OLWADHIS ~現代編~   作:杉山晴彦

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Episode:2 プロローグ

 

 

 

 

 

 爆音のした背後をチラリと振り向けば、そこには道路の一部を(えぐ)り取り、

ポッカリと出来たクレーター。

 兵器と呼ぶに相応しいその威力は、生身の人間ではひとたまりもないだろう。

 

 ……

 

 高速を保ったまま、交差点を右に曲がる。

 僕も一応、生身の人間には違いない。

 ここはひとまず、逃げるが勝ちの状況と見るべきだろう。

 

「……」

 

 道の先に、光が見える。

 レインボー・ブリッジの名に恥じぬ、鮮やかな虹色の光彩(こうさい)

 目的地まで、もうすぐだ。

 

 ……

 

 再び、鼓膜をズンと震わす轟音(ごうおん)

 今度は標的の…つまりは僕の斜め前方に、砲弾は命中したらしい。

 被害を受けた街灯の1つが、バタリと横倒しになる。

 

 動き回る獲物を追い掛けながら狙うというのは、困難なものだ。

 いかに破壊力のある武器を有していても、攻撃が当たらなければそれまでのこと。

 …とはいえ、さっさと安全を確保したいものであるが。

 

「――待たせたな、フレンド!」

 

 それは前方から(まばゆ)いライトの光と共に、颯爽(さっそう)と登場した。

 黒と黄色の縞模様(しまもよう)というその独特な色合いをした車体は、

忘れようにも忘れ難い。

 

「暴走助っ人団、ば~さ~きゃ~ず! 義によって助太刀致す!」

 

 響き渡るスピーカーを通した声と共に、更に2台の戦車が背後から姿を現す。

 ――と同時に、鳴り響く発射音。

 

 ……

 

 彼の機体を狙ったと思われる弾道であったが、素早いターンをして

その攻撃をかわした荒ぶる虎は、すぐさま反撃の姿勢に移る。

 カウンターで発射された砲弾はまっしぐらに、標的の灰色の戦車へと猛進した。

 

 ……

 

 ズドガンと爆音がして、周囲に閃光と熱風が走る。

 標的の内部へ到達した後に爆発を起こすその特注の砲弾を喰らい、

灰色の戦車は既に半壊状態といっていいだろう。

 

 そこへ追い討ちを掛けるように、タイガー・ファングの後方に控えていた

2台の戦車からも砲弾が放たれ、それぞれ大砲とキャタピラの部分に命中。

 本体、主砲、移動手段。 全てを奪われた灰色の戦車は、当然の如く沈黙した。

 

「榛名…みんな待ちくたびれてるぜ! さっさと、橋を渡るぞ!」

「――了解しました」

 

 ば~さ~きゃ~ずのメンバーが乗る3台の戦車が発進し、僕はその後を追って

レインボーブリッジへと駆け出す。

 あの橋を越えれば、とりあえずは安全圏に入る筈だ。

 

 

 

 

 

「綺麗…」

 

 宵闇(よいやみ)に包まれた街並みに(きら)めく、色とりどりの光の饗宴(きょうえん)

 それを数百メートル上空から見下ろせば、まるで黒い海に

幾多の宝石を散りばめたような景観が広がっている。

 

 もっとも今は、街の機能の半分は停止しているとも云われる時勢。

 本来の輝きは、これよりも更に磨きが掛かったものであることだろう。

 うん…。 是非ともそんな景観を、生で目撃したいものである。

 

 ……

 

 さて…。

 後は、『合図』が来るのを待つだけではあるが。

 こうしている間にも、刻一刻と破滅の根源は迫ってきている現状。

 焦っても仕方がない状況と理解しつつ、気持ちは(はや)る。

 

「勝てるかな…? 僕たち」

 

 同じ歩幅で隣を歩く相棒に、何とはなしに訊いてみる。

 無粋な質問であることは、百も承知だった。

 勝てなければ、その先に待ち受けるものは…『無』が広がるばかりの世界。

 なら――勝たなきゃいけない。

 

「答えは、もう出ているようですね」

 

 彼は柔らかく微笑んで、そう言葉を返した。

 心の中をそっくりそのまま読み(ほど)かれたようなこの感覚も、

もはや馴染み深いという他ない。

 

「勝利とは、相手を倒すことではありません。 相手を制することです。

…それをお忘れなく」

「うん…。 忘れない」

 

 ほのかな照明の光が照らし出す、展望台の中。

 僕と彼の、言葉と足音だけが空気を震わしている。

 少し寂しくて…でも、心地好い時間。

 

 ……

 

 もうすぐ、彼らの信号が僕たちに届くことだろう。

 勇者と伝えられし者たちが放つ、5つの光。

 それは、深淵(しんえん)を切り裂く希望の光であると共に…死闘の幕開けを告げる、

切なき開戦の(しら)せでもある。

 

 ――覚悟は、とっくに出来ている。

 この世界を守るため、大切な誰かを守るため、そして…僕が僕であるために。

 『彼』との戦いは、避けられない。

 

「……」

 

 黒い海。 煌めく宝石たちの中、一際大きな赤い光が灯された。

 残りは4つ…。

 決戦の舞台は、すぐそこまで迫ってきていた。

 

 

 

 

 


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