さて、やっと学園に戻ってこれた……。
そして、グリザイアキャラをやっと本編にからませることが出来た。
……もっさりさん、あと2、3話待ってください……。
窓に掛かったカーテンの隙間から、朝日が差し込み、光の線がベッドの上で寝息を立てていた私の目元をチクチクと刺激する。
光の線が何度か私の目元を往復したとき、ベッドの近くに置かれたサイドテーブル上の目覚ましが、惰眠を貪ろうとしている私を叩き起こした。
「ふぁ……あふ。……ああ、朝か」
寝ぼけ眼をこすり、上体を起こした私はあくびを一つ。
カーテンの隙間から除く朝日をぼーっと眺めていた。
朝の心地よいまどろみをおよそ五分ほど享受し、私は完全に覚醒した。
「よし、起きるか」
最近では気温が上がり、若干暑くなってきた羽毛布団を跳ね除け、私はいつものように顔を洗いに洗面所に向かった。
洗面所に着いた私は、いつも通り、何気なく。そう、本当にまるで少し前と同じようにドアノブをひねり、洗面所のドアを開けた。
ガチャ
「おはよう」
「ああ、おは……よ……きゃ、きゃああああああああ!??!??」
そこには、私の護衛(形式上は)こと、風見雄二がバスタオルで頭をガシガシと乱暴に拭きながら、全裸で立っていた。
全裸で立っていた。まごうことなき、素っ裸で。
あまりの衝撃に、私はまだ少しだけ残っていた眠気が全て吹っ飛び、体中の血が顔に集まったのではないかと思えるほど顔を真っ赤にして、悲鳴を上げた。
そうだった、コイツは昨日から私の家の客間の一つを間借りし、同じ学校通っているのだった。
昨日、バイトから帰った私は、何故かバイト後半時間帯の記憶がないことに首を傾げながらも、余計なことは一切せず、夕飯を食べ、風呂に入り、泥のように眠った。
結果、気持ちよく眠ることが出来た。そして、綺麗さっぱり問題の山を棚の上にまとめて放り込んだのだった。
(ああ、あくまでも、冷静に、そう大丈夫だ。なんだ、男の裸なんて、教科書で見慣れてるだろ?そうだ、生物室の人体模型、コイツはあれだ。人体模型だ。なら、だいじょ……ぶなわけあるかぁぁああああああ!!)
冷静になろうと、コイツは人じゃないから大丈夫、と言い聞かせてみたが、顔の紅潮と、激しい動悸が収まる気配はない。それどころか、半狂乱状態に陥ってしまっている。
と、錯乱状態の私とは打って変わり、全くの平常通りで、しかも、それどころか呑気に髭までそり始めた彼が、正論を飛ばしてくる。
このおかげで、前が隠れてその、なんというか、お、おお、男の象徴たるアレが隠れたのは不幸中の幸いだった。
「なあ、ここで悲鳴を上げるべきなのは俺の方じゃないのか?」
「う、うるさい!さっさと服を着ろ服を!!アダムとイブにでもなったつもりか貴様!?」
「俺がアダムなら、リゼはイブか。よし、それならばリゼも脱いでしまえば完璧だな」
「ああ、完全に完璧に変態だよな!?」
「うるさいな。今見ての通り、髭剃りをしてるんだ。静かにしててくれないと、手元が狂うだろ?」
「私は起床早々、精神が狂いそうなんだが!?」
まだ起き抜けで纏めていない髪を振り乱し、私は必死に抗議する。だが、彼の態度はまさに柳に風のそれだった。
私がぜえはあと息を乱す中、剃り終えた口周りをさっと指で人撫でして、こちらを振り返る。
勿論、生まれたままの姿で。
「よし。これでいい。それで……なんでリゼは俺の着替えを覗いてるんだ?」
「話を聞けええええええ!!」
その後、彼の言う通り私がさっさと退室すればよかったという事に気が付いた私は、同時に彼の引き締まった裸体を思い出してしまい、頭と顔が湯気を出しながら悶絶してしまうのだった。
朝食をとり、私達は通学路を並んで歩いていた。
「しかし、ここは良い街だな」
「そ、そうだな」
朝の件が尾を引いてしまい、私は彼の顔をまともに見ることが出来ずにいた。
気恥ずかしさとと、彼の方が被害者であり、非は私の方にあったという罪悪感何とも言えない微妙な心の内のせいで、私の返事は普段の冷静さが欠けている。
そのことを自覚しながらも、改善しようと試みてはいるのだが、中々どうして心ってやつは、肝心な時にいう事を聞いてくれない。
(うう……なんでこいつは平気な顔してられるんだよ…おかしいだろ、他人に裸見られたら恥ずかしいもんだろ普通!?)
と、心の中で恨み言を吐いてみたが、そもそも彼に常識というアプリケーションがインストールされていないことは、会ってまだ間もない私でも理解できた。
彼が恥ずかしがっておらず、特に気にしていないのであれば別にいいではないか。今朝の事は運の悪い事故だった。これ以上考えるのはやめだ。
そういう事にしておこう。
うんうんと私は彼にも確認できないくらいに小さく頷いた。
だが、
「そういえば、今朝の事なのだが―――」
「!??!??!?!!!?」
言葉の弾丸が、塹壕の中から僅かに頭を出していた今朝の出来事を打ち抜いた。
ぶちまけられた中身が、私の中で駆け巡り、彼の贅肉など一切ない、引き締まった肉体が脳裏にフラッシュバックし、頭と顔に血が集まり、
「日課のランニングを終えて、少し汗をかいたんだ。あの時間帯なら、浴場は誰も使わないと思っていたんだが……リゼ?おい、しっかりしろ!お―――」
そこで、私の意識は途切れた。
ツンと鼻をつく、薬品のにおい。それが気つけとなり、私は本日二度目の起床を果たした。
「知ってる天井だ……」
純白のカーテンで囲われた、純白のベッドの上で、私は声を漏らした。そう、ここは、私の通う学園の保健室だ。
意識がはっきりしてきた私は、タプンと、額に違和感を感じ、その感触に手を伸ばした。
「つめたっ……ってこれは、
違和感の正体は、熱を出した際に使用される、民間医療器具、氷嚢だった。
だが、それが何故私の額に乗っていたのだろうか?
そして、登校途中だった私が何故、学園の保健室のベッドで寝かされているのだろうか?
私が次々と浮上した疑問に首をかしげていると、カーテンの向こう側からカツカツと固い靴の足音が聞こえ、やがてシャアと囲っていたカーテンを広げ、見知らぬ成人男性が顔をのぞかせた。
「やあ、お目覚めかい?」
「えっと……?」
鮮やかなブロンドの髪と、整った顔立ち。一切邪気を感じさせない爽やかな笑顔。ワイシャツに青のネクタイ、そして白衣。
十人いれば十人が魅力的だと言うであろう、その笑顔を向けられた私は、更に困惑する。
だってそうだろう。
この学園には、古典の高松先生(御年51歳)。そして、彼―――風見雄二以外に、男性がいないのだから。
そう、であれば、この男性は誰なのだろうか?そして、ここは本当に学園のなのだろうか?
警戒心をあらわにした私は、上体を起こす振りをして、ある物の有無を確認し、
(……ない)
とある物が、私のショルダーホルスターに存在しないことを確認した私は、目の前で微笑んでいる見知らぬ金髪男性への警戒ランクを引き上げる。
そして、その雰囲気を悟られたのか、男性は肩をすくめ、一旦デスクまで戻っていくと、ある物を手にして戻って来た。
「探し物はこれかい?」
そう言って、右手に持った無骨な金属の塊、私の相棒ともいうべき愛銃、M1911―――通称コルト・ガバメントを、こちらに無造作に放った。
「!?―――お前!危ないだろ!?暴発したらどうするんだ!」
「大丈夫大丈夫。弾倉は抜いてあるから」
確かに、咄嗟にキャッチした私の相棒からは、弾倉の重さが感じられない。
そして、一応スライド(自動拳銃の前後する部分)を引いて薬室(弾丸が装填され、発射される内部分)を確認するが、確かに弾丸は入っていない。
どうやらこの成人男性は、銃の基礎知識は弁えているようだ。
であれば、
「いや、だったらなんで私に返したんだよこれ」
「僕に君への害意はないって証明みたいなものかな? でもほら、返した途端、こっちに向けて発砲させたらたまったもんじゃないだろう?」
あっけらかんと笑い飛ばす、その表情からは真意を読むことは出来ない。
だが、奴さんに私を本気で害す気があるなら、気を失っている間にどうとでもできたはずだし、私が起きてからも、銃で脅迫すれば優位に立てたであろう。
そうしなかったという事は、少なくとも今すぐ私をどうこうする、という気はないさそうだ。
私はそう結論づけると、警戒のランクを、ほんの少しだけ下げ、対話を試みた。
「で? 私に何の用だ? ここは見た限り私の知る場所にそっくりだが、よろしければご教授願えないだろうか?」
「ああ、いいよ。今の僕は、先生ってことになってるからね。さて、まずは自己紹介からしていこうか。ああ、君の自己紹介は結構だよ。天々座リゼ君?」
「ああ、そうかいそうかい。そりゃ、私の話す手間が省けて助かった」
私は余裕綽々な態度と口調を必死に装いながらも、相手の顔と声を今までにであった人物の記憶に片っ端から当てはめていくが、該当するものはない。
誰なんだよコイツ、という念を必死に押し殺し、相手の自己紹介を待った。
「僕の名前は、ジャスティン・マイクマイヤー。今日からこの学園の養護教諭を担当することとなった。よろしく」
手を差出し、また、気のいい笑顔を浮かべる、ジャスティン氏。
「……はい? すまんが、もう一回自己紹介お願いしてもいいか?」
「ああ、いいよ。僕の名前は、ジャスティン・マイクマイヤー。今日からこの学園の養護教諭を担当することとなった。よろしく」
一字一句たがえることなく、リピートして見せた。
…………………。
「はぁぁあぁああああああ!?!!??!?」
ちょっとまて、おいほんとにちょっと待て、え?ええ?マジか?マジなのか!?
混乱で目を白黒させる私に、ジャスティンと名乗る養護教諭(仮)は、
ジャスティン「混乱してるみたいだね。そりゃそうだ。女子高にいきなり男の養護教諭だ。僕も最初に聞いたときは先日飲んだコーヒーに何かマズいものを入れて飲んでしまったかとも思ったよ」
「あ、え?えっと、マジ……なのか?」
さっきまでの余裕綽々な態度はどこかへ旅立ち、無様に呆けた顔を晒す現役JKの姿があった。
あろうことか、それは私だった。
そんな姿を見たジャスティン先生(仮)は、一旦握手を求めていた手を引き、その手で白衣の内側をがさごそとまさぐり始める。
「疑っているようだね。当然だ。っと、待っててくれ……あった。管理が面倒だから白衣の内ポケットに突っ込んどいたのが役に立ったね」
そう言って取り出したのは、この学園の先生方が皆持ち歩いているという、教員証明書だった。
それを、こちらに今度は放り投げずに、手渡しでこちらに持ってくる。
名前、顔写真。そして、偽造が出来ない特殊な印と、ホログラム。
お嬢様が通う学園とだけあり、その造りはしっかりしており、偽造は相当面倒だ。
出来たとしても、事情が学園側に通っていなけば、すぐに警備員にバレて、縛り上げられてしまう。
そして、見た限り、不審な点はなく、本物であると判断できる。
「何なら、一緒に学園長室にでも行くかい?」
「……いや、いい」
観念した私は、取り敢えず、ベッドから降り、カーテンを開けた。
見回すと、そこは確かに学園の保健室であり、窓の外から、グラウンドで走っている生徒が目に入る。
目線を、保健室の中央に置かれた丸いテーブルに向けると、そこには、いつも通り、落ち着いた雰囲気を纏わせる見慣れた女性の養護教諭もおり、
「もう大丈夫?どこか具合の悪いところはない?」
と、これまた見慣れた(別に保健室に入り浸っているわけではない)笑顔を向けてくる。
「はい、もう大丈夫です」
「そう、なら良かった。……この時間帯だと、HRは終わって、一時間目の授業が始まっている頃ね。どうする?二時間目まで休んでいく?」
壁に立てかけられた時計を確認すると、確かにHRの時間帯は過ぎ去り、一時間目の授業開始時刻を五分ほど過ぎた時間になっていた。
しまったなぁ、と頭を抱えたくなる気持ちを抑え、更にはジャスティンと名乗る新人教諭の事も意識から追い出し、精神の棚の奥に放り込む。
そして、流石に体調も悪くもないのに、このまま授業をサボるのは気が咎めたため、
「いえ、このまま、授業に出ます」
女性養護教諭「そう、分かったわ。じゃあ、また気分が悪くなったらいつでも来てね」
「じゃあね、弾倉は放課後にでも返すから、取りに来てほしいかな。……今度は風見も一緒に、ね」
「……分かりました。失礼します」
荷物を纏めた私は、自分の教室へと歩き出した。
「というか、またアイツ関連なのか……?勘弁してくれよ」
廊下を歩きながら、ジャスティン先生の最後の言葉を反芻していた私は、肩が上下するくらいの特大の溜息をついた。
まえがきでも記したとおり、日付のmsで誤爆してしまった。。。。
投下後三十分ほどで気づけてよかった……。
そして、ボリュームの半減……。
ああ、私も思ったさ。少なすぎるんじゃないかと。
でもね、あちゅいんだ。
とてつもなく、あちゅいんだ。
お部屋と、夏と、何より……PCが……。