リゼは激怒した。必ず、かの
リゼは至って普通のJKである。
ライフルスコープを覗き、軍隊式の訓練を積んで暮らしてきた。
リゼには男の心理が分からぬ。何故ならば、それは小中高と女子校で過ごし、尚且つ周囲に明確に異性と区別することができる人間がいないかった為である。
だが、リゼは人一倍邪悪には敏感であった
であるから、
「風見ィイイ……!」
第十話 迸る熱に感じる切なさは総て風見のせい
煮えたぎる思いの丈を、鍋の中にぶちこんで濃縮し、さらに水分を飛ばして再結晶させたような
淑女であれ、という暗黙の了解が敷き詰められたこの学園でこのような声が発されるなど、学園創設以来、初の快挙だろう。
だがしかし、臆さずに言うならば、
今 そ ん な こ と は ど う で も い い
ああ、本当に、今なら親父が私の部屋で昔の戦友とテキーラで乾杯していたとしても、笑って赦せそうな気がする。
……いや、流石にそれは言い過ぎだ。だって、アルコールの匂いが部屋に染み付いてしまうからな。あれは他の匂いの消臭剤としては優秀なのだが、アレ単体の匂いは常時嗅ぎ続けていたい類いのそれではない。
それはちょっとまた別件で親父を怒鳴ってしまうかもしれない。いや、怒鳴る。
……ふう。少し冷静になった。
では、状況を整理しよう。
まず、何故ここまで私が激怒していたか。
事の発端は、朝にまで遡って、私が洗面所赴いたところから始まる。そうして、迂闊にもノックをせずに洗面所のドアを開けてしまって……そ、その、あれだ。……か、かか、彼が、風見が、そ、そのなんというかつまりその、率直にいって、ほらあれだそのなんというか……ああ、もう落ち着け私!
詳しくはWEBで!!
……おかしい。落ち着きを取り戻す為に行った回想が、私の思考を全力で邪魔しているのだが。
ま、まあいい。何がいいのかはわからないが、まあいい。
そうだ。問題は彼だ。
要らん思考に囚われていた私は奴を索敵すべく、視界を左右に振った。
まさに血眼。その表現がぴったりと当てはまるような形相で周囲の卓をサーチしていると、
「彼なら、中央の円卓ですよ? 先程から待ち人来たらず、といった風体でしたよ彼。……それではごきげんよう、天々座さん」
目の前をアジューブルーの何かが横切り、耳元で囁いていった。
一瞬、後ろを振り返って確認するが、そこには誰もいない。
……心霊現象の類いだったのだろうか?
気にはなるが、今は優先順位的には下位の案件となる為、つきまとう疑問と好奇心をねじ伏せて、先の囁きを元にサーチを再開する。
すると、
「いた……!!」
謎の囁きの通り、奴は中央の円卓で呑気に煮豆を摘まんでなんかいた。なるほどなるほど、つまり、私が教室で今朝の件で質問攻めにあっていた間、奴は呑気に煮豆を摘まみ、味噌汁をずるずると啜っていたと。つまりはそういうことだな?
「よし、排除しよう」
即断即決。兵は拙速を尊ぶ。それは現代戦においても自明の理であり、多分人類が撲滅されない限りは普遍の理とあり続けるのではないだろうか。
何はともあれ、現状は奴のこと以外は捨て置く。
私は奴の方へ肩を怒らせながら進んでいく。
途中、「やだ……あの子まさか風見様とお食事を!?」とか、「と、殿方と一対一でお食事など……!! なんて剛毅な……!!」だとか聞こえた気がするが、知らん。どうでもいい。いまは捨て置く。
そうして、彼の座る円卓に足早に詰め寄った私は、奴と面を正面から合わせる形で円卓の前に立ち、怒りのままに両手を卓に叩き付けた。
「……風見! 今朝は良くもやってくれたな!?」
「……」(咀嚼していて口を開かず)
「おいこら聞いているのか!?」
「ゴクン」(豆を飲み込んだ音)
「おい!」
「……騒がしいな。腹が減っているのなら、あそこで好きなものでもとってくればいい」
「私のイライラの原因はここ最近ずっと貴様なんだがなぁ!?」
なんでこいつはこうも私の神経を逆撫でするような発言が出来るのか、不思議でならない。
護衛だよな? こいつ私の護衛だよな?
そんな私の疑念を歯牙にもかけず、彼は食事を継続する。
「いや何でそこで食事を継続できるんだ貴様!?」
「……。んく。……ふむ、その問いに対する答えは単純だ。腹が減った。飯がうまい。以上だ」
「さては貴様まともに取り合う気がないな! そうなんだな!?」
暖簾に腕押し、糠に釘とはこういうことを言うのだろうか。
彼の神経逆撫で技術はもはや達人の域に達しつつあるのではないだろう。主に私限定で。いや、元の職場の上司の方もそうだったのかもしれない。やはり、彼の元職場の上司殿とは将来いい友達になれるかもしれない。
いや、なれる(断言)
それでも食事を続ける彼はやはりただ者ではない。……ただ者というか私の護衛なんだが。
ともかく、
「貴様、今朝私にした辱めを覚えているな?」
「辱め……?」
「今朝、私が、気絶したとき、お前は何をしたかと聞いているんだ!」
「……ふむ。まずは脈の確認、次いで呼吸の有無。そして然るべき施設への搬送だな。突然に気を失ったものだから、
「模範的な応急処置をありがとうな! でも最後の最後に致命傷を運んでくるのはどうかと思うぞ!!」
「話は聞かせていただきましたッ!!」
「うわあ!? どこから湧いて出た!?」
私が怒りの矛先を彼に思いっきり突き付けていると、思わぬ横槍が入った。
……不意に後ろから大きな声を出すのはやめてほしい。背後の気配を悟る為に親父が抱き付いてくるのを避ける訓練を思い出すから。……アレはもうやりたくない。何故って親父の奴うなじに顎を思いっきりこすりつけてくるから、髭のじょりじょりがダイレクトに……うん。やめよう。これ以上は誰も得しない。
さて、親父との訓練を思い出したことで少し落ち着きを取り戻した。
後ろを振り返り、私は大声の発生源を視認した。
「ってなにやってるんですか生徒会長!?」
「何って……
「わかってるんならやめてください」
「え、いやですけれど」
「ちょ」
お解りだろうか。今、私の目の前でゲスイことをさも、晩餐会でスピーチをこなすかのような優美な表情と仕草でこなすこの女生徒こそ、我が学園の誇る才色兼備の生徒会長、マーロウ・ブルームその人である。
普段の生徒会長といえば、曲者ぞろいの学園を優雅かつ流麗に仕切り、肩書だけで卒倒しそうな重鎮の相手を一挙に引き受ける淑女の中に淑女。
しかして、そんな彼女にも一つ欠点がある。それが、私が遭遇している今この状況に発動してしまったようなのだ。
その名も「突発性これおもしろそうだなよしやってみよう症候群」
「……まあ、そんなわけで。
──私に一つ提案があるのですが」
久々すぎて何が何やらもうわかんなくなってる作者←
まだ読んでくれている読者様に頭が上がらないよぉ……。