信繁の足には未だに、縄標が絡まっている。

 

縄標を取る時間は無いだろう。

 

信繁もわかっているのだろう。

 

沈黙で返した。

 

そして、数秒後。

 

「はぁっ!」

 

颯馬は暗器を投げてから、小太刀を構えて飛びかかった。

 

信繁は先ほどと同じように、暗器を転がって回避していった。

 

だが、颯馬は回避方向を予測していたようで、三本ほど刺さった。

 

回避行動が終わった信繁の前には、小太刀を振りかぶっている颯馬の姿があった。

 

誰もが、颯馬が勝つと思った。

 

だが、そんな状況下で

 

信繁は笑った。

 

信繁が笑みを浮かべたことを、颯馬が訝しんでいると

 

信繁の召喚獣が右腕を出した。

 

そして、召喚獣の右腕には

 

火縄銃が握られていた。

 

「火縄銃!?」

 

颯馬は火縄銃の射線上から逃げようとしたが、颯馬の召喚獣は空中に居て、回避のしようがなかった。

 

「王手だな。颯馬」

 

信繁はそう言うと、火縄銃の引き金を引いた。

 

放たれた弾丸は一直線に進み、颯馬の召喚獣の頭部を貫通した。

 

それにより、颯馬の召喚獣は後ろに一回転して、地面に落ちた。

 

それを見た信繁は勝利を確信したのか、拳を握った。

 

「この試合、引き分け!」

 

だが、高橋女史が告げたのは、引き分けだった。

 

「へ? 引き分け?」

 

勝利じゃないことを不思議に思い、信繁は高橋女史に視線を向けてからディスプレイを見た。

 

そこには

 

世界史

 

Aクラス 天城颯馬 0点

 

VS

 

Fクラス 武田信繁 0点

 

試合 DLAW

 

と表示されていた。

 

ディスプレイを見た信繁は慌てて、自身の召喚獣を見た。

 

そこには、倒れている自身の召喚獣が居て、召喚獣の胸部には、小太刀が深く刺さっていた。

 

「小太刀を投げたのか!!」

 

「ええ、あのままでは勝てないと思い、悪あがきに出させてもらいました」

 

颯馬は信繁の言葉に返答すると

 

「まあ、引き分けでしたけど」

 

と、肩をすくめた。

 

それを聞いた信繁は嘆息して

 

「勝負つかずか……こりゃ、次回に持ち越しかな?」

 

と、颯馬に問いかけた。

 

すると、颯馬も頷いて

 

「ええ、次回を楽しみにしてますよ。信さん」

 

と、微笑んだ。

 

こうして、幼なじみ軍師同士の勝負は引き分けに終わった。

 


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