因みに私は脱水症状で二回ほど病院送りになりかけました。
さて、私こと天々座リゼは、一つ大きな問題を棚の奥の奥に放り込んだ事を、深く、それは深く後悔している。マリアナ海溝の底をおよそ二千メートルくらいぶち抜くぐらいには後悔している。
何故か?
それは、私が気を失って保健室で眠っていて、一時間目の授業に遅れて参入したところから感じる、視線から疑念を呼び起こされたことだった。
「すみません、気分が悪く保健室で休養していた為、遅刻してしまいました!」
報告と謝罪は理由を明確にするべしと親父に教わっていた私は、失態を犯した軍属の部下が、上司に謝罪報告をするかのように、部屋に入った瞬間に自分の腰の位置まで頭を下げた。
シーン、と場が静まり返る。
何か自分の報告に落ち度があるのかと、背中に冷たい汗をかきながら、私は少しだけ頭を上げた。
すると、上げた場所にはいつも通り、こちらを無表情で評価するような眼差しを向けるクラス担当教員。
そして―――
――――ギンッ!!!!!
体中に鳥肌が立った。まさに、すわ殺気!というやつである。
まるで親の仇を睥睨するかのよな、血走った眼差し……というか、機銃掃射に勝るとも劣らない
……約一名を除いた、全員が。
「天々座さん、遅刻の理由は連絡が来ていますので、もう頭を上げてもらって結構です。それではみなさん、授業を続けます」
改めて私は頭を上げると、やはり戦場がそこにはあった。
先生が、冷静な声を放つが、
だがしかし、
「―――授業を再開します。よろしいですね?」
バッと擬音が付きそうな速度で一同が目線をノートと黒板に戻し、不自然な静寂を醸し出す。
あろうことか、それは私のクラスだった。
それから、四時間目の授業が終了するまで、クラスは異様なまでの緊張と静寂に包まれた。
そして、昼休み突入直後。
つまり、今現在私は棚の奥の奥に突っ込んでおいた案件が、今の今になって津波のごとく我が身を押し流していた。
「おい、今日も購買で何か買ってくるから、おm」
お前は屋上で待っていろ、と続けるつもりだった。
ドドドドドドド!!!!!
「天々座さん!一体今朝のあれはどういうこと!?」
「そうよ、今朝の……風見君とのお姫様抱っこ登校について、説明を要求するわ!!」
濁流のように迫って来たクラスメイトに席の周囲を完全に固められ、代表格と思わしき二人の質問に、私も思考が固まる。
(お姫様……だっこ?)
お姫様抱っこ。正式名称、横抱き。
元々は古代ローマの風習で、新郎新婦が新居に入る際に花嫁が入り口から屋内まで抱きかかえられたまま運ばれたことに由来する。
………。
そして、彼女たちの言葉をリピートしつつ、
まず、どこで。
学園周辺。
誰が。
彼が私を。
何をした。
お姫様抱っこで抱えて登校した。
つまりは、私は今日、彼にお姫様抱っこで抱えられて、まるでどこぞの姫君のような格好で、登校していたという。
大勢に、
普段ならば、そんな馬鹿なことが、あるはずはない、私が何で彼にそんな事をされなければいけないんだ!と、憤慨したことだろう。
だが、
思い起こされるのは、何故か登校途中で気を失い、そしてこれまた何故か学園の保健室備え付けのベッドで寝かされていたことへの、疑問。
そこへ、今回の彼女たちの、証言。
ギギギギ、と油の切れ、錆びたロボットのように私が隣の席を確認するが、そこには彼の姿はなく、確認した直後、コトンと教室の扉が閉まる音がした。
見渡す限り、一人を除いてクラスメイト達が、「事情聴取だヨ!全員集合!」を実行しているので、十中八九出ていったのは、彼だ。
「それで、風見様とはどのような間柄なのです!?」
「そうよ!一体どんな関係なの!?まさか……こ、ここ、こ、恋人なんておっしゃいませんよね!?」
コイビト⁉カザミサンニ、コイビト⁉
オチツイテ、マダソウトキマッタワケデハナイワ‼
ガヤガヤ、ザワザワ!
教室内は、喧々囂々と言葉が飛び交い、
「雄二ぃいいい!貴様ァアアアアアアア!!」
という、私の絶叫は、クラスの喧騒にかき消されていった。
そういえば、私が彼の名前を声に出したのは、初めてだったと冷静な部分が些事な報告をしていた。
コトン。
扉を閉めた俺は、廊下で昼飯をどうするのかを静かに検討していた。
リゼがああなってしまった以上、一緒に昼飯を食べるというのは出来ないだろう。
しかし、リゼは大した人気者なようだ。
昼休み突入十秒の間に、クラスに取り囲まれるぐらいなのだから。
あの分であれば、昼食も彼女たちと食すのだろう。
で、あれば。
女の群れに、男一匹というのは中々に落ち着くものではないだろう。
そう考えた俺は、入学前に渡されたパンフレットに学生は全員無料で利用できる!と蛍光色かつ、やけに角が取れた丸っこい字でデフォルメされた見出しからなるページの存在を思い出した。
「学食とやらに、行ってみるか」
決断から行動までは、迅速に。常識だ。
取り敢えず、懐からメモ帳サイズの生徒手帳を取り出し、校内見取り図のページを開く。
合計7ページにも及ぶ校内見取り図では、この学園には、多目的用途の体育館が三つに、室内プール、アーチェリー、球場。サッカーグラウンド、剣道場、ゴルフ場。果てには、それらを繋ぐ路面電車まで完備しているという。
ホームページに表示されていた総面積を換算すると、日本の皇居とどっこいどっこいだという。
「とんでもないところに来てしまったものだな」
一人、思わず呟いてしまったのは、仕方のないことだ。俺の姉兼天才の代名詞、
しかし、総面積と設備の充実などは
それは、それ以前にこの学園が上流階級の婦女子専用教育機関――――所謂、お嬢様学校であるからに他ならない。
廊下を見渡せば、女子、女子、女子、たまに教員(殆ど女性職員)。そして各要所に警備員(こちらも殆どが女性警備員)。
俺がどれだけ場違いな存在であるかが、一歩、いや、半歩この学園の敷地を歩けば伺えることだろう。
九割九分九厘、冗談で吐いた妄言が、実際に実現されたわけだが、あの好々爺然とした元帥殿はとんだ狸だったらしい。
俺は常々、JBに「常識ってもんをわきまえなさい!」と口を酸っぱく言い聞かせられてきたわけだが、ここまで常識破りであれば、一周回って常識そのものが間違っているのかもしれない。
いや、そもそも常識というものは、個々の価値観によって形成されるものであり、元帥殿の中ではこれが常識なのかもしれない。
そう考えると、俺の常識がJBに通じなかったのは、相当な頭痛の種になっていたのかもしれない。
「初任給が出たら、また何か買って送っておこう」
そんな一言で俺は今までの罪悪感をすっぱりと断ち切り、当初の目的通り食堂を目指すことにした。
が、
「うう、お、重い、ですぅ」
何やら背の高い紙束が、生やした手足が自重に耐え切れず、プルプルと震えながら自身をよろよろと運搬していた。
「さ、流石に一気に全部は無茶だったのです……」
と、紙束が一人独白した。
その一瞬後の事だ。
……足元に偶然転がっていた、リップクリームに足が乗ってしまったのは。
「ふえっ!?」
気の抜けた声とともに紙束、もとい女子生徒がリップクリームのケースのせいで方足を前方に滑らせる。
別に、そのまま前方へうつ伏せになるように転ぶのであれば、放置したのだが、あの格好のまま転べば、あの積載量過多の紙束のせいで受け身が取れず、間違いなく骨盤か後頭部を床に強く叩き付けることになってしまうだろう。
そうなってしまっては最悪、下半身不随などの後遺症に悩まされることになりかねない。
流石に、花の十代乙女が下半身を動かせないマグロ女になってしまうのは国全体の損失だろう。
そう思い、偶然近くにいた俺は、
「っと」
取り敢えず女生徒の後頭部と腰を両手で支えるようにして、女子生徒の転倒を阻止した。
女子生徒が、最後の最後で両手を自由にしようと試みた結果、紙束は天井へ巻き上げられ、まるで上空で撃墜された鳥の羽のようにひらひらと廊下中に飛び散った。
「大丈夫か?」
「……んえ?」
反応がないので、取り敢えず意識の確認をすべく女子生徒に声を掛けた。
すると、来るべき衝撃と痛みに耐える為なのか、両手を胸の前でぎゅっと握り、固く閉じられた瞼を両方とも少しづつ弛緩させた女子生徒は、今度もまた、間の抜けた声を上げた。
「その量は、流石に重量オーバーだ。一度に全て運搬し、効率化を図るのは良いが、それで怪我をしてしまっては効率うんぬん以前の問題だ」
「え?……え?えっと、ごめんなさい……?」
未だ状況をあまり理解できていないらしい女子生徒は、俺に窘められたことだけは悟ったようで、全く意味のない謝罪の言葉を述べた。
だが、その後、首だけを左右に動かし、周囲を伺い、戻って来た視線が、俺の視線と交差した。
すると、
「ご、ごめんなさい!! すみません! すみません!! 本当にすみませんでした!!」
突如として現実に帰還したらしい女子生徒は、俺の腕の中から飛び跳ねるようにして即座に立ち上がり、九十度まで腰を曲げたり、戻したりを何度も繰り返していた。
どうやら、長髪を後ろに流していたらしい女子生徒が頭を上下に振るたびに、ブオンブオンと擬音が付きそうなほど長い髪が振り乱されていた。
どこぞのクラブで見たヘビィメタルのバンドマンが、同じようなパフォーマンスをしていたな。
「落ち着け。それより、怪我はないか?」
「えっと、はい!問題ありません!!全く問題なくて、むしろご褒美でしたというか……!!」
俺が見かねて声を掛けると、高速ヘッドバンキングは止み、乱れた髪の奥に、真っ赤な顔が早口にまくし立てた。
早口すぎて、正直何を言っているのかはよくわからなかったが。
「そうか。それならいいんだが。後に気分が悪くなったり、言葉がうまくでてこないのであれば、周囲の人間に保健室まで同行を頼むといい。……流石に、今ここで俺が抱いていたから気分が悪くなった、というのは勘弁だが」
「そ、そんなことありません!えっと、本当にありがとうございました!!このお礼は必ずいたしますので!!」
「いや、礼は良いから、今すぐに身なりを整えた方が良いと俺は思うのだが」
「え、あっはい!」
女子生徒は、俺の言葉に一瞬きょとんとしたものの、懐から手鏡を取り出すと、自身の惨状を悟り、俺に背を向けて櫛やら何やらで身なりを整え始めた。
これは少々時間がかかりそうだ、と経験則から察した俺は、散らばってしまった紙束―――もとい、何やら連絡事項が記載されたプリントを拾う。
そして、俺が全てを拾い集めたタイミングでおめかしが終了したらしく、女子生徒はこちらに向き直った。
きちんと服装を整えた黒髪の女子生徒は、それは整った顔立ちをしており、やはりどこぞの令嬢なのだ、という雰囲気を醸し出していた。
「えっと、あの、改めまして、助けていただいてありがとうございました! このお礼は、近いうちに必ずいたしますので!!」
「だから、礼はいい。これは、俺の損得勘定に基づく行動だからな。アンタは助けてとは一言も言ってない。繰り返すが、俺が自分勝手な算段と、損得を天秤にかけて勝手に行動したに過ぎない。だから、気にする必要はない」
「いえでも!それでも、助けていただいたという事実は覆りませんし……そうだ!私も同じですよ!!ほら、風見先輩が偶然通りかかって、偶然私が怪我をしないように行動してくれた、それを私は勝手に助けられたと勘違いして、恩に感じてお礼をしたいと言い張っているに過ぎない……これで、どうですか?」
「ふむ……」
どうやら、お嬢様学校に通っているだけあり、頭の回転は速いらしい。
だが、それだけ頭が回るのなら、あの紙束は自分には重すぎる、といった勘定もできてしかるべきだ。
しかして、気まぐれで助けた相手から素直に謝意を伝えられるのは、なかなかに新鮮な気分である。
今までの立場であれば、何の命令もなく、かつ私情で人助けなどすれば、
誰も頼んでなどいない、だから礼も言わんし、何もやらん。と、随分な言い草をされるであろうことに疑いはない。
そう思うと、自然と笑みが零れた。
「……納得していただけましたか?」
「そう、だな。そういう事にしておこう。……それで、こいつはどこに運べばいい?」
腕に抱えた紙束を、俺は少し揺らしてその存在を主張する。
「あ、集めてくれたんですね! ありがとうございます!!」
「だから、礼はいい。何、乗り掛かった舟だ。最後までやり通さねば、後味が悪い。……これもまた、俺の勝手な行動に過ぎない」
「じゃあ、また私は勝手に感謝しておきますね……っと、あの目と鼻の先ある、広報資料室ってところにお願いします」
すると、本当に目と鼻の先に『広報資料室』とプレートに書かれた扉が目に入る。
この女子生徒はあと少し、というところで気を抜き、転倒してしまったのだろう。
というわけで、指示された資料室内のトレーに紙束をそっと安置した。
「すごいですね。あんなに重かったのに、軽々と運んでしまうなんて。私でしたら、絶対にトレーにドスンって落とすように置いちゃいますよ」
「少し鍛えている。それだけの話だ」
「そうなんですか。男の人って、すごいんですね」
「ああ、女の荷物一つ持てない男は、男とは言わない」
女子生徒「お、女……」
若干たじろいだ様子の女子生徒は、何やら小さく「お、女、私は、女……そっか、そうだよね…今まで、そういうのは本とか映画しか見たことなかったけど……うぁぁああ」などと、意味不明な事をぶつぶつと呟いていた。
そして、どこか虚ろな様子で部屋を出ようとしていた、その時だった。
ガッ!
と、女子生徒が、部屋にあった他の机の脚に躓いた。
「わわっ!」
「またか……」
今度は前のめりに倒れかけた女子生徒を、俺は腕を掴んでこちらに引き寄せる。
思ったよりも女子生徒の体重が軽かった為か、勢いがあまり、またしても俺の腕の中に収まる形になった。
「流石に注意力散漫じゃないのか?」
「え、えっと、ええう!?」
俺が諭すようにして耳元で言うと、女子生徒は首筋から顔までを朱に染め上げ、何度目もう既に分からない奇妙な声を上げた。
何故、女子生徒が真っ赤になってしまったかは理解しかねるが、俺には少し、気になることがあったため、このまま情報を引き出すこととした。
「なあ、少しいいか?」
「ひゃ、ひゃい!なんれひょうか!?」
まるで強い酒に酔っぱらったかのように
「アンタは、俺の名前、風見という苗字を知っているみたいなんだが……どうしてだ?」
「ひゃい!……えっと、れすね。今、学園中で話題にらっているんれす。その……風見先輩の事が……」
「話題……?」
話題、というのは、うら若き婦女子の間では、噂というスラングなのだという事を、そは妙齢の金髪もっさりが得意げに語っていたのを思い出す。
さも、自分がまだ十代のうら若き乙女かのようなもっさり、ふんわりとした語り口調で。
……いい加減、年を考えて婚活を始めるか、老人ホームの予約でもしといた方が良いと、その時口にしてしまい、二、三日「どうせ私はもう老人ホームに突っ込まれてしかるべき、おばあちゃんですよ!!」という皮肉が口癖になってしまい、対応が非常に面倒になってしまった。
後日、サプライズで予約が面倒なホテルをディナー付で奢り、その後一夜を共に過ごすと、機嫌がマイナスの数値がプラスに反転したのだった。
そんな事は今はどうでもいいのだ。
(俺が噂にになっている、か。まあ大方、突然お嬢様学校にどこの馬の骨とも知れない男が転入して来て、警戒している、といったものだろうな。……本当に、場違いなところに来てしまったものだ)
俺の転入先のクラスは、みな警戒心などよりも好奇心が勝り比較的好意的な態度で接してくれているが、本来は噂の通り、遠巻きに観察されるかのようなスタンスが、俺にとっての正位置なのだろう。
事実、そのスタンスは正しい。
(俺が、俺みたいな人間が、居ていい場所じゃない。)
悲観しているわけでも、自虐しているわけでも、ましてや自身の決断に後悔しているわけでもない。
事実、
自分で普通の学校生活がしてみたいと申し出ておきながら、自身が普通でないというのは、中々に滑稽ではある。
だがしかし、それでも、だとしても、自身の決断に後悔はしない。
それだけは、絶対にしない。
――――と、己について思春期の男子(年齢的には間違いではない)かのように無駄な思考を巡らせていたが、腕に未だ女子生徒を抱いたままだったことを思いだし、
「ああ、すまないな」
また倒れたりしないよう、手で支えつつ、徐々に体を離す。
「ぁ……」
離した直後、女子生徒から小さな声が漏れた気がするが、体に異常はなさそうなので、問題なしと結論付けた。
女子生徒も、その数瞬後に瞬きを何度か繰り返すと意識を復活させた。
それならば良かったとばかりに、広報資料室を後にした。
「……これは凄いな」
広報資料室の女子生徒を後に、また何件か困りごとの類に巻き込まれ、辿りついた学食。
中に入った第一声がこれである。
小学生並の感想だと、自分自身でも自覚しているが、誰に何と言われようと、俺にはこの感想しか出てこない。
それでもなお、描写していくとすれば、それは下記の文となる。
まず学食の面積だが、生徒手帳の地図を確認すると、その広さは体育館を丸々収納してしまえるレベルの面積が、三階建てになっているらしい。
もはや、ここまで来ると呆れが先に来るが、実際に建物の前に立つとその呆れは吹き飛び、今度はその滑り台のような流線型の美しいフォルムに息を呑む。
一階は、外にまでテーブルがでており、オープンカフェとフランス様式のレストランを合体させたかのような外観。そして、その見た目を裏切ることなく、メニューもフランス料理と、軽食と紅茶やコーヒーなどが並んでいる。
二階だが、ここはうって変わり、多種多様な国籍の料理がバイキング形式で置かれている。その様はまるで、上流階級のの立食パーティを彷彿とさせた。
アメリカ、中国、日本、タイ、果てにはイギリス料理までもが並んでいた時には、正直な話、正気を疑ったが。
三階は、丸ごと食事スペースになっており、窓際からは校舎とゴルフ場などを兼ね備えた森林を望める。
以上が、この学食の簡単なレビューとなる。
分かってもらえただろうか?
そんなわけで、結論をつけると、結局はこれは凄いな、固まってしまうわけである。
序盤で初見でお上りさんを前面に押し出してしまった俺は、この際プライドなど、些細なものだと断じ、二階の立食コーナーに移動する。
一階のレストラン形式は初見ではメニューの良し悪しがわからない為だ。
そして、二階に足を踏み入れた途端、それまで楽しげに話していた少女たちが、一斉に足を止めた。
「ねえ、あれはもしかして……」
「そうね、あれが噂の……」
ヒソヒソ、ザワザワと、耳を寄せ合って内緒話に励む女子生徒たちを極力刺激しないように、俺は静かにトレーを手に、料理のコーナーへ向かった。
「……取り敢えずは、これでいいか」
目を付けたのは、日本食のコーナー。
味噌汁、白飯、豆の煮もの、菜っ葉のおひたし、そして緑茶と典型的な一汁三菜の組み合わせをトレーに乗せ、三階に移動。
空いている席を探し始めたが、お昼時真っ盛りという事もあり、中々空席が見つからない。
俺が前に通っていた
だがしかし、ここは平和な街の平和な学園であり、そのような蛮行は重箱の隅つついて角をぶち抜き、その穴を顕微鏡でのぞいたとしても、見つかることはないだろう。
トレーを持ってきょろきょろと、いかにも席を探していますと誇示するような行動をとっていたせいなのか、中央付近の既に食事が終わっていたと思われる女子生徒二人が、席を立った。
これは僥倖、とばかりに俺はその席にトレーを置き、着席する。
少々強引な席取りだったかと危惧し、周りを見渡すが、何故か俺の周りの席だけ席が空き始めていた。
「なるほど……ふむ、これが所謂ボッチというやつなのか」
あの女子生徒が口にしていた噂、というのはどうやら確かな芯のある話だったようだ。
証拠に、俺がすわっいる席の周りには人がまるで色水に油を一滴垂らしたかのようにぽっかりと空間が空いているが、こちらを警戒し、一挙一動を伺うかのような眼差しを幾つもその身に感じることが出来る。
「近いうちに、俺が警戒すべき対象ではないと、イメージアップを図らねばならないな」
流石に、このまま鼻つまみ者、腫物状態で三年間を過ごしていくのは、非生産的過ぎる。
そう痛感した俺は、未だ教室で生徒たちに詰め寄られているであろうリゼに、アドバイスを求めるべく、仕事用の黒い携帯を開くと、メーラーを起動して文面を考える。
「そうだな、まずは軽く挨拶でもしておくか」
To リゼ
件名 なし
本文
調子はどうだ?
送信。
すると、数秒も待たぬうちに携帯のランプが点灯し、返信を知らせた。
From リゼ
件名 なし
本文
誰のせいでこうなったと思っている!!
「なんだ、嫌味か?」
すかさず返信を送る。
To Re:リゼ
件名 なし
本文
リゼが人気者だからじゃないか?
すると、たまもやすぐに返信を伝えるランプが点灯する。
From Re:Reリゼ
件名 なし
本文
よし分かった今すぐそっちに行く首を洗って待ってろ
何故か喧嘩腰に宣言されてしまった。
はて、何かリゼを怒らせてしまうような事を書いてしまったのかと、送信メッセージを確認するが、文面を見る限り特に問題はない。
そして、今すぐそっちに行ってやると宣言されたが、肝心の行先を告げていない。
追加のメールを送るべきか否かを悩むが、その前に俺の前でホカホカと出来立ての証である湯気を立ち昇らせる料理を認めると、
「先に食べているかな」
手を合わせ、いただきます、と一人呟いた。
話が進まないのは仕様だ。もう認めます。
ああ、そうとも!
私は、更新が、亀さんなんだよぉおおおおお!!!
さて、キチガイな作者は置いておいて、感想、評価、どしどしお待ちしております!!
追記
新作執筆を検討しているのですが、それ書いたらきっと、ただでさえ行進の遅いこの作品の更新頻度が更に遅くなるんだろうなぁ。
書くかどうかは、活動報告でのアンケートで決めることにいたします・・・・・。
追記の追記
結局、新作書くことと相成りました……。
おいこら作者、アンケートの意味は何だったんだよ!と、ご立腹の方もいらっしゃるでしょう。
ええ、私もアンケートを取っていた過去の私の顎を思いっきり殴りつけてしまいたい所存でありますです……。
ですが、弁明の機会をいただけるのならば、それはWEB作家の皆様方大半が発症されたご病気、「急性新作小説書きたい症候群」を作者も発病させてしまったからなのです……!!
ちょ、やめて、空き缶投げないで!リゼちゃん謝るから、ガバメントをこっちに向けないで!
え、雄二さん?その、人体はそんなふうに曲がったりはしn……アァーーーー!!